第二十七話 アレクシスの受難
今回、王国の話が入ってきます。
基本的に人道に反した表現が多くなりますので、苦手な方は注意もしくは心構えをお願いします。
私が陛下に依頼されたのは周辺国の調査。表向きは。
実際には他国との関係を絶っているフローリア王国の実状を調べること。
冒険者として、依頼を受けることは吝かではないけれど、ことは王国。私としては受けたくない依頼だった。
だけど、フローリア周辺国への滞在する事で王国での厄介事を回避出来そうであれば、こちらとしても情報が欲しい。もちろん、王国になんて興味は無い。国ぐるみでの少女監禁と凌辱。私が受けた苦しみを返したい相手は500年経った今、この世にいないだろう。
ぐるぐると回る陰鬱な思考回路を中断し、楽しい事を考えようとゾルファ共和国への期待感が募る。
共和国では7回目の転生でお世話になっていた。
生産スキルである創造手は私のスキルの中で最も愛すべき能力である。
意識して使うことは無い常時パッシブスキルであり、全ての手作業に上昇補正が乗る。だからなのか、鍛冶等の手が直接触れない作業には補正がかからない。
共和国の生産ギルド『セブンエクシズ』。
約100年前に私が立ち上げたギルドだ。今はどんな人達が所属していて、どんな物を作っているのかな。楽しみで仕方ないわ。
家を飛び出して飛行すること3時間。流石に疲れてきたので、途中の貿易港で休む事にする。
「今回ばかりは宿を取らないと」
早朝に家を出たわけでもなく、空は赤く染まっている。熱帯雨林の終わり、ナライド貿易港に入る手前で地上に降りる。貿易港は入る手前から店が建ち並んでいる。港に面した場所は昔からの店が多く、新規出店の店はどんどん港から遠くに作っていくしかない。結果、港は大きくなり、港からはみ出した所にも店が建っている。
「そこのお嬢さん!お肉はいかが!?」
「いただくわ」
ちょうどお腹が空いていたので、肉串を一本購入する。
「どこかオススメの宿はあるかしら、教えてくれたら、そっちの高いのも買うわよ」
「お嬢さん上手いね。買ってくれるってんだから、それなりに手持ちが多いんだろう。なら、港入ってすぐ左手に赤い建物が見えるだろうから、そこへ行くと良い。宿の名前は『カマイタチナイトハウス』だ」
嫌な予感しかしない名前なんだけど?
オススメなんだから大丈夫だろうけど、雪山のペンションか何か?
私は買うと言ったサイコロ状の牛ステーキに舌鼓を打ちながら、言われた宿に向かう。
着いたのは何だか雰囲気の良いペンション風の宿だ。まさか本当に見た目が某スキー場のペンションっぽいとは。
この世界は転移者が多いイメージがあるから、あっちの人が建てたのかもね。
「こんにちは」
「いらっしゃい、一人かね?」
「はい、一人です。焼肉屋台のおじさんに紹介されまして、良い宿だと言ってましたよ」
「そりゃ、今度礼を言わなきゃね。何泊するかね?」
私は素泊まりで1泊だと伝えるとお金を払う。
1部屋しか空いてなくて部屋は選べない。相当人気なのかな?割当てられた部屋に行くと妙に広い。縦長のこの部屋は12畳くらいはありそうね。まずは防犯面の確認。鍵が何重か、1つだけね。窓は1つ。
防犯面は心許ないわね。寝る時には防護結界を張ってから寝ましょう。
コンコン。
ドアをノックする音で返事をするとドアを開けた先にはさっきの店主がいた。
「申し訳ないんですが、相部屋をお願い出来ませんか?」
あれ、この人さっきより口調が丁寧なんですが?
客によって態度変えるタイプかな?
