第二十四話 純白の魔女
すみません。いつもの1.5倍くらいの分量です。
今日は私にとって特別な日。
朝、テラートは張り切りすぎて、もう真っ白なスーツに身を包んでいる。今日の衣装は全部私が作っている。こっちの結婚式とか、どういうものか分からないから、合ってるのかは分からない。
「シュミレーションしてきた成果を出すときですね!エリーさん」
「ええ、楽しみね。メル」
居候のエルメルディアの事はメルと呼んでいる。結婚式の運営は彼女がやってくれる事になった。
招待状を出した面々にはレフィアに家の外で対応してもらう。私とテラートとで、手入れした庭園に、来た人たちには左右に別れて椅子に座ってもらう。そこを教会に見立てるって寸法よ。
披露宴では家の訓練場を開放するから、全員入れるし、テーブル席だって準備万端。
料理だって、私が全部いつもの収納に入れてるから、それを始まる前に出すだけ。
「それにしても、セレモニーの準備って、結構楽しいものなのね?本番当日になって、終わってしまうのが少し寂しくなってきた」
「そうですね。でも、終わった後も感想を言ってもらえて、やっぱりやって良かったって実感しますよ。私は学校の文化祭で、友達が泣いてたのを思い出します」
「いいわね。定期的にやりましょうか、お祭り」
メルにドレスを着付けてもらいながら話す。
純白のドレスを着るのなんて初めてだから、感動するわ。
「我ながら良い出来ね」
「私はもっと露出多くて良いと思いますけどね」
「冗談言わないで、参列者に誘惑する相手もいないのに肌を晒す必要を感じないわ」
「誘惑する相手ならいるじゃないですか目の前に」
メルは後ろのファスナーを閉めながら言う。
私の前方にはテラートがいて、落ち着かない様子でお茶を飲んでいる。
「ずいぶん、人をからかうのが上手になったわね」
「エリーさんのご指導ご鞭撻の賜物かと」
「言うじゃない」
まったく食えない。
「そうだ!エリーさん、結婚式前って写真撮るんじゃなかったでしたっけ?向こうの知識では」
「写真?ってこっちじゃ、まだ魔道具が出来てないのよね」
「それを解決する方法をご用意しております!」
事前に時間で呼ばれていたのか、ロイさんとノノさんが入って来た。
「ロイさんのスキルは念写らしいですよ。見た内容や想像を紙に写せるらしいです」
「え!だからカードゲーム作ってたの?」
てっきり専門の絵師や魔道具で印刷してるんだとばかり思ってたけど、全部1人でやってたの?
というか、メルはわざとらしく写真の話題振ったけど、最初から知ってたのよね?
「おや、エリーさんにはお話しませんでしたか?カードの知識はほとんどザコ様由来ですが、相談にのっていただいていたので、どこかでお話していたと思っていたのですが」
「聞いてないわね。でも、それなら記念写真が撮れるわ。ソッチのほうが商売としては稼げるんじゃない?」
「まあ、そうなのですが、ウチは玩具屋です。今はもう生きがい感じちゃってまして」
「ロイ会長、そんな事より言うことがあるんじゃないですか?」
ノノさんに諭されてロイさんがそうでしたねと思い出したように言う。
「「ご結婚おめでとうございます」。お二人には毎度お世話になっていて」
「ありがとう。2人とも、これからも仲良くしてね?」
記念撮影は淡々と進むと思ったのだが、角度がどうとか光の当たり方が悪いとか、メルが文句を言ってはやり直させる。
「ロイさん、なんだか、ごめんなさいね」
「いえ、ついでにカード化出来るかも、とか思ってた私が悪いのです。悪巧みはするものじゃあない」
「まあ、それはそれで記念にはなるから作ったらちょうだい」
私とテラートの2人バージョンとベガとの3人バージョン、メル込みの居候バージョン。3種類の写真を作ってもらった。最後のは部屋に飾ろう。
