第2話「プレゼン大会」
―――中継セクター会議室―――
翌日。円卓には、前回よりも多くの資料が積まれている。博士は分厚いバインダーを三冊、スターはギターを抱え、女将はコーヒーポットだけを持って来ている。監査役が、手元のタイマーを確認しながら、立ち上がる。
「……第2回会議を始める。本日の議題は『各作品の入口』の提案。持ち時間は三分。時間厳守でお願いする」
タイマーがセットされる。
カチリ、という音が、緊張を呼ぶ。
「……では、一番手。女将さんから」
監査役が、名簿を確認する。
女将は、何も持っていない。ただ、カップを一つ、テーブルの上に置いた。
「私は、コーヒーだけ持ってきたわ」
「プレゼン資料は?」
「ないわよ」
全員が、一瞬、固まる。
「……それで、何を伝えるつもりだ?」
博士が、眉をひそめる。
女将は、静かに微笑んだ。
「私はね──」
彼女は、カップの中の湯気を見つめた。
「──頑張りすぎた人が、一人で来る店を開きたいの」
誰も、言葉を返せない。
「入口なんて、作らない。来た人を迎えるだけ。それが、『彼女の喫茶店』の在り方よ」
「……時間、です」
監査役が、静かに告げる。
女将は、それだけ言って、席に着いた。会議室に、ほのかな温かさが残る。
「……次、博士」
監査役が、次の名を呼ぶ。
博士は、分厚いバインダーを三冊、机の上に広げた。
「スライドは、全部で六十二枚」
「多い!」
隊長が、思わず声を上げる。
「持ち時間三分です。一枚三秒でお話しください。」
監査役が、冷たく告げる。
「物語の『仕組み』や『構造』に──って、三秒は無理だろ!?」
「残り、二分五十秒です」
「急かすな!」
博士は、慌ててページをめくり始めるが、途中で諦める。パタン、とバインダーを閉じた。
「……結論から言う。『読者地図』は、迷った人間が、『今、自分はどこにいるのか』を知るためのものだ。読む前、そして読んだ後、自分の現在地を確かめる作品だ」
「時間、です」
「……全く言えてない!」
「では、次の方」
博士は、椅子に座り込み、項垂れた。
「またしても、効率の名のもとに、科学が止まった……」
「次、スター」
スターは、ギターを抱えて立ち上がる。彼は、一切の資料を持っていない。代わりに、弦を一本弾いた。
──ジャラン。
その音が、会議室を満たす。
「『彼女の時空』。会いたいと思う気持ちが大切なんだ。トランク一つだけでこの時空を飛び回ってほしい」
カレシが、手帳にメモを記す。
「米米、確認」
「時間、です」
「まだ三分経ってないだろ!?」
「二分五十七秒、経過しました」
「……厳しいな」
スターもまた、席に戻った。
「次、隊長」
隊長は、姿勢を正して立ち上がる。
「私は、まず長老の『彼女の計画』を推す。あれが核だ。そして『外伝』は、計画を支えた人々の物語だ。本編を読んでから、がいいだろう」
「時間、です」
「もう言うことはない」
隊長は、胸を張った。
「では、次、青年」
「『観測者の時空』は、未来や創作の裏側に興味がある人向けかな」
少しだけ考える。
「あと──」
カノジョとカレシの方を向く。
「この二人が、どうして旅を続けているのか知りたい人にも」
カノジョが笑顔で呟く。
「言っとくけど、カレシは彼氏じゃないかんね」
カレシは俯いて目を閉じた。
「では次、学生」
学生は少し頭を掻いた。
「えっと……『彼女の教室』ですけど」
少し照れながら笑う。
「難しいことは言えないんですけどね。一つの謎をじっくり追いかけたい人なら、多分楽しめます。……それに……」
少しだけ照れ臭そうに言う。
「教室から、他のシリーズ作品を読んだ人もいるんすよ」
女将が微笑む。
「素敵じゃない」
「次、私、監査役から」
「『不可逆なインフレーション』を──」
すかさず、博士が茶々をいれる。
「経費の話はいいから!」
全員が、同時に頷く。監査役は、無言で座った。
「……次、カノジョ」
カノジョが、手を挙げる。
「私は、全部好きだから、どれもおすすめできるよ! でもさ──」
彼女は、少し間を置いた。
「──好きになった作品から読むんじゃないの?」
会議室が、静まり返る。誰も、その言葉に反論できなかった。
「……それが、一番単純で、一番正しい気がします」
カレシが、ぽつりと呟いた。
【議事録:御前会議・緊急議題】
第2回会議:各自の提案は出揃ったが、統一見解には至らず。
ただし、カノジョの発言により「好きなところから」という視点が浮上。
次回、議論を深める。
──次回予告──
「対立と混乱」
博士「順番が重要だ!」
スター「ロック魂は分けられない!」
隊長「整列だ!」
監査役「時間切れです。」
全員「まだ終わってない!」
──迷子を巡る戦いは、まだ終わらない。




