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配下からの信頼が重すぎる  作者: きなこもち
第5章

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「門前にて世界は揃う」

 

 白霜外界の手前にまで来ると、どの国の人間も少しだけ口数が減る。


 寒さのせいもあるだろう。

 風のせいもある。

 吐く息が白く、指先の感覚が鈍るような冷えは、黙る理由として十分だ。


 だが、それだけではない。


 白い。


 ただ、それが一番大きい。


 雪原だから白いのではない。

 曇天だから白いのでもない。

 まして、冬の北方だから、で片づく色でもない。


 もっとこう、景色そのものが“まだ意味を決めきっていない白”に浸っている。


 地面も、空も、その中間にある距離さえも、まだ輪郭の所属先を決めていない。

 そこに道があるのか。

 先に進んでよいのか。

 見えているものが“こちらの世界の並び”のままでいてくれるのか。


 そういう根本の約束が、ここでは最初から少し緩んでいる。


 初めてここへ来た者は、それを見て大抵、少しだけ動きが鈍る。


 見えている。

 なのに、見た通りに踏み込んでいい気がしない。


 足を出す前に、体のどこかがほんのわずかにためらう。

 そのためらいは恐怖というほど大きくはない。

 だが、確実にある。


 この白の中へ入る時、人は最初に“景色を信用してよいのか”という問いを突きつけられるのだ。


 その日、白霜外界門前圏の境界には、まさにそういう“少しだけ鈍った気配”がいくつも並んでいた。


 竜嶺帝国ザルカディア。

 魔導王国エルグレイス。

 蒼海商盟ルヴァンディア。

 聖冠連邦アルディウス。

 そして、その全員より一歩深い位置に、黒翼庭。


 まだ誰も門の前そのものまでは来ていない。

 それでも、ここがもう十分に“世界の交差点”になり始めていることは、誰の目にも明らかだった。


 国境でもない。

 都でもない。

 会議場ですらない。


 それなのに、ここへ立つ人は皆、自国を背負っている。

 白い地平の手前に、世界の理屈だけが静かに集まり始めていた。


 ---


 黒翼庭側の前進拠点は、白霜外界の縁にぎりぎり寄せた岩棚の上に置かれていた。


 常設の城塞ではない。

 石を積み上げたわけでも、壁を高く築いたわけでもない。

 だが仮設にしては整いすぎている。


 黒い旗は風を裂いても乱れすぎず、張られた術式幕は白の揺らぎを最低限だけ押し返している。

 護衛配置も、記録台も、観測杭も、余計なものがないぶん妙に完成されていた。


 足場は広くない。

 だが狭すぎもしない。

 人を多く置くためではなく、必要な者が必要な順で立つために調えられた場所だった。


 即席の前進拠点。

 しかし、その即席さの中にある判断の迷いのなさが、かえって黒翼庭らしい。


 ここでは何を増やすかより、何を置かないかの方が重要なのだと、一目で分かる。


 クロウはその中央、張り出した岩縁の手前に立っていた。


 黒い外套の裾が冷たい風に揺れる。

 背後にはヴェルミリア、ガルド、セラフィナ、バルザード。

 さらにその外に親衛隊と観測要員。


 見た目だけなら、完全に“門前へ集まった世界を迎える終王”みたいな図だった。


 黒衣の王。

 白い外界。

 その中間で立つ黒翼庭。

 絵にすれば、あまりにも出来すぎている。


 本人の中身は、もう少し率直である。


(本当に揃ったな)

(いや、来ると思ってたけど)

(思ってたけど、こうして実際に四方向から来ると圧がすごいな)

(会議室でやれないのか、こういうの)

(できないんだろうな)

(知ってる)


