第七話 報告と再会
私は無事、ガバメントリザードの駆逐を完了した事を依頼主に報告していた。
「いやあ、助かった。ひとまず、確認のために坑道の状態を見に行きたいんだが」
「ええ、確認は必要ですよね。全ての個体から魔石を抜き取っているので、大丈夫だと思いますが、私もご一緒します」
「討伐数も正確に出さんと金が出せんからな、がははっ」
打算と出さん、駄銭と出せんか。オヤジギャグ乙。
私はハハハと乾いた笑いを漏らす。
「それにしても、素材は本当にこっちでもらっちまって良いのか?」
「ええ、最奥でドラゴンっぽく進化していた個体の分だけ頂いたので。ガバメントリザード自体には興味ありませんし」
「そうか」
もうそろそろ正午か。
「お昼ご飯食べながらで良いですか?」
リザードの数を確認している鉱山の現場監督っぽい髭モジャのオジサンに声をかける。
「おお、良いぞ。魔物は全部ヤッたんだもんな」
亜空間収納からサンドイッチの入ったバスケットを取り出すと無属性の魔力操作で透明な机を作り、その上に置く。オジサンはこっちを見てないので、やりたい放題である。
たまごサンドにハムオニオン、最後にパン耳ガーリックバターラスクを出した所でオジサンにバレた。
うん、ニンニクの匂いは流石に気付くね。
欲しそうにしてるので、ラスクを渡す。
「悪いな、旨そうな匂いがしたもんで、つい振り返っちまった」
「まあ、美味しいものは正義ですから」
食べ終わるとオジサンが目を離した隙にバスケットを亜空間に仕舞う。
「全部で39体だな。よし、この内容で問題無い。君も確認を」
依頼達成書類。報酬はギルドから天引きされた後になるので、この書類を出すとギルドから支払われる。その後、依頼人からギルドに支払いがあるという流れだ。
「ありがとな!来た時は、こんなチンチクリンに何が出来んだって思ったが、まさか全滅させてくれるたぁ恐れ入った。何かあったらまた頼むわ」
「はい、こちらも旨味があったので、また是非」
こうしてオジサンと別れた後は、また走り出す。
来た道を戻るだけだから3時間の道のりだ。
夕方には街に着くだろう。
30分程走ったところで馬車とすれ違った。普通ならば気に留めることも無いのだが、声をかけられた。
「エリナレース!」
「え?」
自分の名前を呼ばれては無視するわけにもいかない。
振り返るとテラートさんがいた。
本当に来たんだ……。
日本で言う所だとストーカーだけど、この世界だと馬車を借りる事自体が新幹線のグリーン車並のお値段。
「テラートさん、一応言っておきますが、お礼をするつもりはありませんよ。私は拒否したはずなので」
「ああ、僕が勝手に来てしまっただけだ」
「私は依頼を達成したので帰る所です。では」
馬車はまっすぐの道には強いのだが、今から来た道を戻るとしたら反転させる必要がある。今がだいたい午後1時、テラートさんが朝私が出た時間に街を出て来たなら6時間の長旅である。ここから馬車を反転させて帰るのだから、さらに6時間。ほぼ1日丸々使ってしまう。
でもまあ帰って来たら一声くらいかけよう。この幼い体を心配して馬車まで出そうと言ってくれたわけだから。
そうして、私はまた駆け出す。生き急いでると言われてもしょうがない。私はなるべく多くの魔石を吸収する必要がある。
◇ ◇ ◇
「これ、依頼達成の書類です。処理お願いします」
「はい、確認しますね」
アジュは目の前の小さな冒険者から達成報告を受けていた。
まず、他の受付嬢からの引き継ぎがされているかの確認、次いで引き継ぎが無ければ今日受注された書類なので、そちらの確認。
て、あれ?
ガバメントリザードの討伐って確か、過去何度か失敗してる依頼で、魔物が統率された動きをするから上位種の存在が危ぶまれる、とかでプラチナランクに引き上げる予定の案件じゃなかったっけ?
あと、これ今日受けた依頼……今日達成したってこと?馬を走らせて往復したにしても早すぎる気がするんですが……。
「エリナレースさん、これって今日受けた依頼ですよね?どうやって今日中に達成したんですか?伝説の転移魔法ですか?」
「ああ、聞かれると思ってたんですけど、転移なんて出来ないですよ。ただ速く走っただけです。頑張りました」
「あ、そうですか」
いやいや、速く走ったって!?冗談ですよね?