「よし、じゃあメインの式の時間まで、お二人はごゆっくり〜。私とレフィアさんで残りやってきまーす」
メルはやっぱり企画系とか祭事系の仕事してたりしたのかな。それにしては若いけど。
私はテラートに寄り添うと、次の予定を確認しながらゆったりと時間が過ぎるのを待った。
「それでは!新婦が参りますので、席をお立ち頂き、中央の通路側を向いてください」
時間が来た。進行はメル、神父はビスマスの教会から来てもらっている。玄関の自動ドアから出ると庭園がチャペルのように整備されている。
テラートは先に行っており、私の手を引くのはヘイゲルお父さんだ。
左右に知り合いも、そうでない人も集まって期待に満ちた顔をしてくれている。
「まず、新郎から新婦へ想いの共有です。新婦は新郎の方を向いてください」
あれ?リハーサルにない流れだけど。
「エリー、こういった事は本来、披露宴で行うものだと聞いているが、どうしても言っておきたいと思っていた。僕は君と出会ったときに既に恋に落ちていたんだと思う。あの頃の僕は直感を優先して、自分の判断を放棄していた。僕は君にずっと側にいて欲しい。僕がずっと君の側にいたい。あのとき、君からの告白を受けたとき、直感でわかってしまう、後ろめたい自分がそこにはいて、僕はずっと自分の本当の気持ちを君に伝えたかったんだ」
テラートは自分の胸ポケットにある飾りを指差す。
「これは、スキル封じの魔道具さ。これを付けていれば、僕は自分の意思で君に想いを伝えられる。僕は君を愛している。何があっても君と心の距離を空けることはない。結婚してください」
そうして言葉を切るとテラートは数秒頭を下げたあと、私に笑顔を向けていた。
サプライズのつもりだったのかしら。そんな事、ずっと前から知ってたわよ。でも、テラートらしいわね。上手くは言えないけど、この世界のスキルという概念が、お互いの気持ちを邪魔する事もあるだろうから。私は軽く俯き、瞳に涙を潤ませてしまっている事に気付くと、顔をあげて彼に笑いかけた。
「では、指輪の交換を」
私達はお互いの指に指輪を通す。
「誓いの言葉。新婦エリナレース、あなたは病める時も健やかなる時も、いかなる困難が先に待っていようとも新郎を支え続ける事を誓いますか?」
「誓います」
「新郎テラート、あなたは病める時も健やかなる時も、時に神を倒しに行く遠征があろうとも、新婦を愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います」
「では誓いのキスを」
テラートは私の顔にかけられたベールをたくし上げるとそっと口づけをする。
流れるように進行していく式に、私はまた寂しさを覚えた。
少しの間、そうして唇を重ねたあと離すと私達は見つめ合う。
「それでは、お二方はそのままでお願いします。2人の門出に祝福を、ここに契約魔法による婚姻の神約を」
すると、さっきお互いの指に嵌めた指輪が輝き、魔法陣のような模様が浮き上がる。
「これにて、全ての行程が終了しました。新郎新婦が退場します。皆様、拍手でお見送り下さい」
メルの言葉で皆の拍手が始まると私達は手を取り合いながら家の玄関への道を歩く。
この後は少々の準備から披露宴だ。
私は部屋まで移動すると待っていたレフィアに着替えを手伝ってもらう。レフィアには式の最中、家に1番近い位置で見てもらっていた。
退場の拍手に紛れて移動していたということね。
まだ、外の皆は余韻でその場から動かない。その間に会場準備をする。
私は推理物の犯人かの如く、ドレスインナー姿で訓練場の鏡を骨組みから外して収納し、逆に料理が置かれた机を出して配置していく。装飾は前日に準備しているので、あとは場所を人数分整えるだけだ。
