第二話 冒険者登録 前編
私とヘイゲルさんが家族になるパーティが終わり。今後どうするのかシスタールチアに相談していた。
「孤児院出るとしたら、私、冒険者になりたいんだけど。……そしたら父さんもパーティに復帰できるでしょ?」
慣れない「父さん」という言葉に自分でも少し戸惑う。そういえば、色んな国で生まれて転生してを繰り返してきたけど、父親がいた事ってほとんど無かったな。
「エリーまだ5歳でしょ?」
「歳は関係なくない?戦えるし、安全か危険かの判断も出来るよ」
私とルチアが話しているなか、義父さんは俯いて唸っている。
『想身変容』を使えばこっそりと登録しに行けるけど、家族には誠意を示しておきたかった。
「父さんもルチアを説得してよ。早く働けるようになった方が絶対に良いんだから!」
「ヘイゲル、よく考えて、エリーはまだ5歳。もっとやるべき事があるんじゃない?」
「何よ、やるべき事って。冒険者になってもできるでしょ?」
「お出かけしたりお出かけしたりよ。貴方達って狩りに行ってばっかりじゃないの……」
「私がそれで楽しいんだからいいじゃんか……」
家族らしい事って何だろ?
たぶん、ルチアが考えてるのって、私が子供出来たら何がしたいか?とか考えてたときと同じなんだと思う。でも、それぞれの家族の形ってあるわけで、男性の考える事だって違うと思う。
日本に置き換えるとキャッチボールとかキャンプとか海水浴とか?遊園地は無いし、自動車で遠出も出来ない。やっぱ一緒に狩りに出るのが正解な気がする。
「冒険者になれば、もっと遠くへ魔物の討伐や知らない事の勉強にも行ける。
家族でする事ってこれじゃ間違ってるのかな?」
ルチアが思案顔になって少し黙って声を絞り出そうとした所で義父さんが決心したように立ち上がる。
「エリー、明日の昼に冒険者登録しに行こう!」
「お父さん!」「ヘイゲル」
私の歓喜とルチアの悲痛な声が重なった。
でも、ルチア、ここからは家族の問題だと思う。
「ルチア、心配をかけて済まない。でも、俺はこの子を立派に育てると神に誓うよ」
初めて義父さんのかっこいい所を見た気がした。
◇ ◇ ◇
アルバニア帝国。産業が盛んで人口の多い国。
帝国って聞くと軍事に力入れまくりの民に苦しい暮らしをさせてるやべー所で非道な研究を繰り返すってイメージがあるけど、ここは違う。
帝都アルバニアの隣にあるヴァージョン領ビスマスの街が今いる場所だ。周りを歩いている人達にも活気が溢れ、未来の希望に心震わせている。
今日は義父さんと冒険者ギルドへ行く。
朝方、教会前に定期的に停車する乗り合わせの馬車に乗って、お昼頃に冒険者ギルド前に停車する予定だ。田舎の運行バスに似てる。
座っていると腰を打ちつけて痛めるから綿をギチギチに詰め込んだクッションを背負ってきた。今の私の体格なら丁度いいだろう。
「父さん、着いてから気をつける事ってある?」
初心者が先輩面のヤンキーに絡まれるのはこの手の鉄板だ。1回目の転生で暮らした国では組合の窓口で絡まれたし。
「いや、別に無いけど。強いて言うなら、腕を見せろって言われそうだな」
「腕っぷし?子供だから?」
「まあ、それもあるけど、ランクが低い所から始めると上げてくのに時間がかかる。けど、実力あるのに低ランクにしとくってギルドとしてはダメだろう?だから入る時に実力を見る」
「ふーん、適材適所ってやつね」
「お前はどこで覚えたんだそんな言葉。エリーには噛み砕いて説明する意味が無いな」
「ちなみに冒険者のランクって?」
「ああ、上から順にジュエル、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアン。アイアンだと依頼として魔物の狩りには行けない」
ジュエルって宝石って事なんだろうけど……。
「父さんはどのくらい?」
「俺はシルバーだな。弓使いだし仕事は後方索敵が主だ。あんまり積極的に強い魔物と戦わないから、ランクが上がりにくい。ついでに言うと親方とルイズ副長はプラチナ、魔法使いのナターシャはゴールド、斥候のバルダは俺と同じくシルバー」
「へー、バルダさんとは会ってない気がするけど、どこにいるの?」
「イヤイヤ、昨日のパーティにも居たぞ。まあ、無理もない。アイツは常に人に気付かれないように膜みたいのを張ってる。無意識だろうけど常にだ」
「なるほど」
全然気付かなかった。私がまだ赤ん坊だった時に顔立ちの覚えられない人がいたからその人だろう。だとしたら相手に気付かれない事に関しては凄い人では?
