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現実より、異世界生活⁉︎  作者: ちゃぐ
38/40

2-9:嘘をつく

「拓真……いる?」

 

 マリーは扉を音が鳴らない程度に手前にゆっくりと引きながら、恐る恐る僕の存在確認をした。開かれる扉の角度は広がり、やがて、隙間から覗くようにしている彼女が見えるとお互いに目が合った。彼女は普段の表情とは明らかに違うとわかるほどに顔色は青ざめ、額には少し汗が浮かんでいる。


「いるよ。どうしたの? そんな不安げな顔して、何かあった?」


 そんな顔を見せられたからには原因を聞かないわけにはいかず、所々、痛む体を無理して立ち上がった。しかし、その表情の原因が自分にあることだという事にすぐさま気づかされた。


「何かあった? それは私が聞きたいわよ! その体、どうしたの?」


「ああ、これ? これはちょっと、色々あって……」


 扉近くに立つマリーに歩み寄ろうとして、僕はふと足を止めた。

 使用人の際の体に張りつくような黒のスーツではなく、だぼっとゆとりのある上下半袖半ズボンのパジャマ姿、さらには腕や脚に巻かれえた包帯の全身像を鏡を通し、初めて第三者として見てみると、ひどい姿だった。ほんと、けが人の特徴を模している有様だ。でも唯一、顔だけにはかすり傷一つも無かったのは幸いなのか……?


「これは……」


 あまりに自分が想像していたよりひどい姿に言葉が詰まる。


「……ササミから聞いたの、怪我をしたって。それも結構ひどいって聞いて……」


 どうやら、同居人のササミは僕が意識を失っている間にこの部屋を訪れたのだろう。そしてこの姿を見たササミの口からマリーへと伝わった。彼女はそれを聞いて、心配してここまで走ってきてくれたのだと、この時初めて理解し、それと同時に心配してくれた事に感謝した。そして、どうにかその心配を取り除こうとした。


「ごめん……心配させちゃって。でも、こんなひどい格好してるけど、見た目だけで案外大丈夫だから。ねっ、カルファさん?」


 不安げな表情が消えないマリーを見て、フラつきそうになる足元を必死に堪え、「ああ、大丈夫」その一言を望んで、咄嗟にカルファさんへと助けを求めた。が、期待した言葉とは違うフレーズが彼の口から出てくる。


「いや……まだ横になってたほうが……いいんじゃ……? 」


 期待している言葉とは違うと感じ取ると即座に「マリーを安心させるために協力してくれー」と必死に自分の中にある意思をカルファさんに視線で伝えようと試みる。あまり目立たないようにマリーからカルファさんへと視線を行き来させ、なんとか気づいてくれと思いながら願った。

すると、何かを感じ取ってくれたのか、カルファさんは、ほとんど言い終わっているだろう言葉の語尾を濁した。


「んっ! まあ、確かに大げさな手当てかもしれないな。このように歩けているわけだし……」


 自分の心中が伝わったらしく、カルファさんは握り拳に咳払いをすると先ほどの言葉を意味合いが正反対の言葉に置き換えた。

 ありがとう、カルファさん。そう言葉には出さないが心で呟いた。これでマリーの心配を少しでも取り除けただろうか、そう思い彼女の方に顔を向けるとどこか雲行きを怪しむような目で睨まれていた。

その視線の意味がカルファさんへの以心伝心させる事に成功した時の行動が不自然だった為なのか、それともまだ単純に心配をしてくれてのことなのかが分からないでいると、彼女は眉間を中央に寄せて、何か考えを巡らせているような表情で近づき僕の手を握った。人肌の温もりを感じさせる彼女の両手は優しく僕の右手を包み、冷めきった右手を次第に温める。同時に頰と耳も熱くした。が、それも束の間の時間。温かみのある両手で僕の頭に触れると彼女の口から的はずれな言葉が飛び出した。


