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円環記憶のエリナレース<-8周目の少女->  作者: ユーマヤ・バラッチ


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第二十六話 無頼漢の国と指名依頼

盗賊達を殲滅、生き残りを制圧した後。

私は気持ちに余裕ができたので、テラートに連絡する。


「テラート、終わったわよ。ダキット君と従者2人は無事。たぶん他は全員殺されてるわ。あと、内通者が1人いたから、生き残った盗賊と一緒に拘束してる」

「ありがとう!エリー、父上が着いたら同じ報告を頼んでも良いかい?」

「ええ、それは良いのだけれど、なるべく早く帰りたいわね。ステラの事が気になって仕方ないわ」

「そうだね。でも父上の話ではベガも連れてくって言ってたよ」

「戦場に連れてくるなって怒ってほしいのかしら?まあ、ベガに会えるのは嬉しいのだけれど」


ベガには最近ほとんど会えていなかった。

お腹に子供のいる身体でもう1人乳幼児を抱えるのは無理だろうという判断でアイゼンスター伯爵家に預けていた。

伯爵家には本当にお世話になりっぱなしだ。

何か贈った方が良いかしら?


「あの!エリナレースさん、助けていただき、ありがとうございます」


テラートと通信していると、ダキット君は恭しく頭を下げる。


「ええ、でも、他人行儀ね。私はもうあなたのお義姉さんなのよ?」


でも、よく考えると、ダキット君から見たら、憧れの人が急に兄弟と結婚したようなものだもの。

それは芸能人が家族になるようなもので、姉と呼ぶのには抵抗があるんだろうな。


「もうしばらくしたら、伯爵が迎えに来てくれるそうだから、待っていましょう」

「はい、……義姉様」


ああ、そういう呼び方もあるわね。


「ダキット君は何で盗賊に襲われたか分かる?」

「さあ、何ででしょう。心当たりがありません」

「となると、内通者に聞くしかないわね」

「内通者!?」

「ええ、盗賊の中に伯爵家に仕える者がいたようなの。まあ、それについては伯爵にお任せするしかないわね」


王族じゃあるまいし、跡目争いで下々が暴走したなんて事はないでしょう?

ダキット君はアイゼンスター伯爵家の跡取りだ。

いなくなったら誰が得をするんだろう?


まあ、冒険者の私が考える事じゃないか。

って、それこそ、他人事みたいね。


「あ、来たみたいです」


見れば家紋の入った鎧を着た先触れが走ってくる。



それから、しばらく経ち、

私は一部始終を伯爵に報告していた。


「そうか、よくやってくれた」


今の私はベガと手を繋いでしゃがんでいる。

そこまで長い間一緒ではなかったけれど、ちゃんと親の事は覚えてるものなのね。私のことは「かーしゃ」と呼んでいる。可愛い。


伯爵は用意が良いもので、馬車2台で来てくれている。ベガを連れ帰りたいのは山々だけど、伯爵が泣きそうな顔になっているので、再度預けることにする。「うー、ろれっと!」、ベガは伯爵のことは名指しでドレッドと呼ぶようだ。おじいちゃんじゃないの?


「用が済んだので、私は行きます。ベガの事、よろしくお願いします」

「ああ、済まないな」

「いえ、こちらこそ見ていただいている身ですので。ベガ、いい子にするのよ?」

「うぁい!」


私は箒に乗ると手を振りながら飛び立った。

ベガももう少しで2歳だし、今度一緒に玩具屋にでも行こうかしら。



◇◇◇



アルバニア帝国は辺境領地が海岸に面しており、近隣国家は、山に位置する魔導国のみである。

それでも魔導国との間には3つも砦があり、敵国であるというイメージが拭えない。

北の魔導国とは別方向、海岸沿いを東に移動すると、熱帯雨林を越えナライド貿易港という治外法権地がある。そこからであれば、他に3カ国への道がある。1つ目はゾルファ共和国、数多くの武器や魔道具を開発している国。2つ目は聖デオドラム法国。聖デオドラム教会と呼ばれる神デオドラムを崇める国。そして、3つ目がフローリア王国。街中に花を飾る文化がある、非常に分かりやすく優しい国だ。