準備を終えると鏡を外した所から列席者が入ってくるので、その前に私は退却する。
部屋に戻ると披露宴用のドレスに袖を通す。
これは1人で着替えられるから楽でいいな。
このドレスをベースに黒い色で普段着作っても良いかも。水玉柄の青いドレスはパーティドレスよりも少し子供っぽい。
「テラートの着心地はどう?」
「うん、普段鎧ばかりだったから、新鮮だね。スーツなんて子供の頃以来だよ」
テラートのスーツも光沢のある青でシャツは黒だ。最近は染めてないのか髪の毛は毛先が金で、毛根側は銀、なんかホストみたいだなって思う。
さて、披露宴の会場へ全員が移動したようだ。
事前に決めていた通りに使い魔が、リビングまで呼びに来た。
「準備出来たみたいね、行きましょう」
テラートの腕に組み付くと一緒に階段を降り、音楽担当のガルドが演奏する入場曲が始まると同時に歩みを進める。
ガルドは魔道具のお礼にと、自ら演奏を買って出てくれた。
会場入ってすぐに2人合わせて、せ〜の、と大げさな合わせ仕草で礼をすると特別仕様の席まで歩を進める。
曲が終わって着席。
通信機の応用で作ったマイクの魔道具でテラートが立ち上がると話し始める。
「本日は、私達の結婚を祝福していただき、また、遠方から来ていただきまして、ありがとうございます。こちらに来られた皆様は私達が少なからずお世話になっている方々です。私達とばかりでなく、どうか、皆様方同士のご歓談をお楽しみください。私達が今日という日を迎えられたのは皆様のおかげです。日頃の感謝の印として、酒宴を用意いたしました。ぜひ、楽しんでいってください」
メルが拍手すると釣られて皆が拍手を始める。
「では、開宴の挨拶と乾杯をレイヴンさん、お願いします」
「オホン、えーご紹介いただきました。ビスマスの冒険者ギルドでギルドマスターをしています。レイヴンと申します。帝都の方もいらっしゃる様で、改めて自己紹介をさせていただきます。さて、堅苦しい挨拶は苦手ですので、ここまでにさせていただきます。では失礼。今日結婚する2人はウチの冒険者ギルドで登録したときからの仲で、俺としてもかなり目をかけてるつもりでした。しかし、まさか知らない所で好き合う仲になっているとは思ってもみませんでした。新郎新婦ともども、これからは急に突拍子のない事をしないよう、皆で監視していきましょう!では、乾杯!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
自覚あるからいいけど、もう少し気を使って欲しいわね。私もテラートも、最近は誰にも見せたことのないような荒業で戦果をあげてきているし、こっちが何反論しても説得力ないわよね。
「続いて、ケーキ入刀です。会場の皆様はお食事しながらお楽しみ下さい。新婦左手側に見えますは超特大ウェディングケーキです。こちらも、皆様の前にある料理も新婦の手作りです。このケーキを新郎新婦の共同作業にて真っ二つにしていただきます。それではお二方よろしくお願いします。ケーキにゅううとおおおお!」
メルの声に合わせて高さ2メートルはあるかという大きさのウェディングケーキに2人で剣を入れていく。スポンジの組織を砂糖多めの固めに焼いたから斬りやすくなっている。
テラートも剣術スキル持ってるから、より斬りやすい。
「ありがとうございまーす。このケーキはお持ち帰り用で包みますので、お楽しみに〜。ファーストバイトは新婦エリーさんの都合により無しです。残念!」
この人数でも食べきれないだろうと言う事で、料理を多めに作り、ケーキは持ち帰ってもらう。糖度高いから数日は胃がもたれること間違いなし!
