第十五話 エリーとテラート
私は性能が向上した通信機の前にいた。
レフィアがちょちょいとパーツを入れ替えると、私の実家と冒険者ギルド、王城の3か所に通信出来るようにアップグレードされた。
冒険者ギルドに通信を飛ばし、テラートに伝言を頼む。
内容は「前に家に来た時の件はごめんなさい。私から報酬があるので取りに来て欲しい」というものだ。
ギルドに子供が出来てたなんて漏らされるわけにもいかず、直接話したかった。
私は何故か気づいたら目一杯のオシャレをしていた。気持ちに鈍感な女とはこういうものなんだろうか?
レフィアはそれを見て笑っていたが、私には何のことかわからなかった。
「私も知らずの内にグランマです。悲しいですね」
あん?
いや、あんたが届けた子供だろうが!
ツッコミ待ちだったようで、女神様は微笑んでいます。
「まあ、貴方達が頑張れば普通に出来てたんですけど、その腕輪の効果って私にとっては利点0なんですよね。剛健も不老も消えちゃうわけですから」
腕輪をしている間、子供が出来れば普通に産む事ができる。しかし、剛健が無いと、ひ弱で菌に対する保護もなくなる。病弱な女性といった感じだ。魔物とも戦いにくくなる。
「ですから、妊娠したら約1年間、この結界を出ないでくださいね?」
ごもっとも。
私達が、そんな会話をしているとインターホンが鳴る。いつも通りの流れで私はテラートを迎えに行く。早く会いたい。
ビスマスの街から1km以上離れている森の中。
テラートは全力疾走だったのだろう。肩で息をついている。
「むかし……エリーに、クエストの、同行を、断られた事が……あっただろう?」
そっか、確かあのときは足の速さを確認してたっけ?
「速く、なったのね?テラート」
「これでも僕は努力家のつもりさ」
時刻はまだ午前11時だ。
この人は昔から変わらない。実直で正義感が強くて直感で突っ走る。
そのクセ、思いやりが深くて、自分の欲望を決して前に出さず、センスも良くて我慢強い。
「テラート、報酬の話聞いて来たのよね?」
「ああ、僕は既に貰いすぎているけど」
あの2人に聞かせたくないから、結界前で話す。
さっそく、ふぅ。
「わたしね、テラート。気付いたら、あなたのこと好きになってたの」
「それは、僕もだ。僕も君が好きだエリー」
ふふふ
「少し、順序が逆になってしまったけど、あの子、私達の子供だそうよ。今日、女神様が家を訪ねてきてね、貴方達の希望に沿った結果よ、って言ってね」
「僕とエリーの……。じゃあ、本当に僕らの祈りが届いていたんだ!」
「そっか、あなたの直感。超直感があったから祈ったのね?」
「ああ、神様が見ている気がしたんだ」
テラートには確信があった。この子が私達の子供だってことも、女神様が見ていて、汲み取ってくれることも。
「テラートが良かったらなんだけど、これからは一緒に住まないかしら。私が一緒にいたいの」
「それがエリーの希望なら、それを叶えるのが僕の役目さ!といっても、僕にとっても幸せのような話だから……」
こうして、私達は無事に結ばれた。
めでたし、めでたし?
私達は家に向かって歩き出す。
あ、そういえば……
「子供の名前、もう付けてしまったのだけれど」
「ああ、そうじゃないかと思っていたけど、僕はそれでいいと思う。僕の予感もエリーに任せろって感じてる。ちなみに名前は?」
「あなた本当に直感の塊ね……、ベガよ。星の名前の1つね」
「ベガか」
向かっている途中、テラートが言い始める。
「ああ、そういえばエリー、今日の君は何だかいつもと違う綺麗な感じだね」
「なに?いつもは違うっていうの?」
「ああ、違う。いつもは可愛いらしい雰囲気なんだ。でも、今日は凄く綺麗だ」
わわわ、怒ったつもりだったのに、何恥ずかしい事を言ってるのよ。
「もう」
玄関に着くと正面に書き置きを見つける。
『女神様と転移魔法で街へ行ってます。ベガも連れて行くので2人でゆっくりしてください。レフィア』
「どうやら、気を使わせてしまったみたいだね」
「散々人のこと笑ったあとなのよ、あの2人」
「僕はそれでも、急いで来て正解だったよ」
まだ午前だと言うのにどうしろって言うのよ。
◇ ◇ ◇
「ナミ様、ここが私達のホームです」
「存じてますよ。私は娘の事なら何でも知ってるんです」
「師匠の前ではあんまりそういう怖いこと言わないであげてくださいね」
レフィアと女神はベガを連れてビスマスの街に転移していた。女神は黒髪の母親容姿に『想身変容』で変わっている。ナミモードである。
