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均された世界の優等生  作者: ニィギンヤ


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2/8

観測者

 神崎の言葉のあと、教室には何も残らなかった。


 音も、空気も、全部その場に置き去りにされたみたいに。



「……なんで言わないの」



 ようやく出た声は、自分でも驚くくらい普通だった。



 神崎は肩をすくめる。



「言う理由がない」



「……バレたらどうなるか、知ってるだろ」



「知ってる」



 あっさりと返される。



「だから面白い」



 笑っている。


 でも、感情が見えない。



「お前はさ」



 神崎は机に軽く指を叩いた。



「“どこまで普通を演じられるか”試してる」



「……」



「違うか?」



 否定はしない。


 できない。



 でも。



「それだけじゃない」



 言葉が先に出た。



 神崎の目が、わずかに細くなる。



「ほらな」



 口角が上がる。



「やっぱり、あるんだろ。理由」



 沈黙。



 ここで嘘を重ねる意味はない。



 もう、遅い。



「……逆に聞く」



 視線を合わせる。



「なんで気づいた」



 神崎は少しだけ考える。



「簡単だよ」



 机の上に置かれたテスト用紙を指さす。



「お前の“間違い方”、全部同じなんだよ」



「……」



「思考の流れは合ってる。でも最後だけズレる」



 淡々と続ける。



「それ、普通はできない」



 そこで一度区切る。



「“分かってるやつ”しか出来ないミスだ」



 正しい。



 完全に。



 だからこそ。



「——それで気づいたのは、お前だけだろ」



 静かに返す。



 神崎は、少しだけ笑った。



「そうでもないかもな」



 その一言で、空気が変わる。



「……どういう意味だ」



「さあな」



 わざとらしく目を逸らす。



 嘘だ。



 完全に。



 こいつは試している。



 こっちの反応を。



 なら。



 合わせる必要はない。



「——最初から分かってた」



 口に出す。



 神崎の動きが止まる。



「お前が、見てることくらい」



 沈黙。



 ほんの一瞬だけ。



 神崎の表情が、崩れた。



 すぐに戻る。



「……は?」



「視線の癖がある」



 ゆっくり言う。



「問題じゃなくて、“人”を見る」



 神崎は何も言わない。



「答えじゃなくて、“過程”を見る」



 近づく。



「最初から、ズレてる」



 そこで止まる。



「だから分かりやすい」



 数秒の沈黙。



 そのあと。



「……はは」



 神崎が笑った。



 今度は、はっきりと。



「やっぱりか」



「何が」



「お前、ちゃんと見てるな」



 軽く肩を回す。



「安心した」



「何が」



「無駄じゃなかったってこと」



「……は?」



 神崎は、少しだけ間を置いた。



「俺さ」



 ゆっくりとした声。



「一回、“やってる”んだよ」



 その言い方。



 分かる。



 言葉にしなくても。



「……見つかったのか」



 神崎は、少しだけ笑う。



「半分な」



「半分?」



「“疑われた”」



 それだけで十分だった。



 この世界では、それで終わる。



「でも、確定はされなかった」



「なんで」



「証拠がなかったから」



 静かな声。



「だから今ここにいる」



 つまり。



「……お前は」



「そう」



 神崎が頷く。



「“こっち側”だ」



 空気が、変わる。



 同じだった。



 違和感の正体。



 この世界で浮いている理由。



 全部。



 同じ。



「で?」



 神崎が首を傾ける。



「お前は何がしたい」



 単刀直入。



 逃げ場はない。



「……観測だよ」



 答える。



「観測?」



「どこまでなら、バレないか」



 ゆっくり続ける。



「どこからがアウトか」



「……それを試してる?」



「違う」



 首を振る。



「探してる」



「何を」



 少しだけ、間を置く。



「“気づけるやつ”」



 神崎の目が、わずかに変わる。



「それが俺か」



「そう」



 即答する。



 ここで誤魔化す意味はない。



「じゃあさ」



 神崎が一歩近づく。



「見つけて、どうする」



 その質問は。



 本質だった。



 少しだけ考える。



 でも、答えは決まっている。



「利用する」



 迷いなく言う。



「はは、正直だな」



「お前もだろ」



「まあな」



 神崎は笑う。



 楽しそうに。



「いいぜ」



 あっさりと言った。



「乗ってやるよ」



「……簡単だな」



「簡単じゃない」



 神崎の目が、少しだけ鋭くなる。



「お前が面白いからだ」



 静かな声。



「それだけの価値がある」



 数秒、見つめ合う。



 そこで。



 初めて。



 対等になった。



 その瞬間。



 背後で音がした。



 扉が、開いている。



 いつから。



 誰が。



 振り返る。



 誰もいない。



 廊下も、静かだ。



 でも。



 ほんのわずかに。



 気配が残っている。



 神崎も気づいている。



 視線が合う。



 言葉はいらない。



 同時に理解する。



 “二人だけじゃない”



 この世界には。



 まだ、いる。


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