1–27:本当に雑貨屋?
マリーが買ってきてくれた骨付き肉を無事に食べ終え、大通りをさらに進んでいく。
骨付き肉は冷めてはいたが、味の方は絶品だった。心残りがあるとすれば、熱々の状態の物を食べたかったということぐらいだが、まあ仕方ない。
マリーとヒルデもゆっくりと味わうように食べていた。その二人の食べ方にはどこか品のようなものを感じ、おしとやかというのか、この賑やかな街の中では違和感さえ感じてしまいそうだった。一方の自分はというと、ものの数秒で食べ尽くしてしまった。骨に付いている肉片も綺麗に残さず食べ、残った骨をくずかごに放り投げた。
この大通りには本当に色々なお店が勢ぞろいだ。本屋に武具屋、それに銭湯、床屋なんてのもあった。その中で武具屋に入ってみたいなと心の中で思ったが、そこは軽く外から眺めるだけで、外から少し見えたのは店の前に展示してあった大きくそびえ立つ鎧ぐらいだ。そして、このときヒルデも武具屋の方に注目しているのを僕は見逃さなかった。彼女の瞳は武器や防具を目にすると、彼女は気づいていないだろうが目の色を変えている。
マリーの案内で、いつも彼女が利用している、いくつかのお店の店主と挨拶を交わしながら、残り少しという大通りの終わりが見えてきたところで、また一つ彼女が常連になっているという店に足を踏み入れた。
「最後にここに入りましょ」
その店は他の並んでいる店とは一回り古びた外見をしており、外には小さく『まほまほ雑貨』と今にも消えそうな文字で書かれていた。初めて来た僕とおそらくヒルデもそうだと思うが、恐る恐る店の中に入った。
「こんばんはー、だれかいますか?」
マリーは店に入ると姿の見えない店主に挨拶した。返答はない。
店内を見渡してみると、用途のわからない物が多数並んでいた。不気味な壺やボロボロの掃除するには適さない箒。そして、なぜだか人間の頭蓋骨と思しき物も棚の上に粗末に置かれている。こんな具合に他にもわけのわからない物がたくさん乱雑に置かれている。
「マリー、ここって何屋さんなの?」
「ここは……」
彼女の答えを待っていると途中で途切れ、聞こえなくなった。いや、聞こえないというより会話をやめたのだ。さっきまで前方を歩いていた彼女の姿は一瞬、目を離した隙に消えてしまっていた。
店の中は無秩序に棚やらで区切られているのだが、棚も2メートル近くあるものばかりで反対側の通路が見えないでいた。
「マリー、どこー?」
僕とヒルデは消えたマリーを探していた。それほど広くはないはずなのだが、滅茶苦茶に置かれている商品たちが邪魔をしてか、なかなか見つからない。そもそも、こちらの声は届いているのだろうか。
マリーを探しながら店内を見て回ると、今日マリーが見せてくれた魔法の水晶玉とそっくりな物が多数並んでいるショーケースを見つけた。色とりどりの水晶が並び、鮮やかな光を放っている。
「綺麗だな〜」
そんな呑気なこと口にしながら、ショーケースを眺めていると「こっち〜」と、かすかに聞こえてきた。その声の発生源の方へと奥へ奥へと店の中に入っていく。奥に進むにつれ、思っていたよりも遥かに大きな店だということがわかった。
声の出所に着くと、マリーが何もなかったかのように店に並ぶ商品を物色していた。
「ちょっと、マリー! 急にいなくならないでよ」
「えっ、 私は別にそんなつもりなかったけど……おかしいな?」
彼女はあごに手をやり、考え込んでいる。別にとぼけているわけではなさそうだ。まあ、見つかったからいっか。
「そうだ! 彼女はシンシア。この店の店主の娘でここで働いてるの」
彼女は横に立つ、帽子を被った少女を紹介してくれた。
「どもです! 紹介されたとおり、シンシアって言います。よろしく」
彼女は手に怪しい杖を持ち、ペン回しのように杖を乱暴に回している。
「よろしく、拓真です。こっちは見張りのヒルデ」
「はじめまして、ヒルデと言います」
「マリー、今日は見張りが付いて来てるんだね」
その言葉にマリーは即座に否定する。
「違うわよ。見張りはこいつのためよ」
こいつとは僕のことだ。扱いが雑だ。
「なんだ。じゃあ、拓真は何かやらかしたのか?」
「うーん、あー……」
説明するのがめんどくさい。別に今知り合った、特になんの関係もない人に説明するべきなのか、迷っているとマリーが勝手に話してしまった。
