第壱話 剛健の呪い
今回の内容で転生3回目、4回目の回想部分は、かなり人道に配慮出来ていないので、苦手だったり嫌いな方は飛ばしてください。
非常にセンシティブなので、なるべく内容を省略していますが、過剰なストレスがかかる可能性があります。
夢を見た。
ヘイゲルさんに拾われた日の夢だ。
でも、その夢は私の視点ではなく、まるで鳥や虫がそこにいて、俯瞰で人を見ているような……。
「おい、ヘイゲル、誘拐でもしてきたのか?」
あ、オヤカタさんに怒られてる。顔めっちゃ怖っ
「違うんです、親方」
「何が違うんだ?」
「魔物の出る森に、捨てられてたんです」
軽い舌打ちと共に道が開ける。
「おーい、ナターシャいるかー?」
「いないー」
「あ?いるじゃねえか」
おお、バルンバルンの姉ちゃん!
「おまえ、おっぱい出る?」
パンッ!
そりゃ殴られて当然よ?
◇ ◇ ◇
私の意識が無いときの話なのかな?
また別の場面、これは?帝都の冒険者ギルド?
「親方、今までありがとうございました」
「ああ、お前が抜ける理由がまさか赤ん坊だとはな。自分で育てられるのか?」
「いえ、一旦孤児院に連れていきます。身元が分かる可能性がありますし……。この子が5年経っても親が見つからないようなら、養女にしようと思います」
「そこまで考えてるなら、俺は何も言う事ない。母親も必要なんじゃねえかなって思うが」
私もオヤカタさんに同意だよ、ヘイゲルさん。
そっか、5年前の事だし、もうすぐお父さんって呼ぶ事になるのかな?
◇ ◇ ◇
また違う場面。
「だーかーらー、シスターは子供を作っちゃいけないんです!」
だれだこの酔っぱらいは?って思ったけど、シスタールチアじゃん。
私服だから分からなかったわ。
「ルチアちゃん、誰もそんな事言ってないでしょ、エリーの面倒を一緒に見てくれないか?って言ったんだよ?」
「ヘイゲルがいけないのよ!私だってね、私だってえ!」
こりゃダメだ会話になりゃしない。
「……ヘイゲルとの子供欲しいのに。なんで私はシスターなの?……」
突っ伏して凄いこと言ってるけど?
ヘイゲルさんどうするつもりなんだろ……。
◇ ◇ ◇
凄く気になる夢を見た気がした。
でも、何だったんだろう。
夢は忘れてしまう。不思議だ。
外は真っ暗。もう夜だ。
梁の本数、屋根のつくり、シーツの肌触り、孤児院の2階かな?周りを見ると5人分のベッド。正解。
狩りに出て、自分のスキルの影響で倒れちゃったっんだっけ?
んで、孤児院まで運んでもらったんだろうな。
『確率操作』はやっぱり危険だ。あんまり使わない方がいいかも。
にしても凄く騒がしいな。
そろりと部屋を抜け出すと、食堂には大人たちが集まっていた。
「んで、嬢ちゃんがめっちゃつえーって?冗談だろ。親バカも方向間違ってるだろ?」
「いや、エリーは特別だからさ、俺なんか足元にも及ばないくらい強い子さ」
「言ってて恥ずかしくない?」
「お、エリー!」
近寄ってきたヘイゲルさんに抱きつかれそうになったので3歩下がる。
「で?オヤカタさん、これどういう状況です?」
「……正式にお前さんがコイツの娘になるってお祝いさ……」
「へー」
卓にはこれでもかと言わんばかりに料理が並べられ、主役であろう私も居ないのに既に酒をグビグビいってる大人達の……
ん?
「え?私の意思は!?」
抗議する私の背後にゆっくりと近付く気配。
後ろから柔らかい感触に包まれる。何?
「シスターさんが良いって言ってたよ」
ああ、抱きついてきたのはナターシャさんか……ならいっか。おっぱは正義。
しっかりとホールドされた状態で考える。
んーーなんか癒される。力が抜ける。
「危ない、埋まる所だった」
死を覚悟したわ。心地良過ぎる。
気付けば多くの冒険者に囲まれている。
「あ、そういえばララリリダム盗賊団、でしたっけ?パーティ名?」
「よく覚えてるな嬢ちゃん」
私の問いにオヤカタさんが返す。
盗賊団という名前だが、町中での行動は慈善団体に近い。そして見た目は本物の盗賊のようにみすぼらしい。
「でも、本当は盗賊じゃないんでしょ?」
本当はどういう経緯でそんな名前になったんだろう?問いかけると真上からナターシャさんの声が返ってくる。
「ララリリダムは逆って意味がある。なぜなら、体の動きや言動が逆になる呪いをかけられた伝説上の人物の名前」
「へぇー」
ってことは、盗賊の逆って意味か。
「ウチのパーティ名の由来を話してたのかい?」
ルイズさんが料理片手に入ってくる。いないと思ったらシスタールチアと料理を作ってるらしい。
「他の子供達も一緒に料理してるよ、エリーもやってくると良い」
「えー、いいよ。私は大人が話してるの聞いてる方が楽しいし」
思えば、あんまり子供達と話しないな。というか名前すら曖昧だ。ジョンとかケネディとかマリーとかだっけ?