「適材適所……か」
バルダさんと義父さんは探索系。
ナターシャは魔法でゴールド。
って事は……。
「プラチナの2人は何でも屋か何か?」
「間違ってはいないが、プラチナ等級ってのは、くぐり抜けてきた死線の数の証だな。お前の言う通り、あの2人は統率力もあるし、並みに近接も魔法も出来る。多分やろうと思えば俺達の出来る事何でも出来るな」
なんか凄そうって思ってたけど、そんなに凄かったのか……。
「ん?じゃあジュエルランクっていうのは?」
プラチナで何でも出来るならプラチナが最高ランクじゃない?
「ジュエルランクはギルドで扱いきれない人物でな、それぞれ宝石の名前で呼ばれる事になる。戦闘力が高すぎる場合や、財力が高すぎて手に負えないとか。ただ、そういう人間でないと遂行できない依頼もある」
「うん、だいたいわかった」
まずは私も高ランクを目指そう。誰もが無視出来ない存在になれば、それが私の尊厳に繋がるから。それに……。
高いランクの人達なら、女神の呪いを解く方法を知ってるかもしれない。
◇ ◇ ◇
「なんだ?子連れで見学か?」
「子供が冒険者登録?珍しくもないだろうが受かったとしてもアイアンスタートだろ?」
「大半は落とされるが、金の都合でアイアンになる子供もいるみたいだぞ」
冒険者ギルドに着いた私達は、私の登録の為に受付にいた。
「エリナレースさん、5歳ですか」
受付嬢が小首を傾げる。
「推薦者の名前にプラチナランクの方の名前があるので相当出来るということでしょうが、だいたいはアイアンスタートになりますよ?」
「ええ、でもシルバーの俺より強いですよ、この子は場合によってはゴールドでも良いと思ってます」
「わかりました。今から監督官に情報を持っていきますので、しばらくお待ちください」
手慣れているようだったから頻繁に同様の対応があるのだろう。親が息子や娘を過大評価して連れてくるとか。
待っていると小綺麗な騎士風の男性が声をかけてくる。
「ヘイゲルさん、お久しぶりですね。その子は?」
「ああ、娘のエリナレースだ。エリー、こっちはゴールドランクの冒険者でテラートだ」
「エリナレースと申します。エリーと呼んでください」
紹介されたので、流れで会釈したが、顔を上げた先にいたのは茶髪の超絶美形青年だった。
ウチのオッサンがどうやって知り合ったのかは分からないが、お近づきになって損はなさそうだ。
「え?ああ、エリーちゃんは凄く可愛くて礼儀正しいね。僕はテラート・アイゼンスター、ヘイゲルさんにはアイアンの頃に山歩きや狩りを教わったんだ。丁度キミくらいの頃にね?」
「テラート、それはお前が10歳の時だろ」
「ええ、だから」
「エリーはまだ5歳だ」
「は?」
うん、まあ女の子って年齢分かりにくいかもね。
5歳にしては少し身長デカいし。
「エリーさん、準備が整ったそうなので裏庭の決闘場へ移動してください」
「あ、はい、今行きます」
「5歳?5歳?」
何だろ、そんなにショックだったのだろうか?
イケメンがぶつぶつと呟きだした。凄く残念だ。
「それじゃ行ってくるね!父さん」
「ああ、俺もコイツと一緒に見てるから、思いっきりやってくると良い」
「うん!」
ここで力を示して、最初から高ランクになってやる。
「え?」
テラートはその場でしばらく動けなかった。
先輩風を吹かせたイケメンの残念に拍車がかかるのだった。
◇ ◇ ◇
「おう、待ってたぞ」
広大な裏庭という名のグラウンドにガイナ立ちのオッサンがいる。
「さっそくだが、今からやるのは模擬戦だ。筆記試験みてえなもんは後回しで良い。知を最初から持ってるやつは冒険者になんてならないで商人にでもなってるだろ」
「確かに。でも知力が低いと言われているようで、なんだか嫌ですね」
「あっはっは、そりゃすまねえな。とりあえず、そこに刃の潰した武器があるからそれ使ってくれ」
雑多に置かれた武器がグラウンドの端にの倉庫に大量に置かれている。手入れはされているが、ほとんどが今にも折れそうだ。
持っていく武器を決めた私は倉庫を出た。
「ほう、槍か」
「槍ですが本来の使い方とは違うかと」
手に持っているのは槍だ。大人相手に小柄でも扱えるものと考えれば短剣にするべきだが、相手の間合いに入る前に牽制として使える。また、投擲武器としても使える。過去の経験もあって並以上には使える武器だ。
「ヘイゲル!合図頼む!」
「あ、ちょっと待ってください」
「あ、なんだ?」
「怪我とかってどの程度まで大丈夫ですか?」
確認しておかなければならない。私は治りが早いから良いけど、相手に怪我させて万が一ってこともあるし。
「大丈夫だ、手加減するさ。お前くらいなら思いっきりやっても大丈夫そうだけどな。がははっ」
うん正確に伝わってないかもだけど、このオジサンも物凄い強そうだし大丈夫だね!