「ここで、皆様にサプライズです。レフィアさんが新開発したマギスクエアという魔道具の登場です。この日のためだけに作成したので販売予定はありませんが、これは映像というものを写し出すもので、物語や遠くの出来事を記録出来るものです。今日は新郎新婦の出会いと愛を育んだ出来事を文章でいただきましたので、再現物語を映像にしました。ご覧ください!」
レフィア、そんな事してたの?絶対、メルの入れ知恵じゃない。巨大なスクリーンが運ばれてきて映像が映し出される。
あ、これ念写した紙でパラパラ漫画作ったのね。
それを映像化した、再現したレフィアはやっぱり天才。
吹き出しにセリフまであって、スマホで見る漫画のようだ。
「見ていただいた映像は、お二人にも秘密でしたので、声は付いておりませんが、少しでも楽しんでいただければと思います。さて、皆様お二人と話したい方もいらっしゃると思いますので、一時進行を中断致します。お席を離れてのお話やお食事も大丈夫です。断じて私が料理を食べたいからというだけではないですヨ?」
皆、笑いと共に席を立ち始めた。
私の前に最初に来たのはルイズとグレイだ。
「あら?エリーお酒は?」
「念のため飲んでないのよ。一応スキルで酔は消えるんだけど、3カ月前に1回やらかしてるから」
「ふーん。それはそうと結婚おめでとう」
「ありがとう」
「まさか、テラートとはな。ま、俺が言えた義理じゃねえが」
「そうね。でもこんなに人がいるんだもの。私達がエリーを独占してはいけないわ。もう行くわね」
「うん、今日はありがとう!」
義理の親の次点で付き合いが長い2人だ。緊張しているであろう私に、1番やりやすい相手だからと最初に声をかけに来たのだろう。ありがたい。
次に来たのは知らない人だった。
「ご結婚おめでとうございます。エリナレースさん」
「ありがとうございます。あの、すみませんがお名前をお聞きしても良いですか?」
「そうね、お互い知らなすぎるのに披露宴にいるんだもん。私はジュエルランク、アルバナイト・ブレイバーのアゲハよ。帝都でギルドマスターをしているわ」
「あー、通信機でお話した」
「覚えてくれてたみたいね。一度顔を合わせて話したいって言ったら、新郎に『エリーは喜ぶと思うから』なんて言われて、今日は急遽参加しているわ」
「はは、言いそう」
アゲハが妙に似ている声マネをするものだから、思わず笑ってしまった。
「まあ、しばらく忙しいと思うけど、落ち着いたらまた連絡ちょうだい。あちらでの話、出来るでしょう?」
「あちら?連絡はしますが、あちらって?」
「ふふ、じゃあまたね」
行ってしまった。あちらってどちらだろう?
次に来たのはナズナさんとナターシャだ。
「あら?珍しい組み合わせね」
「ああ、エリーちゃんにはそうかも知れないけど、私、実はララリリのホームでナターシャを起こす係なのよ」
「ナズナはいつも来るの早い、もう少し」
「人間1日8時間も寝られれば良いのよ?」
何となく2人の関係は察することができた。
「今日はダルバさんは?」
「ああ、いるわよ。ほら後ろ、テラートさんに声かけてる。男性には今日のエリーは刺激が強いから、距離を取ってるんでしょうね」
「あ、腕輪してないからかな」
「いや、素材が良いからでしょ」
「今日のエリーはとても綺麗」
ナターシャは背後に移動して懐かしいおっぱいホールドをキメようとしたみたいだけど、私の髪型を乱してしまう事を気にして諦めたみたい。小さい頃はよくやられた状態でナターシャが寝ちゃうから窒息死しそうになったっけ。
「2人とも、今日は来てくれてありがとう」
「うん、遅れたけど結婚おめでとう」
「おめでとう」
そう言うと2人が立ち去る。
続いて話に来たのは、まさかの人物だった。
「結婚おめでとう」
「ありがとうございます。陛下?」
「皆には内緒だよ」
「いや、バレバレかと。というか後ろにいるのは砦で会った……」