「1日空けるとなると、宿が必要ですね」
「うーん、家来ます?そうじゃなければ、この時間からだとギルドで相談するかなんですが」
まだ昼時にすらなっていない。午前から宿を取るのは、相当な暇人か、荷物を預けて遊ぶ旅行客くらいという街全体の認識である。
「面白そうなのでギルドへ行きましょう、あなたのお宅にはいつでもいけそうですし、娘の仲間達にも顔を合わせたいですね」
「あー、そういう事でしたら、師匠の育ての親に会うのはどうですか?私もそんなに何回も会ってるわけじゃないですけど、訪ねれば芋づる式で知り合いが出てきそうです」
「さては、あなたも結構悪い子ですね?サプライズが好きな私と同じです」
「サプライズは大好きですよ。今日も昨日も師匠にサプライズしましたから」
2人はひとまずビスマスのヘイゲル宅を訪ねる。
「こんにちはー、ヘイゲルさんいらっしゃいますか?」
はーい、と声がかかると、出てきたのはルチアだ。
「あ、こんにちはルチアさん」
「え?レフィア様じゃないですか?どうしたんですか?ウチの夫がまた何か粗相でもしましたか?」
「いいえ、今日は紹介と報告にと……。ヘイゲルさんは冒険者ギルドですか?」
「はい、今日の朝からのブロンズランクアップ試験の試験官にされてるらしくて」
「そちらはあとで行くので大丈夫そうですね、レフィアさん紹介していただいても?」
「はい」
女神様の捨て子話で斯々然々。
「会ったときは生きていたことに驚き、本当に神に感謝しました。私の経済力が無かったばかり、長くあの子を一人にしてしまいました。拾って育てて頂いた事、ありがとうございます」
「そんな!頭をあげてください。私はむしろエリーさんに感謝しているんです。あの子がいなければ、私は今頃……」
ルチアはヘイゲルと結ばれていなかったことを言いかけてやめた。今はそういう話をする場ではない。
「今日お話しに来たのはそれだけじゃないんですよ、ルチアさん。この子のことです」
「まあ、可愛らしいお子さんですね?」
「それが、誰の子かわかりますか?」
そこまで聞いてルチアはどことなくエリーに似ている顔立ちに気付いた。
間違いない、エリーの子だ。
「え、エリーの子ですか?」
「正解です!」
聞いたルチアは喜んでいいのか悪いのかといった感じだ。
「自分の子もまだなのに……。あ、いえ、まさか孫の顔を先に見ることになるなんて……。ていうのも違うけど、エリーとここ2年程会ってなかったので、まさか……というかエリーはまだ15だし」
凄く混乱しているルチアを見て、サプライズもやり過ぎはいけないなと思い直す2人だった。
◇ ◇ ◇
所変わって冒険者ギルド、ギルド前ではザコ様とロイが子供達と長縄跳びをしていた。行き交う馬車にとっては、とんだ迷惑である。
「皆!今日こそはこの1発で100回跳んでみせろ!脇で待ってる貴族達に感動を伝えてやれ」
「「「「「「はい!ザコ様」」」」」」
これは軍隊ではない、街の子供達だ。
開始すると1人ずつ縄に入っていき、全員が入った段階でザコ様がカウントを始める。
ロイの腕は既にプルプルだ。
冒険者ギルドの前で止めようとしていた馬車がもう何台も脇で停車している。
だが、迷惑を物珍しさが勝ったのか貴族達もその場で固唾を呑んで見守っている。
100を超えた後もより高まっていく。
ノノが周りを煽り、回数を観衆全員で数えている。
確かな感動がそこにはあった。
1発で125回。最高記録だ。ヒャッハー。
止まっている貴族相手に、縄跳びと長縄跳びの両方を売りつける。
俺様はガキどもに近くの売店で果実水を買ってやる。
縄跳びインフレーション。この街を豊かにする俺様の秘策だ。
玩具屋は売り上げを上げ、俺様はそのアイデアを玩具屋に売る。ガキどもは遊ぶ楽しさを覚え、見物客は食いもんを買う。貴族には何倍もの値段で1点物の玩具を売り、その金で次の秘策を……。
何だ?あのママみがある女性は?
胸元まである黒髪で体のラインの出にくい薄地のコートスタイル。だが俺様の目にはボンキュッボンが手に取るようにわかる。流し目で誰かを案じている様な仕草は俺様のハートのド真ん中だ。
そんな事を思っていると冒険者ギルドへ入っていった。
「悪いロイ、今日はここまでた」
「え?ザコ様急になんですか?これからメシアトーチの企画会議でしょ?」
「今日は休みだ。アイツ風に言えば、『俺様の直感が言っている』だ!」
「あ、ちょっとー」
俺様の青春が始まるんだ!