「本当に大丈夫? あんまり見た目わからないけど、頭も強く打ったの? 」


 どうやら、僕の視線移動に違和感を感じたマリーは怪我のせいで頭までおかしくなったと判断したらしく、違う意味で余計に心配させることになってしまった。


「いや、この通り大丈夫!…………いてっ!」


 彼女の心配を振り払う為に最後の一押しと、体に残る痛みを忘れ、その場でくるりと氷上で回るフィギュアスケートのように一回転して見せたのだが、調子に乗り、続けてもう一回転しようとした所でつま先から態勢を崩した。木で作られ、装飾など一切なくシンプルに開け閉めする扉だけで、中には仕事着のスーツが予備も含め何着か掛けてあるクローゼットへともたれかかるように接触してしまう。


「はは……だ、大丈夫。ちょっとバランス崩しただけだから」


「大丈夫って、そんなわけないでしょ! ふらふらしてるじゃない。とりあえず、ベッドに横になりなさい」


 マリーに言われ、下を見ると足元は自分でも制御できず、ゆらゆらと不規則なステップを踏んでいた。


「確かにもう少し、横になってたほうがいい」


 カルファさんもマリーと同意見らしく、僕をベッドまで運ぼうとする。


「ああ、大丈夫。自分で歩けるよ。確かに2人の言うとおり、もう少し横になってたほうがいいかも……」


 ベッドに腰を下ろすと、ゆっくり息を吐いた。そして、マリーを安心させる作戦は自分の手によって崩壊したことに後悔した。

回転なんてやるんじゃなかった。今更、嘆いたって仕方ない、そう思いマリーの顔を見るとなぜか口元を緩め、少しばかりの笑みを浮かべていた。マリー安心作戦は失敗に終わったはず……なのに先ほどまでの不安げな表情が見てるこちらも微笑ましくなるような優しい笑顔へと上書きされていた。


「なんで笑ってるの?」


「それは……ひどいって聞いてたから、あんな変な動きを見て、それほどでもないってわかったから、なんだかホッとしちゃって……それに無事でよかった」


「そうだよ! きっと、ササミが大げさに言ったんだろ。全く、帰ってきたら文句言っといてやるよ。大げさだって」


 部屋には先ほどまでなかった笑い声が響く。マリーの安心した顔を見て、ホッと息を吐いた。

 やがて、カルファさんは用事でも思い出したのだろう、膝に手を置くと下ろしていた腰を持ち上げ、立ち上がった。


「俺はそろそろ仕事に戻るよ。安静にしとけよ。それでは私はこれで失礼します、マリー様」


 ドアノブに手をかけて、扉を開けようとした所で、ふと降ってきた疑問を口にした。


「そういえば、仕事初日にカルファさんの部屋を初めて訪ねた時……あの時、僕の見張りをしていたヒルデと顔を合わせた時、なんで彼女に対してまるで初めて会った人のようによそよそしかったんですか? お互いに知り合いだったのなら変だなーと思って」


ヒルデのことだ、どうせ仕事中だからとか、そんな理由なのだろうと予想は出来るがカルファさんに関しては、他人のように接する理由が浮かばないでいた。


「ああ、それはその時彼女がヒルデだって事に気づいてなかったからだよ。俺が知っていた頃とは見た目が変わり、雰囲気も変わってた。それで気づくのに遅れたんだ。何しろ、あの後から会わなくなってしまったからな…………じゃあ、しっかり考えて答えを出すんだぞ」


 静かな空間では鈍く、扉の閉まる音が鼓動する心臓から全身に伝わった。

 わからないほどに変わってた……。なんだか何でもない理由に納得して、「そっか……」と1人呟いていた。


「……ヒルデ……そういえばヒルデはどこにいるの?」


 先ほどまでカルファさんが座っていたソファーにマリーは膝丈ぐらいまでのスカートを広がらないように折り込んで座っている。彼女のスカート姿は結構珍しい。ほとんどがショートパンツやズボンといった王女様に似つかない格好をしている。