オジサンから10歩くらい離れた位置で槍を前に突き出すように構える。
「準備はいいか!?」
「はい!」「いいぞ!」
「……始め!」
義父さんの掛け声で模擬戦が始まる。
片手で槍を突き出す体勢で固まっている私にオジサンは「素人だな」と呟きながら突っ込んで来る。
(『サンダーフレイル』)
私は槍の先まで通していた凝縮した魔力を棒の様にオジサンの腰辺りに伸ばし魔法を放つ。
槍先が爆散しながら細かい粒になって飛んでいくが、別にそれ自体に威力があるわけじゃない。私は最初から魔法を撃つ囮として武器を選んでいたし、長さのある槍の射程分の距離が離れる事を考えて槍を選んだ。
オジサンは私の雷属性魔法には気付かなかったようだ。電気を視認するのは難しい。アニメとかでよく禍々しい雷が飛んでいく様な描写がされるのは凄さや威力が分かりやすいからだと思う。
実際は光の早さだから、ちょっと光る程度だろう。
オジサンは前のめりに倒れた状態で感電してピクピク震えている。武器を持った状態で片足を上げて電気を身体に通されたから、服は金属周りが焼け焦げている。電気は左足を抜けて出ていったみたいだけど、オジサンが普通の人より頑丈でも、例え治癒魔法をかけたとしても、2日は安静にした方が良いだろう。
「父さん!私の勝ち!?」
「ああ!」
と言いながら義父さんはこちらへ走ってくる。
「というか、何が起きたんだ?」
「あ、やっぱり分からなかった?」
ランクの審査基準がわからないけど、戦って凄い!程度ならシルバー止まりなんじゃないかって思った。倒してゴールドだとすると、理解不能な倒し方をすれば、それより上のランクになれるんじゃないかって。それを説明しながら脳と心臓の位置に闇魔法の『鎮静』と治癒魔法の『ヒール』を同時にかける。
「やっぱりウチのエリーは天才だな!」
「そうかもね!」
うん、ウチの父親は今日も親バカだ。
っと模擬戦してくれたオジサンが起きた。
「……げほっ!……はぁ。俺は一体何を……されたんだ?」
「ああ、エリーにさっき聞いたから俺が説明する。エリー?もうこのオジサンへの治療はほとんど終わったんだよな?」
「うん、あんまり大怪我されないように手加減したし、脈も正常に戻ったから、ほぼ治療は終わり!」
「なら先に受付までいって終わった事を報告してくれるか?俺はこの人と話があるから」
「うん」
私は特に気にすることもなくギルドの建物の中へと戻るのだった。
◇ ◇ ◇
娘、エリーが構えた状態で一歩も動かずにギルマスを倒してしまった。あれを構えと言っていいのかは分からない。が、一瞬の光と槍の爆散のあとにギルマスが倒れた。エリーに声をかけられて駆け寄ると焼け焦げた匂いがした。
聞けば皮膚を焼く程度の雷属性の魔法で倒したのだという。そもそもが俺には雷属性というものがなんなのか、よく分からない。エリーはいつも何処で習ったのか分からない事を披露してくる。
高ランクで入るのが目的で理解出来ない倒し方をしたのだと言うから、俺が分からないのも当然だろう。
エリーに受付への報告を頼むと、ギルマスに向き直って説明する。
「で、どうですか俺の娘は、理解不能で滅茶苦茶だったでしょう?」
「ああ、流石にグレイとルイズに推薦されるだけはある。それに雷属性か、過去には何百年も前に使われたって聞いたことがあるが、まさかこの身で受けることになるとは」
「プラチナですか?エリーは天才ですから、ゴールドからでもすぐランクが上がってしまうと思いますけど」
「うーん、それなんだが、入ってすぐはシルバーが上限なんだよ。ただ、もう少し待ってくれないか。そもそもシルバーで済ませていいのか判断に困る。いっそのこと模擬戦じゃなくて的に魔法撃たせて判断しようか。治癒魔法まで使えるみたいだし、どのくらいの規格外かも分からん」
「それもそうですね。俺もエリーの全力は見たことがないので。……あの子と1年前から狩りにも出ていましたが、遠目ではウルフを何体も倒す所も見てます。もっと強い魔物と戦いたいって雰囲気でしたし」
「4歳で複数の魔物を相手にしてる時点で規格外だな。よし、今日の内に確認してしまおう。シルバーが上限なのは伏せておけ。やる気削いでも嫌だしな。俺に勝った褒美として飯奢るから午後も付き合え」
断る理由がないな。




