観測者
神崎の言葉のあと、教室には何も残らなかった。
音も、空気も、全部その場に置き去りにされたみたいに。
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「……なんで言わないの」
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ようやく出た声は、自分でも驚くくらい普通だった。
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神崎は肩をすくめる。
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「言う理由がない」
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「……バレたらどうなるか、知ってるだろ」
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「知ってる」
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あっさりと返される。
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「だから面白い」
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笑っている。
でも、感情が見えない。
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「お前はさ」
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神崎は机に軽く指を叩いた。
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「“どこまで普通を演じられるか”試してる」
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「……」
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「違うか?」
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否定はしない。
できない。
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でも。
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「それだけじゃない」
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言葉が先に出た。
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神崎の目が、わずかに細くなる。
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「ほらな」
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口角が上がる。
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「やっぱり、あるんだろ。理由」
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沈黙。
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ここで嘘を重ねる意味はない。
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もう、遅い。
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「……逆に聞く」
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視線を合わせる。
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「なんで気づいた」
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神崎は少しだけ考える。
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「簡単だよ」
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机の上に置かれたテスト用紙を指さす。
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「お前の“間違い方”、全部同じなんだよ」
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「……」
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「思考の流れは合ってる。でも最後だけズレる」
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淡々と続ける。
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「それ、普通はできない」
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そこで一度区切る。
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「“分かってるやつ”しか出来ないミスだ」
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正しい。
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完全に。
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だからこそ。
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「——それで気づいたのは、お前だけだろ」
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静かに返す。
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神崎は、少しだけ笑った。
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「そうでもないかもな」
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その一言で、空気が変わる。
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「……どういう意味だ」
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「さあな」
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わざとらしく目を逸らす。
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嘘だ。
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完全に。
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こいつは試している。
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こっちの反応を。
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なら。
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合わせる必要はない。
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「——最初から分かってた」
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口に出す。
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神崎の動きが止まる。
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「お前が、見てることくらい」
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沈黙。
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ほんの一瞬だけ。
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神崎の表情が、崩れた。
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すぐに戻る。
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「……は?」
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「視線の癖がある」
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ゆっくり言う。
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「問題じゃなくて、“人”を見る」
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神崎は何も言わない。
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「答えじゃなくて、“過程”を見る」
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近づく。
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「最初から、ズレてる」
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そこで止まる。
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「だから分かりやすい」
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数秒の沈黙。
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そのあと。
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「……はは」
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神崎が笑った。
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今度は、はっきりと。
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「やっぱりか」
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「何が」
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「お前、ちゃんと見てるな」
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軽く肩を回す。
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「安心した」
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「何が」
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「無駄じゃなかったってこと」
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「……は?」
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神崎は、少しだけ間を置いた。
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「俺さ」
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ゆっくりとした声。
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「一回、“やってる”んだよ」
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その言い方。
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分かる。
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言葉にしなくても。
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「……見つかったのか」
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神崎は、少しだけ笑う。
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「半分な」
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「半分?」
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「“疑われた”」
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それだけで十分だった。
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この世界では、それで終わる。
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「でも、確定はされなかった」
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「なんで」
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「証拠がなかったから」
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静かな声。
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「だから今ここにいる」
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つまり。
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「……お前は」
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「そう」
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神崎が頷く。
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「“こっち側”だ」
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空気が、変わる。
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同じだった。
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違和感の正体。
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この世界で浮いている理由。
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全部。
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同じ。
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「で?」
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神崎が首を傾ける。
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「お前は何がしたい」
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単刀直入。
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逃げ場はない。
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「……観測だよ」
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答える。
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「観測?」
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「どこまでなら、バレないか」
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ゆっくり続ける。
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「どこからがアウトか」
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「……それを試してる?」
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「違う」
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首を振る。
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「探してる」
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「何を」
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少しだけ、間を置く。
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「“気づけるやつ”」
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神崎の目が、わずかに変わる。
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「それが俺か」
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「そう」
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即答する。
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ここで誤魔化す意味はない。
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「じゃあさ」
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神崎が一歩近づく。
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「見つけて、どうする」
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その質問は。
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本質だった。
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少しだけ考える。
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でも、答えは決まっている。
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「利用する」
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迷いなく言う。
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「はは、正直だな」
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「お前もだろ」
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「まあな」
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神崎は笑う。
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楽しそうに。
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「いいぜ」
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あっさりと言った。
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「乗ってやるよ」
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「……簡単だな」
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「簡単じゃない」
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神崎の目が、少しだけ鋭くなる。
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「お前が面白いからだ」
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静かな声。
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「それだけの価値がある」
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数秒、見つめ合う。
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そこで。
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初めて。
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対等になった。
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その瞬間。
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背後で音がした。
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扉が、開いている。
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いつから。
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誰が。
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振り返る。
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誰もいない。
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廊下も、静かだ。
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でも。
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ほんのわずかに。
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気配が残っている。
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神崎も気づいている。
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視線が合う。
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言葉はいらない。
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同時に理解する。
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“二人だけじゃない”
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この世界には。
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まだ、いる。




