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24 宿命の第四コーナー、静寂の彼方へ

 虹の道の終着点。そこは星々が足元を流れ、空には前世の日本の夕暮れ時のような、橙色の空が広がる奇妙な空間だった。原初のターフ。この世界の理が形作られる場所。


 前方には白銀の幾何学模様を纏った巨大な馬――デウス・エクス・マキナに跨る成瀬が待っていた。


「来たか……レン。いや……羽鳥蓮」


 成瀬が初めて前世の名字で俺を呼んだ。


「成瀬……教えてくれ。なぜお前はこの世界をシステムに変えようとする? お前だって馬を愛して、あの熱いレースを楽しんでいたはずだろ!」


 成瀬は自嘲気味に笑いデウス・エクス・マキナの冷たい首筋を撫でた。


「愛していたさ。愛していたからこそ、あの日……絶望したんだ」


 成瀬の背後の空間が歪み、あの日の第四コーナーの映像が浮かび上がる。二頭が並び激しく競り合い、そして――予期せぬ路面の崩れで馬が崩れ、成瀬の馬も巻き込まれたあの瞬間だ。


「あの日、俺たちは完璧なレースをしていた。お前の技術も、俺の計算も、馬たちの闘志も、すべてが最高潮だった。それなのに――たった一つの不確定な砂の崩れが、すべてを奪ったんだ!」


 成瀬の声が怒りと悲しみで震える。


「俺の愛馬は予後不良、お前も命を落とした。この世界の競馬も同じだ。魔力嵐、呪い、利権。不確定な要素が馬たちの命を騎手の人生を弄んでいる。俺はそんな理不尽な運命を消し去りたいんだ。すべてが計算通りに進み、一頭の馬も傷つかず、完璧な勝者が約束される。そんな美しい世界に俺が書き換えてやる!」


 成瀬の目的は支配欲ではなかった。あの日に経験した理不尽な悲劇を二度と起こさないための歪んだ愛だったのだ。


「成瀬……お前の気持ちはわかる。でもそれはもうレースじゃない。ただの儀式だ!」


 俺はアステリオレウスの手綱を強く握り直した。


「計算できないからこそ、俺たちは馬の心に寄り添うんだ。傷つくのが怖くて走るのをやめられるかよ!」


『――ゲート、オープン!』


 世界の心臓部で最後のファンファーレが鳴り響いた。その瞬間、周囲の景色が激しく入れ替わる。異世界の虹の道が現れたかと思えば、次の瞬間には東京競馬場の芝の匂いが立ち昇る。


「デウス・エクス・マキナ、最適解! レン、お前が進む道は既に私の計算で塞がれている!」


 成瀬の馬が空間そのものを演算し、俺が加速しようとするポイントに先回りして壁を作る。魔力による絶対的な進路妨害だ。


「レン、右よ! 奴の魔力計算にラグが生じるわ、そこを突いて!」

「レンさん、風が……風が味方しています! バハムートちゃんの翼を信じて!」


 セリアとミアの叫びがアステリオレウスに力を与える。俺はアステリオレウスの翼を畳み、あえて成瀬の作る壁の隙間に、針の穴を通すような鋭さで突っ込んだ。


 レースは終盤。再び、あの第四コーナーが近づいてくる。前世で二人が倒れた運命の場所だ。


 景色は完全に、あの日、あの瞬間の東京競馬場と重なった。成瀬の瞳にあの日と同じ恐怖がよぎる。


「ここだ……ここでまた不確定ななにかが起きる。だから今ここで時間を止める。私のシステムで世界を固定するんだ!」


 成瀬がデウス・エクス・マキナの全機能を開放し、競技場全体を停止した静止画に変えようとする。馬たちの動きが止まり、風が止まり、セリアたちの声も届かなくなる。


 だが――


『レンよ……我を信じるか?』


 銀色の光が静止した世界の中で脈動した。

 アステリオレウスが俺に語りかける。


「ああ……不確定要素だろうが運命だろうが、お前と一緒に飛び越えてやる。いこうぜ、相棒!」


 アステリオレウスの銀の翼が静止した空間を力強く羽ばたいた。計算も過去のトラウマも物理法則さえも。 すべてを置き去りにする――異次元の末脚。


「なっ……なぜだ! なぜ私の計算を……過去の記憶を乗り越えられる?」


「成瀬――俺たちはあの日から一歩も進んでいないんじゃない! あの日があったから、今、お前と一緒に走れているんだ!」


 銀色の閃光が第四コーナーを最速で駆け抜ける。過去の転倒というトラウマを、今、この瞬間の飛躍へと塗り替えるために。


 光のゲートを抜けて二頭は最終直線へと躍り出た。もはやシステムも計算も関係ない。残ったのは二人の男の意地と二頭の馬の魂のぶつかり合い。


「成瀬ぇぇぇぇぇーっ!」

「レンんんんんんーっ!」


 黄金と銀。前世で結末を迎えられなかった二人の夢が異世界の空で激突する。


 ゴールまで、あと五十メートル。アステリオレウスが成瀬のデウス・エクス・マキナの鼻面を僅かに捕らえた。

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