それにしても、相部屋か。別に広いから問題無いけど、この丁寧な感じ、ちょっと裏がありそうね。
「良いですけど、泊まる宿って他に空いてなかったんですかね?」
「そうみたいです」
店主は明らかに目を反らしている。
これは、あれだ。都合悪く厄介な常連が来てしまって、空いてる部屋が無かったパターンだ。
「その人は相部屋で良いんですか?」
「はい、寝るだけだから良いと」
ほな、ええか。
私も同じようなものだ。自分の周りに防護結界さえ張っておけば心配ないし。
「問題無いのでお通ししてください。領域の交渉は当事者でやるので」
「ご理解ありがとうございます。では、呼んでまいります」
なんだかなー。
あ、そういえば、相部屋になったんだから、宿泊代半額になるのかな?私はケチというわけではないけど、純粋に疑問だ。
そんな事を考えていると、再びノックが響く。
ドアを開けると、そこにいたのは青い髪をしたイケメンだった。
え?普通相部屋って男女にする?
「相部屋と聞いたから、てっきり女性かと思ってましたけど」
「ああ、俺も男と一緒だと思っていた」
「まあ、私の方は問題無いのでお入りください」
結界あれば大丈夫だしね。
「私はエリーといいます。あなたは?」
「俺はアレクシスだ。エリーさん、突然だが聞いてほしい」
「うん?」
何だか急に真剣な面持ちになったわね。
「結婚してくれ」
は?
◇◇◇
王国から出た俺は急ぎ帝国に向かうため、商人を捕まえて馬車に乗せてもらった。
遠い日の思い出が俺を縛っていた。
「アレク?他人に迷惑をかけてはダメよ?もしもあなたが気付けたなら、謝りに行きなさい。いいわね?」
路上生活をしていた俺を拾ってくれた人の言葉だ。彼女の望む通り、俺は真面目に育ち、そして騎士団に入った。
平民は皆、騎士団に入ると同時に歓迎会という名の稽古をさせられる。所謂いじめとか集団リンチとかいうやつだ。俺はそれを実力で覆した。
だから、本来はこういうものだと知ったのは翌年の新人をタコ殴りする先輩達を見てからだ。
「ニルン、俺、騎士団辞めるよ。あんなものは騎士じゃない。集団で1人をいたぶるような奴らの仲間は嫌だ」
「それなら、中から変えなさい。騎士団というのは皆を守るための組織なのだから、呼びかけ続ければ、きっとわかってくれるわよ」
ニルンの優しさに、自分の不甲斐なさに、俺は自然と動かされた。
翌日からの呼びかけに先輩達は嫌な顔をしたが、暴力を受けた新人達は付いてきてくれる。
俺は実力を認められ、副官の地位にまでのぼりつめた。
だが、登らない方が良い山に知らずのうちに登っていた俺がいた。
この国の王家は滅んでいる。いや、飼い殺しにされている。
地下施設などというものが、この国にはあった。
街の女性達が騎士団に連行され、はらみぶくろとされていた。街の女性は全員だ。副官になって初めて施設の査察に入って知ったことだ。団長からは、お前は副官なんだから率先して女性を痛めつけろと言われた。悲しくなった。
俺は嫌な予感がした。
ニルンは女だ。だが、ショートヘアーにダボついた服を来ていた。つまり、正体を隠すためだ。
俺の昇格時の書類には家族の欄があり、そこに書いた者の所には毎月、苦労賃として所得が入るというから、俺はそこにニルンの名を書いていた。
ニルンが女であることが、書類でバレた。
俺が騎士団を続けたから、ニルンは捕まるんだ。そう思った時、まずニルンの安否確認を最優先に動いた。
家はもぬけの殻。
どうしようもなく途法に暮れた。
騎士団の団長になれば、発言力は上がるだろうか?
