天使を襲いし大罪人。 ⑩
もうすぐ終わる……というか、あと一話でストーカー君の前日譚が書き終わります。
過去の話に関しては、前日譚の最後の話とくっつけるか、長くても一話で収まるようにするつもりです。
実は主人公の学校、普通の試験に加えて一芸入試というか……何か普通とは違うところがないと受からないんですよね。
一芸だけで受かる人もいますが……ほとんどは学力+一芸ですね。
ちなみに、圧倒的な学力も一芸の一種ではあるので、勉強だけが異常にできる人もいます。
香奈の家にお邪魔した日から一週間。特に何も起こらなかった。
相も変わらず昼休みは香奈の下へ行けず、行きと帰りの時間だけが香奈成分を補給できる唯一の時間だ。
強いて言うなら、帰り道に香奈が拾った子猫が家に来たぐらいかな。
香奈の家はマンションなので動物を飼うことができず、だからと言って戻してくるのも可哀想だという事で僕の家に飼ってみないかと相談に来た。
勿論、僕が香奈の頼みを断るはずもなくその猫は無事我が家の一員となった。
名付けは僕がしていいとのことだったので、裕香にした。
オスなら、香也にするつもりだった。
誰も気づかなかったけど、僕と香奈の名前をもじってつけた名前だ。
将来子供ができたときに備えて考えてきた名前だったから、新しい名前を考えないとなあ……。
やっぱり、裕奈かな?
そんなこんなで、今は香奈が出てくるのを待っているところだ。
今日は少し遅いような気がする。
香奈の友達も、校舎から出てあたりで待ってるし……。
そう思っていると、香奈が出てきた。
特段、いつもと変わらないように見えるが……いや、少し表情が明るいような気がする。
何かいいことでもあったのかな?
嬉しそうな香奈の可愛さに悶えながら考える。
が、いくら相思相愛で心が通じ合っている僕と香奈でも限度はあるので、特に何も思いつかず、そのまま疑問は頭から消えていった。
翌日。そろそろ大分ほとぼりも冷めてきたようなので、ようやく香奈と一緒に昼ご飯を食べられると思って、ワクワクしながら香奈のところへ行こうとすると――。
頭上から香奈の声が聞こえてきた。
昼休みに放送があるのは、珍しいなと思ったものの、クラスの誰も反応してなかったので、意外とそうでもないのかもしれない。
とにかく、一年生が放送室に呼び出されているので、香奈を誘いに行けば鉢合わせになるだろう。
少し待ってから香奈を誘おうかな。
そう思って、弁当をカバンから出していると。
「裕也! 一緒に食べようぜ」
後ろから僕の肩ををポンと叩いて、翔太が声をかけてくる。
最近仲良くなったが、不思議な魅力がある男で、香奈を誘いに行かなくてもいいかな? と思わせてくる。
が、やはり、そろそろ香奈と一緒に昼食を取りたいので断りの言葉を発そうと思い、口を開く。
しかし、僕の喉が動く前に翔太が僕の座っている椅子をグルっと180度回転させて、自身は僕の席の後ろにある自分の席に座って、弁当を開け始めた。
前の休み時間に買ってきたのか、机の上には購買のパンも2個ほど見受けられる。
「ほら、裕也も早く弁当開けて食べ始めろよ。ちんたらしてると昼休み終わっちまうぜ」
そういって、彼はパンを左手に、箸を右手に持って食べ始める。
翔太はいつも強引だなあ……。
そう思いつつ、なんとなく彼には憎めない良さがある。
やれやれ……というような表情を浮かべつつも、今日も香奈と一緒に食べることは諦めて、弁当を広げる。
「いただきます」
僕が箸を持って、どのおかずから食べようか迷っていると――。
クラスでも華やかな女子の集団からあー! という声が上がった。
「また小野が小町君を誘って食べてる!」
すると、その女子の周りからも、ズルい! とか、何してんのよ! という声が聞こえてくる。
彼女たちは立ち上がって、翔太に鋭い視線を向ける。
その視線から、私も我慢したのに……! という心の声がひしひしと伝わってくる。
他にも、何人かの男子も同じような視線を翔太に向けているが、彼は飄々(ひょうひょう)とした様子で、気にしている様子はなかった。