「ドーラです。あの時は上官が使えなくて申し訳ありませんでした」
「いえ、それは良いんですが、陛下とはどのような関係で」
「あ、それはホラ、冒険者達から彼女の仕事ぶりが好評だったから、皇居で召し抱えることにしたんだ」
皇帝陛下らしからぬ言葉遣いだけど、今日はオフの陛下なのだろう。皇子だった頃の雰囲気だ。
「冒険者様様です。私、実は王妃候補なんですよ」
「え!?」
「そもそも、公爵家の娘が砦にいるのが間違いなんだが、文武両道で軍務に進んでしまってな。何でも出来てしまうものだから雑用に使われていたのだ。この通り、家の名前も名乗らないし」
「あんまり家の名前が好きではなくて」
まあ、どうして砦の文官さんがこんな所に、と思ったけど、まさか王妃の最有力候補だったとはね。
「あ、あの砦にいた私の元上官なんですが、エリーさんに『スキル鑑定』というのを使ったらしくて。読み取ったスキルの数に応じて魔力を消費して、どうやら魔力切れを起こした結果、あんな感じに……」
「あー、だから呼びかけても反応しなかったんですね。今日は、私達なんかの為にわざわざ来て頂いてありがとうございます。あ、そういえば、陛下が言ってた昔読んだ本って何てタイトルなんですか?ちょっと読んでみようかと思ってまして」
「ああ、メーデイアの登場する物語の名か。あれは確か『アポスタシアエポース』だったかな?」
うーん、スタシアとかは確かギリシャ語っぽいから、転移者が書いた本なのかな?ということは、メーデイアもギリシャ語か。
「ありがとうございます。探して読んでみます」
「ああ、では私達もそろそろ行くよ。次が先程から後ろで待っているだろうからね」
いや、この2人には、後でお手紙読んでもらう予定だから良いかなって思ってたのよ。
「エリー、おめでとう」
「お母さん、ありがとう」
義理ではあるけど、2人は私の育ての親だ。
誰よりも近くで私を見てくれていた2人。
「お母さん、私、お父さんに拾ってもらって、孤児院に入った5年間。振り返ると本当に2人に会えて良かったって思う」
「そう。私もよ、エリー。でも、良かったのかしら?ナミさんは来てないのよね?」
「あー、あっちのお母さんは人酔いが激しくてね。昨日会ったし、料理とケーキの試作したやつをウキウキしながら持って帰ったよ」
「そっか。私いまでも『お母さん』って呼んでもらってる事に少し罪悪感があるのよ。本当のお母さんがいるのにって」
「ルチアが私のお母さんなのは昔から面倒見てもらったからだし、そこに本物も偽物もないよ。そうでしょ、お母さん」
「そう、そうね」
お母さんは涙を浮かべると去っていく。結局お父さんは何も言わずにただ、微笑んでいた。
最後に来たのは白髪の男性だ。いや、銀髪かな?
「お初にお目にかかる。ドレッド・アイゼンスター伯爵だ。結婚おめでとう」
「こちらこそ、伯爵。エリナレースです。ぜひ、エリーとお呼びください」
「ああ、エリーさん、テラートの事をよろしくお願いします。」
「はい」
「それにしても、そのように可憐な容姿で既に子供がいるとは恐れ入ったよ」
「ご存じでしたか」
「ああ、魔導国からの襲撃があった日、テラートが連れてきたんだ。2人で話しているときにメイドがベガを抱いて入って来てな、ちょうど君の話をしていた時だったから、腰が抜けるかと思ったわ」
「最近、テラートはスッカリいたずら好きになってしまいましたから。今日の結婚式の時も打ち合わせにない事をしましたし」
「本当にな。まさか、もう2人目がいるなんてことは?」
「流石に気が早いですよ。私達だってそんな節操無しじゃありません」
「はあ。最近、私の直感は冴えなくてな……。少し疑り深くなってしまうんだ」
「親子してスキルだよりだからそうなるんですよ」
「面目ない」
伯爵は居た堪れなくなったのか、おずおずと席に戻って行く。
