2–8:過去の後悔
ソファーに腰を下ろすカルファは片方の手でもう片方の自分の拳を覆うようにして、前かがみに話を始めた。
「まずこの話は少し長くなるかもしれないが、我慢して聞いてほしい。俺が今から話す話に出てくるのはおおよそ3人だ。一人目は俺で、もう一人はさっきお前に話した中でも出てきたノットという男の子。そして、最後はお前もよく知る人物だ」
僕が知る人物? 僕がこの城に来て、そう時間は経っていないが城に住む人は大勢だ。でも、よく知る人物ということはそれなりに親しくしている人物だろう。知った顔ぐらいなら多いだろうが、親しいとなるとそう多くはない。正直、心当たりがなく、自分が親しくしている人の名前を頭の中で呟く。ササミ、クルスさん、シルヴァさん、ガウェインさん、まさかマリー? だが、頭の中にあった名前はカルファさんが口にしたものとはどれ一つ一致しなかった。
「この1ヶ月、お前のことを常に見張っていたヒルデだ。彼女も少し関わっているんだ」
完全に不意打ちをされたような気分だった。
だが、何で思い浮かばなかったんだ。この城に来てから、一番そばにいたのに。親しい、そんな言葉が自分の中で自然とヒルデという選択肢を外してしまっていたのかもしれない。
「何でヒルデが出てくるんですか?」
すると、カルファさんはゆっくりと視線を窓の方へと移動させ、昔のある出来事を話し始めた。時刻は16時ちょっと前。未だ外では冷たい雨が音を奏でていた。
話は今から4年前へと遡る。どうやら、カルファさんがこの城で働き始めて3年が経ち、仕事にも慣れてきた頃、後輩の指導係を初めて任されることになったらしい。
「その後輩が見習いのノットだ。確か今のお前と同い年だったはずだ。俺も教えられる立場から教える立場になった瞬間だった」
カルファさんが言うにはノットは誰にでも笑顔を絶やさず、身長はそれほど高くなくどちらかと言うと小さく、サラサラとした金色の髪が特徴的な男の子だったと。
「同じ時にもう一人見習いとして入った者がいて、指導係は俺ではなかったが、その子がヒルデだったんだ。今とは違い、表情豊かな子だった。気が強いのは変わらないが。そして、ノットとヒルデは仲の良い幼馴染だったんだ」
この話に出てくる3人の繋がりが早くもわかり、より一層、僕はカルファさんの話に聞き入った。
ーー指導係に任命された俺は、指導を始めた頃のノットに対して、まだ自分が若く、慣れないということもあり、特に仕事以外のことを話すこともなく無愛想にしていた。俺はこの時22歳、ノットは16歳だな。
だが、ある程度時間が経ち、お互いに慣れというのが出てくると次第にノットとの会話は増えていった。3ヶ月も経つと、一緒に街に飯を食べに行ったり、買い物に行ったりと仕事だけでなく、プライベートの付き合いも増えていった。まあ、ノットのことを兄弟のいない俺は勝手に弟のように感じていたよ。
仕事を教え、プライベートでも一緒に行動することが多くなっていた。そんな生活が約半年ぐらい続いた。そして、ヒルデとノットは下僕の見習いを終えて、正式に下僕として認められたんだ。
指導係の任は終わったしまったが、仕事仲間・友人として、その後も付き合いは続いた。そして同時にノットとの付き合いの中で幼馴染のヒルデとも接する機会が多かった。3人で出かけたり、飯を食べたりな。
仲の良い彼らは、よく二人でつるむとは言葉が悪いかもしれないが、行動を共にしていた。休憩の時なんかに二人で遊んでいるのをよく見かけた。そんな何気ない二人の姿を見ていて、ある時ノットに問いかけてみたんだ、“お前ヒルデのことが好きなのか”って。そしたら、あいつ顔真っ赤にして、“何で知ってるんだ”って言ったんだ。自白をしたようなもんだろう……………っと話が逸れてしまった。
続きだが、そんなある日ノットから思わぬ言葉が飛んできたんだ。“下僕を辞める”そう言ったんだ。開いた口が塞がらなかったよ。正直それだけではよく分からず、“何で?” 理由を聞くとヒルデと一緒に騎士団に入団しないかという提案された、そう言ったんだ。休憩時間に庭でよくしていたチャンバラのように棒で打ち合う遊びをしているのがグレイル騎士団の現騎士団長のガウェインの目に留まったらしい。
