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第35話 夏休み

 ルミナイト学園生徒会室にて。


「ふう。長かったわ。明日から念願の夏休みね!」


 蛇のミーを連れているティアサが嬉しそうな気の抜けた声を出す。相変わらず生徒会の仕事はしていない。隣のゴルードは会計簿を必死に見つめているというのに。

 明日からルミナイト学園は長期休暇に入る。夏の休暇が終われば学園はひとつ上がり、新学年となって新学期が始まる。アリエッタとティアサにとっては初めての後輩がもうすぐできる。


「そうですね。私は金の使い方が試されるとても重要な休みだと思うのです。どのように金が使おうか、思案してました!」


 会計簿を見せてくる。仕事をしているのではなく私的なことを生徒会に持ち込んでいたのか。


「ゴルード、わしにも見せてみろ。……ん? おぬし、このままでは破産するぞ!」


 蛇のミーも会話に入ってくる。確かに家がひとつ建てられそうな金の使いっぷりだ。倹約を掲げているゴルードはどこへ行った。


「何を言っているのです。だからこその倹約なのです。他のものには倹約を。私は裕福な暮らしを」

「実はあなた、借金持ちなんじゃないの? やるわねえ」

「金は素晴らしい。我がフォーナイン家は金を稼ぐのが上手ですから心配には及びません」


 確かにフォーナイン家はよく金を貸しているらしい。どこからそんな金が湧くのかずっと長年疑問に思われていることだ。


「夏休みは山登りでもしようかと。ティアサ嬢も一緒にどうですか?」

「悪くないわね」

「蛇の秘宝がある山なら良いぞ。ティアサも行くと言っている」


 山登り。自然に浸りたいと言うわけか。久しぶりの旅行としては悪くないだろう。ゴルードのことだからもっと金に関することをするのかと思ったら。思った以上に健全な趣味だ。


「良ければアリエッタ嬢も……。いえ、何でもありません」


 相当嫌そうな顔をしたのだろう。途中で提案を切り上げた。ティアサはともかくゴルードと仲を深めた覚えはないし。生徒会の仲間だってたまたま一緒になっただけに過ぎないと思う。


「おやおや。夏休みの予定を立てているのかい? あまり羽目を外し過ぎないようにね」


 遅れてやってきたサンドレアも会話に入る。アリエッタの顔は更に険悪になっただろう。


「サンドレア! サンドレアも良ければ一緒に山登り致しませんか?」

「山登り? 悪くないね。でも遠慮しておくよ」

「そうですか……」


 ゴルードは明らかに悲しそうな表情をする。アリエッタもティアサも慰めることなく彼を一瞥したに過ぎなかった。そもそもどうして王子が山登りしてくれると思ったのだろうか。


「僕は。常に綺麗で輝かしくいないと。それがこの王国の王子としての務めだと思うんだ」

「え、キモいぞ」


 ミーがアリエッタの気持ちを代弁してくれた。ティアサも深く頷いている。サンドレアは令嬢が喜びそうな笑みをばら撒くがここにときめくものはいない。いつになったら気がつくのだろう。

 それに、山登りが綺麗で輝かしくないと言っているようなものだ、好きな人に失礼だとは思わないのだろうか。


「アリエッタ。君は夏休みだけど調査を続けてくれ」


 夏休みなのに毒闇の塔へ行けと。随分と無茶を。まあ、以前よりは過ごしやすいから妥協してやっても良いが。


「ちょっと。それは流石に酷いんじゃないの? 何よ、自分だけ夏を満喫しようとして」

「ティアサの言う通りじゃな。自分が容姿が良いからと言って調子に乗るんじゃないぞ」


 ティアサもミーも反対してくる。ミーに関しては蛇だからギリギリ許されそうな発言だ。人間が言ったら断頭台行きになりそうだ。


「君たちは何も分かっていない。事情を知らないものに反論されてもなあ」


 アリエッタだって事情を知らないのですが。そんな言葉は喉元に出かかってすぐに消えたが。


「その調査とやら自分でしてはどうでしょうか」


 サンドレアのことが比較的好きそうなゴルードにまで反対される。王子だからといって何をしても良いわけではない。


「夏休みっていうのは。本来は貴族の社交界に向けての準備だ。つまり、僕は忙しいんだよ。うん、それに元から君の仕事だったよね? 今更僕が引き受けてもな」

 

 サンドレアは昔からこんなに嫌らしいやつだったろうか。


「あなたが望む結果は出ませんよ。それでも良ければ」

「ああ、頼んだよ」


 サンドレアはあっさり引いた。流石に馬鹿ではないと思うが。


「じゃあ。お願いね」


 サンドレアは完璧な笑みを浮かべて手を振って部屋を出ていった。


「ちょっと。良かったの?」

「私は厳密には引き受けますとは言っていません。あの人は引き受けたと思っているのでしょうが」


 敬うのが面倒で気がつけば殿下からあの人呼ばわりになっていた。サンドレアは人の言葉を巧みに操る男だと思う。アリエッタの真意だって彼には透けているはずだ。


「あの人の真意は何でしょうね。サンドレア……殿下は何を企んでいるのでしょう」


 流石に呼び捨ては憚られた。そこまで仲良くないのに、気安く呼び捨ては。


「確かに昔から本音が見えない方でした。……私には何かに焦っているように見えます」

「まあ、いつも通りと言えばそうなのだけれど……」

「胡散臭いな。わしより胡散臭いなんて相当じゃぞ」


 ゴルードもティアサも、ミーでさえも殿下にいい印象を持っていない。無論アリエッタも。

 ……大人しく毒闇の塔に行くのもある意味正解かもしれないと思い始めた。

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