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円環記憶のエリナレース<-8周目の少女->  作者: ユーマヤ・バラッチ


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第二十一話 名もなき森の戦い(前編)

ダモクレス魔導国軍 副団長 桐生虎彦。能力は『超射程狙撃』。

銃や弓の扱いに関するスキルだが、この世界には銃が無い。ならば作れば良い。

導主配下になって、まだ1年半。副団長になって半年だが、この位に落ち着いたのは有用な『銃火器』の知識をもたらした事、導主に従順である事、そして彼が元自衛隊軍人であるからだ。

だが、開発は間に合っていなかった。銃火器の知識があっても、正確な加工を出来る者がいなかった。

自分で使用する分だけでも用意出来ないか?

そう考えた虎彦は牧場の収容者リストを見た時、自分と同じ牢屋に収容されていたエルメルディアという女性の能力欄に驚いた。

「こいつは、俺に使われる為に生まれてきたのか?」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第5番牧場 収容者

名前:エルメルディア

知識:洗濯機 自動で洗濯をする。

魔法で代用可能。重要度(低)

知識吸い出しの余地あり。

能力:『変化(銃)』

銃という物になれる。用途不明。

本人曰く武器の一種。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


弾かれたように導主の元へ向かうと嘆願した。

この者を俺の武器に、と。

要望はあっさりと通った。


「そなたらは一組の戦士だったのだな。では共にあるべきだろう。私にはその者の価値は分からんが、まだ吸い出す情報があるだろうと5番に入れておった。価値がわかる者、すなわちお主が使うと良い」


当時の情景から我に返ると虎彦は構える。

今構えているのはエルメルディア式バレットM82。スナイパーライフルだ。

この銃で警備兵の頭を吹き飛ばすのが開戦の合図となる。

だが、スコープ越しに城門前を見ると明らかに兵の数が多い。

「なんだこれは?情報でも流れたか?」

(だが、作戦遂行に支障はないだろう。奇襲により、相手の兵はたたらを踏むのだから)

そう考えると虎彦は1番目立つ鎧を着た人物の脳天に狙いを定める。

(偉い奴というのは分かりやすくて助かる)


だが、引き金を弾く力を込めた瞬間だった。


その者は正面斜め左上からの弾が事前に見えたかのように、その場で抜刀すると徐ろに薙を放った。


バァン!


「は?」


着弾したかの様に見えた銃弾は剣に受け流され跳弾し、地面に突き刺さっている。狙撃失敗だ。

だが、銃声を聞いた自軍は突撃を開始する。相手は倒れていない。


「撃つ瞬間に対応された?」


虎彦は動揺を隠せなかった。




◇ ◇ ◇




3時間前。


アイゼンスター伯爵領マルチェン。

テラートがドレッドとアイゼンスター伯爵邸で夕食を共にした夜。


2人は何も言わずに当たり前のように防衛の用意をした。


理由は明らかである。

2人は『超直感』でこうした方が良いと勘付いた。


いったい、いつから?


その問いの答えは誰にも分からない。

家族の為にと帰ってきたドレッド。

本当にそうなのか?

結婚の報告にと20年ぶりに実家に戻ったテラート。

本当にそうなのか?


