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短編C-② 『緊急議題 ― 彼女のシリーズの迷子を失くせ ―』  作者: Taku


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第4話「迷子を歓迎する余白」

―――中継セクター会議室―――


第4回会議。円卓の上には、もう新しい資料はない。博士のバインダーは閉じられたまま。スターのギターは、床に立てかけられている。会議室の空気は、喧騒とは別のものに変わっていた。


「……本日の議題は、最終決議だ」


監査役が、静かに言った。タイマーは、もうセットされていない。誰も、時間を気にしていなかった。


「これまでの議論を踏まえ、私たちは『迷子をどうするか』を決めなければならない。各々、最終意見を述べよ」


しばらくの沈黙。誰も、最初に口を開こうとしない。


その時、長老が、ゆっくりと口を開いた。


「……若い頃はな」


彼は、少しだけ遠くを見るように、窓の外を見た。


「迷うことが、恥ずかしかった」


静かに笑う。


「……だが、人は迷うから、人に会える」


誰も言葉を返さない。女将が、静かにコーヒーを注ぐ。湯気が立ち上る。その香りが、会議室を包み込む。


長老は、全員を見渡した。


「地図は、迷わぬためにあるのではない。──帰るためにある」


その言葉が、会議室に静かに落ちた。


誰も、拍手しない。誰も、言葉を続けない。ただ、その言葉が、それぞれの胸に染み込んでいく。



「……私は、今でも、最適解は存在すると思っている」


博士が、口を開いた。彼の声は、いつもの論理的な強さではなく、むしろ、自分自身に言い聞かせるような響きだった。


「だが──」


一呼吸。彼は、自分の手元にあるバインダーを見つめた。何度も開き、閉じたその表紙は、もう擦り切れている。


「最適解が、人を動かすわけでもない」


彼は、バインダーを閉じた。


「……今日の実験結果だ」


女将が、優しく言った。


「気づいたってことよね。最適解よりも大事なものがあるって」


博士は、何も言わなかった。でも、その口元が、ほんの少しだけ緩んだ。


「……じゃあ、私たちは、何を残すの?」


学生が、小さな声で尋ねた。


「入口を教えるんじゃなくて、帰る場所を教えるの?」


「そうだな」


隊長が、うなずいた。


「入口は、自分で見つければいい。でも、帰る場所は、誰かが導かなければならない」


「じゃあ、『彼女の喫茶店』は、その帰る場所の一つってことね」


女将が、微笑む。


「いつでも開いてるわ。迷ったら、いつでも戻ってきていいのよ」


「『読者地図』も、同じだ」


博士が、静かに言った。


「地図は、全てを示すものではない。迷ったときに開くものだ。それが、あの作品の本質だ」


「……『計画』もな」


長老が、付け加えた。


「あの物語には、帰る場所がある。迷った者が、最後に辿り着く場所が──」


「じゃあさ」


カノジョが、ぽつりと言った。


「迷子も、仲間だよね」


全員が、彼女の方を見る。


「迷ってるから、ここに来るんだもん。迷ってなかったら、ここにいないよ」


その言葉に、全員が小さく笑った。


監査役が、手帳を閉じながら呟く。


「……余白を残す、か。測定不能な領域が増えるな」


誰も否定しない。


それでいい、という空気だった。



「……結論だ」


雇い主が、立ち上がった。彼は、少しだけ間を置いて、言葉を選ぶように言った。


「私たちは、読者を『正しい順番』に導くのではない。彼らが自分のペースで歩けるように、『帰ってこれる場所』を提供する──」


「雇い主……」


カレシが、手帳から顔を上げた。


「……自分の言葉になってます」


「うむ。今日の結論だ」


カノジョが、くすっと笑う。会議室の空気が、少しだけ軽くなる。


雇い主は、もう一度、全員を見渡した。


「ここは、読者を集める場所ではない」


少し笑う。


「帰ってきたいと思える場所を守る。それが、私たちの仕事だ」


皆が、静かに頷いた。



【議事録:御前会議・緊急議題】


第4回会議:決議。


「迷子を消す」のではなく、「迷子を歓迎する余白を残す」ことで合意。


迷子だった人だけが見つけられる景色がある。

それが、このシリーズの在り方だ。


──次回予告──


「そのあと」


「結局、迷子は減りますかね」

「分からん」

「でもさ──また迷子が来たら、みんなで迎えに行こうね」


──小さな熱が、また一つ灯る。

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