ストーカーって怖いよなっていう話。 ⑫
次回は一週間後です。
家に帰り、テレビを見ていると、ふと香奈先輩のお父さんの言葉が脳裏に浮かぶ。
たしか……フルコンタクトだったか?
気になったので、パソコンで調べてみる。
wikiには『グローブ、防具なしの直接打撃制空手を指す場合が多い』と書かれているな。
つまり、直で殴るってこと?
しかも、今年の全国大会が上の方にすぐ表示されるほど話題になってるな。
「なになに……『全日本フルコンタクト空手道選手権大会、期待の新人現る! 彗星のごとく現れた天才、小町裕也に迫る!』か。多分これだな。名前も聞いた話と一致するし」
詳しく調べてみると、小町裕也は中量級の選手で身長はそこそこの高さ、蹴りが強い選手っぽいな。
顔もプレイボーイのようなイケメンだった。歳は俺と二つ違いだな。
試合を軽く見てみた感じだと、こいつだいぶ強いな。
多分、ストリートファイトでもそこらへんにいるような相手では勝負にならないだろう。
これなら、ストーカー相手でも問題はなさそうだな。
一安心したので、パソコンから離れてテレビの続きを見始める。
翌日。
香奈先輩を迎えに行くと、エレベーターを降りたあたりで香奈先輩のご両親とすれ違う。
早くね? えっ今、七時くらいなんだけど……。
「来栖君じゃない~! 私たちはもう行くから、香奈のことお願いね?」
「僕たちがいないからって、あんまり羽目を外しちゃだめだよ」
すれ違いざまに振り返って、そういうと二人は俺が乗ってきたエレベーターに乗り込み下に降りて行った。
相も変わらずフレンドリーな人たちだなあ。
娘の彼氏だって思ってるからって普通、数回あっただけのやつにあそこまで親しげに話しかけられないだろ。
そんな感想を抱いていると、後ろから肩をたたかれる。
振り返ってみると、香奈先輩がいた。
「ほら、早くいこ!」
そう言い、香奈先輩は俺の横を通り過ぎてかけていく。
ご両親が乗っていったエレべーターがまだ戻ってきていないので、それを待っている間に先輩は俺を催促してくる。
「早く! 早く!」
今日はいつもより機嫌いい気がする。
はしゃぎ過ぎだろ。
まあ、元気ないよりはいいと思うけど。
学校に着き、教室に入ると石田がいた。
「おい! 例の件はどうなった!」
例の件ってなんだよ。
「とぼけた顔するんじゃねえ! 昨日の黒髪の女の子の話だよ!」
ああ! あれか。
「待てよ、落ち着いたらって言ったよな。一日で落ち着くわけねえだろうが!」
そういう俺に対し、石田も反論してくる。
「お前の事情を知らねえんだから、こっちは判断しようがないんだよ!」
なるほど。正論だわ。
石田の言葉に納得する。
「わかった。詳しい事情は話せないが、おそらく落ち着くまでは一週間はかかると思う」
それを聞いて、石田は舌打ちしつつ引いてくれた。
石田に絡まれたこと以外は何の問題もなく迎えた昼休み。
だが、ここで予想外の事態が発生した。
昨日と同じように生徒会室に行って、役員の人に絡まれて弁当を受け取ったまではいい。
だが、そこからが問題だ。
弁当を受け取って生徒会室をから出ようとすると、会長に呼び止められる。
「すまない。少し、待ってくれないか?」
「はい? なんでしょう」
扉にかけていた手を放して、後ろに振り返る。
会長は重い雰囲気を漂わせてこちらを見ていた。
何度か口を開きかけるが、そのたびにためらうように口を閉じてしまう。
なに? 何か重大な話でもある感じ?
もしかして……勘違いに気付いた?
それで、俺に別れ話を切り出そうとしてる感じか!
そんな期待を抱きながら、会長が話し始めるのを待っていると。
「実はだな。その……君に頼みがあるんだ」
これはやはり! 別れ話か!
きっと、お願いだから私と別れてくれ、とか言われるんだろう。
そう結論付けて、話を切り出されたらすぐに答えられるようにしていると。
「散々君のことを卑劣だのなんだの言っていたのに、こんなことを頼むなんて恥知らずだとは思うが……お願いだ! 私と――デ、デ、デートに行ってくれ!」
「勿論です! 大歓迎ですよ!」
あれ? 別れ話じゃ……ない?
内心で焦っている俺を尻目に、先輩は安堵したかのように大きな息を吐いた。
「そうか! 行ってくれるか。……すまないな、父にその…君と付き合ってることがバレてだな……『彼氏君と一緒に行ってきなさい』と言われて遊園地のチケットを渡されてしまったんだ」
それならそれで、行ってなくても行ったって言えば解決すると思うけど。
そんな考えが顔に出てしまっていたのか、先輩が苦笑いしながら理由を話してくれる。
「家はおじいさまが厳しくてな。父が説得したらしいのだが、交換条件として、その……写真を撮ってくるように、と言われてしまったらしいんだ」
「行かないというのはダメなんですか?」
話を聞いているうちにふと湧いて出た疑問を先輩にぶつけてみる。
「チケットがプレオープンのチケットらしくて、転売防止用に顔写真とリンクしているから私と同伴者しか使えないらしい。それに、断ろうとすると父がものすごく悲しそうな顔をするので断りづらいんだ」
なるほどな。
まあ、休日だからな。
香奈先輩の護衛の件も契約外だろう。
最悪、家の中にずっと居てもらうってこともできるしな。
「わかりました」
「そうか! わかってくれたか! ありがとう。……これがチケットだ」
そういって先輩がカバンの中から取り出したチケットを手渡してくれる。
日時は今週の日曜か。
「詳しい予定は後日にしよう」
と先輩が言うので、俺は提案をしてみる。
「いい機会ですし、連絡先交換しませんか?」
週末までそこまで時間ないしな。
この昼休みの時間だけでは足りない可能性もありうる。
「……いいだろう。RINEと電話番号でいいな?」
「十分です」
よし! 携帯番号ゲット!
これで、もし先輩と別れた後でも嫉妬に狂った男どもから身を守る手段ができた。
今日の最大の収穫はこれだな。
「ありがとうございました」
ほくほくした気分のまま生徒会室を出る。
いつもより心なしかリズミカルな歩き方で教室へと向かう。