そろそろ次に進めるのかな?一応、この森は街から1km程離れているから、夜中の移動となるとちょっと危険だ。16時頃には披露宴を終わらせる必要があるから、あと1時間といった所。
メルを見ると口いっぱいに料理を詰め込んでいる。あなたは家にいるんだから、片付けのときに食べなさい。私がメルに手振りで巻くように伝えると、やっと司会席に戻って進めていく。
「では、次に進めていきます。とっても美味しい料理でした。ここで、新郎新婦のお色直しの時間、と言いたい所ですが、時間の都合により省略致します。次は新婦より、両親への手紙です。ヘイゲルさん、ルチアさん、ライトの魔法が当たっている位置までお願いします」
2人が位置に付くと私は話し始める。
ガルドが私のリクエスト通りに、時を紡ぎそうな曲をサビの部分だけ、ゆっくりとした曲調で弾き始める。
「お父さん、お母さん、大切に育ててくれてありがとう。私は実の娘ではなく、お父さんに拾われた捨て子でした。当時、お父さんは私を育てる事に集中するために、冒険者パーティを辞めてまで、お母さんのいる街まで戻ってきました。お母さんは私の身を案じて、私が狩りに出るのを、冒険者になるのをよく止めていましたね。私が他の孤児院の子と仲良く出来ていないと気付いた時は、私の事を優しく元気づけてくれました。お父さん、お母さん、本当に感謝しています。そしてどうか、これからも私達の歩みを見守っていてください。新婦エリナレースより」
拍手が響く中、メルが進行する。
「続いて、ヘイゲルさんより、新郎新婦への言葉。よろしくお願いします」
お父さんが一歩前に出る。その顔はいつもの微笑んでいる顔なんだけど、何だかぎこちない。
またもガルドが寂しげな時を超えて愛せそうな曲を奏でる。
「こんな……髭の化け物みたいな見た目の男をお父さんと呼んでくれてありがとう。エリーは昔から手のかからない賢い子で、私達の世話などあってないようなものだったし、何か特別なことをしてあげられた覚えがありません。それでも、これだけ大きく育ち、仲間にも恵まれ、そして、こんなにも真面目な旦那さんを迎えることが出来ました。テラート、エリーの事を頼みます。私が何か言えたような立場かは分かりません。でも、私は2人のゆく道が希望に輝いていると、そう信じている。2人とも、改めて結婚おめでとう。これからも末永くお幸せに」
お父さんの言葉が終わるとガルドがしっとりとしたラテン語の赤っぽい音楽を弾き始める。
「皆様ありがとうございました。只今をもちまして、全ての行程が終了致しました。これより新郎新婦が退場致します。2人の明るい未来を願って拍手で見送りましょう」
この後は外に出た所で、レフィアが包んでくれたお土産を帰る皆に渡して終わりだ。
私とテラートは手を繋ぐとゆっくりと歩いていく、曲のリズムと足運びを合わせる感じだ。
◇ ◇ ◇
「終わった〜」
私はテラートと共にリビングの机に突っ伏していた。
「主催兼主賓がこんなに大変とはね。結婚式じゃなくても、パーティを定期的に開いてる貴族は凄いなって思うよ」
テラートも流石に疲れた様で起き上がれないらしい。
「レフィアとメルは?」
「ああ、なんだかギルドに用事があるとかで明日の昼まで帰らないらしい」
「あ、そういえば言ってたわね。メルの冒険者登録するって、あれ?じゃあベガは置いていって良いはずよね?」
「ああ、ベガは父上がしばらく面倒みるそうだぞ、俺は孫の顔を見るのが今1番の楽しみなんだ!って力いっぱいに言われたもんだから断れなかったよ」
「あー皆、気を使ってくれたのね」
「うん?」
まあ、こういう時ってテラートには察せないのよね。って、そうか、テラートは魔道具でスキル封じてるんだった。
「テラート、魔道具外してみて。そしたら『超直感』で皆が何を気にしてたのか分かるから」
「ああ」
まあ、超直感じゃなくても普通は察するわよ。
その後、魔道具を外した瞬間に顔が真っ赤になるテラートを前に、大笑いした私は疲れから復活するのだった。