ニルンを助けたい一心で、気付けば俺は団長に一騎打ちを挑んでいた。
死合をして勝ったら団長だ。
団長は俺が騎士団に入ったときから、俺の事を煙たがっていたから、この申し出を断わるわけがなかった。
「俺は!この国を変えたいんです!」
「若いよ、アレク。まだ君にはこの世界の良さが分からないのかい?」
多くを話して分かったこと。団長は率先して女性を路上で犯す。団長は腐っていたのだ。そうとは知らずに俺は従っていた。俺よりも見た目は若いが10歳は歳上だ。だから団長を殺す事になろうとも、心は痛まない。
「彼女たちは労働力を絶えず生み出せるのだから、適材適所というやつさ。その間、私達が外で働く。君は理性的すぎる。理性は文明を殺す。蟻や蜂でさえ、その生産性を本能で理解しているのに、私達が理解しないというのは……」
王家がいない今、実質的トップは団長だ。
この人が原因でこの国は……。
このとき団長が言っていたことは、ほとんど耳に入っていなかった。
「女性たちに自由を!」
「だから君は情勢というものを全く理解していない!」
激しい剣の応酬の中に隙を見つけた。団長が左足を少し開く動作を確認し、力の加え方を変えると、団長の剣は左上段に弾かれる。
俺は渾身の一撃を放ち、団長を剣ごと袈裟斬りにした。
これで悪は滅びた。そう思った。
だが、実際には俺が団長の代わりになっただけだった。
この国の人間は子供の頃から教育を受ける。俺は路上で生活していたために教養がなかった。
だからこそ、こうして自由に生きている。
教育を受けていると、こう教わるらしい。
『約500年前の事件以来、王国の女は道具として生き、子を産むことに生涯を捧げるというのが常識だ』と。
俺がおかしいのか?いや、俺と同じで教育されていない者もいる。
教育を受けた者は誰も俺の言う事で動かなかった。
どうにか、彼らの常識を覆せる方法は無いか!
俺はそれから2年と少しで『初物の美姫』の情報を得た。何度ヤっても新品に戻ると書物には書いてある。嫌な書き方だ。だが、500年前の当事者の言葉だ。水死体で発見されたと書かれているが、矛盾している。新品に戻るという部分。それを考えるなら生きていると考えたほうが自然だ。
その本人であれば、何か知っているだろう。
諦めかけたこの国にも希望はある。
王国の実状を変えてみせる。
そう、だからこそ騎士団の中でも、国に染まっていない数十人と共に盗賊のような生活をしていた。
女を攫ってはスキルを確認してから解放する。
結果、何も獲られず、部下たちも多く失い、今では帝国にも喧嘩を売ってしまった。
帝国には詫びを入れにいかなくては。
俺の身体を動かしたのは遠い日のニルンの言葉だった。
馬車に揺られ、無気力にたどり着いた貿易港で商人と別れると宿へ向かう。
どこも満室で、ここが最後の宿だ。
「おい、空いてるか?」
「い、いえ」
俺の目つきが怖かったのか、言葉に怯えが宿っている。
「すまない、脅すつもりはないんだ。ただ、ほんの少し、寝るだけの広さがあれば」
「はあ、少しお待ちを。先程来られた方に相部屋に出来るか聞いてきます」
「頼む」
なんと、言ってみるものだな。
普通なら門前払いだろうが、客どうしの取り引きであれば、店主も都合が良いのだろう。
そこまで時間がかからず、店主が戻ってきた。
「良いそうです。さ、こちらへ」
部屋の入口を軽く叩いて待つ。
そして、開いた戸の先にいたのは可憐な女性だった。
「相部屋と聞いたから、てっきり女性かと思ってましたけど」
「ああ、俺も男と一緒だと思っていた」
何というか、こんな綺麗な娘と同衾とは、罪深いな。
「まあ、私の方は問題無いのでお入りください」
何が問題ないんだ?大いにあるだろう?
「私はエリーといいます。あなたは?」
なぜか、俺はいつの間にか目の前の、エリーと名乗った娘を愛おしく思っている。心がザワザワする感覚だ。
「俺はアレクシスだ。エリーさん、突然だが聞いてほしい」
「うん?」
「結婚してくれ」
◇◇◇
状況がいまいち飲み込めない。
なぜ、私は今、告白すらすっ飛ばして求婚されたのだろうか?
