第六話 超直感の追跡者
冒険者登録をした翌日から、私は依頼をこなしていった。
私はシルバーランクで、1つ上のゴールドランクの依頼まで受けられるので、特に困ることは無かった。
ただ……。
何かと付いてこようとする人が1名。
そう、あの残念イケメンだ。
テラート・アイゼンスター、騎士風の格好で正義感溢れるイケメンだが、遭遇する度に、なんか闇を抱えてそうな嫉妬の目線を感じるときがあった。
今日も少し遠出ではあるけど、南東のキーリムカ鉱山に居座っているガバメントリザードの討伐依頼を受けたら、
「君だけじゃ危ないから付いていこう」
とか言ってくる。正直物腰からは強さが伝わって来ない。
「あのー、テラートさんて足は速かったりします?あと作業好きですか?」
「……僕はそれなりに速い方だとも、作業は……あまり好きじゃないかな」
「えー、じゃあ、ダメです」
「ええ?」
そもそも。
「私が今日何を狩りに行くか知ってますか?」
「ガバメントリザードじゃないのかい?」
「違います」
この人は私が鉄蜥蜴1体に手こずると思っている。
実際は魔石の回収込みで1体につき30秒だ。依頼の条件でリザード素材は依頼主へとなっていて、討伐数歩合制なので、何体倒すかが重要だ。
それに私の目的は魔石を吸収して寿命を増やす事だ。他の魔物も蹂躙する予定だし、付いてこられると困るし足手まとい。
「迷惑なので、付いてこないでくださいね」
彼の中にある正義感が凄く不快だ。
目の前にいるのが、ただの5歳児だと思っている目で私を見ている。
ランク制度的に見ても、私がシルバーで彼がゴールド。
高ランク冒険者が世話を焼くというのは確かにわかるけど、彼の場合は過剰。こちらが断っても付いてこようとする。
本来馬車で移動するのだが、私には『剛健』がある。このスキルには疲労回復効果は付いていないけど、薬師時代に作った疲労回復ポーションのレシピが頭に入っていたので問題ない。
荷物はあまり大っぴらに出来ないが、『亜空間収納』という魔法があって、走るのに邪魔な荷物は全てそちらに入れている。
子供の歩幅というのは残念だが、風魔法で空気抵抗を無くす事で自動車並の速度を実現している。
馬車でも早々追いつく事は出来ない。
「良ければ私の私財で馬車を手配するよ」
余計なお世話。
親切心から来るものだろうけど、こちらの話を聞いていたのだろうか?返す言葉も思いつかなくて、無言で首と腕を左右に振り、遠慮する旨を伝えると出口へ。
私は冒険者ギルドを出ると走り出す。
絶対に付いてきそうだったので、振り切る事にした。
往復日帰りで家に帰って寝たいんだから、本当に放って置いて欲しい。
馬車で行くなんて事になったら、道中馬を休ませたりするため3日間コースだ。
街の門で最低限の挨拶をするとひた走る。恐らく60キロは出てるはず、今生では女神の元に戻るつもりが無いため、自重を辞めている。あの女神の能力はだいたい見当がついたけど、その能力を使って娯楽感覚で他人の人生をもて遊んでいる所が気に食わない。能力の1つは記憶の読み取りだろう。
会話していても心が読まれている気配がないため、転生したときに人生丸々1回分の記憶を見られているのだと予想できる。私が転生する事自体を「楽しみ」としている悦楽のモンスターだ。
今生で『不老』を獲得すれば、あの女神の娯楽を1つ奪ってやれる。
それに、こちらに付与したスキルですら把握していない様子だった。
そんなわけで、今までの7回の転生では、ある種の手加減をしていた。その人生毎に、そこで身に付けた能力だけで済ませる。そうする事で『円環記憶』のスキル効果を女神に誤認させられる。
手加減はしない。
キーリムカ鉱山に向かって全力疾走。
30分毎にポーション休憩を挟みつつ(走りながら疲労回復ポーションを飲む)鉱山へは3時間程で着いた。
坑道の外で依頼主のおじさんに依頼内容の確認をしてから突入。
ガバメントリザードは全身が鎧のような金属で覆われており、斬撃や風属性魔法に耐性がある。
