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短編C-② 『緊急議題 ― 彼女のシリーズの迷子を失くせ ―』  作者: Taku


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第1話「議題:迷子の読者について」

【はじめましての方へ】

この作品は、あるシリーズの「読み方」をめぐる小さな会議です。

ただし、シリーズを最初から読む必要はありません。

『彼女の計画』を読んでいなくても。 『彼女の時空』を知らなくても。 『彼女の教室』を知らなくても。

迷ったまま入ってきて、大丈夫です。

作中でも、登場人物たちはずっと迷っています。

そして最後には、ひとつの答えにたどり着きます。

これは、彼女のシリーズを案内する話であり、 同時に、物語には一つの読み方しかないのかを考える話でもあります。

どうぞ、好きなところからお入りください。

(全5話+付録:実用ガイド付き)



―――中継セクター・通信ルーム―――


放課後。中継セクターの通信ルームに、学生からの呼び出しが入った。青年が端末を開くと、学生の声が、少し慌てた様子で飛び込んでくる。


「青年さーん! 聞いてくださいよ!」


「……どうした、そんなに慌てて」


「学校の友達に言われたんすよ! 『彼女の時空』、めっちゃ面白かったって! で、次どれ読めばいいか聞かれたんすけど――」


「……で?」


「『作品多すぎて迷子なんだけど!! 時系列順? 公開順? それとも全部読まないと理解できないやつ?』って、もうパニックだったんすよ!」


青年は、少しだけ口元を緩めた。


「……なるほど。読者が扉の前で途方に暮れているわけか」


「そうなんです! 何て答えたらいいんですかね?」


「……俺にも、すぐには答えられないな」


青年は、端末を閉じた。そして、会議室へ向かって歩き出す。足音が、静かな廊下に響く。


―――中継セクター会議室―――


円卓に、各メンバーが集まっている。いつもの場所。いつもの顔ぶれ。でも、今日は少しだけ空気が違う。青年が立ち、口を開いた。


「……本日は、緊急議題を一つ、提案します」


全員の視線が、彼に集まる。


「『彼女のシリーズの迷子を減らしたい』――これが、本日の議題です」


「……迷子?」


スターが、ギターのネックを撫でながら言う。


「いい響きだな」


「問題を軽く見すぎだ」


博士が、端末を操作しながら言う。


「これはシリーズ全体の構造に関わる重大なテーマだ。読者が迷うということは、私たちの設計に問題がある証拠だ」


「とりあえず、コーヒーを飲みましょう」


女将が、カップを配り始める。湯気が立ち上る。その香りが、会議室を優しく包む。でも、誰の手も、カップに伸びない。


「……まずは、現状を整理しよう」


雇い主が、咳払いを一つして、立ち上がる。


「各作品のポートフォリオを確認し、読者のジャニー、もといジャーニーを可視化することで――」


「……つまり、立ち位置と入口を整理したいという意味ですね?」


「……うむ。そういうことだ」


雇い主の声が、少しだけ小さくなる。


「入口の話なら、まずは『計画』じゃ」


長老が、目を閉じたまま言う。


「あれが核だ。言うまでもない」


「論理的な順序もあるはずだ」


博士が、手元の端末を叩く。


「時系列、公開順、テーマ別――複数の軸で整理すれば、読者は自分に合った順番を選べる」


「どこからでもいいと思うけどな」


スターが、椅子を回しながら言う。


「その時のフィーリングが大切でしょ」


「フィーリングでは読者は動かない」


博士が、真っ向から否定する。


「最適な入口は存在する。それを示すのが、私たちの役割だ」


会議室が、にわかに騒がしくなる。各自の意見が飛び交い、まとまる気配がない。


その中で、一人だけ、カノジョが黙っている。彼女は、カップの湯気を見つめていた。


「……ねえ」


彼女の声が、会議室に落ちた。

全員の会話が、止まる。

カノジョは、カップの湯気から目を離さなかった。


「迷子ってさ――」


ゆっくりと顔を上げた。


「迷ってるから入りたいんだよね」


会議室が、静まり返る。


「迷ってない人は、そもそも入らないもん」


誰も、何も言わなかった。


その沈黙が、一番の答えだった。


雇い主が、端末を置いた。

博士も、端末を閉じた。

スターは、ギターを抱え直した。

女将だけが、静かに笑った。


「……次回、各々が『自分の作品の入口』を提案することにしましょう!」


監査役が、手帳を開き、冷静な声で言う。


「制限時間は、三分」


スターが、声を上げる。


「三分じゃ、魂は語れない!」


「反論につき、五秒をマイナスします」


「……厳しいな」


会議室に、小さな笑いが起きた。



【議事録:御前会議・緊急議題】


議題:「彼女のシリーズの迷子を減らしたい」

第1回会議:結論なし。

各自が「自分の作品の入口」を提案することに。

次回、各案を持ち寄る。制限時間は三分。



──次回予告──


「プレゼン大会」

博士「スライドは全部で六十二枚」

隊長「多い!」

女将「私はコーヒーだけ持ってきたわ」


三分間で、それぞれの「入口」を語る。

果たして、まとまるのか?

──まとまるとは言っていない。

―――第0話は「迷子発生」は中継セクターより発信しています――

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3034788/blogkey/3684085/

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