◇ ◇ ◇
2人きりになった私達はこれからの事を話し合っていた。
「流石に午前からベッドへは行かないわよ」
「なんていうか、凄く女神様にはそれを期待されている気がするよ。なんでだろうね?」
「直感に従うからって実行しないわよね?」
「僕もそんな不誠実ではないよ」
私達は家の中にいるとそういう流れになりそうだなとお互いに思っていたみたいで、無意識に外へ出て来た。
「そういえば、エリーは結界内は弄ったりしてるのかい?」
「結界内を弄る?」
「ああ、言い方が悪かったね。言わば結界内は君の庭のような物だろう。庭園のように整備しないのかって事さ」
「確かに考えたことは無かったわ」
なんでだろう、もう3年も住んでるのに、研究や訓練をして空き時間はレフィアに買ってきてもらった本を読んで過ごしてたし。
「庭園かー。他所からはラビリンスフォレストって呼ばれてるから、森の状態でも良いのかもだけど」
「もし、良ければ手伝うよ。木で本物の迷路を作っても良いかもしれないし、美しい庭園というのも見ていれば心が豊かになる」
そういえば、テラートにはスキルについて話してなかったかも。
「テラート、長くなるかも知れないんだけど、私がこれまで秘密にしていたこと、聞いてもらっても良いかな?」
テラートなら受け入れる。そう思うけど、テラートは違ったみたい。急に様子がおかしくなった。
「ゔ、僕の超直感が、それを聞く事を拒んでるけど、僕自身の気持ちは、違うんだ!」
テラートは私の話を聞きたいのに、スキルが危険を知らせている。ということ……。
「テラート、なら私の腕輪を貸してあげるから、話を聞いてちょうだい」
私は自分の手首から腕輪を外すと彼の腕に着けた。私の腕から外すと倍少しのサイズに膨張した腕輪だったがテラートの腕にはぴったりと着けられている。
「ありがとう、エリー。正反対の気持ちで引き裂かれそうになっていた」
「いえ、私が話を聞いてほしいって言ったんだもの」
それからは、転生の事やスキルの事を話し、不老にもなった事を伝えた。
「僕は幸せ者だな。こんな綺麗な人と長い年月過ごせるなんて」
「でも、気持ち悪かったりしないかしら?あなたは歳をとっていくのに、私は今のままよ?」
「問題無い、なるべく僕も長生き出来るように努力すればいいし、死んでも転生してまた会いに来るよ。だって君は転生してきたんだろ?」
「うん……そうね」
本当に恥ずかしいことを平然と言う人だなって思う。
「それで、私を中心にした直径100m、この結界の大体の範囲がスキル『確率操作』の対象になるのよ」
「だからエリーは家からほとんど出ないんだね?他者を巻き込まないためにも」
「あなたの事は巻き込んでしまったのだけれど」
「まあ、それは僕自身気付いてなかったから良いんじゃないかな?」
「あなたの直感て時々機能しないわよね」
「それは言わないでくれ、最近はかなり頻繁に来てるし、全部当たってるんだから」
「それも腕輪をしていれば関係ないけどね」
「そういえば、この腕輪って何なんだい?その、夕食を共にしたときの君は頑なに外そうとしなかったが」
えと、言いにくいな。
「スキル封じの腕輪よ。ほとんど私の為にレフィアが作ってくれたの」
「だから、僕の直感も働かないのか、ん?どうして君は付けていたんだ?」
「ちょっと言いにくい話なんだけど、ある2つのスキルのせいで、過去にひどい目にあってね」
あ、魅了発動してるけど大丈夫かな。まあもうそういう関係だから大丈夫か……。
「それで……。じゃあ、確率操作とやらも封じられるんじゃないのかい?」
「うーんと、発動するまでは止められるんだけど、1回使うと効果は消えるまで半日かかるのよ」
「なるほど、となると2つのスキルというのは凄く厄介な様だね」
「聞かないの?」
「話したいのかい?」
私は彼の腕に着けた腕輪を見る。
直感じゃない。これは彼の思いやりだ。
なんか、私、卑怯みたい。彼を魅了してるのは言わないのに、彼のスキルは封じて……。
「腕輪、返してもらえる?」
「ああ」
彼は私に腕輪を着ける。
本当に言わなくて良いのだろうか?
言わないのは、あの夜外さなかった理由がわかってしまうのが恥ずかしいからだ。
「テラート、聞いて。主に封じたいスキルは『異胎魅了』と『剛健』よ。何で封じたいのかと言うとね。『異胎魅了』は誰彼構わず魅了してしまうから。『剛健』は身体が強く、治りやすくなるけど、子供が産めなくなるの」
「そう、だったのか」
そんなデメリットの様なスキルに私が苦しめられているという事実を知った白い顔になったテラートは少し考えると頬を赤らめる。
気づいてしまったらしい。
「エリーが腕輪を外さなかったのは、つまり……」
「そ、そんな事より、これからの話をしましょう?えっと、結婚式とか、したいな」
酔いが覚めたら甘えられなくなるから外さなかったなんて言えないし、魅了が効いてなくても愛してくれるのか試していたなんて言えないし、子作りしたかったなんて口が裂けても言えない。
強引な話の曲げ方をしたけど、私が話している内容は直球だった。
言った私が驚いてる。
「君の料理は料理人の作る料理より美味しいから、それは問題無いとして、あとは指輪やドレス、招待状かな?レフィアさんに頼めば司会もやってくれるんじゃないかな?」
「あ、うん」
ああ、この人は結婚する気でいるから、何も感じてないわ。勇気だして言ったから少し残念な気持ちになる。
もう結婚式する話も女神様には筒抜けだろうな。
貴族様でもないし、式っていうより身内のみの楽しげな会になるんだろうな。




