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『紅蓮の嚮後 〜桜の鎮魂歌〜』優しさほど深く壊れる、美しき地獄の異能譚   作者: 佐倉井 鱓
記憶を喰らう者

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第138話 破壊あるのみ

崩落する天井から舞い落ちる鉄粉と

裂けた照明の火花が火種となり

地下闘技場の空間は

一気に戦場の熱を帯びていった。


壁を蹴り飛ばして天井の梁を破壊したソーレンは

着地の瞬間

静かに佇む時也の脇を抜けるように走り抜け

一人二人と銃を構える私兵を次々に沈めていく。


「ッ──こいつ!殺せッ!!」


奥の扉が開き

さらなる私兵達が雪崩のように押し寄せてきた。


重装の警備、運営関係者

そして幾人かは──

格闘家の身体を持つ、戦闘専門の護衛部隊。


無線機からは、耳を疑うほどの怒声が響き渡る。


「こいつら全員、殺して埋めろッ!

このままじゃ、上にバレる!!」


「いいぞ⋯⋯!」


ソーレンの唇が、不敵に吊り上がった。

視界の端に、何人、何十人と現れる敵の姿。


だが、その数の圧迫すらも

彼の心には火を灯す〝材料〟に過ぎなかった。


(⋯⋯来いよ、もっと──!!)


昂ぶりが、心の奥底から湧き上がってくる。

勘が、脳髄まで研ぎ澄まされていく感覚。


誰がどこに立っているのか

どの角度から来るのか──

一秒先の動きすら、まるで地図のように読める。


「行けぇぇッ!!撃ち殺せェッ!!」


連射音が響く。

銃弾が火花を散らしながら、空間を裂いて迫る。


だがソーレンは

まるで踊るようにそれを躱した。


身を反らし、弾道の間を滑り抜け

瞬間──重力を足元に集中させて、一気に加速。


──跳んだ。

床が凹むほどの跳躍。


ソーレンの身体は宙を裂き

三人の私兵の頭上を越えたと思った瞬間──

着地と同時に、拳が炸裂する。


「がっ⋯⋯!?」


肋骨を抉るように振るわれた拳が

一人目の身体を吹き飛ばす。


その反動を利用し、腰を回しながら

左の蹴りが二人目の膝を破壊する。


悲鳴を上げる間もなく崩れる男の首元を

崩れかけた鉄柱に叩きつけて黙らせた。


「ハァッ!!」


三人目の私兵が背後からナイフを突き出す。

だがそれも、予測済み。


反転し、腕を絡めるように絡め取ると

そのまま自重ごと投げ飛ばす。


床板を突き破って、身体が沈んだ。


壁に叩きつけられた敵の絶叫を背に

ソーレンは次の敵へと視線を向ける。


目に映るものすべてが

〝標的〟にしか見えなかった。


重力が一瞬だけ歪み

鉄骨の支柱が音もなく外側へ(たわ)む。


そこへ、時也の花弁が舞い落ちた。


時也は背後から迫る私兵の一団を

咲かせた植物の蔓で絡め取り

刃の花弁でその武器ごと切り刻む。


「⋯⋯容赦は、致しませんよ?」


「おいおい。楽しいのは──こっからだろ?」


ソーレンが駆ける。


振り下ろされたバールの軌道を読み

重力の反発で跳ね上がり、膝を額に叩き込む。


鉄製の扉が阻む先

そこに数人の重装兵が待ち構えていた。


だが──扉ごと蹴破る。


凄まじい重力の乗った一撃が

分厚い鉄扉を内側から抉り飛ばし

兵たちはそのまま押し潰されるように崩れた。


奥へ、さらに奥へ。

施設の中枢が見えてくる。


蛍光灯が軋み、天井が鳴る。


植物の根が壁を裂き、天井を喰い破る。

鉄骨は重力で歪み、支柱は爆ぜるように崩れる。


破壊された地下帝国の瓦礫の中で

ただ二人──神のように戦う男達がいた。


火花、血煙、断末魔。


その全てを

壊していく感覚が塗り潰していく。


ソーレンは、今──明確に〝昂っていた 〟



天井から砂塵と鉄粉が降り注ぎ

崩落の唸りが骨に響くような轟音を立てて

地下闘技場の奥深くが

とうとう臨界を迎えていた。


壁のあちこちには大きなひびが走り、鉄筋は歪み

コンクリートの天井が

いつ落ちてもおかしくない。


瓦礫の山の向こう

咲き誇る花弁の刃が、最後の兵士を貫いた頃──


時也は一つ、息を整えるように立ち止まり

静かにソーレンの方を見やった。


「⋯⋯ソーレンさん。

そろそろ──支柱が倒れます。

上に出ましょう」


言葉は穏やかだが

響きには微かな焦燥が滲んでいた。


天井のひび割れは、もう時間の問題だ。


だが。


「──は?おめぇだけ出てろよ」


ソーレンは、瓦礫を踏みしめながら笑っていた。


血の匂いと、焼けた金属の焦げ臭さの中

口元を歪めて振り返る。


「俺は⋯⋯

もう少し叩きのめしてから出るからよ」


瓦礫の隙間に隠れて残った敵の息遣いが

まだ耳に残る。


足音ひとつ、視線ひとつ──


全てが研ぎ澄まされた今のソーレンには

鮮明だった。


この昂ぶりを──まだ終わらせたくない。


時也は一瞬だけ目を閉じると

また開けて──

まるで〝本当に仕方がない〟とでも言うように

長く静かに息を吐いた。


「⋯⋯まったく、貴方という人は」


そう言いながらも

指先をくるりと一回転させるように振ると

足元の植物がざわりと動き

壁を伝って伸びた蔓が支柱を巻き込み

さらに深く侵食していく。


根は鉄を破り、石を裂き、音もなく構造を

〝崩壊へと導く〟──


戦場のど真ん中。


だというのに

時也は一切の乱れもなく姿勢を正したまま

歩き出した。


「⋯⋯では、後ほど」


言葉だけを残して桜の花弁のように去っていく。


その背中は、戦火の中を歩いているとは

到底思えぬほどに優雅だった。


ソーレンは一つ肩を竦めて、拳を握る。


「おう!」


そして、振り返らぬまま

リングの中央へと再び歩を進める。


そこには、まだ

牙を剥きかけた私兵の数人と

荒くれ者達が残っていた。


天井が軋みを上げ、崩落寸前の空間。

だが、ソーレンの顔には恐れの欠片もなかった。


重力を自在に操る彼にとって

崩れる瓦礫など、ただの〝地形〟でしかない。


天井が落ちるなら──支えればいい。

壁が潰れるなら──捻じ曲げて通ればいい。


この空間はもう、彼の〝獣道〟だった。


拳を鳴らし、肩を回し

ぐるりと辺りを見回して唇を吊り上げる。


「さあ⋯⋯ギリギリまで、俺と踊ろうぜ?」


重力が足元に集まり

瓦礫の山がソーレンの一歩と共に唸りを上げる。


その音に、敵達の顔が引き攣る。

だがもう、逃げ場はない。


ここは、咆哮をあげる獣の檻。


この空間の支配者は──

今、ソーレンただ一人だった。

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