「——っていうことのなの」
「なるほどね……っていうことは今日は案内で店に来たっと、そういう訳ね」
「そうなの。魔法について色々と教えるならここかなって。だから——」
僕は彼女たちが会話しているのを軽く耳に入れながら、店に並んでいる物を物色していた。色々並ぶなかで、気になっていたボロボロの箒にまたがってみた。魔法といえば空飛ぶ箒が一般的だ。だから、勝手に頭のなかで、この箒で空を飛べるのではと考えていた。いつしか、彼女たちの会話は僕の耳には届いておらず、手にしている箒に意識が集中していた。彼女たちも会話に夢中でこちらに目を向けていない。唯一、見張りのヒルデだけが僕の方を見ていたが、何か言ってくるわけでもない。
またがった箒から地面に付いている足を勢いよくジャンプして地面から離す。しかし、自分が期待していたことにはならず、足が地面へと着地する。その勢いで下に溜まっていたホコリがまきあがる。ただそれだけだった。
(そんな簡単なわけないよな……)
そうは言いながらも、挑戦を辞めずに6回目ぐらいだろうか、少し浮いたような感覚が体に残ったのを感じた。そして、7回目の挑戦でそれは見事達成された。
「う、浮いてる。宙に浮いてる…………飛んでる!」
よろめきながらも空を飛ぶことができた。魔法って凄い!
飛んだことに喜んだ僕の声を聞き、彼女たちは気づいた。ヒルデは顔色ひとつ変えず、眺めている。
「おい! 何やってる、早く降りろ、それは【暴れ箒】だぞ! 今、普通に飛んでいられているのが不思議なくらいだ」
シンシアは声を大にしている。
「わかったよ。今、降りる…………そういえば、どうやって降りるの?」
「そんなことも知らねえのに乗ったのかよ。ったく、それは——」
すると、今さっきまで大人しかった箒が急に暴れ牛のように乱舞し始めた。
「ちょっ……っと……やばい……っ」
必死に振り落とされないようにしがみつくが、店の中をものすごい速さで飛び回り、まるでロデオのようだ。店の中の棚で区切られた細い廊下をくねくねと曲がりながら飛び、目が回りそうだ。ただ、奇跡的にも店の商品に一切触れることなく飛び回っている。
「誰か……助けて〜」
マリーは笑いながら手を振っているのが、かすかに見えた。助けにはならなさそうだ。シンシアはもうどうにもできないと言わんばかりに頭を振っている。ヒルデはというと先ほどと表情を変えていない。
箒はいつ止まるのか、握力の方も限界にきて、今にも手を離しそうだ。
店を何周ぐらいしただろうか。わからないが、やっとの事で箒が止まってくれた。しかし、止まり方は優しくはなかった。店の入り口まで猛スピードで突っ込んでいき、扉を破って外にでてしまうのではないかと思ったところで急ブレーキをかけられ前方へと吹っ飛ばされてしまった。見事、扉に背中から打ちつけられ息が一瞬できなくなってしまった。
「や、やっと、止まったあ〜」
目がぐるぐると回っており、視界が安定しない。
やっとの事で視界が安定するとマリー達が倒れ込んでいる僕を覗き込んでいた。
「まったく、何やってんのよ!」とマリー。
「勘弁してくれよ。まあ、店は無事だから良かったものの」とシンシア。
「——迷惑かけてばっかりですね……」と聞こえるか聞こえないぐらいにヒルデが呟く。
「はは、申し訳ない……」と僕は息が苦しいなか声を絞り出した。
少し時間が経ち、落ち着きを取り戻すと今夜はもう城に戻ることになった。魔法についてまだ何も教えてもらっていないが、自分が起こしたちょっとした騒動のせいもあり、みんなで話し合った結果、後日また来るということになって店を後にした。
あんな騒動起こしたにも関わらず、シンシアは僕の乗った箒を地面から拾い上げ、笑って許してくれた。
「あんたが箒に乗って飛んだ時は焦ったけど、久しぶりに面白いもの見せてもらったよ。店も無事だから気にしないで、また来なよ」
そう言ってくれた。
今度、店に訪れる時は手みやげの一つでも持って行こう。何がいいだろうか、街の大通りの来た道を戻りながら、そんなことを考えていた。
寒空の下、綺麗な満月を横目に城へと戻った。
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