それどころか、彼女らに向かって。
「なら、お前らもこっち来て一緒に食べればいいだろ」
と、言う始末。
この台詞に、若干そうしようかな、という表情を浮かべたがさすがにプライドが許さなかったのか、ふん! と顔を背けて女子グループでの食事に戻る。
リーダー的な立ち位置にいる彼女が動かなかったことで、他の女子たちも諦めていく。
ゆるーくだが存在するクラス内カーストで、上位の彼女たちが動かなかったことでほかの生徒たちもしぶしぶ引く。
それを見た翔太は、顔を僕の方へ戻して。
「みんなで食べたほうが楽しいと思うけどなあ」
とだけ、こぼして食事を再開しつつ、僕に話を振ってきた。
SHRが終わって、荷物をカバンに詰めていると翔太が肩に手をまわして話しかけてくる。
「裕也! 部活行こうぜ!」
最終的に僕は柔道部に仮入部することにした。
翔太は柔道部所属らしく、同じクラスということもあって部活の最中もペアを組んだりしている。
今日も一緒に武道館――武道専用の体育館、名前が少し不安をあおる――に向かおうとした、その時。
廊下の窓からチラリと見えた人影に僕の目は奪われた。
――香奈だ。香奈がいた。
しかも、何故か男に抱きかかえられている。所謂お姫様抱っこの状態だ。
さらには、なぜか何人かの男子生徒が香奈と間男を追いかけている。
こうはしていられないと、僕も追いかけようと身を翻らせると――。
「おい。どうしたんだよ、窓の外を見たと思ったら、いきなり焦った様子で……」
ここでの問答に時間をかけている暇はない。
翔太には悪いと思うが、おざなりな返事をして駆け出してしまう。
「用事を思い出した。部活の方はお前から言っておいてくれ!」
素早く靴を履き替えて、校門を出るや否やすぐさま全力で走り出す。
勿論、走っている最中にも目を走らせていたが。
しばらく走っても一向に姿は見えず、段々どこかで見逃して追い抜いてしまっているんじゃないか? と思いつつも、進んでいき香奈の家の近くまで来てしまう。
やっぱり、どこかで追い越してしまったんだ。
香奈の身に危険が迫っているのに、冷静さを欠いて無駄に時間をかけてしまうなんて……。
後悔が募る中、反省は後でもできる! と考えて、まずは香奈を保護することを第一優先にしないと、と決意を新たにし、念の為香奈のマンションの方も見ておこうと向かうと――。
香奈を背負ったクソ野郎がいた。
あろうことか、婚約者の僕に断りもなく香奈に近づいただけでなく、あんなに接触し、香奈の柔肌にまで触れるなんて!
怒りで目の前が真っ赤になったように錯覚するが、そのまま怒鳴り込むことはしない。
その男の手の動きや、香奈の様子からして恐らくお義母さんと会話しているに違いない。
このまま香奈を自分の部屋に連れ込むような真似はしないだろう。
そう判断しつつ、不安ではあるので香奈と間男がエレベーターに乗り込んだ後、僕はエレベーターを待っている振りをして、何階にとまったのかを確認する。
一階、二階と上がっていき、五階の文字が光って止まる。
その後、暫くしてからエレベーターの表示がさらにもう一階上がっていったので、順当に考えれば、あの間男がこのマンションに住んでいて、香奈を送った後自分の部屋に戻っていったといったというところだろう。
香奈が間男と同じマンションであることは問題だが、ひとまず今日の安全は確保されたとみていいだろう。
ひとまずの安心要素に安どのため息を吐き、一旦家に帰ることにする。
■■:こいつさ。秋人のことはわからなかったのに、香奈のことはしっかり察知してるって……本当に人間か?
秋人:改めて見ても、本当に生身か怪しいよな、こいつ。
香奈:そういえば、裕也君は全然私たちのこと見つけられてなかったみたいだけど、どうしてなの? 見逃してたとか?
■■、秋人:(何言ってんだこいつ、の顔)
■■:気付いてないのか? 秋人、焦ってるせいか速度抑えるの忘れてて、結構な距離引き離したんだぞ。
秋人:俺は悪くない! 追ってきた方が悪いんだ!
■■:言い訳すんな