「あ、あと依頼中にガバメントリザードの上位種が出ませんでしたか?」
「出ましたよグレーターガバメントドラゴンでしたっけ?リザード達が騎士団みたいに整列してましたね」
あらら、これはギルド側のミスですね。
ギルマスに審議をお願いする必要がありそうです。場合によっては違約金が発生しますね。
「申し訳ありませんが、この達成書類、一旦ギルマスに見せて来て良いですか?報酬の上乗せが発生する可能性がありますので」
「はい、大丈夫です」
「では、そちらのテーブルでお待ちください」
この時間に報告しに来る冒険者はほとんどいないので、悠々とカウンターを離れるとギルドマスター室に書類を持っていく。
軽くドアノッカーでドアを叩くと中から「入れ」と声が聞こえる。
「おう、アジュか。どうした?」
「エリナレースさんの受けた依頼で問題がありまして、ギルド側のミスでプラチナランク依頼をゴールドランクで貼り出していたみたいです。達成報告を聞いてから気付きました」
言いながら達成書類を渡すと
「アイツ、普通にプラチナランクの依頼達成してきたのか……」
「グレーターガバメントドラゴンがいたそうですよ」
「は?5歳でドラゴンスレイヤーか?」
「今日受けた依頼を今日達成してきたみたいです」
「は?ま、まあ……それはいいや。ひとまず、調査と依頼のランク査定はギルドの仕事だ。依頼人にはこのままの額面で良いだろう。問題はアイツか」
「経緯説明をして違約金を支払うのでしょうか?」
「……」
ギルマスは少し考えると
「いや、ランク昇格リストに入れる。経緯は説明してやれ。金に靡かなそうだし、物にしても何やりゃ良いのか分からん。入る時にやたらと高ランクに拘ってたからな、ランク上げてやるのが一番だろ」
「わかりました」
階下に降りるとエリナレースさんは座ってギルド案内に目を通しているようだった。
カウンターには人が……。
「お待たせして申し訳ありません。ご要件をお伺いします」
「ああ、少しギルマスに用事があって来ました。お待ちかねの錬金術師が来たとでも言えば分かるかと思います」
「わかりました。先にお待ちの方の対応がありますので、もう少しお待ちいただけますか?」
「ええ」
カウンターでお待ち頂いてエリナレースさんの所へ向かう。
「すみません今日私以外いなくて」
「いえ、ワンオペお疲れ様です」
事の経緯を説明するとエリナレースさんは了承してくれた。
「ランク昇格には何か試験的なものってあるんですか?」
「いえ、今回はプラチナランクの依頼を完璧に遂行されたので、そのままゴールドに昇格です。本来は入会時と同じ模擬戦があるのですが、ギルマスを倒しちゃってるので免除ですね」
「ランクじゃなくて欲しい物品をギルドが持ってる場合はそれでも良いんですか?」
「はい、ですがギルマスは欲しい物なんて有るのか分からないからランク昇格が無難だと言ってました」
「もし、私の欲しい物が貰えるなら、ランクは上がらなくても良いんだけどな」
「なんですか?ギルドで用意出来るなら、そちらでも大丈夫ですよ」
「スキル封じの魔導具」
「スキル封じですか」
そんなもの何に使うんだろう?と考えていると、先程カウンターにいらっしゃった自称錬金術師さんがこちらに歩いて来ました。
「お嬢さん、今なんて言ったのかな?」
私の勘違いじゃなければ、エリナレースさんが一瞬驚いた様な顔をしたけど、知り合いなのかな?
「スキル封じの魔導具です」
「何に使うのか聞いても?」
「自分のスキルを封じるためです」
錬金術師さんとはお知り合いでは無かったのですね。でもエリナレースさんの答えが納得いったのか、錬金術師さんは頷いてます。
「魔導具は私が用意してあげるから、ランク昇格すると良い。済まないが先程の会話は聞いていた。若いうちにチャンスは掴むべきだ」
「では、私はギルマスを呼んできますね」
最初からギルマスが対応してくれれば、全部上手く回ったのでは?と思いつつも私は呼び出した後カウンターに戻るのだった。
◇ ◇ ◇
まさかスキル封じの魔導具とはね……。
師匠が夢見た物、それをこんなに小さな女の子が欲しがっている。嬉しいけど、なんか複雑だ。
「お嬢さんはちなみにどんなのが欲しいかな?指輪とかネックレスとか色んな魔導具が有るんだけど」
「いただけるだけで凄く嬉しいです。強いて言うのであれば腕輪ですかね常に身に付けておけると思うので」
「いいね、実用性重視だ」
「私はエリナレースと言います。クリスタリア・アルケミストのレフィア様ですよね?つかぬことを聞いてもよろしいですか?」
え?何で……。
このギルドに来たのはもう100年以上も前だ。
知ってる人は少ないだろうし、そもそも見た目で言い当てられるものだろうか?
この子、何者?
「こ、答えられる範囲でだけだけど、それで良いなら」
「ありがとうございます。では」
ゴクリ……
いったい私に何を聞こうと言うのかな?
「レフィア様は何で改名されたのですか?」
は?
一瞬質問の意味が分からなかった。
改名した?いや、帝国ではずっとこの名前だし、改名も何も……。
困惑する私を前にフフフと笑う少女。何か怖い。
「私ですよ、フィーヤ」
ま、まままさか!
「師匠!?」
女の子は頷くと
「師匠ではなく、これからはエリーと呼んでくださいね?冒険者の先輩?」
驚愕の再会。