 できないからここにいる。

 実に嫌な納得だった。


 白霜外界の向こう、門前固定点のある方向は、相変わらず一面の白だ。

 だが、そこに門があることを知ってしまった目には、もうただの白ではない。


 白の向こうに黒い輪郭が立つ。

 その手前で世界が少しだけ門の理屈に並び直す。

 距離も、順番も、近づき方も、あちらの都合を含んで決まる。


 そういう場所の前で、国家代表が顔を合わせる。

 どう考えても面倒である。


「陛下」


 ヴェルミリアが静かに声をかける。


「帝国、到着」


「ああ」


「魔導王国も観測席へ」


「分かった」


「商盟は一歩後ろに控えております」


「らしいな」


「連邦も接近中です」


 そこまで聞いて、クロウは小さく息を吐いた。


 全員いる。

 ほぼ全部いる。


 世界規模という言葉は、できればもっと遠いところで聞きたい。

 少なくとも自分の目の届く白い地平の手前に、四大国家の気配が並んでいるのは、あまり見ていて胃に優しくない。


「席は」


「予定通りに」


 ヴェルミリアはすぐ答える。


「第一圏は黒翼庭のみ。第二圏に限定観測。第三圏に各国代表」


「武装制限は」


「通達済みです。帝国は最小限、王国は従順、商盟はそもそも軽装、連邦は護衛の扱いで少し揉めましたが抑えました」


 ありがたい。

 本当にありがたい。

 だが、その“護衛の扱いで少し揉めたが抑えた”の一文だけで、すでに十分疲れる。


(始まる前からそれか)

(頼むから今日は静かに終わってくれ)

(いや、静かには終わらないか)

(でもせめて、門の前で戦争会議みたいな空気だけはやめてくれ)


 本人にとっては切実だった。


 ---


 最初に視界へ入ってきたのは帝国だった。


 白の中でも目立つ。

 というより、あの国はどこにいても自分が帝国だと分かるように立つ。


 重すぎぬ甲冑。

 規律の乱れない歩幅。

 旗の角度まで整っている。

 先頭に立つのはレオンハルト。

 その少し後ろにエルマ。

 護衛は絞っているが、少ないから弱く見える類ではない。


 数を誇るのではなく、必要な密度だけを前へ出してくる。

 あれは帝国の立ち方だ。


 次に魔導王国。


 こちらは帝国と違い、視線が前へ突き出ていない。

 むしろ周囲へ広がっている。


 オルフェン、リセリア、ザイード。

 記録官と観測要員。

 兵より先に結晶板と記録具が見えるのがあの国らしい。

 だが、その静かな観測欲は帝国の圧とは別種の重さを持っていた。


 何を見たか。

 どう変わったか。

 誰の記録が後で正しいと証明されるか。


 あの国の席取りは、剣ではなく記録で行われる。

 だからこそ厄介だ。


 さらに商盟。


 メリゼア本人ではなく、表に立つのはカイル。

 ただし、少し後ろの位置に女傑の影があるのが分かる。

 前に出す人間と、前に出ない方が高い人間の使い分けが本当にうまい。


 前へ出る者は軽く、後ろにいる者ほど場を読んでいる。

 それが海の国の立ち方だった。


 連邦は最後だった。


 白を嫌っているのが少し分かる。

 いや、嫌うというより、この白にどう名を置けばよいかまだ決めきれていないのだろう。


 聖騎士の列。

 その中心にアシュレイ。

 そしてリュミエラ。

 グラウスの姿もある。


 来ると思っていたが、実際にいると空気が一段鋭くなる。


 連邦は、意味を置くために来る。

 それが今の白霜外界には最も危うい種類の圧かもしれなかった。


「本当に全員来たな」


 ぽつりとこぼれる。


 声は小さかった。

 だがヴェルミリアには聞こえたらしく、ほんのわずかにだけ目を細めた。


「はい」


「…嫌な顔ぶれだ」


「壮観ではあります」


「そういう意味じゃない」


 珍しくすぐ返してしまった。


 ヴェルミリアは一拍だけ沈黙し、それからごくわずかに口元を和らげた。


「存じております」


 よかった。

 通じていた。


 ---


 各国はそれぞれ、事前に指定された第三圏の位置へ止まった。


 止まり方だけでも性格が出る。


 帝国は整然。

 魔導王国は視線が忙しい。

 商盟は余白を測るように立つ。

 連邦は人が立つというより意味が先に並ぶ感じだ。


 クロウはその全部を見ながら、内心で思う。


(嫌だな)

