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円環記憶のエリナレース<-8周目の少女->  作者: ユーマヤ・バラッチ


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第十八話 急襲にて、冒険者立つ。そして

帝都アルバニア、皇城真慧ノ間。

午前中に新皇帝と国の重役達の初の会合の最中、

伝令兵が走り込んだ。


「なに??キマラ砦が落ちただと!?」

「どこの盗賊団だ!」

「いや、それを言うなら国では?」

「そもそもキマラは他の国の国境近くではない。周辺国に侵略を続けている魔導国との間にもまだ2箇所の砦があるだろう!」


バンッ!


「静粛に」


つい、先日戴冠式を行った皇帝アルバニア3世。カイ・ユイファーン・アルバニアが声を上げた。


「魔導国は周辺国家に対して、宣戦布告をせず侵略行為を繰り返している。それがまた来たというだけの事だろう」


「恐れながら、まだ魔導国と決まったわけではないのでは?」


「いや、魔導国だろう」


ドレッド・アイゼンスター伯爵が魔導国であると言う。


「なぜ、そうなるのです?」


「火急の為、手短に。私の占星術が魔導国である可能性を示している」


アイゼンスター家の占星術は未来を確定させる程だ、とまで言われている。

噂通りならば、と皆同様に口を塞ぐ。


「では、魔導国が相手であるとして、どうやってキマラを落としたというのです?」


「それは上か、下だろう」

「そうか、空か」


皇帝が議論すべき方向を示し、ドレッドが納得の声をあげ、空を示した。


「空?」


「となれば、次の砦が危うい」


「相手が空から攻撃を仕掛けてくるのであれば、対策しようがないぞ」


皇帝が手を前に出し制する。


「残念ながら我が国軍にはそのような戦力は無い。それを見越して敵は空から攻めてきているのだ。だが、こちらには優秀な民間の戦力がいる」


皆同様にその可能性に賭けるしかないと頷く。

アルバニアの冒険者は他国よりも秀でている。

その分、軍の実力が低いのだが、それは自由な国風から来るものだろう。


「急ぎ冒険者ギルドに通信を!魔道具をこの場へ!」


ジュエルランク冒険者が作ったという通信機。これがあれば、時を経ることなく伝達が出来る。

皇帝の執務室にあった通信機を騎士たちが運び込む。

砦に置かなかった事は幸か不幸か。


「こちら、帝都アルバニア冒険者ギルド」

「皇帝カイ・ユイファーン・アルバニアだ」

「ひ、ひぃ皇帝陛下ぁ!?」


そりゃそうなるわ。とその場の皆が頷いている。


「ただいま、代わりました。ギルドマスターのアゲハです。急ぎでしょうか、ご要件を」


「察してくれて助かる。今朝方、キマラ砦が落ちたと報告があった。アイゼンスター伯爵の占星術によって、魔導国の空からの奇襲の可能性が高いと判断。空への対策のできる冒険者の協力を要請したい」


「わかりました。現在直通で通信できるのは3か所、ジュエルランク冒険者サファイア・ジェネラル、アラン。同じくトパーズ・ファクチュール、ガルド。そしてプラチナランク冒険者エリナレース。この3人には直通で協力要請を」


「助かる。ジュエルの2人はともかく、プラチナ?そうか、エリナレースは通信機の開発にも携わった功があったな。開発者としては一流だろうが、戦力としてはどうなんだ?」


「陛下。彼女はドラゴンスレイヤーですよ?しかも、散歩をする様に討伐に向かい、魔物の巣窟と化した坑道を一匹残らず殲滅して1時間もかからずに帰ってきたと言います。冒険者登録時にはギルドマスターを一撃で失神させたとも」


「そ、それは、プラチナで良いのか?」


「登録はシルバーが上限ですので、彼女は1年でプラチナまで上がり、それ以降ギルドに顔を出していないそうです。実質的にはジュエル以上の戦力ではないかと」


「ならば、今回の功で釣り合いを取ると伝えてくれ」


「御意に。では通信を切らせていただきます」


その場の皆に安堵の空気に包まれる。


「はあ、国がこれではいかんのだがな」


皇帝は軍の人間を育てる教育機関にジュエルランクを講師に呼ぶか、と育成の分野に想いを馳せるのだった。


「この戦が終わったら、空戦能力に秀でた部隊を作るぞ」





◇ ◇ ◇




サファイア・ジェネラルという称号を持つアランは通信を受け取ると、対空に適した人選を行う。


「皆、不安かと思うが、私の後ろに居れば被弾はしない。抜けた陸戦勢力が有れば迎撃する必要が出る。軍には任せておけない。前衛も数人、プラチナとゴールドから連れて行く。無傷で多額の報酬が出るんだ、奮って参加して欲しい」


