第八話 家庭訪問と10年
私とフィーヤはギルマスが来るまで雑談に興じていた。と言ってもあくまでお互いの素性があっているのかの確認、思い出話である。
「悪い、遅くなった!」
ギルマスが階段を降りてくる。
「ああ、ギルマス、ジュエルランクの錬金術師の方が用件を済ませに来たそうですよ」
私はニヤニヤと笑いながらフィーヤを紹介する。
たぶんあの件だよね?
昨日の今日で来るとは思わなかったけど。
「はぁ?もう来たのか?早いな」
「はい、クリスタリア・アルケミストと呼ばれてますレフィアです。壁の補修に参りました」
「助かる。アンタはこの街を豊かにしてくれた英雄的存在だからな、流石に頼むのは気が引けたが、昨日新しく入ったやつが派手に壊してしまってな」
お前の事だぞ、という視線の送り方をするのはやめてよ。ギルマスが本気で撃てって言ったんじゃない……。
「あー、なるほど」
フィーヤも私を見て謎に納得している。
「あ、ギルマス。私の欲しい物はレフィアさんからいただける事になったので、追加報酬はランクアップでお願いします」
「おう、アジュに手続き進ませるから帰って良いぞ。つっても、まだこっちの用件済んでないのか」
「そうですね」
「壁直したらご自宅まで行きますよ。場所教えてくださいエリーさん」
君はナチュラルに訪問しちゃいけない人でしょ。
なんだかんだでレフィア名義の開発物が多い為に、貴族学校の教科書などに名前が載っているらしいから、
あなたが来たら歴史上の人物の家庭訪問です。
まあ、来てもらいますけど、私の家じゃなく保護者の家ですけど。まあ、もう私の家か……。
ギルドから家までは結構な距離があるため、孤児院とそこからの道筋を教えた。
◇ ◇ ◇
「いらっしゃい、フィーヤ」
「し、エリーさん、お邪魔します」
義父さんには「友達が来るから」と伝えてある。
「こんにちは、フィーヤさん。エリーの父のヘイゲルです。娘がお世話になってます」
小心者の義父さんだけど、案外と初対面の人にも物怖じしないんだなって思う。
えーと、どこから話せば良いんだろうか。ギルドではフィーヤとの過去のすり合わせみたいな話をしてたから、転生してからの話かな?
逆にフィーヤには旅の話をしてもらおう。
私と義父さんとの出会いから、今に至るまでをざっくりと話すとフィーヤの義父さんを見る目が明らかに変わった。やさぐれたオジサンを見る目から、謎の尊敬を感じる目に。
「父さん、そういえばフィーヤの事ちゃんと紹介してなかったね」
「え、そうなんですか?だからかー。私と話す初対面の人って、だいたいガチガチに緊張しちゃっててマトモに話せないんですよ。その点ヘイゲルさんは落ち着いてるなって思ってました」
「え?フィーヤさんはどこかの有名人だったりするのかい?」
フィーヤは普段、エルフである事を隠すために深く被れるタイプの帽子を着けている。
だから、ぱっと見は普通の人とかわらない。
「じゃあ改めて紹介するね?私の前世での教え子で、クリスタリア・アルケミストの冒険者、エルフのレフィア」
「レフィアです。師匠からはレ・フィーヤという名前をいただきまして、普段はフィーヤと呼ばれています。アルバニア帝国ではレフィアという名前で冒険者登録をしました。よろしくお願いします」
義父さんは一度目を背けると一瞬の現実逃避をしてから、私に視線を向けて『聞いてないよ』というような顔をする。
でも、転生者である私の父親だ。すぐに逃避から戻ってきた。
「改めてよろしくお願いします。私はシルバーランクのヘイゲルです。ジュエルランクの冒険者の方に会えるなんて光栄です」
「はい、気軽に話していただけるとありがたいです。私もいち冒険者なので」
さて、自己紹介も済んだし、フィーヤには冒険譚を聞かせてもらおうかな……。
◇ ◇ ◇
それから10年が流れた。え?早いって?