(この“全員、まだ斬り合ってはいないけど一歩間違うとかなり面倒”みたいな空気、本当に嫌だな)

(剣を抜いてるならまだ分かるんだよ)

(今はみんな抜いてないぶん、余計に神経を使う)


 こういう空気の調整役を、なぜ自分がやっているのか。

 もちろん、門に一番近いのが黒翼庭だからだ。

 理屈は分かる。

 だが感情が納得するわけではない。


「陛下」


 ガルドが低く呼ぶ。


「何だ」


「配置完了。第三圏、全勢力確認」


「ああ」


「第二圏は空けています」


 そこが重要だった。


 第二圏。

 共同観測を許すかどうか。

 どの国をどこまで門前へ寄せるか。

 その席はまだ空いている。


 空いているからこそ、全員が少しずつ息を詰めている。


 自分たちはそこに入れるのか。

 誰が先に認められるのか。

 誰が外されるのか。


 そういう“椅子取りの直前の空気”は、国家規模になるとかなり重い。


 白い地平の手前で、それが今、静かに張り詰めていた。


 ---


 最初に口を開いたのはレオンハルトだった。


 予想通りといえば予想通りだ。

 あの男は、こういう時に沈黙だけで席を取るタイプではない。

 必要な時はちゃんと前へ出る。


「黒翼の終王」


 低く、よく通る声だった。


「帝国第一皇子レオンハルト・ザルカディア。門前観測への正式関与を求める」


 飾らない。

 媚びない。

 だが無礼でもない。


 帝国の代表としては、ほとんど満点に近い出方だった。


 クロウは短く彼を見る。


「理由は」


「北方均衡に関わるからだ」


 レオンハルトは即答する。


「門が何を通すにせよ、帝国はそれを無席で見ているつもりはない」


 それも筋が通っている。


 無席ではいられない。

 帝国としては当然だ。

 門の向こうが何であれ、それが世界地図に響くなら、帝国はその場に椅子を持たねばならない。


 だがその当然が、今の白霜外界と門にどこまで通るかは別問題だった。


 そこへ間を置かず、今度はオルフェンが口を開いた。


「魔導王国エルグレイスもまた、限定観測の席を求めます」


 知の国らしく、言い方が少し違う。


「我々は門を奪うつもりはありません。ですが、門の構造と接続条件の証人として外れるわけにはいかないのです」


 こちらも理屈が強い。


 証人。

 主ではなく証人。


 その立場の置き方は、かなりうまい。

 黒翼庭の主導を正面から脅かさず、それでいて自国の席はちゃんと要求している。


 そこへ商盟側から、柔らかい声が差し込んだ。


「蒼海商盟ルヴァンディアとしては、各国の観測順と記録保全に立ち会う立場を希望します」


 カイルだ。


 表情は軽い。

 だが軽い顔で言う内容が軽くない。


「門前で起きることが門前だけで完結するとは、誰も思っていないでしょうから」


 海の国らしい。

 自分が主役だとは言わない。

 ただ、全員の間に椅子を置こうとする。


 最後に、連邦側からアシュレイが前へ出た。


 グラウスではない。

 そこは少しだけ救いだった。


「聖冠連邦アルディウスとしても、北方異変を無視はできない」


 その声は真っ直ぐだった。


「だが、ここで何かを断じるために来たわけではない。まずは見るための席を求める」


 アシュレイらしい。

 連邦の言葉でありながら、断定を急がない。

 それがこの場では、かなり大きい意味を持っていた。


 だが、その横に立つグラウスの気配はかなり硬い。

 少しでも隙があれば、もっと強い意味を置きに来るだろう。


 全員が、席を求めた。


 それぞれ違う理屈で。

 それぞれ違う顔で。


 そして今、全員の視線がクロウへ集まっている。


(いや待て)

(本当に“では誰をどこまで入れますか”の空気になったな)

(私は門の前の受付係かなにかか?)