端から見たら、この2人の行動は意味が分からないだろう。

事前に用意された対軍用魔道具。

事前に発布されていた特務伝令。

領外の城壁に配置された軍は2千。

森の出口は見えやすい様に切り整えられて、まるで庭のようだ。



そこには勘の領域では計り知れない何かがある。


「テラート、お前もこうした方が良いと思ったんだな?」

「ええ、何が来るかまでは分かりませんが、何かの大群が攻めてきます」

「これでも少し不安だな。占星術による占いの結果だと言って救援要請をかけるか?」

「それも良いかもしれませんが、案外救援もいらないかもしれないです」

「ふむ、また私の計れない事をお前が読んだな。つまり」

「エリー絡みの要素かもしれないですね」


ドレッドが読めないときにテラートが読める。それはエリナレースの影響で何かあるのだろう。2人はそう結論を出す。

すると、ドレッドのそばにメイドの1人が駆け込んで報告する。


「お屋敷からの使いです、お客様がいらっしゃいました。いかがいたしましょう?」

「客?こんな時間にか?」

「この時間だからこそかと、通信機の設置工事だと言っております」

「名前は名乗っていたか?」

「はい、錬金術師のレフィア様だそうです」


なるほどと、テラートは思う。


「レフィアさんはクリスタリア・アルケミストという称号を持つジュエルランク冒険者だよ。通信機の開発者でエリーの良き理解者だと聞いてる」


「つまり、通信機の準備ができ次第救援を呼ぶことも、レフィア様本人にも参戦してもらえるというのだな?」

「いえ、魔道具関連ではそうなのですが、彼女、戦闘は自身ないそうですよ」


正確にはレフィア自身の力が、かつて組んでいたパーティメンバーより幾らか劣っているというだけで、そこから鍛錬したレフィアの弓の腕はプラチナランクに相当していた。

しかし、謙遜する性格で、周りと組んで依頼をしないので、実際の実力を誰も知らなかった。


「彼女は1人で来ているのかい?」


テラートがメイドに聞く。


「いえ、全員で5人です」

「ほう?テラート、少し確認してきてくれるか?協力を取り付けられるなら戦力が増えそうだ」

「はい、私の知り合いであれば、頼みやすいですしね。伯爵の指名依頼として処理してもらえば断らないと思います。では行ってきます」


テラートは一旦前線を離れ館へと向かう。


「君、急がないといけない気がするから、少しペースを上げるよ!」

「はい、置いていって頂いて構いません」


メイドを振り切ったテラートが全速力で走る。風魔法や強化魔法といったものを一切使わない全力の走りだ。だが、彼の速さは既に馬車と同等レベルになっていた。


「ハアハア、やはり…か。レフィアさん、良くぞ……来てくれた!」


「テラートさん、そんなに息を切らして、どうしたんです?」


「実は、我が家の占星術で大群がこの領地を攻めてくると出てね。父が防衛の準備をしているところなんだ」


「なんですって?」


「だから、レフィアさんには通信機の設置を急いで欲しい。場所は父の執務室が良いだろう。執事長に案内を頼むよ」


そう言ってテラートは他の面々を見やる。

見回すと普通はそこにいないような人物に気付く。


「アゲハさん?ギルドマスターのあなたが何故こちらに?」


「いちゃいけませんか?」


「いや、そういう訳ではなく。私としては協力を頼みたいのでありがたいのですが……」


帝都のギルドマスターは現役のジュエルランクで名が通っているため、テラートでなくとも疑問を持つことだろう。


「フットワークだけは軽いんですよ」

「あの、俺達が説明するよ。テラートも急いでるみたいだし、いつまで経っても話が進まないのは良くない」


ヘイゲルの声でテラートは思い直す。そうだ、急いでいたのだった、と。


だが、来た面々を見たテラートは、急がなくても良い事に気付く。ヘイゲル、ナターシャ、バルダ、そしてアゲハ。この4人が居れば問題無い。


「今日はドレッドさんとルイズさんはいらっしゃらないんですね?」

「あの2人は砦の方に行ってるらしくて、パーティの集合時間にはもういなかったんだ」

「それで……。アゲハさんは何故こちらに?」

