第5話「そのあと」
―――中継セクター会議室・数時間後―――
会議が終わり、円卓の上は静けさを取り戻していた。 冷めかけたコーヒーが一つだけ残っていた。
会議室には、カノジョ、カレシ、雇い主の三人だけが残っていた。
「……終わったな」
雇い主が、深く息を吐いた。彼は、スーツのネクタイを少しだけ緩めている。
「終わったのでしょうか、それとも始まったのか」
カレシが、手帳を開いたまま言う。
「記録としては、終了しました。ですが、読者の迷子が減るかどうかは──」
「分からんな」
雇い主が、即座に答えた。カレシが、その短さに少し驚いたように顔を上げる。しかし、すぐにまた手帳に目を落とした。
「……そうですね」
「ねえ」
カノジョが、窓辺に立ち、外の景色を見ていた。空は、夕焼けに染まり始めている。
「また迷子が来たら──」
彼女は、振り返った。
「──みんなで迎えに行こうね」
雇い主は何も言わなかった。カレシも、手帳を閉じた。三人の間に、穏やかな沈黙が流れる。
その時、端末が震えた。一通のメッセージが届いている。
「……誰かから来てる」
カノジョが、画面を覗き込む。カレシが、近づく。
「内容は?」
「えっと──」
カノジョが、ゆっくりと読み上げる。
『迷ってたけど、喫茶店に寄ってから、ゆっくり旅することにした。また迷ったら、戻ってくる』
「……差出人は?」
雇い主が、尋ねる。
「『あの時迷っていた誰か』──って書いてある」
三人は、しばらくその画面を見つめていた。
カノジョが、小さく呟く。
「……届いてるね」
誰も答えなかった。でも、その沈黙が、答えだった。
カレシが、手帳を開き、ペンを走らせる。
「……記録に追加する」
彼は、静かに言った。
「『議題終了後、中継セクターに一通のメッセージが届いた。差出人は──新しい観測者。』」
カノジョが、窓の外を見る。街の灯りが、一つ、また一つと点き始めている。その中で、彼女は何かを感じる。でも、それを言葉にはしなかった。
画面の端で、小さな熱が灯った。
三人は、それに気づかない。
【システムログ:御前会議・緊急議題】
議題:「彼女のシリーズの迷子を減らしたい」
決議:「迷子を歓迎する余白を残す」
結論:
迷子は失敗ではない。
この世界との出会い方の一つである。
迷子だった人だけが見つけられる景色がある。
それが、このシリーズの在り方だ。
──新しい読者が観測されました。
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『付録:「彼女のシリーズ実用ガイド」――御前会議議事録付属資料――』です。
これは「読む順番」ではありません。
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一本道ではありません。 逆戻りしても、寄り道しても構いません。




