1−26:街案内
それから少し歩くと賑やかな街並みが視界に入ってきた。ちょうどいい時間帯で人の数がとても多い。
この世界に来て、まだ二日目だが人がこんなにいるとは知らなかった。城から街まで少し離れており、その間には草原が広がっている。離れていると言っても、五分かそこらで着く。草原のわずかに舗装されている道を歩いて僕たちは街まで来た。マリーが言うには普段、街に出かける時は馬を使っていくため舗装されていようがされてなかろうが関係ないそうだ。
城付近に民家などは無く、用事がない者はわざわざ城まで来たりはしない。そのため城にしか居なかった僕はここまでの賑わいを見せている街に驚いた。
「さあ、案内ついでに楽しみましょ!」
この賑やかな街の雰囲気にマリーのテンションは自然と高くなっていた。
(案内がついでになって——まあ、いいか)
自分自身もこんな賑やかな景色を見て、どこか祭りに来た時みたいにワクワクしていた。
街に入ると色々な食べ物の匂いが漂っていた。露店やら飲み屋などが多数並んでいる。他にも多種多様な店という店が並んでいる。僕たちはそういう店がたくさん並んでいる大通りから進んでいくことにした。
この街の造りは店がたくさん並んでいる大通りが一本筋のように通っており、その両端に民家などがある路地になっている。大通りから一度、路地に入って行くとそこからいくつもの道が枝分かれのようになっており、何も知らない僕が一人で歩くとかなりの確率で迷子になってしまうだろうと簡単に予想ができる。
大通りを探索しながら歩いていると、ちらほらと城からやって来たと思われる騎士の格好をした集団とすれ違う。ちょうど夕食どきで、みんな街まで来て、お酒やご飯を楽しそうに飲んで、食べに来ているのだ。そんな所を見ていると匂いも相まってよだれが出そうになる。なぜなら、僕はまだ夕食を食べていない。お腹が「グゥ〜」と鳴る。しかし、この賑やかな場所ではそんな音はかき消され、気づく者はいない。
その一方で、マリーはというと一軒一軒、店の説明をしてくれている。
「ここが——食堂で、ここが衣服屋で——」
ありがたいことだ。だけど、今はお腹が減ってしまい、その話に集中できない。
「マリー、案内してくれて嬉しいんだけど、ちょっとお腹が減ってて……」
僕は頭の後ろをぽりぽりと掻きながら、申し訳ないと思いながらも彼女に提案した。
「どこかで休憩ついでに、ご飯食べない?」
すると、彼女は何を思ったのか急に駆け出した。僕とヒルデを置き去りにして。そうして走り出したマリーの姿がどんどんと小さくなっていく。小さくなっていく中で彼女の声がほんのわずかに聞こえた。
「ちょっと待ってて!」
そう聞こえた。その意図はわからなかったが、言葉の意味の通りに大通りのど真ん中……はさすがに人の通行の邪魔になるので隅の方に寄って、その近くにあった衣服専門店の中を店の外から眺めていた。
数分後、戻ってきた彼女の手には温かい何かが握られていた。
「それって……」
僕はその何かを指差し、言葉を詰まらせた。
「あんたがお腹が空いたって言うから買ってきたのよ」
その手に握られていた物は鼻を刺激し、僕のお腹は雷のように鳴っていた。そう、彼女が手にしている物とは食べ物だ。それは手で持って食べる、骨つきの肉の塊だった。肉からは湯気と共に香ばしく、スパイシーな匂いが放たれている。その大きさは優に20cmを超えている。まるで、小さな棍棒のようだ。
彼女はその肉の塊を僕と、それにヒルデにも手渡している。それとマリーも食べるらしく自分の計3本買ってきたらしい。言っておくが彼女は、ほんの数十分前に夕食を食べているのだ。だから、僕は少し驚きはしたものの、それより目の前にある肉に集中していた。
一方、ヒルデはというと少し困惑していた。マリーによって手渡されようとしている肉を見て、彼女はどうするべきか迷っている内にマリーから半ば強制的に肉を渡されていた。
ヒルデとマリーが持つ肉は僕が持っているものより一回り小さめの女性サイズと言った所か。
「ヒルデも食べなさい。あなたもお腹減ってるでしょ?」
「いえ、だいじょ……。いや、そうですね。有り難く、頂きます」
どうせ、ヒルデのことだ、断るだろう。そう思っていたので、びっくりして思わず声に出してしまった。
「えっ、食べるの!」
すると、その言葉を聞き逃さなかった彼女は冷たい声で言った。
「何か問題でも?」
ごもっともな返しだ。確かに普通に考えたら悪いのは僕だ。でも、彼女は今まで何を勧めても断っている姿を僕は見ている。実際、色々と僕自身が断られている。そういうことがあるからして声に出してしまったのは間違いだとは思うが、当然の考えではないだろうか。
「いや……問題ないです……はい」
色々と思うところはあったが、感情のこもっていない低い声で言われてしまうと、こちらはこう言わざるを得なかった。
「そうよ。ヒルデもお腹は減るわ。失礼じゃない」
マリーも横から入ってきて口だしする。わかってます、わかってますとも僕が悪いんです。マリーの言葉は流しながら、「はい」とだけ答えて、最後に「悪かった」と言ってこの場を収める。なぜだか、ヒルデに謝るべきで、彼女が怒るのなら分かるが、途中からマリーに誤っている形になっていた。
そんなわけのわからないやりとりを終え、やっとの事で手に持つ肉にありつけることになった。
もう、先ほどまで熱々だったはずの肉はすっかり冷めてしまっていた。
お読み頂き、ありがとうございました。
久しぶりの投稿です……。