「ちょっと色々あって……どこ行ったんだろう? 僕も知らなくて……」


 彼女はまだこの怪我の理由とヒルデが消えたことに繋がりがあるとは思っていないはずだ。出来れば、このまま知られずに済むのが理想的だ。とても仲の良い、とまでは言わないがこの1ヶ月マリーとヒルデを見てきて、彼女たちの仲が良くなってきている、そう感じていた僕は今回の件を知られたことによって、その仲が崩れてしまうのではないかと考えていた。ヒルデは僕と話す時とは違って、マリーの時は少し、顔に感情が出ていると思う。女性同士だからか、はたまた息が合ったのか、どちらかはわからないが出来ればこの先もその仲を保っていってほしい。そう思い、自分も知らないと首を傾けた。行き先は本当に知らないが、原因は知っていたのでなんだか嘘を付いている気分になり、少しモヤモヤとした物が胸のあたりに居すわった。


「本当に知らないの? 何か知ってるんじゃないの。それに怪我の理由も聞いてないし……ヒルデがいなくなった事と関係あるんじゃないの。この二つが重なった事が偶然にしては……何か隠してるんでしょ!」


 急にソファーから席を立ち、ベッドの背もたれに背中を預け、上体を起こして座っていた僕に詰め寄ってくる。右手、左手とベッドの上にある掛け布団に手をつく。両膝までベッドに乗せると四つん這いで這いずるように近ずいてくる。


「ストップ! ちょ、ちょっと、止まって」


 両腕を突き出し、掌をマリーの顔の前に持っていき、こちらに近づこうとするのを阻止する。ほんの数分前まで不安な表情を浮かべていたのに、もう僕が怪我人だという事を忘れたのだろうかと思うぐらいな勢いで近づいてきていた。マリーがベッドを四つん這いで近づく事で軋むベッドの振動による体の痛みよりも、ドクドクと心臓が脈打つのが速くなった事による痛みの方が気になっていた。顔がやけに熱かった。

 彼女は「わかった」そう言って、ベッドのふちに小さなお尻を落として両足を外に投げ出した。首を振り向かせ、彼女のエメラルド色の瞳は僕の真っ黒な瞳を捉えていた。


「で、話してくれるの?」


 どうやら、話さずに切り抜けるのは無理なようだ。何かしら根拠のある事を話さないと納得してくれないだろう。なので、怪我の原因を話すことにした。今日の昼休み中に修練所を見学、ちょっとした手合わせ、そこで怪我をしてしまった事を手合わせの相手に関しては特に触れないようにして。



「ふーん」と納得したのかしてないのかわからない声を出すと首を縦に振って頷いた。


「そっか、そんな事があったんだ。でも、それにしては結構な怪我に見えるけど相手は手加減してくれなかったの?」


「あ、あー……それは僕が下手すぎて余計に怪我したって感じかな……」


「なるほど。拓真は結構どんくさいから、気をつけないとその内もっとひどい事になるわよ」


 彼女の勘の良さにドキッとしたが、良い感じに返答する事ができたらしく、信じてくれたらしい。自分に対して「ナイス!」と密かに褒め、心の中で拳を高々と上げた。だが、マリーが僕の事をどんくさい奴だという認識を持つことを知って、反対に肩を落とした。


「そうだね。気をつけるよ。それより夕食はいいの? もうすぐだけど……」


 気づくと窓を通して外から入ってくる光は太陽から月へと変わっていた。時計の針は19時半を越えようとしていた。


「そうね…………今日はここで夕食を食べるわ。拓真もここで食べれた方が楽でしょ」


「まあ、そうだけど……」


 そう言って、僕の意見を聞き終える前に急いで部屋を出て行ってしまった。まるで、子供が何かにワクワクして居ても立っても居られないというように彼女は扉を開けっ放しにして駆けていった。



 1人残された僕は彼女の妹のシュリーと勉強する際に使うすすけた書籍を手に取り読んでいた。タイトルは『ケトスという国』だ。僕が目覚めた時に背もたれにしていた樹がケトスのシンボルだとか、作物が豊富だとか、色々と書かれていて読んでいると、この国の事が少しでもしれた気分になれる。


 分針が50を指し示すと扉の開いた隙間からいい匂いが漂ってきていた。数秒後、トレーに様々な料理を乗せたマリーがやってきた。さらに、その後ろから見覚えのある小柄でうるさい男も部屋にやってきた。というより、彼の部屋でもある。


「なんだ、元気そうじゃん。てっきり、寝たきりかと思ってた」


 口角を横に広げ、ニシシと笑ったササミは赤黒いシミの付いたエプロンを身につけ、濡れた手で扉を閉めた。彼は料理人……の見習いだ。その途中で抜け出してきたのだろうか?


