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均された世界の優等生  作者: ニィギンヤ


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3/8

最適解の外側

 夜。



 部屋の電気はつけていない。



 窓の外の光だけで、十分だった。



 静かだ。



 何もない。



 それなのに。



 頭の中だけが、うるさい。



 分岐が、増えている。



 今日だけで、明らかに増えた。



 神崎。



 あいつと話した瞬間から。



 未来が、分かれる。



 今までは単純だった。



 隠す。


 演じる。


 逸脱しない。



 それだけで良かった。



 でも。



 今は違う。



 “気づいたやつ”がいる。



 しかも一人じゃない可能性がある。



 さっきの気配。



 あれは偶然じゃない。



 ドアは、閉まっていたはずだ。



 音もなく開く可能性。


 人がいない可能性。



 全部ある。



 でも。



 一番確率が高いのは——



「……見られてる」



 口に出す。



 その瞬間。



 分岐が整理される。



 見られている場合。


 見られていない場合。



 その後の行動。



 全部が並ぶ。



 選ぶ。



 一番、生存率が高いもの。



 机に向かう。



 ノートを開く。



 ペンを走らせる。



 “何も変わっていない”ように。



 これが最適。



 今はまだ。



 ———



 翌日。



 教室。



 空気が、少しだけ違う。



 理由は分からない。



 でも。



 違う。



 分岐が増えている。



 昨日より、明らかに。



「おはよ、結城」



 三上の声。



「おはよ」



 返す。



 いつも通り。



 でも。



 “いつも通り”の選択肢が、減っている。



 誰かが、見ている。



 確信に近い。



 視線を感じる。



 探す。



 特定する。



 ……いない。



 いや。



 “いないように振る舞っている”やつがいる。



 神崎ではない。



 あいつは隠さない。



 なら。



 別だ。



「結城」



 その声で、思考が止まる。



 神崎。



「ちょっといいか」



 昨日と同じ言い方。



 でも。



 状況は同じじゃない。



「……いいけど」



 立ち上がる。



 廊下に出る。



 人は少ない。



 でも、ゼロじゃない。



 ここで話す意味。



 神崎は理解しているはずだ。



 それでも出た。



 つまり。



「“見せてる”のか」



 小さく呟く。



「何が」



 神崎が振り向く。



「いや」



 首を振る。



 まだいい。



 今は。



「で、なんだ」



 先を促す。



 神崎は少しだけ間を置いた。



「昨日の続きだ」



「何の」



「“もう一人いる”」



 その一言で。



 分岐が、一気に増える。



「確定か?」



「ほぼな」



「根拠は」



 神崎は、少しだけ笑う。



「お前と同じだよ」



「……」



「違和感」



 短い言葉。



 でも十分だ。



「どこで」



「テスト」



 即答。



「一人だけ、“間違い方が自然すぎる”やつがいた」



 思考が走る。



 全員分の答案。



 記憶はある。



 全部。



 瞬時に再現される。



 該当する可能性。



 絞る。



 三人。



 いや。



 二人。



 いや。



「……一人だな」



 口に出る。



 神崎が笑う。



「やっぱりな」



「誰だ」



 神崎は答えない。



「当ててみろよ」



 試すような目。



 時間は、いらない。



 既に分かっている。



 でも。



 そのまま言うのは、違う。



 選ぶ。



 別の分岐。



「言わない」



 神崎の眉が少し動く。



「なんで」



「確定じゃない情報は使わない」



 静かに言う。



 それが最適。



 今は。



 神崎は、少しだけ考える。



 それから。



「……いいな、それ」



 笑う。



 楽しそうに。



「じゃあヒントやる」



「いらない」



「いるだろ」



「いらない」



 被せる。



 これ以上情報はいらない。



 もう分かっている。



 神崎は肩をすくめる。



「つまんねえな」



「そうか」



「でもまあ」



 少しだけ真面目な顔になる。



「そろそろ来るぞ」



「何が」



 その問いに。



 神崎は、ほんの一瞬だけ視線をずらした。



「上」



 短く答える。



 その意味。



 理解するより先に。



 分岐が爆発する。



 “上”。



 管理側。



 監視。



 排除。



 全部繋がる。



「……早いな」



「思ったよりな」



 神崎は笑わない。



「昨日の“気配”」



「やっぱり気づいてたか」



「当たり前だ」



 そこで。



 初めて。



 完全に一致する。



 認識が。



「じゃあどうする」



 神崎が聞く。



 試すように。



 でも。



 その問い自体が、もう遅い。



 答えは、決まっている。



「もう動いてる」



「は?」



 神崎の顔が、初めて崩れる。



「昨日の時点で、全部分岐見た」



 静かに言う。



「見られてる前提で、動いてる」



 数秒の沈黙。



 そして。



「……はは」



 神崎が笑う。



 今までで一番。



「やっぱりお前、気持ち悪いな」



「よく言われる」



「言われてねえだろ」



「今言われた」



 軽く返す。



 でも。



 視線は逸らさない。



「なら」



 神崎が一歩近づく。



「その“最適解”、教えてくれよ」



 その言葉に。



 ほんの一瞬だけ。



 迷う。



 見える。



 教えた場合。


 教えない場合。



 分岐。



 結果。



 損失。



 利益。



 全部。



 その中から。



 選ぶ。



 一番。



 面白いものを。



「……いいよ」



 小さく答える。



「ただし」



 神崎の目が細くなる。



「途中で死ぬかもしれない」



 静かな声。



「それでもいいなら」



 数秒。



 沈黙。



 そして。



「最高だな」



 神崎は笑った。



 迷いなく。



 その瞬間。



 廊下の奥で、足音が止まった。



 聞こえないくらい、小さく。



 でも。



 確実に。



 二人とも、気づいている。



 もう。



 “始まっている”。


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