やがて演説を聞いて集まった冒険者達に作戦を伝えると本拠地であるティググランを出発した。


同じくトパーズ・ファクチュール、ガルドは首を傾げながらも戦場へと向かう。


「人選、ホントに俺で合ってんのかね?」


彼は冒険者で音楽家。吟遊詩人とも言える職業だった。ギターケースを片手に軍に合流した。


そして、エリナレースは……。


優雅に昼下がりの紅茶に口を付けていると通信が入った。敵国はエリーにとっては宿敵のような相手の名だ。


「魔導国……」


実家へと向かったテラートにベガを預けた後だったので、すぐに準備を整える。

魔道具『空飛ぶ箒』に跨ると標的となる砦へと飛び立つのだった。



◇ ◇ ◇



国境近くのレードル砦から見たキマラ砦は業火に焼き尽くされていた。同じように国内側のピルグ砦からもその様子が見て取れる。敵影は0、異様であることもまた明らか。見張りをしていた者も急に火の手が上がったことしか確認出来ていない。内部犯によるものか?いや、それならばこちらに伝令の1つや2つ来てもおかしくはない。困惑の内に砦全体が炎で覆われた。


転移者が見張りをしていれば、こう言っただろう、「複数の爆弾が降り注いだ」と。


「こんにちは!冒険者ギルドから来ました!」


見張りが空を見上げていると矢のように飛んできた物体が目の前で急停止し、声までかけてくる。


「冒険者ギルド!?」


「はい、皇帝陛下の要請で空からの攻撃に強い冒険者に声がかかっています。私はその第一陣と言った所で……単独で先行してきました。敵戦力はどの程度でしょうか?」


「は、はい。未だに姿を見せません。攻撃方法は不明ですが、突如として砦から火の手が上がりました。あなたの事を上官に報告しますのでお名前をお聞きしても?」


「プラチナランク冒険者のエリナレースです!また索敵次第、先行しての敵の遊撃をしますので、その旨もお伝えください!」


エリナレースが飛び立つと見張りは上官の元へ走った。


「報告します!敵影未だ見えず、冒険者ギルドからプラチナランク冒険者の援軍1、索敵終わり次第遊撃に移るそうです!」


「あ?その報告はおかしいだろ!」

「へ?」

「いや、事態の報告と援軍の要請のため伝令を走らせたのは今朝だ。全ての伝達が終わり冒険者に要請が出るにしろ、早すぎる」


上官は砦に常に詰めていたため、通信機の存在を知らなかった。また、知っていたとしてもエリナレースの到着は早すぎた。


「あ、そういえば、その冒険者は箒のような物に跨って矢のような速さで移動しています。名をエリナレースと言うらしいです」


「そんな事があるか!?」


すると上官の隣にいた士官の態度が少しおかしくなった。


「上官!エリナレースという名前には聞き覚えがあります」

「なんだ?ネームドか?」

「はい、5歳でドラゴンスレイヤーとなり、ゴールドランクに、翌年にはプラチナランクに昇格したと聞き及んでいます!」

「な、なんでったって、ええ」


上官は何か反論を言おうとしたのか驚きで声がしどろもどろになって、言葉にならない。


「とにかく、強い援軍が来たって事ですね!」


上官に水を渡し微笑む士官が見張りには一際眩しく映った。



◇ ◇ ◇



見張りの人に簡単に説明してから、私は飛び立った。空からの奇襲。そこから考えられるのは雲に偽装した気球からの爆弾投下。あるいは姿を消す魔道具で飛行物体全体を隠す方法。

私は他の可能性がないかと、空を見やった。

轟々と燃える砦の上空には煙と厚い雲が、そしてこちらは快晴。

であれば、透明化の魔道具の可能性は消える。

私自らも魔道具を作った経験があるから判るが、透明化は光の屈折率が関係するため、絶え間なく形の変わる煙の中では、ほとんど姿が見えてしまう。

つまり、

「雲よりも上からの攻撃」


私は急速上昇しながら、身体にかかる負荷と空気圧の変化を風属性魔法で相殺する。

理論上は風属性魔法さえ使えるのであれば、空を飛ぶ事は可能だが、消費魔力量が異常に多いため、安定して飛ぶ為には『増幅器』という触媒が必要になってくる。それを司るのがこの『空飛ぶ箒』だ。珍しく自作したため、レフィア作ではない。おそらく、レフィアに頼むと箒以外の形になるだろう。それはロマンに欠ける。


私は雲を突き抜けると『想身変容』を使って雲に偽装する。

なるほど……。


この高度を保つにはそれなりの強度が必要になる。それこそラピュ◯に出てくるような金属ゴテゴテの飛行船だ。


私は可能ならば外から中が吹き抜けになっているタイプで、そこから潜入する事を目論んでいた。

魔導国ダモクレス本国にいる導主を狙い撃った方が話が早いからだ。


だが外から入れないのであれば、撤退時に静かに後ろを付いて行くしかない。

ひとまず撤退したくなるほどの魔法を1発撃ち込むかな?