こいつらは所謂量産型。後ろに控えている魔物こそが本命。
ギルドの多くの情報だと、はぐれた数体が人里に現れるのが常識らしいけど、例外的に今回は親玉がいて統率が取れている。
テラートは挑むのが1体だけだと思っていたが、私はそもそも群れを相手にする前提で来ている。いくら対策をしていても、彼の実力では轢き殺されるだろう。
坑道に入ってしばらくした広場に10体。
見つかった瞬間、鳴き声によって増援を呼ばれるため、物陰に隠れて機を伺う。リザード系の魔物は視覚と触覚で敵を探知する。諸説あるが、空気の振動や湿度を鼻先の触覚で感知するらしい。
(『想身変容』)
このスキルは姿形を自在に変えることが出来る。
が、発動中は微量の魔力を消費し続けるので、今の魔力量だと保って2時間程度。
私は坑道の壁に擬態する。
本命は親玉なので一旦隠れてこの場をやり過ごす。
同じように坑道の数箇所を素通りして奥に進むと、坑道とは思えない広さの空間に出る。
その中心にいるのは巨大な岩の塊。寝ているのだろうか、身体を丸めた状態で全体が上下に嚥下している。
グレーターガバメントドラゴン、私の本命でリザード達の親玉。命令を出しているコレを倒さない限りリザード達は連携して来る。
私は堂々と敵の身体の急所である逆鱗?に近づくと特大の魔法を放つ。
(『タイダルフレア』)
やっていることは闇討ちであるが、これで起きないのであれば、眠ったまま逝くことになるだろう。水、風、無の魔力を網目状にしたものを高速回転させる。この魔法の原理としてはドラム式の洗濯機の内側によく切れる刃が付いているようなもので、回転している球の外側のほうが威力が高い。この球体を魔力を多く注ぎ込んで大きくしていく。
破砕音と共に首無しドラゴンが完成する。
名前はドラゴンであるが、所詮は中級魔物の上位種、本物に比べたら柔らかいのだろう。
よく考えれば、ゲーム知識で逆鱗狙いという考えでいたけど、正式なドラゴンじゃないのだから、弱点が違うのでは?
まあ、頭吹き飛ばせば関係ないよね?
『タイダルフレア』の良い所は、鱗や牙などの硬い素材は魔法の中心に集まって、殆ど傷の無いそれらが後に残ることだ。
私はメロンサイズの魔石を変換、吸収すると、それらの素材(遺骸)を収納する。
魔力の回復を待つために、少し休憩しようかという所で、統率者を失ったリザード達がなだれ込んでくる。たぶん、この空間が進化条件の1つなのだろう。リザード達は自分より前に出た他のリザードに尻尾を齧ったり、体当たりしたりと攻撃を加えている。
こちらとしては待っているだけで次々と標的がやって来るので、好都合だし、お互いに足を引っ張ってくれているのは倒しやすくて助かる。
だけど、魔石の回収が最後になるから、時間で作業を切り上げられない。勿体ないから残したくない。
さて、先頭がそろそろ魔法の射程に入る。
私はその後の後片付け1時間で39個の魔石を吸収するのだった。
◇ ◇ ◇
僕はテラート・アイゼンスター。
ゴールドランクの冒険者ではあるが、このランクは飾りだと思っている。
なぜなら、ランクが低くても見習うべき人はいるし、その人達に教えられた事を守っていたからこそ、僕は強くなれたから。
その日の朝、いつも通りの毎日だけど、何かが起こる予感があって冒険者ギルドへ行ってみると、山歩きを僕に教えてくれたヘイゲルさんが来ていた。挨拶に行くと、娘さんを紹介された。とても可愛らしい、でも何だか物静かな女の子だ。聞けば冒険者登録をしに来たという。
僕も家のしきたりが嫌で飛び出して10歳で冒険者になったから、若い冒険者がいかに大変かがわかる。困っていそうなら相談に乗ろうと思った。
ヘイゲルさんがあまりに自分の娘さんを贔屓目で見るので、嫉妬心からか昔の冒険者になった時の僕の話をすると、哀れむような目で見られた。
エリナレースはまだ5歳だと!?
なんというか、5歳の子供ってもっと粗相がないというか無邪気というか、そういうイメージなんだが……。
目の前の黒髪の女の子を見る限り、凄く落ち着いている。
ッ!?