が、その王国に500年前から異変が起きていた。

ダキットが襲撃にあった後、1ヶ月が経った。

いつもどおり、フローリア王国には影が落ちている。そう、いつもどおりなのだ。


「あ?皇国に行った奴らが帰ってこない?」


騎士風の出で立ちの男性は真面目そうな風貌に似合わず、声を荒げる。


「他国の領主なら女囲ってるってほざいてやがったが、逆にやられたか……。いや、面倒なことになったな」


遠いとは言え、王国は帝国貴族に喧嘩を売った事になる。それに気付いた無頼漢は舌打ちをする。

この男の見た目に問題はない。

あるのはフローリア王国全体だ。


「初物の美姫……」


花に覆われたような国だったのは500年前までだ。悲劇は王国騎士団から始まった。

第一部隊は王の警護を専門とする部隊で守りの要。第二部隊は街の見回りや守護。第三部隊は国外遠征。大まかに分けられたこれこそが花の国を守護する騎士団だった。


『初物の美姫』と称される女が現れた事で王国の繁栄に影を落とした。当時、その女は第二部隊に新規入隊したが、その歓迎会で事件は起きた。

女には魅了のスキルがあり、それに誘惑された全員が女を襲い狂った。結果、問題有りとされたのは騎士団ではなく、女の方だった。

王国の秩序を守る騎士団が、そのような事をするはずがない。全て女が悪い。

その決定を下した騎士団長は女を牢屋に閉じ込めた。自分が魅了にかかっているとも知らずに。


こうして、閉じ込められた女は朝昼夜と休憩すら与えられることは無かった。何かの魔法なのか、常に新品同然になる女に付いた異名が『初物の美姫』だった。


老化によって用途が減った女は檻から開放された後、遠くの湖で水死体として見つかったという。しかし、国にとって、この出来事は始まりに過ぎなかった。

人間の生活水準や習慣というものは、そう簡単に変えることは出来ない。20年もの間、美姫に下のお世話になっていた騎士団は街中の女性を攫っては監禁した。

それでも満たされず、王族の殺害、王妃や王女、侍女、女性司書、厨房の女性に至るまで、本来騎士団が守るべき相手を犯し尽くした。

こうして、花の国は別の意味で花を摘み取られた。


そして、この500年で王国は世紀末世界へと変貌した。女性達は捕まり、子供を産む道具へと、騎士団は解体され、人攫いの盗賊へと。

見た目だけは取り作られているが、王城の地下では言葉にするのも躊躇われる施設が稼働していた。

産まれた子供達にとってはこれが常識だ。

だが、中には自分の意見を持つ、優れた人間も産まれてくる。


「美姫を見つけ出し、王へと担ぎ上げる。それしか道はない。もう、この国は寿命だ。新しい秩序をつくる」


真面目過ぎたために盗賊へと身を落とした無頼漢、現在の頭目アレクシスは自分の正義のために動き出す。


「待っていろ、必ずフローリアに黎明を」




◇◇◇




「現在、皇帝陛下とアイゼンスター伯爵、両方同時に接続しています。声の聞こえ方などは問題ないでしょうか?」


「ああ、こちらは問題無い」

「こちらもだ」


今回のダキット君の一件。単なる盗賊とは思えない。魔法使いに魔道具、商会への偽装に貴族への内通者。

今、通信しているのは、生き残った4人について。何か情報を得られたか聞くためだ。

内2人が内通者だったらしく、伯爵の私刑にするわけにもいかず、帝都に移送された。

残る2人は伯爵が尋問に当たる。

それから2週間が経ち、こうして当事者の私を含めて情報を共有しようということだ。


「まず、こちらから内通者について情報を出そう。彼らが持っていたのは大きく分けると経緯と手段の2つの情報だ。経緯、2人はそれぞれ違う場所で声をかけられたみたいだが、洗脳魔法の類だ。術者は貴族の騎士に偽装したのではなく、もともとの騎士らしい。エリーの剣によって術者が死んだ事で術が解けた。意識を失う前に声をかけられた者の死体が目の前に転がっていたそうだ。つまり、この者たちは知らずの内に悪事に加担させられていたということだ」


「意識が戻ってからも、やった事は覚えてたんですね」


「ああ、その手段だが、護衛を減らす手続きと、伯爵家の馬車の通る時間の漏洩。盗賊団の溜まり場を探し、巻き込んだらしい」


「つまり、盗賊はおまけですか。その前に洗脳されていたわけですから」


「だが、こちらはその情報は持っていなかった。伯爵の方の2人はどうだ?」


盗賊を使うということは、略奪が狙いだろうか?

だけど、それなら伯爵をわざわざ狙うだろうか?


「はい、陛下。こちらは具体的な目的が分かりました。あの2人は王国の者たちです」


はい?

この国の本で私の勉強した知識が正しければ、国2つ分くらいの距離が離れている場所だ。

そこから来た?