「えーと?アレクシスさんは何で急にそんな事を?」
「俺にもわからない。けど、エリーさんと会った瞬間に胸がざわめいて」
なるほど、と私は魔法をかける。
(闇魔法『鎮静』)
「どう?これで落ち着いたでしょ」
「確かに、抑えられない程ではなくなった」
どう考えても魅了効果に当てられていた。
というか精神耐性弱いなー、この人。
私の『異胎魅惑』は相当に魅了効果が低い。
帝国では誰一人として効いている様子は無いし、過去の転生でも魅了された様な人物はあの国にしかいない。
うん、この人、王国の人かも。
となると、同じ部屋使うの躊躇われるんだけど、必要な情報が貰えれば、王国に行かずに済みそうだし。
私は提案をした。
「アレクシスさん、少し、交流を深めるための遊びに付き合ってもらえませんか?」
「遊び?」
「はい、今から私のいる位置から半径50mに、正直者の魔法をかけます。つまり、お互いに嘘が付けなくなります。その上でお互いの知りたい事を交互に質問していきましょう。嘘が付けなくなるので、本当の情報しか手に入りません。非常に実のある時間になると思いますが、どうですか?」
「ふむ、面白い事を考えるな。良いだろう」
「答えられなくなったら負け、負けた方が相手の望みを1つ叶えると言う事で」
私は確率操作で嘘をつく可能性を消す。
(『確率操作』嘘を言う確率0)
一応、相手の手が出る可能性も考えて、防護結界を張っておく。
「ここからはもう嘘はつけません。一応説明すると、先程アレクシスさんにかけた魔法は『鎮静』。興奮を抑えるものです。見たところ、あなたは魔法タイプではなさそうなので、条件を一緒にするために私はこれを付けます。」
「それは何だ?」
「これはスキル封じの腕輪です。質問中に私が魔法を使ったら平等でないでしょう?」
「なるほど」
これも本当の事ではあるけど、腕輪を着ける実際の目的は『異胎魅惑』に蓋をすること。
「では、私が言い出したので、アレクシスさんから質問をどうぞ?」
「……なら、質問だ。君はどこから来たんだ?」
「簡単な質問ですね。もっと困る質問が来ると思ってました。私はアルバニア帝国から来ました」
私の言葉に逡巡するアレクシスさんに私は問を投げる。
アレクシスさんはさっきの精神耐性のレベルからして、王国か、さらに向こうの国から来たと考えられるし、私は無駄な質問はしない。
「あなたの役職を教えてください」
「騎士団長だ」
「へえ」
思ってた3倍くらい偉い人でびっくりした。
アレクシスさんは考えた末、本当に聞きたい事を聞く事にしたようだ。
「君は『初物の美姫』という者を知っているか?」
「はい、知ってますよ」
まさか、私の事ですなんて言えないが、肯定は嘘ではない。
立て続けに驚いたようで、アレクシスさんは前のめりになる。
「待ってください。私の番です」
ちゃんと手番は守ってもらわないと困る。
偉いはずの騎士団長様が1人で行動し、相部屋で宿をとる?
私は彼から顔を背けると質問前に明らかになっている事をつらつらと並べ上げる。
「こんなに偉い人が1人。どうやら、王国は既に崩壊しているようですね。でしたら、アレクシスさんの目的は王国の復興。そのためには『初物の美姫』が必要不可欠で、探している最中と。でしたら私の質問はこうなります。どうやって王国を復興する気なんですか?」
彼は全て図星なのか、今にも私を殴ろうというようにプルプル震えている。いや、堪えている?
いや、嘘をつけなくて困ってるんだ。
「俺にも分からないんだ」
「そうですか、分からないのに帝国の貴族に手を出したんですか。何人の使用人が亡くなったと思ってるんですか。人の命は安物ではないんですよ」
「すまない。俺の負けだ」
「いいえ、まだあなたは答えられています。なら、負けではない」
逃がさない。
この本当の事しか言えないことに耐えかねたのは分かる。彼は嘘に染まっていたのだろう。彼は彼自身に嘘をつくことで自分を保っていた。そう考えれば、嘘をつけないというのは拷問に近い。
「嘘をつけない状態。これは私のスキルによるものですが、自由に解除する事は出来ません。なので、スキルを使った後に、この腕輪をしても効果は残っています」
だからこそ、この人は自分に向き合えるはずだ。
「効果時間は12時間。明日の朝まで嘘はつけません」
私は聞きたいことがほとんど聞けたので満足。
彼は自分に向き合える。実にWin-Winだ。
「でも、まだたった2回ずつしか質問出来てません。これでは時間も潰せない。まだ12時間もあるのですから」
「勘弁してくれ」
「私としては王国に入らずに、新しく出来た友人と語り合うだけで情報が得られる。なんとも美味しい展開なんですがね」
そうして夜は更けていく。
10/27 認証コードが届かなくてログイン出来ない期間が長かったですが、今日からまた書いていきます。




