第46話 友達の作り方
流星群を見た翌日の朝食。ネフィシーは食事にも喉を通してくれた。憂いや複雑な表情は残しつつも、美味しそうに蜂蜜トーストを頬張っている。
その様子を見届けた後、アリエッタは海暗の塔へ向かった。海暗の塔にたったひとりでいる少女、マリンルナに会うために。
「……なんで来た。もう来ないでほしかったのに」
マリンルナはアリエッタを見た瞬間にぷい、とそっぽを向く。
「あなたのことを……いえ。あなたの周りの関係について知りたいと思ったからでしょうか。特に、私のお父さまとの関係は興味深いです」
「ヴィティ・ローズナイトのことか」
本当に彼の名前を口にするのが億劫なようだ。言いたくないほど嫌いなら言わなければ良いのに。
「ネフィシーはいないのか?」
「はい。置いてきました。勘違いされていたら困るので予め言っておきますが。ネフィシーさまとお出かけするような親交を深めた覚えはございません」
「一緒にいるだけで十分仲良いだろ。友達すらいないあたしには少なくともそう見える」
羨ましそうに拗ねた表情をする。こんなに表情豊かな少女に友達がいないなど、世界は何と不条理だろう。アリエッタが友達いないのは性格上仕方ないとして。
「そもそも。仲悪かったら、ネフィシーネフィシー連呼しねえよ。何だよ、親交を深めた覚えはございませんって。普通言うか?」
「はい。言います。世の中は誤解の積み重ねです。少しでも解くことは大事なのです」
アリエッタの考えを披露したがマリンルナはパッとしないままだ。眉を顰められた。
「曖昧なままで良い関係もあるんだぞ」
ぷい、とそっぽを向いたマリンルナは棚の上にあった如雨露を手に取る。
「そういえば割れた如雨露を修復しようと見に行ったのだが。あたしは驚いたぞ。こんな見た目になっているからな」
アリエッタに向かって差し出したのは、割れた跡すら残っていない修復された青の象の形をした如雨露だった。
「魔術で修復してくれたようです」
「あんたが?」
「いえネフィシーさまが」
ネフィシー、という言葉を出した瞬間マリンルナが楽しむような表情になった。
「あんた、結構ネフィシーの名前出すな。あんたとネフィシーの関係ってどんな感じなんだ?」
興味を持ったのか乗り出してくる。帰れ、と言われた少女と同一人物だとは思いたくない。命令を守って大人しく立ち入らない方が良かったか。
「別に。語れることはございません。……そうですね。特に何も、ええ」
顎に手を当てて考えても思いつかない。ただの調査対象。アリエッタはこれ以上踏み込んだ関係を作った覚えはない。これはエルラもアメリアも然り。友達などアリエッタには不釣り合いだし、まだそこまで関係が進んだ覚えはない。アメリアは勝手にアリエッタとは友達だと言うが。
「怪しいぞ。同じ質問をネフィシーにしても良いのか?」
「はい、どうぞ。お好きに」
何故ここでアリエッタの許可がいるのか。本人はいないのなら何をやろうと勝手だと思う。
「なあ。アリエッタ」
今までとは雰囲気とはがらりと変わり、マリンルナは若干照れながら、それを必死に隠すように名前を呼んだ。
「何でしょう」
さっきからずっとマリンルナに会話を握られてばかりだ。用が終わったら早急に帰りたいのに。
「その……友達ってどうやって作るのだ?」
普段のぶっきらぼうな様子から急に乙女らしく振る舞ってきた。頬を赤らめ、手をもじもじこねている。
しかもその質問を自称友達がいないアリエッタに聞くのか。
「私に聞かれても。むしろ私がその質問をしたいくらいです」
「え。あんたネフィシーと友達ではないのか?」
「先ほど言いましたが。親交を深めていないと言ったではないですか。つまりただの知り合い程度」
結構ネフィシーの名前を出しているのはアリエッタではなくマリンルナの方な気がする。これはつまりこういうことか。
「なるほど。ネフィシーさまとお友達になりたいのですね? 彼をこちらへお呼びしましょうか」
「待て。何故そうなる」
興味もない相手のことを何回も名前で呼ばないだろう。まして、この場にいない人に向けて。
「まあ。良い。あんたなりの友達の作り方を教えてくれないか?」
「はい。あくまで予想に過ぎませんが、私なりに作り方を解説致しますね。まずは一年ほど一緒に過ごし相性の良さを測ります。話や趣味が合う等なんでも良いのです。この人が良いな、と思いましたら。ここからが難関なのですよ」
ここでつまづき、アリエッタは友達人数の通算成績がゼロなのである。
「私と友達になってはくれませんか? と宣言して約束します。文書に書き起こすのが一番ですが、無理そうなら口約束でも全然構いません。相手も無事了承してくれたら、ここで初めての友達が成立されるのではないでしょうか」
ちなみに相手からこの手の宣言をされたことがない。どれだけアリエッタは自分自身が影の世界で生きてきたのだろう。
「ほう、つまり一年はどんなに頑張っても友達はずっといないままであると……?」
「そういうことになってしまいますね」
ネフィシーとはまだ出会って三ヶ月くらいだ。友達と呼ぶにはまだまだ遠い存在である。
「待てないぞ、あたし。一年もは無理だ。せいぜい半年」
「ええ、半年でも構いませんよ。この人となら、って思ったらいつでも良いのです」
半年でも一ヶ月でも一週間でも。自分の思うままに好きなように決めたら良い。
「ほう。分かった。絶対に相性合う奴見つけて半年頑張るからな。半年途切れずに会えて、仲を深められる人……。難しいな」
こうしてアリエッタはマリンルナに余計な知識を植え付けることになったのである。
アリエッタは話がひと段落ついたところで懐をあさった。今日はこのことを聞きにきたのだ。
「友達の作り方を教えた対価と言いますが。私からも質問がございまして」
「何だ? 聞いてやろう」
上から目線なのは妙に気になるが、この際気にしている場合ではない。目的のものをマリンルナに見せる。
「こちらの魔導具について、少し気になることが。これは一体何なのでしょう?」
昨日、ネフィシーから預かってくれと言われた魔導具をマリンルナに見せたのだった。同じ「使命」を背負う者同士、何か情報を知っているかもしれないと踏んだのだ。
「これはな……」
アリエッタが魔導具を見せた瞬間、部屋の空気は変わったような気がした。