それを聞いた俺は “良いんじゃないか” と彼の考えに反対することなく、騎士団入団に賛同したんだ。そして、ノットとヒルデは下僕を辞めて騎士団に入団したよ。それもあって、それまでのようにはいかずノットとの交流は減っていった。
だけど、入団して6ヶ月ぐらいかな? 久しぶりにノットと街まで飯を食べに行くことなったんだ。そしたら、飯を食べている時にぼそっと愚痴をこぼすように言ったんだ “騎士団って今からでも辞めれるのかな……?” って。
俺はその時ちゃんと話を聞いてもやらず、軽く冗談を交えて “まだ入ったばかりじゃないか” と受け流してしまったんだ。そして、楽しい雑談を交えながらの食事は終わり、何事もなく俺たちは城に戻ったんだ。
だけど、俺はこの日の事を今でも悔いているよ。何でもっと耳を傾けてやらなかったんだって、よく観察してればわかったはずなんだ。あいつが悩んでいることに。
食事に行った日から6日が経った日、ちょうど今みたいなどんよりとした天気だった。この日ノットは動かぬ遺体となって城に帰ってきたんだ。
俺は何かの間違い、冷やかしだろ、そう思った。でも、色白く冷たくなっているノットの頰を触れてわかったんだ。間違いなんかじゃない、現実に今起こっていることなんだ。本当に死んでしまったんだって。
兵士たちによって城に運ばれてきた遺体は鎧を身に着けていたにも関わらず、心臓を避けて右肺の辺りを何かで貫かれていたんだ。
俺は兵士たちに聞いたよ、何があったのか。すると、兵士たちは口を揃えて言ったんだ “狼に殺されたんだ” “運が悪かった”とね。
運が悪かったって何だよ……気がつけば涙が止めどなく自分の頰を流れていた。同時に最後に一緒に食事をした時の事を思い出したんだ。あいつの言葉が頭の中でぐるぐると回っていた。
ちゃんと話を聞いてやればよかった。あいつは辞めようか悩んでいたんだ、気持ちを聞いてやれば。それに気づかず、“まだ入ったばかりじゃないか” なんて簡単に流してしまった。それに入団する際も、もっと話し合いをするべきだったんだーー
「だから、拓真。お前にはちゃんと考えてどうするか決めてほしい。悔いのないように。その為に俺はお前の相談に乗りたい。でも正直、騎士団には入団してほしくない。それが本音だ。命を危険にさらしてほしくない。ノットのようになってほしくないんだ!」
話は終わり、カルファさんの言いたいことは大体わかった。安易に騎士団に入団するべきではない、そう言いたんだと思う。危険が付きまとうと。
もちろん、ノットの事は可哀想に思う。でも、僕が同じようになるとは決まっているわけじゃない。でも、入団するかしないかは時間を掛けて考えるべきものだと思う。
「カルファさんの話はわかりました。言いたいこともおおよそ。なんだかすみません。昔の辛い過去の話をさせてしまって」
話を終えたカルファさんは長々と話していたという事もあり、額が少し汗ばみ、顔は疲れ切っているようだ。それに手が小刻みに震えていた。
「いや、いいんだ。俺が勝手に話し始めたことだ。お前が後悔のしない選択をしてほしいと思ってな」
「ありがとうございます。よく考えてみます。何かあれば相談にも行きますから」
気づくと外は雨が止んでおり、雲の隙間から太陽が少し顔をのぞかせ、綺麗とまでいかないが、地平線近くにある夕焼けからの光が窓に反射して眩しい。
沈んでいく太陽を見ていると、扉を叩く音が聞こえ、次に走ってやってきたのだろうか、息を途切れ途切れにしたマリーの不安げな声が聞こえてきた。
お読み頂き、ありがとうございました。
今回、ほとんどカルファの語りを詰め込み過ぎて内容が入ってこない、さらに読みにくくて申し訳ないです。いつも読みにくいと思いますが……(笑)
書いていると視点があっちやこっちに移動してしまって、わけがわからないところが多数だと思いますが、その辺は書いていくうちにわかっていければなと思っています。
今回はカルファの視点での話ですが、また別の機会に違った視点で詳しく書きますので、お楽しみに。
これからも宜しくお願いします。




