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現実より、異世界生活⁉︎  作者: ちゃぐ
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2–5:必死の攻防

「修練所の方がやけに騒がしいな。何かやっているのか?」


 外から聞こえてくる男たちの声が3階に居るカルファの耳にまで入ってきていた。

 気になって、今いる客室の窓を全開にして修練所の方を見る。そこにはボロボロになりながらも剣を握る拓真の姿があった。しかも、相手はずっと彼と一緒にいたヒルデではないか。


「何やってんだ、あいつ!」


 一体、何が起きているのかわからないでいた。カルファは客室の掃除を一時中断し、階段を駆け下り、急いで修練所へと走った。彼らが何の理由があってをあんなことをしていようと関係ない。止めなければいけない。自分にはその役目が、拓真の指導係として責任があるはずだから。


      ◆◆◆


(当たらない……)


 つい先ほどまで瀕死状態だった奴の動きじゃない。でも、手を抜いて攻撃しているのが理由で当たらないなんてことがあるはずない。何てったって相手は剣すら握ったことのない初心者だ。しかし、ある時から私の攻撃が避けられるようになっていった。

 全てが避けられるわけではない。避けられないと判断すると剣で防がれる。次第にその正確さが増して、相手に致命傷となる攻撃が当たらないでいた。

 だからと言って本気を出してはいけない。そんなこと重々承知している。こんな初心者に訓練を受け、騎士の称号まで貰った者が本気を出していいはずがない。そもそも、勝ち負けじゃない。自分が彼のことを認めるか認めないか、それが今回の手合わせの目的だ。

 正直、答えは決まっていた。それなら、ここで手合わせを終わらせておくべきなのかもしれない。しかし、彼の技量が上がっていく様を見て、自分の中にいる好奇心が顔を覗かせ、やがて、それに支配された。


「面白い」


 ヒルデは拓真の上達していく様を見て、ニヤリと口元を釣り上げ、不気味に笑みを浮かべた。



 ヒルデの攻撃は女性とは思えないほどに一撃が重い。それに彼女は剣を両手で持たず、片手で振るう。木剣は木だと言っても重さ3キロはある。男の僕でも片手で持つことは出来るが、振るうとなると腕力に疲れを感じている今では剣先まで力が乗らず、相手の剣と交わるだけで弾かれてしまうだろう。それに遠心力で肩が外れそうだ。たがら、剣は両手でしっかりと握り、ヒルデの猛攻を必死に防ぐ。近づいて戦えば、先ほどのような吹っ飛ばされるほどの勢いのついた攻撃が飛んでくることはなかった。


 体がふらつく中でヒルデの連打を必死に防ぐ。攻撃する隙がない程に彼女は色々なパターンで攻撃を仕掛けてくる。それらを自分の動体視力と反射神経を頼りに攻撃を受け流すように防いだり、躱したりしていると次第に彼女の動きに慣れてきていた。

 しかし、攻撃する隙がなく、防戦一方で次第に体力も削られ、ふらふらの体も立っているのが限界に近づいていた。そろそろ防御から攻撃へと切り替え、一撃を与えに行かないと、このまま体力切れで動けなくなってそこで試合終了だ。悔いの残る終わり方になってしまう。


「やるか」


 決意を固め、右、左とやってくる攻撃を防ぎつつ、無理やりにと攻撃に転じた。剣でヒルデの攻撃を後方へと受け流した直後、全身に力を入れ、肩で相手の上半身にタックルを食らわせた。上半身、主に胸部を守る軽鎧の鉄板が結構痛いがそれを堪える。

 タックルを食らったヒルデは後ろへと押されたことによって、一瞬よろけるようにして態勢を少し崩す。


 ここだ! 拓真はその隙を逃すことなく、両手の剣を力一杯に縦に振るう。


「はぁぁぁぁっ!」


 ブンっと風を斬る音が聞こえた一振りはこれまでで一番力を込めた一撃だった。遠心力によって、肩が外れる危険も気にせず、振るう。どのみち、この後の試合を続ける力は自分に残っていないと判断し、すべての力をこの一撃へと使った。


「面白い」


 しかし、その一撃は不気味に笑うヒルデによって受け止められてしまった。

 態勢を崩したはずの彼女は拓真より低い位置で膝が着くか着かないかのギリギリの態勢で二本の剣をX《交差》にして、渾身の一撃を止める。

 さっきまで木剣一本しか持っていなかったはずなのに、それを右手に持ち、銀色に輝き、柄には何やら装飾が施されている細身で先端が鋭く尖ったレイピアを左手に握っている。見覚えのあるそのレイピアはヒルデが短剣と共に見張りの間、常に携帯していた物だ。この手合わせの間も鞘に収められ腰に差していた。使う様子が無かったが、ここに来て鞘から抜き取り、当然のようにそれで防いでいる。


「えっ! それ使うの?」


 振り絞った一撃がヒルデの二刀流によって防がれている最中に驚きのあまり、思わず力の抜けた声が出る。  これって、ありなの? 拓真の心の中で疑問の声が響いていた。


「その手合わせはもう終わりだ。やめろ、ヒルデ!」


 離れていたガウェインは深刻な顔で急速に戦っている二人の元へと駆ける。

 

 さっきまであんなに晴天だったはずの空は、いつしかねずみ色に染まり、雲行きが怪しい。そのためか、空を飛んでいた鳥たちは羽音を鳴らしながら慌てふためいている。


 二人の交じり合う剣と剣はガタガタと音をたて、震えている。やがて、渾身の一撃を放った拓真の腕の力は限界を迎えた。刹那、ヒルデの手に持つ二本の剣にのしかかっていた剣は僕の頭上に浮いていた。それと同時に身がすくむような殺気が拓真の全身を覆った。


 彼女から送られてくる殺気をもろに受けた拓真はその場で膝を着いて動けなくなってしまった。後ろには不敵に微笑むヒルデによって弾き飛ばされ、宙を舞った剣が地面へと転がっている。剣を取らなきゃ、そうは思っても体が動かなかった。病院で目を覚ました時と同じように。


「やばい、このままだと本当に殺られる」そう、僕を見下ろすようにして立つヒルデから感じさせられた。


 一瞬太陽が顔を出すと、その逆光によってヒルデの全身が影に覆われた。そして、息づかいを荒くして、彼女は口元を動かした。それは「合格よ」と聞こえた。

 その意味はすぐに騎士団に入団することを認めるものだと推測できたが、死ねばそんなことはもう関係なかった。それに彼女の行動と言葉の食い違いに訳がわからなかった。


 二本の材質の違う剣が拓真の頭上めがけて、ヒルデの腕から振り落とされたその攻撃は拓真にはどうする事もできず、目を閉じ、ただ受け入れるしかなかった。死を……。


 だが、「バサッ」という音が聞こえたと同時に「ガキーン」という金属音がこだました。

お読み頂き、ありがとうございました。

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