(『プリズムゲイザー』)


10年前に訓練場で撃ったものよりも遥かに高密度の魔力を放つ。


ドゥギァアアアアアン!


私の魔法は着弾と同時に硬い飛行船の横っ腹に4m程の大穴を穿った。




◇ ◇ ◇



所変わって、アルバニア帝国マルチェンを統治しているアイゼンスター伯爵邸には、訪問者が現れた。赤子を抱いた正義感溢れる顔立ちの男は、実家である事を良いことに、アポ無し訪問である。


「ドレッド様は出かけておいでです」

「そんなあ」


うーん、と唸ると不意に思いついたかの様に

なら、母上かと呟くと


「シルヴィア様はおられますか?」


と訪ねる。

自分の顔を覚えられているなら素通りだったのだろうが、テラートが家出したのは20年も前だ。

執事が代替わりをしているのも頷ける。


「なるほど、ドレッド様の占星術により、確かにシルヴィア様の名前を出されたらお通しせよと仰せ使っておりました」


それは何とも複雑な気分。テラートが家出した理由はこの不誠実な嘘が理由であった。

占星術。実際には星など詠んでいない。実状は『超直感』を『範囲増幅』の魔道具を使って、より多くの場所に直感を働かせているだけだ。

占星術と呼んでいるのは、直感という曖昧なものではなく、形式的、伝統的なものに変えることで、周りの信用を得るためである。


だが、息子を持つ今の立場になって、テラートは気付いた。この不誠実さは家族への誠実さから来ていたのだと。


奥に案内されると母上と、おそらくは弟が待っていた。


「あなた、テラートですか?」

「はい、母上。長く顔を見せずに申し訳ありませんでした。本日はご報告に参ったのです」


「言いたいことはありますが、ひとまずは聞きましょう」


「私、テラートはこの度、結婚することになりまして、このように子供もおります。家出した身ではありますが、結婚式にはぜひ、ご参加いただきたく存じます。お願いします」


「はぁ、テラート、あなたは家に戻る気はないのですね?」


「はい、私はあのとき、一族の真意を見定めることが出来ませんでした。その身で戻るなどという行為は私自身が許せません」


「兄さん」


不意に弟であろう声があがった。名も知らぬ弟だ。


「すまない。名前を名乗ってすらいなかった。恐らくは君は私の弟なのだろう。テラート・アイゼンスター、今はただのテラートだ」


「ううん、僕はダキット。兄さんがいるって分かっただけで、少し嬉しくなったよ」


「そうか」


なぜか、テラートの顔には涙が伝っていた。

自分でも分からなかった。なぜ泣いているのかが。


「母上、少しダキットと話をしても?」

「ええ、では私は少し別室にいるわね」


テラートは、ダキットにはぜひ、ベガの友人になってほしいと思った。


「ダキット、この子はベガ。僕とエリナレースという冒険者の女性との子供なんだ。ぜひ、仲良くして欲しい」


テラートがそう言うと、ダキットは予想外の反応を見せた。


「エリナレース?兄さん今エリナレースって言った?」


「ん?ああ、言ったが、急にどうしたんだ?」


「いや、兄さん。エリナレースって言えば伝説のドラゴンスレイヤーじゃないか」


「ああ、そうか。ダキットは今何歳なんだい?」

「11歳だよ」


「だからか。ダキット、その伝説の人が君の義姉さんになるんだぞ」

「!?」


ダキットは徐ろに懐から何かを取り出す。


「兄さんはこの人と結婚するんだ!」


それはカード。エリーがドラゴンに向かって魔法を撃った瞬間を描いたものだ。

この年頃の子供の興味といえばお伽噺や、英雄譚だろう。


「まだ発売してないだろう?どこで手に入れたんだい?」

「行きつけの玩具屋のお姉さんがくれたんだ」


そこから、テラートとダキットの距離は限りなく縮まった。テラートの語るエリーの凄さや普段の可愛さの話に聞き入るダキット。ベガが大きくなったら遊んでやってくれとか、結婚式には僕も呼んで、とか。

今日あったばかりだが、確かな兄弟の絆がそこにはあった。


その様子をシルヴィアは陰ながら見つめていたのだった。


「良かったわ」

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