尺の都合だよ……たぶん。
スキル封じの魔導具が手に入ったり、ランク昇格の通知が来たりと全てが順調な冒険者ライフが始まったと思えば、ザコ様とかいう世紀末のモヒカンが訪ねてきたり、貿易港への船旅で船ごと沈められたり、依頼先の村でで依頼主の襲撃にあったりと踏んだり蹴ったり、濃密な10年だったと思う。
その多くの時間は通信魔導具の開発と『不老』スキルの習得に割いた。
開発に関してはフィーヤがやったのだけど、横で曖昧な知識を教えるというのが私の役目だ。この世界、フットワークが軽くないと生きていけない。だけど、通信する環境さえあれば、長期間の遠出が可能になる。そう思ったからこそ優先した。同じ機器を使っての相互通信は難しかったから、一方通行の通信機を2つ用意した。
『不老』に関しては未だ習得できない。最初に比べると魔力量は既に300倍程になっている。火を出すだけとか、水を出すだけとか、簡単な魔法であれば、消費量を回復量が上回ってしまうので、実質消費無しで使える。
あ、そうそう。
義父さんとルチアが無事くっついた。『確率操作』を使ったのは秘密。
2人で住む所に私が邪魔しちゃ悪いなって思ったので、別で住む事にした。街の中で物件探したんだけど、
あんまりしっくり来ないから、土地を買って自分で作ることにした。人生8周目、やれる事多いと選択肢が増えるけど、逆にこの家は詰め込み過ぎた気がする。鏡張りの訓練部屋に、壁際の薬瓶棚が特徴で通気性の良い実験室、対面用の凝った装飾の応接室に、図書館みたいなスケールの書斎、入り口入ってすぐの階段を上がればリビングダイニング。バス、トイレや寝室は直接行けない様にリビングから続く二手に別れた廊下の先。廊下の途中にはいざという時の隠し部屋。下に降りられる非常階段を付けてある。
1階は中庭を五角形に囲む造りで入り口の両サイドが応接と訓練部屋で入り口含め全て同じ広さ、形の部屋だ。書斎と実験室は2階分の高さを出しているし、1メートル程下にも掘っている。
我ながらやり過ぎたとは思ってる。
でもこれだけやらないと満足出来なかった。え?土地が足りたのかって?そもそもビスマスの街中に建てなかったからね!
『確率操作』が暴発したら周辺巻き込むわけだし、国で所有してる森を買い取りました。お金はあるのだよ、お金は。町からは少し離れてるので実験にはもってこい。
森を国から買った話をしたから、ついでに帝都に呼ばれた時の話をしようか。
アルバニア帝国の帝都アルバニアに召還状で呼ばれました。
通信魔導具の開発者()なので、動作原理の大半が私の知識なんです。そりゃフィーヤだけじゃ済まないよね、噛み砕いて説明出来ないだろうし。
それが私が12歳の時です。
ええ、7年しか経ってない。
フィーヤは7年で通信成功させたんだよ、マジ天才!
お城に呼ばれたから、2人で行ったけど、不敬罪が怖かったので、『確率操作』で私が礼儀正しく接する確率を100%。『私』だけという限定発動でごっそり魔力持ってかれたけど、しょうがないね。
皇帝に謁見してから、詳しい話は皇子に話す様に言われたから、応接室っぽい所に移動してのお話。皇子って聞いたから、何となく目が吊り上がった如何にも傲慢っぽいのが来ると思ったら、女性みたいな、ほっそりとした爽やかイケメンが来て、びっくりしました。
皇帝は「お前の世代で使う物に俺が口を出してどうする?」と言って皇子に全て押し付けた。皇子の名前はカイ・ユイファーン・アルバニアと言うらしい。
皇太子にはなっていないものの多方面で政治に関与しているために、実質皇太子という状態だ。
時折、皇子が「父、皇帝が面倒臭がりだから、仕方ないんです」と溜め息まじりの愚痴を漏らすので、遠慮もない私達との会話は、OLの昼下がりのような談笑になってしまったが、ご愛嬌だろう。
叙勲やら何やらが報酬だと言われて、ちょっと嫌な顔をしてしまったが、確率操作先生様々で気取られなかった。魔物の魔石が良かった。
それから3年後、それが今。
テラートさんとの関係は友人関係くらいにはなったかもね。謝りにいったら逆に謝られてしまいました。まあ、正義感が強すぎるんだよね?
私は自宅の半径50メートルの範囲に結界を張っている。確率操作の影響範囲と、魔物避けのためだ。冒険者としての報酬は、ほぼ全て自宅に注ぎ込んでいる。水道はどうやって引いたんだ?って日本人は思うかもしれないけど、全部水魔法で解決出来る。
排泄物の処理も風魔法で密閉、乾燥させられるし、魔法があれば、何でも出来る。
つまり、生活水準は元より高いのだ。
私がぼけ~っと次はどこに狩りに行くかを考えていると、インターホン(結界に物が触れた魔力の振動)が鳴ったので、使い魔を向かわせる。
ゆったりとした時間。
もう少し、こうしていよう。
ーーーーーーーーーー幼少期 冒険者登録編 End
※打ち切りではありません。
第8話とあとがき①の連続投稿になります。
その次の更新からは15歳のエリーの物語です。




