1–21:勉強?
広間にやって来た、国王と王妃、王女が二人、計四人が大きな長机にしまわれている椅子にそれぞれ着席した。そのあとをこの城の全ての使用人を統率している執事のシルヴァさんがやって来て、国王様の右斜め後ろの方に落ち着いた。
シルヴァさんは国王様と軽く話をしており、さながら、主人と使用人という関係ではなく、友人のように感じられた。
王室の方たちが全員椅子に座ったのを確認するとカルファさんを除いた下僕の二人は広間から出て行ってしまい、カルファさんはというとその場から動くことはなかった。それを見て、僕もその場から動くことはせず、直立という体勢を維持する事に専念した。
料理が運ばれてくるのを待つ間、僕に気づいたマリーが笑顔をこちらに向けてくれた。マリーとは昨日の夜、別れて以来だ。あとで隙があれば話しかけようかな?
「どうだ? 仕事の方は覚えられそうか?」
国王は僕に尋ねていた。
その言葉が僕に向けられたものだと気づくのに少し時間がかかった。別にぼーっとしていたわけではない。ちゃんと集中していた。ただ、話しかけられると思っていなかったからだ。
「はい……なんとか……」
「その格好、意外と似合ってるじゃない、頑張ってね」
国王の問いに僕が自信なさげに返事をすると、マリーが横から口を出してきた。それから、彼女は続けざまに喋る。
「そうだ、お父様、拓真に勉強を教えてあげて! 彼、知識が乏しいから……昨日だって……いいでしょ、シュリーが教えてもらっている時に横で一緒に……」
(!!!?)
突然のことで何を言っているのか、わからなかった。勉強……一緒に……、確かに僕の学力、知識は小学校入学前で止まっていると言って間違いない。昨日だって、マリー、ガウェインとのやりとりで勘違いして、恥かしい思いをした。教えてもらえるのならそれに越したことはない。
「そうだな……うーん……いいだろう、仕事の合間を使ってならいいぞ。ただ、本人がやりたいと言うならな」
もちろん、答えは決まっていた。仕事も今日が初めてで、この先どうなるかわからないけど……それでも勉強という物、知識を増やしておきたかった。
「や、やらせてください! 仕事も勉強も頑張りますから……」
即答した僕に、国王とマリーは少し驚くものの、国王から「いいだろう」と許可が出た。
しかし、ただ一人この事に対して、異論を唱えそうな人が表情には出ていないが「反対だ」という雰囲気を出している様に感じた。王妃のことだ。たぶん、自分の娘と一緒に、なんてことが嫌なのだろうと思う。なにせ、僕は不審人物なのだから。
(なにか言われるんだろうな)
だが、異論は唱えられることなく、その話はそれで終わり、料理が運ばれてきた。
料理は前菜から始まり、スイーツまであるらしい。コース料理のように順番に料理が一人一人に一品ずつ運ばれていく。
特に食事の挨拶もなく、彼らは食べ始めた。
しかし、こんなに人に囲まれ、見守られて食事をするなんて、自分だとなんだか恥ずかしいと思う。
家族でなんてことない雑談を楽しみ、それを僕を含める使用人が数人、後ろで立って、見張っている。なんだか変な光景だ。でも、これがここでは普通なのだろう。
一品食べ終わると、次の料理が運ばれてくる。こういう事を僕もできるようにならなければならない。どう運んでいるのかを観察し、学ばなければならない。
*
最後にスイーツが運ばれてくる。それに対して目をキラキラと輝かせ、待ってましたと言わんばかりな態度を示すマリー。それなのに妹のシュリーはマリーと比べると、感情を表にほとんど出さない。パーティーの時も思ったが本当に真逆だ。
しかし、パーティーの時と同様にシュリーは僕の顔をたまに様子を伺うように見ている。視線を合わせて笑顔を見せるとそっぽを向かれてしまう。
僕とシュリーの間でこんなやりとりがある事に誰も気づいている様子はなく、スイーツを頬張りながら国王は少し離れた、見張りに話しかけていた。
「見張りはどうだ? 順調か?」
「はい。今の所は特に何もありません」
国王から聞かれた問いに淡々と答えるヒルデ。
ヒルデの回答を聞いて、心の中で安心した。問題があるなんて言われたら一発で終わりだろうから……。まあ、でも、変な行動をした覚えはないけど……ヒルデの一言で状況が変わる事があるかもしれない。
(気をつけよ……)
*
昼食も食べ終わり、席を立つ、国王と王妃、王女の二人は広間から出ていくようだ。
しかし、出て行こうとして、国王は足を止めた。
「勉強のことだが、三時にマリーをお前の所に行かせる。それでマリーがこいつを案内してやれ。それでもいいか? カルファ。お前が指導しているんだろう」
「はい。私は構いません。指導の時間を確保できるなら」
「では、それで決まりだ。マリーもいいな?」
「うん」
「それで、勉強の時間は二時間だ。その間だけは仕事はしなくていい、いいな?」
「はい。ありがとうございます」
僕は深々とお礼を言った。
「その代わり……ヒルデ、しっかり見張るんだ、いいな?」
「承知しています」
「では、これにてこの話は終わりだ」
そう言って、国王は行ってしまった。その後ろを王妃とシュリーが付いて行く。マリーは僕の近くに来て「また後で」それだけを言って、後を追った。
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