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Lの昇天  作者: kumako


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母と父

母とLと。

 Lが母親と最後に会ったのは、やはり精神病院に入院中のことだった。Lの母は大量のジャンクフードとカップラーメンを持って、Lの見舞いにやってきた。そんな母親を見て、Lの心は痛んだ。


 昔、Lの母は健康と豊かさだけを重んじているようなところがあった。ジャンクフードなど決して口にしなかったし、栄養豊富な野菜や肉、魚しか食べようとしなかった。


「10円も無駄にしてはだめよ」


 というのがLの母の口癖だった。


 それが、今ではジャンクフードとカップラーメンを持って見舞いに訪れる。Lにはそれが腑に落ちなかった。と同時に、腑に落ちない自分を目の当たりにしても、冷静でいられる自分を感じていた。きっと母は年を取ったのだろう、そして性格が柔軟になったのか、こだわりが薄れてしまったのか。とにかく、Lの母は変わったのだった。


「元気にしている?」


 と、Lの手を取ってLの母親は何度も繰り返した。その手も取るがままに任せていた。この病院では、時折誰かの見舞いにその家族が訪れる。友人や知人の訪問は許されてはいない。病棟に入れるのは、その患者の家族だけだ。Lとその母親が接しているのを見て、嫉妬している誰かもきっといるはずだった。


 Lは、母親が持ってきたジャンクフードやカップラーメンの扱いに困った。だから、同室の患者や親しくなった人たちにそれを配ることにした。そういった母親の訪問が、入院中に2、3度あった。そのたびに、Lは気まずい思いをしなくてはならなかった。その気まずさも、精神病院に入院している者特有のものなのだろうとLは感じた。


 3度の自殺未遂をしている、という婦人は、


「あなたはお母さんと仲が良くて良いねえ」


 と言った。その理由は分からなくもない。きっと、その婦人も自分の母親との思い出を思い出しているに違いなかった。そこに確執があったのか、Lとその母親との間のように穏やかなものだったのか、Lは想像が出来なかった。その婦人にはどこか秘密めいたものがあって、いくら話を聞いてもそこには謎か嘘が紛れ込んでいるような気がした。


 母親はその時末期癌のステージⅣで、Lが退院すると間もなく亡くなった。父親とLだけがその後に残された。Lの父の頑固さは昔のままで、Lと二人だけで暮らすようになってもそれは変わらなかった。Lは、なんだか自分が母親の代わりにされているような気がしていた。多分、それはその通りだったのだろう。


 実家に住んでいるということは、便利な反面不便なこともある。何も隠し通せない、すべてが明らかになってしまう、というのが不便な点だ。Lの父はLに亡き妻の面影を見ていた。昔のように健康的で贅沢なものを食べたがった。Lが退院し、母が他界してしまった後は、Lが父親の面倒を見る番だった。


 Lの父はLの入院中、一度も見舞いに来ることはなかった。どこか精神病や精神病患者というものを見下しているようなところがあった。Lの病気のことを恥だと考えていたのかもしれない。その娘に面倒を見てもらうということを、Lの父はどこか嫌がっている風でもあった。


 H川の流れを見ている時、そんな父親の顔は浮かんでも、Lの母親の顔は浮かんでは来なかった。


(ここに母はいない)


 と、Lは思った。


 Lは死んだ人間にも魂が残る、とは思っていない。死ねばそれまでだ。それは眠りに着くようなもので、決して目覚めることがない。母親の最後を看取っていて、Lはそう感じた。そのことがLの自殺志願の原因になっているわけでもない。Lは、母親と同じ場所に行きたいとは思わなかった。


 ただ、自分が自殺に失敗して、これから父のところに帰ることになれば、それはきっと気まずいことになるのだろう、とは考えていた。娘は再び狂人になった、とLの父は思うことだろう。そして、それを決して許さないだろう。それだからこそ、Lは今日にも死んでしまう必要があった。あるいは、Lの自殺志願の原因はそんなところにもあったのかもしれない。

次章に続きます。

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