1–23:彼女の違う一面
目を覚ますと僕はふかふかのベッドの上に横になっていた。
「痛って……」
痛みが顔全体に広がっており、顔を触って、腫れていないか、血が出ていないかを確認した。どうやら大丈夫らしい。単に痛みがあるだけのようだ。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です……」
先生だと思う女性が僕に気付き、心配してくれている。しかし、当の本人のマリーは心配するどころか、まだ根に持っているらしい。ほんの少し、からかっただけなのに。
「あんたが悪いんだからね!」
僕を見て、ご機嫌ななめなようでそっぽを向く。
「ごめんってば〜! 僕が悪かったよ」
不機嫌なマリーに必死に謝り、なんとかその場で許してもらう事ができた。
「はい! では色々と終わったようなので勉強を始めたいと思います。拓真さんも無事なようですしね」
年上の女性は強く手のひらを叩き、彼女以外の僕を含めた三人に合図をした。
「そうね、始めましょ。よろしく先生!」
「お、お願いします」
「お願いします……」
マリー、僕、シュリーの順に先生に挨拶を終えると三十分遅れでの勉強が始まった。
この部屋に入って、すぐに気を失うことになったが、どうやらこの部屋は妹のシュリーの部屋らしい。どことなく幼さの残る部屋だ。そこら中に動物のぬいぐるみが置いてあったりして可愛らしい部屋だ。
しかし、娘の部屋に勝手に僕が入っていていいのだろうか? 今にも王妃が入ってくるのではないかと思ってしまう。だが、どうやら王妃にも一応、許可はもらっているとのことだった。それを聞いて安心して勉強に取り組める。
書くものと紙を渡され、最初は計算と文字の読み書き、基礎の勉強だった。
幼稚園の頃に少しはやっていたが本格的なのはもちろん初めてだ。
先生に教えてもらいながら何とか、少しずつでも分かるようになってきた。
シュリーは先生に出された問題をひたすらに解いている。マリーはというと勉強ではなく読書を楽しんでいる。時折、笑みを浮かべている。そして、たまに僕が解いている問題に口を挟む。一体、ここに何しに来ているんだか……。
しかし、こう見ると僕が一番勉強を教えてもらっていることになる。そして、先生との会話も必然的に多くなる。
「ここはどうするんですか?」
「ここはこれとこれを足すのよ。そうそう、出来てるわ」
先生はとても丁寧に教えてくれて、さらには優しい。最高の先生だ。
「シュリーちゃんはできた?」
先生が聞くとシュリーは首を縦に振ると解き終わった問題が並ぶ紙を先生に差し出した。
「よくできてる。次はこれね」
新しい問題を出され、それを受け取る。どうやら全問正解だったみたいだ。
そういえば、マリーが口を挟んでくることがなくなっていることに気付く。
彼女を見ると先ほど僕が横になっていたベッドで軽く寝息をたて、気持ちよさそうに眠っていた。
(ほんと、何しに来てるんだか……)
時間はあっという間に過ぎ、約束の二時間が経った。
僕は下僕の仕事に戻らないといけないので急いで準備をする。
「先生、今日はありがとうございました。明日もよろしくお願いします!」
「いえいえ、こちらこそよろしくね、拓真くん」
「はい、よろしくです!」
そして僕はこの部屋の主にも礼を言うことにした。
「シュリーちゃんもありがとね、勉強だけでなく部屋にも入れてもらっちゃって」
「別に……気にしないでください。私も一人より……いいから……」
いつも通りの目線外しだ。彼女は下を向いて話している。
「そっか、明日も一緒にがんばろうね」
彼女は一瞬僕のことを見て、小さく「うん」と頷いた。
一方、マリーはまだベッドで気持ちよさそうに眠っているので、そのまま起こさず、僕は部屋を出ることにした。
部屋を出ると急いでカルファさんのもとへと向かう。時間は十五時を少し過ぎたところだ。僕は一旦、自分の部屋に戻り、先ほど勉強に使ったものを置いて、とりあえず掃除をしていた大広間に向かった。しかし、その場にカルファさんの姿はなく、僕を四六時中監視しているヒルデに聞いてみるが彼女もわからないといった様子だ。
(ここで待ってるのも何だし、探しに行くか)
そうして、一階から探していくことにした。一階と言っても大広間だけではなく、部屋もいくつかある。その部屋の並びの反対側は外と面しており、暖かい太陽の光が城の中に入ってきており、春の穏やかな風も感じることができた。
その部屋の中を見て回るがカルファさんは見つからず、それだけでなく人影さえなかった。
(なかなか見つからないな〜)
部屋を出ると、反対側の少し外の……庭と言うべきか、そこへ出て大きく深呼吸をした。
「ふぅー」
とても気持ちのいい天気でこういう時は外で走り回りたい。
すると、隣にも建物があることに気づき、その周りに人影がたくさんあるのが見えた。
「何だろ……」
「あれは騎士団の修練所です」
少し間を空けて、後ろでヒルデが急に喋った。
「何で知ってるの?」
「あなたの見張りを任されるまで、私もあの場所で騎士として腕を磨いていました」
なるほど、確かにそうだ。
まだ、僕の見張りを始めて二日目だというのに彼女は修練所を見て、どこか懐かしそうにしている。
修練所の外では何やら訓練が行われているらしい。剣と剣が交わる音が少し離れたここまで聞こえてくる。
彼女は今も手に持っている鞘に収まっている短剣を強く握り締め、今にも訓練に参加したい・戦いたい、僕には彼女がそう思っているように見えた。
いつもの冷静な感じが消えて、どこか殺気立っているように感じた。僕は少し怖くなり、この場を離れることにした。
「行こう、ヒルデ」
彼女は反応し、いつもの冷静さを取り戻したように「はい」と一言つぶやいた。
僕自身、修練所を近くで見てみたいという思いもあったがここは堪えて、カルファさん探しを再開することにした。何しろ、探し始めて三十分が経とうとしていた。
(早く見つけなければ……)
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