第四話 父物語
俺はヘイゲル。シルバーランクの冒険者でララリリダム盗賊団というパーティに所属していた。
していた?と過去形なのは、つい最近脱退したからだ。
自分で言うのもアレだが、小心者の俺は人助けとか、そういう真面目な事をするのが苦手で、人前で誇れるものもなかった。いつもパーティの端っこにいる、なんか冴えないオジさん。そんな感じだった。
だが、今回は違った。
森での探索依頼中に籠に入った赤ん坊を見つけた。傍らには綺麗な文字で「どうか、死なないで」と書かれていた。捨て子、親が財政難か何か止まれぬ事情があって捨てていったのだ。
「ああ……可哀想に……」
自然と声が出て、次の瞬間には籠を手に持っていた。なんだか不思議とこの子を助けたいと思った。
森を出て、頭目のグレイに声をかけた。
「おい、ヘイゲル、誘拐でもしてきたのか?」
「違うんです、親方」
「何が違うんだ?」
「魔物の出る森に、捨てられてたんです」
親方の軽い舌打ちと共に道が開け、後ろを付いて行く。パーティとは名ばかりの構成員の数、ブロンズとアイアンだけ見ても、それぞれ6人、8人。
ちなみに親方と呼ぶのは面倒見の良さからで、加えて本当の盗賊団と勘違いされないためでもある。
「おーい、ナターシャいるかー?」
「いないー」
「あ?いるじゃねえか」
ああ、いつものナチュラルセクハラ出そう。
親方ってノンデリの塊みたいな人だからな。
「おまえ、おっぱい出る?」
パンッ!
俺でも予測出来ましたよ……。
◇ ◇ ◇
「親方、今までありがとうございました」
「ああ、お前が抜ける理由がまさか赤ん坊だとはな。自分で育てられるのか?」
「いえ、一旦孤児院に連れていきます。身元が分かる可能性がありますし……。この子が5歳になっても親が見つからないようなら、養女にしようと思います」
「そこまで考えてるなら、何も言う事ない。母親も必要なんじゃねえかなって思うが」
母親か。俺ももう30だし、身を固めろって言われてるんだろうな。
「お前、助けたは良いがこの2日間、ずっと『この子』って呼んでるぞ。いい加減名前付けてやれよ」
「それが、良い名前が思いつかなくて……」
「それなら、私達の意見取り入れてもらおうかしら?」
親方と話していると後ろから声がかかった。副長のルイズである。
グレイとルイズは夫婦だ。だが、子供がいるという話は聞かない。
「良いんですか?」
「まあ、俺らの子供もなかなか出来ないしな。前々から名前だけは山程考えてる」
「エース、なんてどうかしら?って思ったけど、冒険者になる前提の名前よね?これ」
「女の子なので、可愛らしいのが良いですね」
「リナ、とかはぴったりだと思ったが、今考えるとパッとしないな」
3人であれでもない、これでもないと唸っていると
「エリナレース。これなら全員の意見を入れて聡明な女性という様な響きになるだろう」
背後から現れたのはダルバだった。
いや、いつの間にかそこにいた気配を消すってレベルじゃねえぞ。
「私も賛成、その名前なら小さい内はエリーって呼べば可愛い」
ナターシャも背後から現れる。お前は後ろで寝てただけな。つか、いつもこいつ寝てるな。
でも、この2人はウチのまとも枠だしな。いや、俺は抜けるから、もう『ウチ』じゃないか。
◇ ◇ ◇
気付けば盲目に彼女、エリーの事を本当の娘の様に扱ってきた。だが、エリー自信はまだ1歳にすらなっていないのに言葉が分かるようだった。
おしめを変えようとすると、慣れない事をするなと言わんばかりに俺の腕に蹴りが入り、エリーは魔法をつかって自分で交換する。
ウチの娘は天才か!?
というか中に大人入ってないか?
だがまあ、本当に手のかからない子である。実際エリーは夜泣きしないし。1日3回、自分でミルクを作って飲む。便が必要なら魔法で済ませる。
アレ?俺いる?
翌日の朝、ビスマスに到着した俺は孤児院を訪ねた。別に俺の元に置いていても良いのだが、本当の親が現れれば、その方がエリーのためになる。
ルチアに事情を説明して引き取ってもらう。
教会に併設された孤児院で子供の世話をしているのは、俺の幼馴染で同じく教会に世話になったルチアだ。
「え、どういうことなの?」
俺がエリーを抱いて教会に行くと唖然とした顔でルチアに話しかけられた。まずはお祈りにと思って教会に来たが、子連れは不味かったのだろうか?俺が事情を説明すると、いつも通りに戻っていたが、何か勘違いでもしていたのかも知れない。
「エリー、時々見に来るから、シスタールチアの言う事をちゃんと聞いていい子にしてるんだぞ」
エリーはやはり言葉がわかるようで、静かに頷く。
まあ、結局毎日会いに行った。
自分の子供でもないのに会いたいと思った。
◇ ◇ ◇
「ヘイゲルおじちゃん、狩りを教えて?」
エリーが3歳になった頃だ。急に言い出した。
でも、まだ早いと思ったから、4歳になったらという条件を付け、それまでは狩りのやり方を口頭で教えると約束した。
それぞれの動物の生態や魔物という恐ろしい戦闘力を持った生き物の話。
とても子供に教える内容じゃないが、昔、冒険者の先輩達に教わったことが今に活きる。
「エリー、たまにはおじちゃんにエリーの秘密を教えてくれないかい?」
俺は話の流れでエリーに聞いた。ずっと気になっていた事だ。毎度さり気なく聞くのだが、
「おじちゃんが教えてくれてる分は返さないと割に合わないよね、いいよ!何が聞きたいの?」
てっきり俺は「なんのこと?」って、はぐらかされると思っていたが、教えてくれるらしい。
「じゃあ、一番の疑問から。何で赤ちゃんの頃からエリーは大人への気遣いが出来たんだ?」
自分で言ってて可笑しいが、魔法や泣かないことよりも、たぶんそっちが一番この子の危うい所だ。
「おじちゃん……その質問は反則だと思う。……まあ、誰も信じないだろうし、話す」
「俺は信じるよ。エリーを拾ったのは私だ。私は今もキミを森で拾った事を後悔してない。だから、信じられるんだ」
「なんか、おじちゃんが真面目な顔してるの、変な感じ。わかった、じゃあ全部信じてね?」
エリーは私の質問したことに対してではなく、その質問には前提がある、と言って理解不能な事を語り始めた。
「だから、おじちゃんが私を助けてくれたときの記憶もあるし、魔法も使える。なら、少しでも私のお世話が楽になるように私も動くべきでしょ?そしたら自然とあんな感じに」
「つまりエリーは内面は大人で、前世からスキルと記憶を引き継いでいるから強いってことかい?」
「魔力量も引き継いでるよ。私は目的を達成するために魔物をいっぱい倒さないといけないの。だからおじちゃんに狩りを教わるっていう口実で外に出て魔物を狩りたいの。あ、ヘイゲルさんって呼んだほうが良い?」
「いや、おじちゃんで良いよ。5歳になったら俺の養女にって思ってたけど、あまり縛らない方が良いのかな……」
「いや、むしろ冒険者のおじちゃんが育ての親なら、結構自由聞くと思うし、強くなっても不自然じゃないから……」
「そうか、実の親が現れなかったら、その時はよろしく」
「うん。あ、私の事は説明しようとしないで、天才って事にしといて!絶対に言い訳難しい」
「そうだね」
さて、これから大変だ。俺はなんて天才を拾ってしまったのだろう。