(違うんだろうな)

(でもやることはだいたい受付に近いな)

(嫌だな)


 だが顔には出さない。

 最近、本当にそこだけはうまくなってしまった。


 ---


 数拍、クロウは何も言わなかった。


 わざとでもある。

 少し考える時間が欲しかった。

 そして、この空気の中で不用意に最初の一言を出すと、すべてがそれに引っ張られる。


 だから、まずは見る。


 帝国。

 王国。

 商盟。

 連邦。


 席を求める顔。

 門を前にした緊張。

 そして、ほんの少しでも先に出れば他が反応するだろう危うさ。


(本当に嫌な盤面だな)

(でも、ここで誰かを露骨に外すのも違う)

(入れすぎるのも違う)

(順番だ)

(まず順番を作るしかない)


 そう考えたところで、背後からヴェルミリアの気配がわずかに動く。


 何も言わない。

 だが、“判断を”とだけ静かに圧を寄せてくる。


 分かっている。

 やるしかない。


「…席を求めるのは構わない」


 クロウは静かに言った。


 それだけで、空気が少しだけ引き締まる。


「だが」


「門の前だ」


 その言葉は、本人の中ではかなり普通の確認だった。


 ここは会議室ではない。

 王宮でもない。

 国家間の面子で押していい場所でもない。


 門の前なのだ。


 だが、各国にとってその一言はかなり重かったらしい。

 誰もすぐには返さない。


「門に嫌われる形で席を増やす気はない」


 クロウは続ける。


「順番を守れ。勝手に触るな。ここで余計な圧をかけるな」


 本人としては、**“事故を起こすなよ”**という意味でしかない。


 だがその声は低く静かで、どうしても王の言葉に聞こえてしまう。


 レオンハルトの眉がわずかに動く。

 オルフェンは目を細める。

 カイルは表情を変えず、リュミエラは息を詰めたように黙る。


 グラウスだけが、ほんの少しだけ口元を硬くした。


 ここでアシュレイが一歩だけ前へ出る。


「つまり」


 彼は真っ直ぐに問う。


「門の前では、国の理屈より先に、門の理屈を優先するということか」


 助かった。

 かなり助かった。


 そうだ。

 それを言いたかった。

 やはり普通に話が通じる相手が一人でもいるとありがたい。


「ああ」


 クロウは頷く。


「門が先だ」


 短い。

 だが、それで十分だった。


 門が先。

 その一語で、この場の最上位基準が定まってしまう。


(いや、そんな大層な話か?)

(かなり普通のことだろ)

(でも、まあ…こういう場では必要か)

(必要なんだろうな)

(面倒だな)


 またそこへ戻る。


 ---


 その時、不意に白霜外界の向こう側で、ごく薄く白が揺れた。


 全員の視線がそちらへ向く。


 門そのものはまだ見えない。

 だが、門前固定点の方向にある白が、ほんの一瞬だけ浅くなった。


 知っている者には分かる反応だった。


 門前が、こちらの空気を聞いている。


「…今のは」


 リセリアが小さく呟く。


「肯定、ですか」


 オルフェンは答えない。

 答えないが、否定もしない。


 帝国側の空気も少し変わる。

 商盟はそれを見て、ますます口を閉じる。

 連邦は意味を置きたがる気配を強める。


 そしてクロウは、内心で少しだけ頭を抱えたくなっていた。


(やめてくれ)

(そこで反応するな)

(今のは普通の危機管理だぞ)

(何でそう、いちいち門が“その理解で合ってる”みたいな顔をするんだ)