目が合った瞬間、はっきりとこの娘には逆らってはいけないと感じた。
僕はあまりの衝撃にしばらく動けなかった。
エリナレース、彼女が登録時の模擬戦に向かったあとでようやく動けるようになった。
「テラートさん、大丈夫ですか?さっきからずっとカウンター横でぼーっとしてましたけど」
「ああ、すみません。恥ずかしながら、ちょっとエリナレースさんと目が合っただけで動けなくなってしまって」
「ああ、あの子プラチナランクの方からの推薦もあるので、かなり強いんじゃないでしょうか?」
ああ、僕は思い違いをしていたんだろう。年齢を聞いて侮った瞬間に実力差を感じて現実に引き戻されたようだ。
受付嬢のアジュさんに「待ってて貰ってすみません」と言うと「これから休憩なので奢ってください」と言われる。確かにお昼時だ。
昼を奢るだけで僕の醜態がチャラになるならお安い御用。
食堂に着くとそれぞれで適当に料理を取って空いている席に座る。
「アジュさん、僕の直感ってどのくらい当たると思ってます?」
「えーと、あれですよね?アイゼンスター家は星読みの家系で未来を予言するんでしたっけ?」
「そうですね。ですが、星読みというのは単なる占いです。星の配置から読み取れるものというのは限られてます。それで、ウチの血筋には時々『超直感』という能力を受け継ぐ子供が生まれるんですけど、たぶん僕はその1人だと思ってます」
「うーん、聞く限りでは未来を予知できるって感じなんでしょうか?『超直感』を受け継いでると思ってるって事は、テラートさんの直感は結構当たるんですか?」
「実は、今まで自分の直感を信じてきて、外れたことって無いんですよ」
「それは凄いですね!」
「今日の朝、何か起こると思って直感を信じて冒険者ギルドに来たら、エリナレースって子と運命的な出会いをしましたし、さっきは目が合った瞬間に、直感的に逆らってはいけないって思わされましたよ」
「なるほど、それでテラートさんは動けなくなったと。テラートさんの直感を信じるなら、私達もエリナレースさんに気を使っていく必要がありそうですね?」
そんな話をしていると数人のアイアン冒険者が雑談をしながら食堂に入ってくる。
「いやあギルマスの剣が新入りの槍を爆散させたの見たか?あれ、どうなってんだよ」
「え?あれギルマスがやったの?俺にはあの女の子がわざとそうしたように見えたぞ」
「それより、まさかその後ギルマスがぶっ倒れちゃうとは思わなかったな」
「それそれ、あの子高ランクスタートになるんだろうな。パーティ勧誘しようと思ってたけど、残念だよ」
僕はアジュさんに戸惑った表情を送る。まさかギルマスが模擬戦で負けた?
アジュさんも両手を口に当てて驚いている。
ギルマスは元プラチナランクで土龍の討伐を成し遂げた、伝説と言っても過言ではない人だ。
「あ、ごめんなさい。休憩終わってしまうので、そろそろ行きますね。お昼ありがとうごさいます」
「ああ、良いんです。こちらこそ有意義な時間をありがとう!」
アジュさんは交代の時間か。何だか今日は呆けてしまう事が多いな。明日からエリナレースさんも依頼を受けに来るだろうし、今日は帰って、また明日来るか。
翌日、僕は朝から依頼掲示板の前で吟味しているエリナレースさんを見つけた。どうやらガバメントリザードの討伐依頼の詳細を見ているようだった。ガバメントリザードは確かゴールドランク以上の依頼のはず。やはり、彼女はギルマスのレイヴンさんを倒したのか。
「君だけじゃ危ないから付いていこう」
カウンターに依頼書を出した彼女に、気付けば僕は声をかけていた。いや、何で上から目線になってしまったんだ?自分でもわからない。
彼女は僕の全身をくまなく視線でなぞると
「あのー、テラートさんて足は速かったりします?あと作業好きですか?」
と言った。鍛えてるから足は速い方だけど、作業好き?何か関係あるんだろうか?
「……僕はそれなりに速い方だとも、作業は……あまり好きじゃないかな」
「えー、じゃあ、ダメです」
「ええ?」
なんだか、断られたらしい。
「私が今日何を狩りに行くか知ってますか?」
「ガバメントリザードじゃないのかい?」
「違います」
はぁ、と彼女はため息をつくと
「迷惑なので、付いてこないでくださいね」
何か迷惑な事があるのだろうか?
でも、この子の実力を見たい気持ちがある。
そうだ、鉱山に移動するにも馬車がいるだろう。
彼女は昨日冒険者になったばかりで資金がないはずだ。なら馬車を手配すれば……。
「良ければ私の私財で馬車を手配するよ」
それを聞いた彼女は、遠慮するように全力で否定の仕草をする。何だろう、僕は何か失礼を働いてしまったのだろうか?馬車無しでどうやって依頼先まで行くというんだ。
彼女は踵を返すとギルドから出て走り出した。
僕は慌てて彼女に続いてギルドから出ると彼女の行き先を見つめる。
え!?
僕が見た頃には視界の先で彼女は米粒程の大きさになっていた。速すぎる。
僕は馬車を手配して彼女を追う事にした。
「待ってろ、すぐに追いついてやる」
ストーカーかな?
後半テラート君の超直感は発動せず。
時に人は1つの事を考えると、周りが見えなくなりますね。
エリーを見ていたいという願望に突き動かされた青年は直感よりも願望を優先してしまったのですね。
テラート君、残念。




