ストーカーって怖いよなっていう話。 ⑤
次回は10/18の午前四時です。
翌朝。
約束どうり、香奈先輩を迎えに行く。
いつもより、一時間も早く家を出る。
といってもいつもの時間だとギリギリだから、この時間でちょっと普通より早いぐらいかな? って時間だけど。
504号室の前に立ち、インターホンを鳴らす。
『はーい。あっ、昨日の……確か来栖君だったわね。ちょっと待ってね。――香奈! 香奈! 来栖君が来てるわよ!』
バタバタと音がして、誰かが近づいてくる音がする。
扉が開いて、香奈先輩が出てくる。
茶色い革靴を履いて、口にパンを咥えている。
ん? 靴……履いてるね。
これはいったいどういう事だ?
「あっ! 来栖君、おはよう!」
昨日のことはもう怒ってないみたいだな、良かった。
じゃなくて……靴がないから俺に迎えに来いって言っておいて、何で靴はいて出てきてんの、この人?
「あの……先輩。靴……なかったんじゃないんですか?」
「私、君のせいで学校に靴が置きっぱなしとは言ったけど、別に予備の靴がないとは言ってないよね?」
えっ、じゃあ俺に迎えに来るよう言ったのは何だったの?
俺、このためにいつもよりも早起きしたんだけど……。
「私が会いたかったから…じゃ、だめ…かな?」
ダメだろ。
俺別にそんなフラグ立てた覚えないし、どうせ嘘なんだろ?
そんな思いを込めて先輩を見つめると目が合う。
十秒ほどそうして見つめあっていると、先輩がフイと目線を横に動かした。
ほら! 目をそらすってことはやましいことがあるってことだよな。
つまり嘘なんだろ?
「なんてね! ストーカーから守ってもらわないといけないんだから、一緒に登校しないとね!」
「なるほど! そういうことですか」
納得、納得。
「もう……ばか……」
先輩がぼそりと何かをつぶやく。
「えっと、何か言いましたか?」
先輩は、俺に聞こえていると思わなかったのか、顔をバッと勢いよく俺の方に向ける。
「君には関係ない!」
はあ、そうですか。
「香奈! ご近所さんに迷惑だから、もっと静かにね」
「分かってる! ほら、行くよ来栖君!」
スタスタと歩き出した香奈先輩。
どんどん離れていく背中に慌てて駆け寄り、並ぶ。
そのまましばらく歩いていると、先輩に伝えようと思っていたことを思い出す。
あたりを見回し、近くに人がいないのを確認してなおかつ念のため先輩に顔を近付けて言う。
「先輩、実は昨日言おうと思ってたんですけど……学校では付き合ってるってことを内緒にしてくれませんか? いや、もちろん偽彼氏なのに、こんなこと言って申し訳ないと思ってるんですけど……お願いできませんか?」
顔を離す。
すると、顔を真っ赤にした先輩がいた。
怒ったか? やっぱりいきなり顔を近付けるのはやめておいた方がよかったのか……。
俺より顔がいい人とか何人も見てきてるだろうから、いまさら俺の顔をみて照れてるってわけでもないだろうし……。
「い、いいよ。昨日の追いかけられてたのと関係あるんでしょ。そ・の・か・わ・り!」
先輩は一度止まって、こちらを振り返り俺に指を突き付けた。
「ちゃんと毎日私を送って、守ること! いい?」
「それはもちろん! 先輩、ありがとうございます!」
先輩に向かって頭を下げる。
いやあ、助かったわ。
これで、多少なりともほかの二人に情報が漏れる可能性は下がった。
良かった良かった。
顔を上げて、すでに歩き出している先輩のもとへ行こうとすると……嫌な気配を感じた。
ゾワッとくるような突き刺すような感覚が俺の首筋あたりにある。
なんだ? もしかして……ストーカーか?
まさか、こんなにすぐ尻尾を出すなんて……。
どれだけ堪え性がないんだよ。
ただ、すぐにその気配は消えたので今すぐどうこうしようという気はないらしい。
おそらく、俺が先輩と至近距離で会話してたのが気に食わなかったとか、か?
俺が一人になったときに殺気みたいなのを飛ばしてきた理由は……警告、だろうな。
まあ、ストーカーをするような輩に負けるほど、やわな鍛え方はしてないから大丈夫だろうけど。
「はやくこっち来て! 私をちゃんと守ってよね!」
「すぐ行きます!」
いったん考えるのはやめにして、先輩の方へ駆け出していく。
雑談をしたり、弁当をもらったりしていたが、学校にはいつもよりも三十分ほど早く着いた。
普段よりもゆっくり歩いていたのに、こんなに早く着くのか……。
ここで香奈先輩とはわかれて、教室に向かう。
教室に入ると、予想よりも人がたくさんいた。
というか、全員男子だ。
俺の机のあたりに集まっている。
何してんだこいつら?
大体の数はわかるけど、人数的にいつものメンツ以外は勢ぞろいしてないか?
いや、一個訂正。
文人は普通にいたわ。
我関せずといった感じで、自分の席に座り本を読んでいる。
あれは……夏目漱石か?
「おい」
いきなり、声をかけられる。
俺の席に集まってるやつらの中から、一人出てきて、声をかけてきたみたいだ。
あいつは……石田だったかな?
たしか、俺の席の近くに座ってた奴のはず。
「なんでお前ら俺の席に集まってんだ?」
答えはうすうす察しているが、違う可能性を信じて一応聞いてみる。
「お前に月島さんとどういう関係か聞くために、だよ」
やっぱりかあ。
「あー……別に言ってもいいけどさ、口外無用で頼むぜ。あと、教室の外で問題起こすのもやめろよ」
「俺はそれでもいいが……ほかのみんなはどうだ?」
石田は後ろをふりかえり、男子どもに問いかける。
「俺も、それでいいぜ」
「俺もだ」
「僕もそれでいいよ」
「我もそれで納得しようではないか」
その返答を聞いた石田はこちらを見る。
「だってよ。約束通り、話してもらうぜ」
俺は、香奈先輩と詩織先輩のことをぼかしつつ話はじめる。




