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22 翼を支える者たち、黄金と銀の対価

 隠れ里の一室。セリアは大量の魔導通信紙を広げ、王都の商人公会、そして王立銀行の重役たちと同時に渡り合っていた。その瞳は投資家としての冷徹さと、一人の女性としての情熱が混ざり合い、異様な迫力を放っている。


「……ええ、ええ。わかっているわ。ローラン家の資産だけじゃ足りないって言うのね? だったら私の未来を担保にしなさい。今後五十年、ローラン家が生み出す利益の優先権を貴方たちに譲渡する。これで文句はないわね?」


 通信相手の商人が怯えたような声を上げる。


「し、しかしセリア様。それでは貴女の一生は公会の奴隷に?」


「勘違いしないで。世界が成瀬に調律されたら、あんたたちの金貨なんてただの鉄屑になるのよ! 世界という市場を守るために私はレンに賭けているの。これは犠牲じゃない、史上最大の投資よ!」


 セリアは震える手で自身の血をインク代わりにして契約書にサインした。積み上げてきた富、家名、そして自由。そのすべてを躊躇なくレンという一人の男に投げ打った。


 一方、里の最深部にある古の魔導具を封印した星霜の祭壇。そこには全身から血を流しながらも黄金のオーラを纏って立ち続けるエリスの姿があった。


 魂の鐙を解放するには封印を守る古代の騎士の幻影を力でねじ伏せなければならない。


「ローゼンバーグの剣が、この程度の試練で折れると思うな!」


 エリスは折れかけた愛剣を構え、ゴールドシップと共に幻影の騎士へ突撃する。


「私はあいつに敗北を教わった。敗北を知る者はそれを超える強さを知る! 私の誇りはあいつを勝たせるためにある!」


 ゴールドシップが嘶きエリスの剣に黄金の雷を纏わせる。一閃。空間を切り裂くような一撃が幻影の盾を砕き、祭壇の封印が音を立てて崩れ去った。


 エリスは激しい呼吸の中で祭壇から浮かび上がった銀色の鐙を愛おしそうに抱き締めた。


 儀式の準備を終えた二人が俺の待つ部屋に戻ってきた。セリアの顔は青白く、エリスの服はボロボロだ。しかしその表情は勝利を確信した戦士のものだった。


「持ってきたわよ。これが私たちのすべてを代償にして手に入れた新しい翼よ」


 セリアが銀色の鐙を俺に差し出す。その手は極度の魔力消費で震えていた。エリスも壁に寄りかかりながら不敵に笑う。


「使いなさい。もし負けたら地獄まで追いかけて行って、あんたに説教してあげるわ」


 俺は二人の想いの重さを、その手で受け止めた。


「ありがとう。セリア、エリス。俺一人じゃ、ここまで来れなかった」


 ついに俺は魂の鐙をバハムートの鞍に装着した。その瞬間、銀色の光がバハムートを包み込む。


「ミア、ルルアを頼む。二人が戻って来るまで、なんとか繋いでくれ」

「はいっ! レンさん、信じてます!」


 俺の意識が加速しバハムートの精神世界へと沈み込んでいく。そこは燃えるような紅い空と、凍てつく銀の海が交差する、混沌とした世界だった。


 その中心で巨大な鎖に繋がれた一頭の銀色の竜馬が悲痛な咆哮を上げていた。漆黒の毛並みが剥がれ落ち、中から現れるのは、眩いばかりの銀の鱗を持つ真の姿。


『……レン……か……? 来るな……我が内なる闇に飲み込まれるぞ……』


「いいや、離さない。お前の本当の名前を一緒に呼びに行こう」


 俺は銀色の海を突き進み、囚われた相棒へと手を伸ばす。しかしその前に再びあの男――アジャスターの冷酷な声が割り込んだ。


『――無駄だ、レン。バハムートの真名の後半、それは終焉を意味する言葉だ。それを知った時、君たちの絆はこの世界を破壊する呪いへと変わる。それでも知りたいか?』


「ああ、知りたいね。呪いだろうが終焉だろうが、こいつと一緒に走るなら、それは俺にとっての最高のゴールだ!」


 俺の叫びが精神世界を震わせる。次の瞬間、現実世界で眠っていたルルアの唇が小さく動いた。


「……アステリオ……レウス……」


 バハムートの真名、そのすべてが、ついに俺の魂に刻まれた。

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