第三話 冒険者登録 後編
今日も冒険者ギルドは平常運転。
朝方の受付は混み合うが、お昼のこの時間帯はそんなに混まない。交代で休憩を取っているけど、私が最後。私は受付嬢をしているシドニーといいます。一番の後輩だから、お昼何食べようかなと考えながら、やさぐれたブロンズランクのザコ様の相手をして、しばらくは手元の書類の仕分けをするんです。
「あの、すみません。父から報告してこいって言われたんですけど、模擬戦終わりました」
「ああ、早かったですね」
エリナレースさん5歳。カウンターと同じくらいの背丈の黒髪の女の子で、冒険者になりたいって登録しに来るには無理がある可愛らしさを持っている。にしても早かった。
お父さんはシルバーの方で……この方、お子さんいたんですね。
今日は監督官が他の方を見ていたので、たまたま代理でギルマスにお願いしたんですが……。
そこまで考えてから私は気付いた。この子が瞬殺されたにしては彼女、泣いてないし、肩で息をしているといった疲れた様子もない。
ギルマスだってこんな幼気な少女を一蹴するような性格ではないし、「実力を試すために少し長く模擬戦をしろ」と指示を出すくらいなんです。
「すみません、槍1本ダメにしてしまいました」
「いえいえ、元々使い道の無い物を置いてるので、壊しても大丈夫ですよ。……ちょっとお聞きしたいのですが、監督官の方は?」
大人びた話し方をするしっかりした子ですね。
この子、一応はプラチナランクの方の推薦で登録しに来てて……。
「手加減したのですが、倒れてしまって。あ、ですが治療もしたので大丈夫です!」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
手加減?……治療?
え、ええええええ!
あなたの相手したのギルマスですよ!ちょっと引退して後輩育成に力を入れてる元プラチナランクですよ!
「そ、そうですか」
私は驚きを堪えるので精一杯でした。
◇ ◇ ◇
私が受付嬢と問答をしていると、義父さんと監督官のオジサンが帰ってきた。なんだかオジサンがお昼奢ってくれるらしい。実に太っ腹である。
なんでも、オジサンを倒せる人間自体が珍しいから、ご褒美らしい。
「シドニー!お前ももうすぐ休憩だろ、お前の分も出してやるから一緒に食え!」
「は、はい!」
シドニーさんて言うんだ受付嬢。にしてもオッサン2人と子供1人と一緒にお昼か……。受付嬢も大変なんだね。
ギルドに併設されている食堂は基本的には一般向けの普通の食堂らしい。冒険者は朝と夜に利用が多いが、宿で食事をする者も多く、冒険者相手だけに運営するには少し収益が足りないそうだ。
ギルドから直接行ける通路を通り、食堂へ向かう。おお!広い!なんか某ランドに行った時みたいな興奮。何度も転生した割に、狭い部屋に閉じこもってばっかりだったから、こういうのが普通に嬉しい!
「好きなもん取ってこい。席はここだ」
「エリー、俺の分も取ってきてくれるか?座席で待っているから」
「はい、父さんは私と一緒で良いですね?」
義父さんは頷く。
「父がいるので、シドニーさんも料理取りに行きましょう!」
「じゃあ俺も行ってくるな、ヘイゲル」
ビュッフェ形式だ。私は一番大きなお皿に肉、肉、米、肉。
野菜も摂らないと駄目だと思いながらも、誘惑に勝てず、好きな食べ物を盛ってしまう。
食べきれなかったら義父さんに食べてもらえばいいかな。
オジサンとシドニーさん凄くバランスよく取ってきている。それを見ても構わずに私はハンバーグ、カレーピラフ、ソーセージ、ボロネーゼ、スクランブルエッグにシウマイのような何か、緑色の物が入ってない野菜炒め?を直径50センチ程のお皿2皿に大盛りにしている。
なんか恥ずかしいけど、子供だから良いよね!
「お待たせ!」
「それ、全部食べるんですか!?」
「張り切っちゃいました」
それぞれがそれぞれのいただきますをし食べ始める。義父さんはちょっと顔が引き攣っているけど、まあ大丈夫でしょ。
「エリナレース、食いながらで良いから聞いてくれ。この後、訓練場に移動して魔法を撃って貰う。近接戦闘よりも、お前は遠距離戦の方が得意なんじゃないか?」
私は首を傾げる。どっちが得意かと言われても、元々魔力量は多く、最近はマナを吸収することで上限がかなり上がっている気がするし、近接系は常に強化が入っている。私限定の条件で確率操作を使えば魔力は大量消費してしまうけど、絶対に回避や命中が働く。確率操作も魔法技能とすれば魔法が得意と言える。けど、魔力を消費してしまえば近接戦をするしかなくなる。うーん……。
「どっちか分からないです。相手によって、どっちで戦うか決めてるので」
「ふむ、俺と戦ったときは魔法だったが、あれはなんでだ?」
「あれはオジサンがデッカイから、力負けすると思ったので魔法を」
「「お、おじさん」」
何かツボったのか義父さんは笑いを堪えている。
同時にシドニーさんはあたふたし始めた。
何があったの二人とも?
