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短編C-② 『緊急議題 ― 彼女のシリーズの迷子を失くせ ―』  作者: Taku


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第3話「対立と混乱」

―――中継セクター会議室―――


第3回会議。円卓の上には、前回よりもさらに多くの資料が積まれている。博士は新たなバインダーを二冊追加し、スターはギターを抱えたまま立ち上がっている。空気は、張り詰めていた。


「……本日の議題は、前回の続きだ。」


監査役が、淡々と告げる。


「『好きなところから読む』という意見が出たが、それで本当に良いのか。議論を深める」


「それがナチュラルだろ」


スターが、即座に言い放つ。


「魂に揺さぶられるまま動けばいいんだよ。順番なんて、後からさ」


「順番は重要だ」


博士が、バインダーを机に叩きつける。


「論理的な積み上げがなければ、物語の深みは理解できない」


「じゃあ逆に、博士の『読者地図』を先に読んでから『計画』を読んだら、どうなるんです?」


青年がストレートに尋ねる。


「……それは、」


博士が、一瞬言葉に詰まる。


「それは、順序が逆だ!」


今度はスターが反撃する。


「逆でも揺さぶられればいいんだよ!」


ギターをジャラリと鳴らす。


「揺さぶりと理解は別だ!」


博士が、立ち上がる。


「ロック魂は分けられない!」


「二人とも、落ち着け!」


隊長が、仲裁に入ろうとする。


「整列だ!」


「ドブネズミみたいに……自由でいたいんだよ!」


スターが、ギターを抱えたまま叫ぶ。


「くっ、科学は、止まるのか……!」


博士が、机に突っ伏した。


長老が小声で諭す。


「……若いのう。迷っておるのは、読者ではなく、お前たちじゃな」


全員沈黙。


「……時間切れです」


監査役が、冷たく告げる。



しばしの休憩を挟み、メンバーは席に戻った。


「……そもそも、なぜ『入口』を一つに絞らなければならないのかしら?」


女将が、静かに口を開いた。


「私は、入口はいくつあってもいいと思う。むしろ、多い方が、来る人を選ばないわ」


「来る人を選ばないのは、良いことばかりじゃない」


博士が、顔を上げる。


「適切な順序で読まなければ、作品の良さを十分に感じられない読者も出る」


「それなら、それでいいじゃないか」


スターが、ギターのネックを撫でながら言う。


「感じられなかったら、また別の順番で読めばいい。読むのは、一回きりじゃないんだから」


「……それは、非効率的だ」


博士の声が、少しだけ弱くなる。


「非効率も旅の楽しさの一つよ」


女将が、優しく問いかける。


しばし、時が流れる。


「……データには残らない価値か。それも……観測対象にはなるかもしれん」


会議室に、沈黙が落ちる。誰も、次の言葉を探せずにいる。


その時、カノジョが、ぽつりと言った。


「……でもさ」


全員が、彼女の方を見る。


「迷子ってさ──」


彼女は、少し間を置いた。


「──帰りたい場所があるから、迷子なんだよ」


会議室が、完全に静まり返った。


誰も、その言葉に反論できなかった。


スターが、ギターの弦に触れたまま動かなくなる。


博士が、スライドの端末を閉じて、テーブルに置く。


女将が、カップを両手で包んだまま、目を細める。


隊長が、拳を開き、ゆっくりと座る。


青年が、静かに呟く。


「……やっと、本当の議題になった」


学生も、何か言いかけて、やめた。


長老は、ただ微笑んでいる。


「……議事録に、残します。……次回、最終決議を目指す」


監査役の声は、いつもより少しだけ柔らかかった。監査役が、手帳を閉じた。


会議室の空気は、まだ重い。でも、その重さは、さっきまでの喧騒とは、どこか違っていた。


【議事録:御前会議・緊急議題】


第3回会議:混沌を極める。

しかし、カノジョの「迷子=帰る場所があるから」という発言により、会議の方向性が大きく変わった。

次回、最終決議を目指す。


──次回予告──


「迷子を歓迎する余白」


「地図は、迷わぬためにあるのではない。」

──帰るためにある。


誰もが、帰る場所を探している。

迷子は、その途中にいるだけだ。


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