「通信機を繋ぐのが帝都ギルドでな、レフィアさんの付き添いだ。実際に自分の目で見ておかないと気が済まないらしい」

「なるほど。ヘイゲルさん、冒険者ギルドに依頼したい事があります。おそらく早急に対処しなくては大変なことになる。僕の父、伯爵が既に防衛線を敷いています」


テラートは4人の冒険者に救援を依頼した。ヘイゲルはテラートの超直感を知る数少ない人物の1人だ。この依頼の重要性を理解している。


「アゲハさん、私達だけでは恐らく失敗する依頼ですので、一緒にお願い出来ませんか?」

「何何?どういう流れ?」

「彼の一族は未来を見通すような占いが出来てですね……」

「そうですね。たぶんアゲハさんが来てくれないと領地が……」

「えええ?まあ、行くけど」


アゲハは納得していないが、ギルドへの正式な依頼である。


「というか、バルダとナターシャはそれでいいのか?」

「ああ、そんな事か、俺は別に良いぞ。本当は魔導国との戦いに参加したかったが。行ったのが、あのメンツじゃあ、俺は役に立たん」

「ナターシャは?」

「わたし?別に?魔法撃ってれば終わるっていうなら楽だしいいかな」

「では、僕に付いてきてくれ!ナターシャさんはあとからウチのメイドとゆっくり来てもいいから」


ナターシャが急ぐというのは無理だ。本人の性格的にも、絵面的にも。それを分かっていてテラートはひと言添える。


テラートがいつもより速度を落として駆け出すと全員がそれに続く。


「僕はアゲハさんと依頼を共にした事がないから、どんな戦い方をするか知らないんだけど、アルバナイト・ブレイバーって称号から近接系なのかな?」


「基本的にはそうね。でも、ずっと動き続けてるからなのか、プラチナのときは不眠の踊り子って呼ばれてたわ」


「状況に応じて切り替える戦い方は、エリーに似てると思いますよ」


ヘイゲルが補足するが、結局万能型という事なのだろうか?とテラートは思いを巡らす。それでも腑に落ちない。テラートの超直感は情報の少ない相手には働かないが、アゲハが勘定に入った瞬間に、不安だった防衛計画に安心が付与された。

テラートが何も返答をしないことから、察したのかダルバが更に補足する。


「エリーは貯蔵型だが、ギルマスは即興型だ。エリーは準備した物を器用に使う。ギルマスはそれに対して、その場の判断で創り出す。スキルは武器を創り出すものだ」


「なんか含みがある言い方だけど、即興なのは合ってるから否定し辛いわね。使った事のある武器を魔法でつくりだして戦うのよ。それなりに練習してるんだから、全部が行き当たりばったりというわけではないの」


「なるほど、どうにも腑に落ちなかったのですが、解決しました。ウチの占星術は理解していない者を占いの勘定に入れられないのですが、アゲハさんはエリーに戦い方が似ていたから計算に入れられたんですね」


「へえ?占星術って結構シビアなのね?エリーさんには通信越しだけで会ったことないけど、ギルドの記録でも相当な実力者だってわかる。会って話してみたいわね」


「今度、結婚式やるのでアゲハさんも招待しますよ」


「そんなに気軽に他人を呼んでいいの?」


「エリーは喜ぶと思います。エリーは捨て子だったし、私も家を出た身、そもそもほとんどの参列者が血縁ではないので」


「そうなのね?じゃあ私も行くわ」


そんな会話をしていると街の東門に着く。


「東側は街道も細く、魔物も多いので普段は使われていないのですが、こちら側から群れた何かが来ると父と私の占いが一致しまして」


「それで、こんな夜更けにこれだけの兵を集めているのね」


「アイゼンスターの占星術はよく当たる事で有名です。それで2つの占い結果が一致するとなると尋常じゃないですね」


門を出てすぐの森は枝葉を伐採していて隠れるような場所がほぼ無い状態になっている。森に火を放つことも考えはしたが、2人は街への被害が出ると直感し、取りやめた。


「さて、何が来るのか」


テラートは門を出て仁王立ちである。兵士達は、この場合、テラートを守る立場かと思われるだろうが、伯爵の息子の顔を知らないので、馬鹿な冒険者が前に出ただけだと思っている。

ただでさえ目立つ金ピカの鎧に堂々とした態度で待つ。何も考えていない様に見えるが、自分を餌に敵を釣り出す気でいる。


瞬間、テラートの超直感が閃いた!