「なんだそのシミ?」


「ワインだよ。ちょっとこぼしちゃってさ」


「血みたいに見えて不気味だぞ。その手に包丁でも持ったら、余計に危ない奴だ」


 僕とササミは目を見合わせるとプハッと息を吐き出して、お互い笑った。しかし、同時に下腹部に痛みが少し走った。


「ちょっと、料理が冷めるわ。さっ、早く食べましょ。座って座って」


 マリーは手に持ったトレーをベッドとソファーのちょうど中間にある脚の低い木製のテーブルの上に置いた。彼女の号令によってテーブルを囲むようにしてササミと僕はひんやりとした地べたに尻を落とした。さすがにと思い、マリーにはベッドに転がっているぶ厚い布で覆われたクッションを差し出し、その上に座るように言った。


「いただきます」と合掌して、目の前に並ぶ湯気の昇る料理にスプーンを入れた。ササミもマリーも同じようにして皿に注がれたスープにスプーンを入れた。黄金色こがねいろをしたスープはほんのりと玉ねぎの風味がして、何もなかった胃を優しく温めてくれる。他にもテーブルには色とりどりの野菜が盛られたサラダ、こんがりと焼かれた固めのパン、ソテーしていい具合に茶色く色づけられた鶏肉が並ぶ。


「おいしい〜。でも、良かったの? こんな所で食べてて」


 焼かれたパンを一口サイズにちぎるとスープに浸して口へと運ぶ。


「いいのよ、たまには。それにしても普段と違う感じでなんか楽しいわね!」


 にこやかにして料理を口にするマリーはこの3人の中で一番この時間を楽しんでいるように見える。


「そうだね。確かにいつもと違って、変な感じだ。そういえば、今頃だけどなんでササミも居るんだっけ? 仕事中じゃないの」


「それはマリー様が厨房に来られた際にその場に俺も居て、話が聞こえてきたんだ。そしたら俺の部屋でもあるこの部屋で飯を食べるって聞いて、自分も行きたいです!って、料理長とマリー様にお願いしたんだ。最初は料理長も渋ってたんだけど、マリー様が説得して下さって、今ここに居るってわけだ。なので、ありがとうございます、マリー様」


「別にいいのよ。人が多い方が楽しいし、何より貴方の部屋でもあるのだから、当然よ」


 時計の針は刻々と進んでいき、マリー達が料理を運んできて早くも一時間が経っていた。騎士団に誘われた話やら、いつまで経ってもササミが料理人の見習いを卒業できない話やら他にも色々話をして楽しい時間は過ぎていった。マリーとササミには僕が騎士団に誘われた話は冗談に聞こえたらしく、信じてもらうのに少しばかり掛かった。

騎士団についてはどうするのかと尋ねられたが、もう少し考えると返し、決まったら必ず報告すると約束した。


 テーブルに並べられた皿の上が空っぽになり、少しして夕食会はお開きになった。「また」そう言ってマリーを扉まで見送った。それからササミはテーブルに残った重ねられた食器をトレーに乗せ、両手で持つと「仕事に戻る」と言って、一人僕を部屋に残した。


 この世界に来た初日のように忙しい1日だった。だが、2人の訪問はとてもいい気分転換になった。同い年という事もあり、とても話しやすい2人だ。友達というのはこういう関係なのだろう。

 忘れていた痛みが徐々に戻ってきたので、さっさと寝ることにした。時刻は21時過ぎ、電気を落とすと真っ暗になるはずの部屋は窓から漏れる月明かりによって微かに照らされていた。

お読み頂き、ありがとうございました。


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