天使を襲いし大罪人。 ④
テストから解放されました!
午前中いっぱい授業を受けてみた感じでは、幸いにも僕がみんなよりも遅れているという事はなく、むしろ少しだけ進んでいるみたいだ。
懸念が解消されて、安心する。
今日は荷造りに忙しくて、母が弁当を作ることができなかったので食堂で食べることになっている。
どうせなら香奈も誘って食べよう。
そう思い立ち腰を上げると、僕の周りに女の子たちが集まってくる。
僕の手に弁当がないことから、食堂で食べるだろうとあたりを付けたみたいだ。
中には、自分の弁当が入った袋を持ってついてくる女の子もいる。
どうしようか……大人数で香奈のところに向かうのも迷惑だろうしな……。
それに、香奈が嫉妬してしまうかもしれない……そんな香奈も可愛いだろうけど、妻にはさみしい思いはさせたくない。
だからといって、彼女たちを引き離すのは今後のクラス内関係的にも避けたいところだ。
悩ましい状況に嘆息する。
仕方ない。香奈に迷惑をかけるのは本意じゃないからね。
自分に言い聞かせるように心中で言い放ってから、香奈のところに行くのは諦める。
四限目の体育は50m走をした。香奈を守るために体を鍛えているので、陸上部にも負けていないとは思っていたが二クラスの中で一番の記録だった。
この結果には少し驚いたが、それ以外は特に何事もなく放課後になった。
SHRが終わると、不破が委員長らしき人に話しかける。
彼女が何度かうなずいた後、不破が僕のほうを向き、手招きをする。
こっちに来いという事だろう。
何の用だろう?
疑問はあるが、とりあえずは指示に従うことにする。
僕が近づくと、不破が話しかけてくる。
「小町君。朝、簡単にこの学校のことを説明したけど――やっぱり実際に見て回ってもらった方がいいと思ってね。本当は僕が案内できたらいいんだけどね……クラブの顧問もやってるからさ、なかなか時間が取れなくてね……」
不破は申し訳なさそうに、ははは……と笑う。
「代わりに、クラス委員長の風井さんに案内を頼んでおいたから。詳しいことは彼女に聞いてね」
そう言うと、不破は時計を見て焦ったように、教室を出ていった。
断る暇もなかった……。
唐突な展開に唖然としてしまう。
数秒ほどフリーズしていると、風井さんからおずおずと声をかけられる。
「小町君。とりあえず、教室を出ない? ……ここだと、掃除の邪魔になるし……」
その言葉を聞いて、周りを見てみると、箒を持って僕らを見ている数人のクラスメートが見えた。教室には、彼ら以外ほとんど残っていない。
彼らも、僕と目が合うと慌てて掃き掃除に戻った。
「そうだね。一旦出ようか」
風井さんと一緒に教室を出る。
風井さんは、教室に残っている女子たちから羨望のまなざしをうけて居心地悪そうにしていた。
とは言ったものの、僕には香奈の護衛をいう大切な仕事があるからなあ。
彼女には悪いけど、断らせてもらおう。
歩きながら、そう考えて断ろうと口を開きかけて……止まる。
そういえば、明日はほとんどの授業が移動教室だって誰かが漏らしてたな。
さすがに、案内位はしてもらったほうがいいか?
だが、香奈の件もあるしなあ……。
香奈と明日の授業、二つを天秤に掛けて比べる。
だが、やはり香奈よりも優先することはないという事で、案内を断ろう! と決めて風井さんのほうを見ると――彼女はすでに出発していた。
「小町君、何やってるの? 早く早く」
振り返って、僕が動いてないことに気付いたのか手招きをして僕を急かしてくる。
はあ……仕方ない。
今日の香奈の護衛は諦めることにする。
だが、香奈の部活次第では、まだ可能性はあるので早めに終わらせられるように小走りで彼女に近づいていく。
まず、彼女に案内されたのは生徒会室だった。
「ここは生徒会室。めったに来ることはないだろうけど、行事ごとの申請とか、生徒の相談とかを聞いてくれたりしてくれるので知っておいたほうがいいと思う。目安箱も生徒会室の前だしね」
たしか、この学校の生徒会は相当な権力を持っているんだっけ?
不破は理由を知らない様子だったけど……少し気になるな。
皇桜学園は一学年ごとの人数が大きいので、本校舎以外にも複数の校舎がある。
本校舎には、生徒会と放送室、職員室と食堂があると彼女は説明する。
「食堂と職員室は一度行ったから、案内しなくても大丈夫だよ」
「わかったわ」
僕が念のため、そう言うと彼女が次に僕を連れて行ったのは放送室だった。
「この放送室は放送部の部室も兼ねてるの。だから、中は意外と快適そうな環境なのよ」
少し、羨ましそうに風井さんは言う。
そして、あっという声を上げて思い出したように付け加える。
「そういえば、今日教室で話題に上った東城香奈さんも放送部所属なのよ。しかも、まだ二年生なのに部長ですって」
さすがは香奈。僕も夫として誇らしいよ。
「彼女は放課後まで残って、最終下校時刻の放送をしているのよ。偉いわよねえ……」
感心するように、呟く風間さん。
彼女の言葉を聞いて、僕は嬉しさと心配が同時に沸き上がった。
最終下校時刻まで香奈が残っているんだったら、護衛はできそうだけど……僕が引っ越してくる前もそんな生活をしてたと考えるとゾッとするよ。