「ちょ、ちょっと待ってください。伯爵、王国の者が来るにしても、盗賊を扱うような者たちに我が国に来る利は無いはず」


「それが、目的に繋がるんだよエリー。その2人から聞き出した内容は、恐らく今の王国の常識なんだろうが、国外には情報規制をしているらしい。今の王国には限定的な商会しか入れないし、物資はまとめ買いをされると商人からも情報を得てる。そして、その2人からの情報によるとだ」


『初物の美姫』と呼ばれる女性を探している。


私は誰の事か一瞬分からなかったが、自分の過去の転生で王国に転生した事を思い出し、不快に思った。


「どうして、その者を探しているんでしょう」


「さてな、2人は末端だったんだろう。それについては何の情報も持ち合わせてはいなかったよ」


疑問を口にしたが、あの頃の私を欲しがる理由なんて……。


「エリーさん、大丈夫ですか?」


側で絵本を読んでいたメルが心配して声をかけてきた。


「大丈夫よ」


私はトラウマを掘り起こされているからか、手の震えが止まらない。だけど、気丈に、平静を、保たないと。


「エリー、冒険者として、指名依頼を出して良いかな?」


「陛下、その、断る事は出来ますか?」


「うん?エリーは私が何を頼もうとしてるのか、わかるのかい?」


「はい、わかります」


私には1年前の魔導国の奇襲時、真っ先に駆けつけた実績がある。鉱山までの半日以上かかる道のりを1時間で走破した実績がある。

ならば、求められているのは。


「王国への遠征と調査。ですよね」


「ああ、そうだ。他の者達に頼んでも良いが、それでは依頼達成がいつになるか分からん」


「お断りします」


私は王国に良い印象が全くない。

騎士団に入り、これから国に貢献していこうと言う時に集団レイ◯された国に良い思い出があるわけがない。

調べずとも『初物』が何のことかわかる。

だからこそ私ではダメなのだ。


「なぜ、断る?」


「陛下は『初物の美姫』というのが何なのかお分かりにならないので?」


「ああ、分からん。だから調査が必要なのだ」


「なら、ここでソレが何かわかれば行かなくても良いですか?」


ダメだ、態度が悪い。陛下との通信だ。言葉遣いには気を付けろ。


「王国が探している者がわかるのか?」


「おそらく、私の事です。美姫は流石に畏れ多いですが」


「それは冗談か?いや、お前がここまで嫌がるというのは、それが理由か」


「はい、陛下は『初物』とは何か分かりませんか?」


目上の人に下の話をするのは気が引けるけど、わかってもらうにはそれしかない。


「なんだろうか、農産物の収穫、最初の1つ目とかだと思ったが」


「いえ、女性の大事なものです」


陛下は少し考えた後にたじろぐが、真には分かっていないだろう。

あの国に少しでもいた事のある人間なら分かるかも知れないが、このアルバニアには行った事のない人がほとんどだろう。


「詳しくはお話出来ませんが、私はスキルによって身体の状態を元に戻すことが出来ます。いえ、出来ますとは言えませんね。勝手に戻るので」


「つまりはそういうことか」


「はい、何故王国が血眼になって『初物』を求めるのか、私には、女性には理解出来ないと思いますが?」


「うむ……」


はあ、でも私自身あの時の王国の事しか知らないし、周辺国にも知らない事が多い。


「陛下、もし、どうしてもと仰るのであれば、指名依頼の内容に周辺国家の調査を追加していただけますか?そうしたら王国へは滞在せずに、例えば共和国に滞在しながら半日往復で見てくることは可能ですよ」


「ああ、そうしてくれ。済まない、私がそちら方面に疎いばかりに」


「これを期にドーラさんとも仲を深めた方が良いかもですね」


「ああ、そうする」


私は通信を切ると冒険者ギルドと通信し、依頼を受ける。それにしても、我ながらあまちゃんである。行きたくないのだから行かなければ良いのに、夫の実家が私のせいで被害にあったのだという引け目から条件付きで依頼を受けてしまった。

問題はフローリア王国がどんな状況なのか分からないことだ。500年も前の話を今出してきていると言う事は、あまり良くない事が起きていると思っていい。


「メル、お土産いっぱい買ってきてあげるから、留守をお願い。ステラがうつ伏せに寝ないよう見ててね」


「はい!任せてください!出来れば甘い物をお願いします!」


メルには本当に苦労をかけるわ。

他人の子供を押し付けられてるようなものだもの。


「じゃあ、いってくるわ」


私は勢い良く飛び立った。

暗雲の満ちた空に、それでも必ず帰ると決意を持って。

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