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Lの昇天  作者: kumako


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ニュース屋

不思議な少年とL。

「ニュース屋」と呼ばれる少年にLが初めて会ったのは、いつのことだったろうか。それが並川画廊というギャラリーでのことであったのは、覚えている。「ニュース屋」というのはもちろんあだ名で、その当時は中学生だったかもしれない。


 Lに会うなり、ニュース屋は言った。


「お姉さん、死ぬことになっているよ。自殺だってさ。正確に言うと、この世からいなくなるんだ。僕はそのことを知っている。だって、未来のことが分かるからね。新聞にも載るんだ。それがいつのことかも知っている」


 Lは、当然のこととしてニュース屋のことを不吉なことを言う少年だと思った。しかし、そこにはどこか真実味があるような気もしていた。自分はそんな風に見えるのだろう……と思えば、Lは納得することが出来た。たとえ、少年の口先から出たほら話だったとしても。


「わたしは死ぬの?」


 と、Lは確かめるように言った。


「死ぬよ。人間なら、誰だって死ぬさ」


 と、ニュース屋は答えた。


 並川画廊というのは、まだ素人の学生だったり、駆け出しの画家だったりする人たちの個展を開いている画廊で、Lはよくそこに通っていた。画廊を経営していたのは、並川広子という年配の女性だ。誰にとっても親しみを感じさせるような性格で、とくに用事がなくてもその画廊を訪れる、という人たちは多くいた。


 Lもそんな人間たちの一人だったかもしれない。Lは、時折個展を開いている画家たちと仲良くなったり、気に入ればその絵を買うこともあった。たいていはそれほど高い値段ではなく、彼らにとっても画材を買う程度の額にしかならなかったはずだ。とくに、銅版画を作っているある若い女性とは、誰よりも親しくなった。


(ニュース屋と会ったのは、彼女の個展を訪れていた時だ)


 と、Lは思い出す。たしか、2年ほど前のことだったろうか。恋人と別れる直前か、その直後のことだ。どちらだったかは思い出せない。自分の顔に死相が出ていたとしても、おかしくはなかっただろう。


 銅版画家の女性は、奥でオーナーの並川夫人と話をしていた。ニュース屋はたたみかけるようにLに話しかけてくる。


「お姉さんは自殺を考えたことはないの?」


「ないわ」


「お姉さんは今幸せ?」


「どうかな。まあまあかな」


「じゃあ、なぜ自殺なんてするんだろう?」


「わたしに聞かれても分からないよ」


「自殺願望はないの? 本当に?」


「ええ」


 ニュース屋は困ったような顔をした。それでは筋が通らない、と思っているかのようだった。ニュース屋はふと思いついたように、


「お姉さん、自動車の運転は出来る?」


 と聞いてきた。「ええ、出来るわ」とLは答える。


(なんだかわたしはこの少年の言いなりになっている)


 と、Lは思う。その少年が「ニュース屋」と呼ばれていることは、後で並川夫人から聞いて知った。なんでも、その少年の予言はよく当たるという評判らしかった。その日、画廊にどんな人物が来るのかも当ててしまう、と並川広子は言った。


「じゃあ、それが関係しているのかな?」


 と、ニュース屋はつぶやく。


(自動車が?)


 と、Lは呆れた。自動車の中で練炭自殺やガス自殺でもするのだろうか、とLは思った。Lはその時、練炭というものがどこで売っているのかも知らなかった。ガス自殺くらいであれば、自動車のマフラーを何かでふさげば出来るだろうけれど……。


 とにかく、ニュース屋と会ったのはその時一度きりで、それからその少年に会うことはなかった。そして、並川夫人の画廊を訪ねることも、Lは止めてしまった。芸術など自分には不釣り合いだ、と思ったからでもある。


 H橋の上で自殺を考えている今、Lがニュース屋の言葉を思い出しても不思議ではなかった。ニュース屋が最後に言ったのは、「お姉さんは死んで天使になるんだね」という言葉だった。Lはその時、ただ苦笑して何も答えなかった。今思うのは、「死ぬということは、果たして天使になるということなのだろうか?」ということだ。

次章に続きます。

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