4回目の転生で『子供が出来ない身体』になって、そのせいなのか、無意識に子供を避けるようになっていたみたい。
その発端はクズの女神が3回目の転生で発した作戦だった。
あんなのはクズでいい。
3回目と4回目はなんていうか、言葉にし辛い。
◇ ◇ ◇
3回目の転生前。
「あなたの子孫に戦わせる、というのはどうでしょう!」
は?
「子供を戦場に立たせろと?」
「もし、あなたから能力が引き継げばかなりの戦力になります。能力が引き継ぐかは分かりませんが、魔力量は高確率で子へと引き継がれますから、能力者軍団の爆誕ですね!」
「……」
「ということで、あなたが子を産みやすいように『異胎魅惑』を与えましょう。異種族とも子を成せますし、ちょっぴり魅了効果もある?かも?」
いくつか腑に落ちない事があって、私は黙ってしまったが、それを良しとしたのか女神は話を進めました。
転生させられながら、幾つもの疑問がない混ぜになる。
能力を追加されて送り出されて、まるで人の人生をおもちゃの様に扱う。
それに、言われる通りに動いているのだから、指示通りやっているか女神に見られているものだと思っていた。
だけど、実際には常に見ているわけではなくて、
全てが終わった後で記憶を読み取ってでもいるのか、終わってから「ダメですね!」と言われている。
本当にこいつが女神なのか?と思わざるを得ない。
この後、魔族領のスラムに産まれた私は病弱でした。
「兄さん、お仕事頑張ってください」
「ああ、行ってくるよ。」
ベッドで寝たきりだった私がここまで回復したのは兄さんのおかげだ、私も将来少しでも魔導街の皆が楽出来るように頑張って働くんだ。
兄さんのように。
女神の指示の事なんて、これだけ頑張ってる兄さんを見ていたら完全に忘れていた。
だけど、一緒に暮らしていた兄が過労で亡くなりました。
家にお金は残っておらず、生活費を自分で稼ごうにも働く所がない。
借金の形で奴隷契約、16歳で貴族の遊び相手として売られました。
その後、使用人として働き、女神の言っていた様に魔力量の多い子を2人産みはしたものの、誰の子かも分からない子供を奴隷の私が1人で育てていくには無理があった。
元々病弱だった私は、主人との夜の仕事の帰り、息も絶え絶えだった私は抵抗も出来ず乱暴な男たちに捕まり、酒場の2階で行為中に死んだ。
そして、4回目の転生前。
「あの~、もっと産めたんじゃないですか?アホですか?しかも体が弱すぎます。何なんですか?その目は?私が悪かったって言いたいんですか?違いますよ。あなたが弱いからです!」
困惑で声も出なかった。
「はあ、もういいです。健康で強い体にしますから、今度は100人は産んでくださいね?」
返答する前に送り出された。
何なんだコイツは……。
『剛健』というスキルが生えていた。スキルの説明も無しに送り出されたので推測するしかない。
というか、あの女神詳細知らないんじゃないだろうか?いつも曖昧なこと言ってるし。
常時発動するこのスキルは強くて健康!というだけのスキルだと思っていた。
健康で強いなら剣の道に走ろうかな?
そんな思いで
王国の平民生まれで子供の頃は男友達と追いかけっこするようなお転婆女子だった私。
14歳で侯爵家直属の騎士団に
女性でありながら入隊するという華やかな人生、のように思えた。
そこまでは。
先輩達に入隊のお祝いだと言われ、騎士団第二分隊の宿舎へと連れてかれた。同期入隊の面々も集められ、机にはオードブルに入ってそうな食べ切れないほどの売店料理。
酒樽いくつあるのよコレ。
女は私1人だから、結構群がる様にお話をした。だいたいの話は、どういう活躍をしたって話だったけど、みんな自慢げに語って、皆さん可愛くて面白いなって思った。
私専用って渡された酒樽に睡眠薬が盛られてた。
今思うと麻痺薬や毒薬なら『剛健』の効果で何ともなかったんだろうけど、寝たら治っても関係ないなって思う。
目が覚めたときには囲まれていて、既に私の身体に刺さってる状態だったからどうにもならなかったね。ナニが?