こうしなければ!死ぬ!

剣を抜き放ちそのままの動作で上向きの薙を放つ!

キンッ!


すると剣に衝撃がかかり、反射した何かが地面に埋まった。


「敵襲!遠距離からの攻撃だ!」


すると音のした方から、うじゃうじゃと敵がやってくる。


「今の攻撃を合図として攻めてきているな」


陰に身を潜めていたダルバが呟く。


城壁に付けられた対軍用魔道具の出番だ。

敵は森から出る一歩手前の辺りで急激に足を止める。勢いのまま顔から崩れ落ちる者もいる。

敵に睡眠と麻痺を伝播させる。それがこのララバイインフレーションサーバー、略してLISという魔道具だ。

だが、効果が出るのは照射範囲だけだ。学習し、範囲外を抜けてくる者達もいる。


「それにしても見えない攻撃ですか、僕は直感が幅を利かせてくれて助かりましたが、一般兵では察知出来ませんね」


本来、スナイパーライフルの一撃など、威力や弾速からして防げるものでも、躱せるものでもないはずなのだが。


「さて、抜けてくる人数が増えてきた。乱戦になるわよ!」


ダルバは闇に紛れ、アゲハは刃の薄い大剣を魔法で生成する。冒険者と領地防衛の兵士達の違いは戦い方にある。型にはまった訓練を積んできた兵士は動きの基礎となる所が同じである。また、それが利点でもあり、統率の取れた動きで敵を陣形の中に分け入らせない。だから、門前を兵士で固め、冒険者がそれぞれで敵を処理するという戦術が取れるのだ。


テラートは目の前の敵の猛攻に剣筋を合わせながら、何度も飛んでくる銃弾を黄金に輝く剣の腹を斜めにしていなす。全てを『超直感』に委ねた無駄のない動き。それは次第にテラートの血肉になっていく。


「むっ?」


それらスキルは突如として生えた。当然と言えば当然かもしれない。目の前の敵を斬り伏せながら銃弾に対応しているのだ。既にその力量は剣聖と言っても生温い。


『極剣』『軌道予測』『守護者』


生産者は腕を磨き成長するが、戦いに身を投じる者達は戦いの中で成長していく。テラートはあり得ない事をやって退けているという自覚もなく、さっきよりやりやすくなったなといった呑気な事を考えているのだった。


一方、ダモクレス魔導国軍 副団長である虎彦はどこを撃っても剣で弾かれる事に言い表せない寒気を感じていた。

(奴は危険だ。バレットの弾速は時速約3000Kだぞ!?何だアレは目で追えない物をどうやって捉えている。頭を狙っているのを予測して先に剣を置いたのだと思えば、どこを狙っても打ち落としやがる!)


「おい、1km先まで近付く。人型に戻れ」

「え?この銃の最大射程で勝負した方が良くないですか?副団長閣下」

「奴は化け物だ反応できない連射能力で当てる」

「え?アレだけ撃っても当たってないんですか?ヘッポコ丸ですね副団長閣下♪」

「やはりお前はトイレ担当にする」


スキルの力で本来の射程が2kmのスナイパーライフルを3kmから撃っていた。だが、本来低射程の機関銃も、彼の能力であれば長距離運用が可能だろう。

問題は森の中からどう当てるのか……だ。

彼らがいるのは森の中に偶然にもそびえ立っていた小山の頂上だ。まるで用意されていたかのようにアイゼンスター伯爵領の東門が丸見えである。

そう、既に用意されていた。サイレンサーを付けると射程と弾速が落ちるので、より高射程で気付かれずに狙撃した方が良い。

先行した部隊の土魔法で整えられたそこは小山と言うには少々整い過ぎていた。


「1km地点には何も用意はない。不測の事態に陥った場合、更に距離を詰める必要がある。念のため撤退準備をしておけ!」


自分の率いている部隊にそう告げると2人は走り出す。

本当の化け物が近付いているとも知らずに。

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