「あー、そういや自己紹介もしてなかったな。スマン。まあ、オジサンことギルドマスターのレイヴンだ。もう冒険者は引退したが元プラチナだな」
「ああ、だから二人の反応がおかしいんですね」
「まあ、先に言ってしまうが、俺を倒したお前は高ランクからのスタートが確定している。だが、さらに上なのかは決めかねている」
じゃあ、これからどうするかで決まるのかな?
でも、義父さんが言ってたけど、プラチナは近接も魔法もできる死線をくぐり抜けてきた人。
私は死線くぐり抜けてきたかな?8回死んではいるけど。
ジュエルランクは扱い切れない人だっけ?
「そこで訓練場で魔法を撃ってもらおうってわけよ。見た目派手なやつでも、意味のわからないやつでも良い。正直言って俺と同じプラチナにしたとしてだ、俺の方が明らかに弱いんだから同ランクなのはおかしいだろう!そういう意味で判断基準は必要だ」
「確かに……。騒ぎはしませんでしたけど、結構見てる人いましたもんね。でも、たぶん遠目からだと、ギルドマスターの技か何かで私の槍が爆散したように見えたんじゃないですか?」
「まあ、そう見えててもおかしくはない。だが、その後俺はぶっ倒れてる。お前が年齢不相応の強さを持っている理由は分からんが、今まで問題が起きていない以上、その力の扱い方を間違った事に使っていない。つまり、信用出来るということだ」
レイヴンさんは義父さんを見て大丈夫だよな?という顔をしている。
「エリーの事は5年前からずっと見ていますが、とても良い子です。ただ、彼女が何処で何を覚えているのか、教えてもいない事を急に実戦するので、危なっかしくはあります。そこは、これからの信頼で少しずつ教えてもらいます。正式に家族になったのも昨日なので……はは」
頭をかきながら義父さんが苦笑いする。
目の前の二人は目を見開くと苦笑する。
「がははっ!やっぱり実の子供じゃなかったか……。お前がいつ結婚したのかとヒヤヒヤしたぞ。パーティを抜けたって聞いたのも5年くらい前だったが、そうか」
「私も今日お子さん居たんだってびっくりしましたよ。しかもギルマスより強いなんて……ふふふ」
まあ、義父さんが見た目的に奥さんいなそうなのは誰がみてもそうだろう。幸薄そうで盗賊みたいなひげもじゃ、でも似合わないくらい服装は整っている。
「父さん、髭剃ったら?その方がモテると思うよ」
「エリーまで?」
家族になったから遠慮なく言わせてもらおう。
まあ私が今ここにいられるのは義父さんのおかげだし、そんなには言わないけど。
「でも、お二人とも。父さんが私を拾ってくれなかったら森の中で魔物に殺されてたかもしれませんし。私から見たらこの5年間いっぱいカッコいい所もあったんですよ」
「エリー!」
抱きついて頬ずりして来ようとしてくるので顔だけは左手で止める。髭は嫌だ。
「こういう所、直さないとルチアにも愛想尽かされるよ」
その後、シドニーさんに私が、お互いに遠慮してなかなか進展しない両想いカップルの話をすると、沈黙のまま、居た堪れないおとうさんがそこには居た。
◇ ◇ ◇
訓練場に移動した私は、レイヴンさんから訓練場の説明を受ける。
100年近く前にこのギルドから排出されたジュエルランクの冒険者、クリスタリア・アルケミストの称号を持つレフィアさんという人が創った自己修復型建造物がこの訓練場。色々な部屋が種類ごと区分けされており、遠征訓練コースには沼地や砂漠といった地形変化まで再現されていて、こだわりを感じさせる。レフィアさん?どこかで聞いたような……まあ、いっか?
その中で案内されたのは的あてが配置されており、強度に特化した魔法実験室である。
「ちなみにエリナレース、何種類の属性が使えるんだ?雷と治癒はわかったが」
うーん、何て答えるのが正解なんだろう。私が幾つも魔法属性を持っているのは、女神に付けられた能力が属性の複合スキルだったから、それに依存している。本来、その属性を極めると生えるスキルを先に取ってしまったために、逆に属性が生えている。さらに言うと雷属性に関しては科学の領域で、存在しない属性である。不純物の多い空気同士をぶつけて振動と摩擦で無理やり電気を発生させている。レイヴンさんに放ったのはそれを魔力で導線を作って相手の身体に誘導するもので、心の中で唱えた魔法名は気分である。
まあ、既に数えられてるから雷も1カウントで数えようか、そうすると……。
「9種類ですね。たぶん」
何回も同じ属性を数えていないか指折り数えて確認する。無、水、火、風、雷、生物、闇、光、治癒。うーん土と空間は生物や闇と無に属してると思うからカウントしなくていいか。
「うん、5種類です」
ダメだ。サバ読んでこう、私は5歳。
「そ、そうか、お前が近接と魔法で悩む意味が分からん。そこまでいくと普通は魔法一択だろ……」
うーん、剣と槍は王国騎士団でやってたし、狩りは手斧だったから普通に今生は近接寄りだし、『剛健』スキルとその他魔法バフでゴリラ並の筋力は出そう。マナ吸収で魔力量も生命力も高まってるからどっちかは自分でもわからないかな。
「まあ今回は魔法って事で頼むわ」
「はい、的を撃ち抜く感じですか?それとも全力出します?」
「ああ、全力で良いぞ……。い」
レイヴンさんが何か言いかけた気がするけど、もう撃つ準備をし始めてる。
体内の魔力を凝縮していく。
殺傷能力なら風属性だけど、壁を壊すなら爆破。水圧でウォーターカッターとかやりたいけど、相当細い管を魔力で作ってそこに水を勢い良く通さないと行けないから手間なんだよなー。
今から唱えるのはイメージだけで組み上げた魔法的な何か。
両手を前に突き出し、着弾点を見据える。
(『プリズムゲイザー』)
キーーーン という
甲高い音と共に白い光源が収束していき、手のひら大の大きさになったかと思うと50m程離れた壁まで飛んでいき、当たる。
どがあああアオオオン!!
