1–17:お腹は鳴る
「すみませーん。昨日、パーティーで声を掛けてもらった笹森拓真です」
少し経って、扉がゆっくりと開き、僕だとわかると半開きだった扉が全開になった。
「来たか、とりあえず部屋の中に入ってくれ」
そう言われ、部屋の中に通された。中は僕が使っている部屋とほぼ同じ内装だ。
ベッドも二つあり、標準な物らしい。だとしたら、ヒルデが一緒の部屋で寝るために置いたわけではなさそうだ。
しかし、昨日のパーティーの場でも思ったが、この人の顔と声が一致しない。まるで腹話術でもやっているみたいだ。
「失礼します……」
「そこに座ってくれ」
僕は二人ぐらいが座れるぐらいの固くて少し色落ちしているソファーに腰を下ろした。
この部屋にはもちろんヒルデも付いて来ている。しかし、ヒルデは僕の隣に座る場所が空いているにもかかわらず、僕の真後ろで見張っている。
立っているヒルデを見て、カルファさんも気を利かせたのか、座るようにうながした。
「君も座ってもらっても構わないが……」
しかし、それはあっけなく断られる事になった。
「いえ、私は結構です。お気になさらず、私はいないものとして扱ってください」
きっぱり、お断りをして、さらには今後、私には関わるなと言わんばかりの物言いだ。
彼もそれ以上勧めることはなく、話の続きを僕に向け、話し始めた。
「そうですか……。では、改めまして私の名はカルファと言います。下僕として、この城で働いており、今回、あなたの指導係に任命された次第です。今日からビシビシ指導していくのでよろしくな」
彼は僕の目の前に椅子を用意して、対面になるように座っているのだが、前に身を乗り出して、僕の肩を叩いた。それが思っているより痛い。トントンぐらいならいいものだが、バシバシといった感じだ。見た目は好青年なのにおじさんのような仕草だ。
「はい、よろしくお願いします」
今日から新しい生活が始まる。まだ体験したことのない事。内心、不安でドキドキしているが、反対に楽しみでワクワクもしていた。
「よし! 挨拶もこのぐらいで……とりあえず朝食でも食べに行くか!」
椅子から立ち上がると背筋を伸ばすため、腕を思いっきり上に伸ばしている。天井に手がつきそうな勢いだ。
彼はまだ昨日見た仕事着ではなく、ゆったりとした服を着ている。だるだるの服と言うべきか、とりあえず昨日の服装とは真逆だ。自分もそんなことを言えるような服装ではないけど……
「えっと……、僕も行っていいんですか?」
「当然だろ。ほら、行くぞ」
何を言う暇もなく、部屋の外へと押し出された。
僕とカルファさんが外に出たのを見て、ヒルデもゆっくりと外に出てきた。
「どこまで行くんですか?」
「三階の調理場の横にある使用人専用の食堂だ。まあ、開いている時間は決まってるけどな」
三階といえば、昨日僕が案内されたのも三階だった。その際、調理場があったようには思わなかったけど。
「ちなみに時間ってどんな感じなんですか?」
「ええっと、朝七時から八時と十三時から十四時、二十一時から二十二時といった感じだな。まあ、例外で時間外に食べさしてもらえることもあるが基本的に決まった時間を過ぎたら食べれない。その辺は料理人の気分だな。俺らのご飯と国王様らのも作らなきゃならないから、彼らも忙しいんだ」
手持ちにメモ用紙なんて無く、僕は頭の中に忘れないよう、メモをした。帰ったらそのことを紙に書いておかなければ……。物覚えは良い方だが、いつまでも覚えていられるわけではない。
「なるほど……」
「そういえば、拓真はどうして下僕になったんだ?」
不意にきた質問で回答に少し迷ってしまった。
彼はシルヴァさんが全てを知っていたのとは違い、全てを聞いているわけではないみたいだ。僕の事情をこの人に話してもいいものか……。少し、悩んだ末、指導係でもあるこの人には話しておくことにした。何より信頼を得る事がこの先必要なのだから……ここで嘘をつく必要は全くなかった。
「それは……気づいたら、僕は大きな木の根元に座っていて––––マリーと知り合って––––国王様にここに置いてもらえるようになったんだけどその条件が見張りと下僕っていうことなんだ」
長々と説明している内に食堂に着いたらしい、鼻孔を刺激するいい匂いが目の前の扉の奥から来ている。
「そっか、そんなことがあったのか…………着いたことだし、とりあえず、話の続きは飯食いながらにしよう」
扉が開けられ、その先の光景はたくさんの人が賑やかにご飯を食べていた。そして扉が開かれたことにより、料理の良い匂いはより強くなり、僕のお腹は鳴りっぱなしだった。
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