口に入ってたのは噛んでやったら殴られた。
……すぐに辞めたよ、騎士団。
多人数相手には通報って意味ないから泣き寝入りだけど。
来るもの来なくて、ああ、終わりだ。って憂鬱になって、問題はその後。
1週間くらい経った頃に滅茶苦茶お腹が痛くなって……。
ねえ、知ってる?女神様……。お腹が強靭過ぎるとね、ずっと圧迫されてるのか成長しないんだよ。出口も直ぐに治っちゃうから、かきだせないんだよ。ずっと、身体にとって異物扱いでお腹も痛いんだよ。わたし、飛び降りても痛いだけで死ねなかった。その拍子でさ……。
飛び降りた拍子にお腹も弾けたんだよ。
お腹は治ったんだよ。
14歳でそれだからなのかさ、
私に何かといちゃもんつけたり、罪をでっち上げては追ってきたんだ、騎士団。女神が生やしやがった『異胎魅惑』の少魅了効果だと思うんだけど。でもさ、『剛健』とその他バフがあるから、腕っぷしで何とかなるって思ってた。
でも、相手にも強化魔法があって、
元から膂力がある騎士団と、
ひ弱な女性(子供14歳)、
バフ中とバフ大。
ゲーム風に言うと割合バフって元の力に依存するみたいでさ、倍以上体格が大きい相手が10人以上。もっといたかも。
うん、1対1でも勝てなかった。
拘束具で捕まった私は毎日のように感情の掃き溜めにされた。たまに成功してしまうと激痛が続いたし、何度も使われるせいで、今度は親指サイズになる前に出てきて、便器もない牢屋は地獄のような惨状だった。
アニメとかの回復魔法って、疲労も回復するじゃない?
このときは疲労回復しないから助かったかも。
疲れたら意識飛ぶから、少しでも痛みを忘れられる。
寝る時間が長くなれば、それだけ辛くなくて楽だった。
その人生では何度されたかもわからない。
傷の治りが早いからって言って毎日いろんな道具でグチャグチャになって……。次の日には完全に治ってた。
何年牢屋に居たんだろう。
出るその時になって思ったのは、窒息死なら死ねるんじゃないかって事。この場所で息止めても意識無くなるだけだから、水辺に行こう。
街を出てトボトボと歩いて行く、その過程で使い物にならなくなった私を使おうとする通行人という化け物もいたが、そんなものはどうでも良かった。今は死ぬ事が、今の状況を好転させるただ1つの方法だ。
湖に着くと、澄み切った水と空気が心を癒してくれる気がする。
水面を見ると、写る私の顔は本当に疲れきった他人の顔だった。年齢も多分倍近かったし、鏡なんて見る機会無かったから。
「うあああああああ」
上を向いて叫んだ。
もう涙も枯れてたけど、精一杯叫んで、泣いて叫んで。それから湖に身投げした。
冷たい水が頭を急激に冷やし、冷静になっていく。岩場の誰にも見つからない場所まで沈んでいって、それから苦しくても息を吐き続けた。
5回目の転生前。
さすがの女神も同情するかと思えば、
「キャッ!面白いですね。回復スキルで困るなんて!」
だそうです。
こいつにいちいち反応してると馬鹿らしくなる。
だから、私は提案した。
「女神様、お願いがあります」
死ぬほど文句を言いたい所だけど、ここは女神の手のひらの上だ。逆らえばどうなるかわからない。
「ふむ、聞きましょう。面白いと思ったら聞いてあげますね♡」
「次のスキルから私に選択権をください。もしかしたら女神様の目的を達成する事だけを考えると目立たない方が動きやすいと思うんです」
「えー、つまらないですね?」
こいつ、言葉にならない怒りが込み上げてくる。
思案顔で首を傾げる姿は殴りたくなる。
「もう、しょうがないですね。前の転生の記憶が面白すぎたので聞いてあげますよ。最大限の譲歩です。で?」
で?
「能力ですよ。今回は何の能力が良いんですか?」
「え、あ、そうですね。姿を変えられる魔法みたいなやつってありますか?」
「おお!それは面白そうですね?『想身変容』というのがあります。それでいいですね?」
「はい、あと前に付けた能力って外せたりってしないんですか?」
「なーに言っちゃってんの?魂に直接書き出してるんだから消せるわけないじゃん。というか、面白いんだからそのままで良いよ」
は?
この場所は居心地が悪い。早く離れたいという気持ちで一杯だった。
そこからだ。
あの女神が、本当に神なのかって、本当の神は他にいて、あれは悪魔か何か邪悪な存在なのではないかと思ったのは。
◇ ◇ ◇
過酷な人生経験した人間ほど、自分の事笑い話にするのは、辛い事を押し付けたくないからだと思う。
あんなトラウマがあっても今生では子供は欲しいと思うけど、今はあまり他人の子供と関わりたくない。私もまだ5歳だけど。
『不老』が手に入れば、時間が出来るから。この『剛健』の呪いが抑える研究が出来るかもしれない。
それに、あの女神に反撃できる機会かもしれないんだ。
≪追記≫10/20異胎魅惑にルビを振りました。