 そうなると、さらに重くなる。

 実に困る。


 だが現実には、その一瞬の揺れだけで十分だった。


 この場にいる全員が理解する。


 門は少なくとも、**“門が先”**という線引きを否定しなかった。


 それだけで、この場の力関係は少しだけ変わる。


 ---


 帝国側から、レオンハルトが低く言った。


「承知した」


 その声に無理な反発はない。

 むしろ、かなり冷静だ。


「帝国は、門前における最上位基準が門そのものにあることを認める」


 早い。

 認め方が早い。


 だが、あれはあれで帝国らしい。

 勝ち筋がそこにないと見れば、無駄に逆らわない。


 オルフェンも続く。


「魔導王国も同意します。観測者として、その前提を乱す気はありません」


 商盟のカイルは軽く一礼した。


「商盟としても、順番は門に嫌われぬ形で扱うべきと見ます」


 連邦は、一瞬だけ間があった。


 アシュレイがリュミエラを見、リュミエラがわずかに頷き、それから彼が口を開く。


「連邦も、門前での最初の線として受け入れる」


 グラウスの気配は硬いままだ。

 だが、ここで露骨に逆らうわけにはいかない。

 門がわずかに反応した以上、連邦だけが“意味より先に自分たちの理屈を置く”形になるのは分が悪い。


 こうして、まだ正式な文言に落ちていないまま、一つの前提だけが門前に置かれた。


 門が先。

 門に嫌われることはするな。


 かなり普通の話である。

 少なくともクロウにとっては。


 だがこの場では、その普通がすでに十分すぎるほど重い。


 ---


 短いやり取りのあと、各国は事前指定の第三圏にそのまま留まった。


 第二圏はまだ空のまま。

 つまり、本当の意味での“観測席”はまだ誰にも渡されていない。


 そこがまた、場を張り詰めさせる。


 いま置かれたのは最上位基準だけだ。

 誰をどこまで許すかは、まだ先にある。


 だからこそ、誰も今すぐ退かない。

 退けない。


「ここからですね」


 ヴェルミリアが背後で静かに言う。


「ああ」


 クロウは小さく返した。


「面倒だな」


 ごく小さく呟くと、今度は彼女も否定しなかった。


「はい。かなり」


 そこは本当にありがたい。


 自分だけが面倒だと思っているわけではない。

 それだけで少し気が楽になる。


 もっとも、楽になったところで状況が軽くなるわけではないが。


 ---


 しばらくして、白霜外界の風が少し強くなった。


 各国の旗が揺れる。

 白い地平は相変わらず意味を決めきらない顔で広がっている。


 その前に、世界が立っていた。


 帝国。

 王国。

 商盟。

 連邦。

 黒翼庭。


 思惑は違う。

 欲しいものも違う。

 それでも全員、同じ門の前から外れたくないと思っている。


 だからここから先は、たぶんもっと面倒になる。


 誰をどこまで近づけるのか。

 誰がどの順番を持つのか。

 誰が先に余計なことをするのか。


 その全部が、まだこれからだ。


 クロウは白の向こう、見えない門のある方角を見た。


(頼むから)

(本当に頼むから)

(今日はこのまま、誰も余計なことをしないでくれ)


 かなり切実な願いだった。


 だが、こういう願いが素直に通るなら、そもそもここまで大きな話になっていない気もする。

 その嫌な現実感が、胸の奥に沈んでいる。


 そして、現実はやはり甘くなかった。


 第三圏の外れ、連邦側の列のさらに後ろ。

 ごく一部の聖騎士たちの気配が、ほんのわずかにだけ前のめりになる。


 ほんのわずか。

 だが、白霜外界の前ではその“ほんのわずか”が命取りになる。


 クロウの視線が細くなった。


 あれは嫌な動きだ。

 実に嫌だ。


 まだ足を踏み出したわけではない。

 まだ命令でもない。

 だが、ああいう時の気配は分かる。


 理屈より先に、誰かの中で“ここで一歩出ることに意味がある”と考え始めた時の動きだ。


 そして、門の前ではそういう半歩が一番まずい。


 次の瞬間に何が起きるかまでは、まだ分からない。

 だが、少なくとも面倒の気配だけははっきりしていた。


 そしてその予感は、だいたい外れないのだ。




最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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