一瞬の閃光と爆風。
あ、まっず
(『ウォーターベール』)
私はとっさに自分とレイヴンさんの目の前に透明な水の膜を張る。
爆発地点から離れているから壁の破片が飛んでくるということはないけど、爆発の衝撃と舞い上がった砂ぼこりが水の膜の外で渦巻いている。
「はあ、嫌な予感がするわけだ。肩で息するなら全力出したって判るが、お前、涼しげな顔して障壁まで張る余裕あるのか……。それで全力だって?無理があるだろ」
どっちの意味だろ?もっとやって良かったの?
確かに全力じゃなくて全体の1割位にしたけど、ヘトヘトになるくらいに魔力使うのはヤダな。
「全力出して倒れるとご迷惑かけるので」
「ああ、……ホントに子供かよ」
小声で何か言われた気がするけど、私が気になっているのは壁がどうなったかである。まだ黙々と煙が上がっていて、壁の状態が見えないが、煙が向こう側にも流れているので、穴くらいは開いたのだろう。煙が段々薄くなっていく。私の魔法は科学的な観点から自分で作ったものが多いけど、この爆発は魔法的な爆発で、燃焼反応によるものではない。そのため、着弾点で爆発した痕には黒ずみなどの痕跡は残らない。爆発の威力で破壊したものは残るんだけど。見れば3メートル程の穴が出来ている。
「綺麗に穴開きましたねぇ」
「だな、というか何かおかしくないか?」
はて?
「何で直らねえんだ?この壁は頑丈なのもあるが、数百年前のジュエルランク冒険者が『自己修復』をかけてるって、さっきお前にも説明したよな」
「そういえば、そうでしたね」
クリスタリア・アルケミストのレフィアさん、だったっけ?
クリスタリアって部分がジュエルランクの称号とか異名みたいな感じで、アルケミストだから錬金術師って事だよな。
錬金術師のレフィア……レフィア……あ!
もしかして、レ・フィーヤかな?一つ前の人生で弟子だった子だ。
まさか、まさかね。そもそも国が違うし……。
「何か知ってそうな顔だな?」
この話をするには私が転生者であるということから話さないといけない。なら黙っておくに限る。
「わかりませんね。たぶんですけど、私の魔力が直そうとしてる穴の位置にあるせいで、直せないとか?」
まあ、本当は完全にぶっ壊しちゃったっぽいんだけど、修理費用請求とかされないよね?レイヴンさんが全力出せって言ってたんだし。
「で、ジュエルランクで登録出来るんですか?」
「いや、ダメだな」
え?
「ああ、ジュエルか見るって言ったのは俺が個人的に興味あっただけだ。自分以上の実力があるのはわかったし、実力の他にも何か隠してそうだしな」
「えー、嘘つき」
「まあ、晩飯も奢ってやるから勘弁してくれ、制度上仕方ないんだよ」
レイヴンさんが言うには実力で飛び級が許されるのはシルバーまでらしい。そこからは依頼を達成して信頼と実績を積み重ねるしかない。
依頼に関しては一つ上のランクまで受けられるから実質ゴールド。プラチナに同行するという形なら幾らでも上のランクを受けられる……え、ガバガバでは?
「え、ガバガバでは?」
「まあ、そう言うな。プラチナが依頼受けて、さらにソイツがゴールドランクのパーティ募集をかければ一緒になっちまうんだから」
おっと口に出てた。いけない、いけない。
つまり私の場合、オヤカタさんとルイズさんに付いていけば、実質プラチナまで行ける。
ジュエルは完全に指名なのかな?
「まあ、午前の分でシルバーでの登録は話通しといたから、受付でギルドカード受け取ってこい。あと、この訓練場は受付で許可章借りれば誰でも使える。いつでも好きにぶっ放せ。俺の耳には入るだろうから見物に来るけどな」
この人、一応偉いんだよね?
仕事は良いんだろうか?
「まあ、お前ならすぐに駆け上がるだろう」
私は受付でギルドカードを受け取り、待っていた義父と晩御飯もご相伴に預かるのだった。




