第十四話 不老と家庭訪問と真実
思ったより全年齢版かも。
『不老』獲得までの道のりは案外短かった。
「まさか、使い魔にそんな機能性があったとはね……」
「だから、師匠。師匠の為に作ったんですよ?」
私は今、レフィアから使い魔の説明を受けている。「歩けて、物を運べる下僕が欲しい」って言ったらレフィアが作ってくれた。
最初は「奴隷契約すれば良いんじゃないですか?」と言われたが、過去に奴隷に堕とされていた私としては禁忌でしかなかった。
「そもそも言ってたじゃないですか?長生きの為に生命力を集めているって……。それなら手っ取り早く集めてくれる様にしようって考えたんです」
「はあ、最初に説明してくれてれば良かったじゃない。まさか世界樹で出来てるなんて……」
そうなのだ。使い魔の骨組みは世界樹の枝で出来ていた。レフィアは私が森に移り住んだ後の3年間、この事を黙っていた。
「サプライズです!」
最近何もしていなかったのに『不老』が急に生えてきて度肝を抜かれた。
正しくは使い魔が結界に弾かれた魔物を倒し、生命力の純度を上げた魔石を吸収していた。
エルフの長寿の源はこの世界樹に蓄積される生命力なのだろう。
「というか、師匠。まだ使い魔に名前付けてなかったんですか?」
「名前なんて付けたら情が移るでしょうが、壊れた時悲しいから付けてなかったのよ」
「じゃあ、安心して付けられますね。私の技術の粋を結集して作り上げたんですから。こんな低レベルの魔物しか出ない森じゃ絶対に壊れません」
「あのね、だからって私の体を参考にしたなんて聞いてないのよ」
「師匠の『剛健』って呪いを細かく効果別に分けて元になってそうなスキルを集約した魔道具の外装。世界樹の枝で作り上げた骨組み。付与は私の知り合いに頼んだので剥がれない折り紙付き」
「まさか結界外に魔物とお客の対応をしに行かせるだけの使い魔にそんなに注ぎ込んでたなんて思わなかったわ」
はあ、とレフィアとの会話に一段落つけた所で考える。
15歳の体で不老化したけど、これもスキル。
腕輪を付ければ不老を止めることも出来るはず。
レフィアとリビングで話していると、不意にインターホンが鳴る。
こんな事なら現代インターホンを作って貰えば良かったかな?
使い魔を使役する私、という自尊心からこの方式を続けてしまっている自分がいる。
レフィアに言えば、すぐにでも作るだろう。
でも、どんどん日本で生活していた頃の生活水準に近付いてしまっていて、それはそれで異世界にいる楽しみみたいなものが減っていってしまう。そんな懸念にも支配されている。
「レフィア、この子の事、お願い出来る?」
「はい、私が対応に行っても良いですけど、お客様だった場合、家主が対応するのが一番ですよね」
私は、抱いていたベガをレフィアに預ける。
拾った赤ん坊にはベガと名付けた。この場所はよく星が見える。この子が天からの授かりものならば、それは空に由来する名前が良いと思った。
男の子ならベガ、女の子ならルナ。確認したら男の子だった。
しばらくすると玄関口に移動して使い魔が持ってきたウェルカムボードを確認する。
「全てをお話するときが来ました」
そう、書いてある。
なんだか心がざわつくけど、コミュニケーションが取れない相手では無さそうなので、大丈夫だろう。
結界外縁部に向かうとそこには見覚えのある人物がいた。嘘だよな……。気のせいかと思って、目を擦るけどまだいる。
「女神様?何をなさっているのですか?」
「バカンスです☆」
◇ ◇ ◇
まあ、立ち話もアレなんで連れていきますけど、何でアレが来てるの?
「あ、エリナレースさん?誤解の無いように言いますが、私は貴方を虐げてきたアレとは別人です。こうして貴方の心も読めますから、フフ」
心も読めますから、じゃねえですよ。
読めるほうが怖いんでやめてください。
「しょうがないですね。貴方が高位魔力生命体の討伐をアレから依頼されたのは覚えていますか?」
私と女神様は歩きながら話している。
「確かにそんな事もありましたね」
そうだ、確かに最初の転生で倒せって言われたけど、その後、無遠慮な扱いを受けていたので、すっかり忘れていた。
「その倒す相手こそが、私なのです」
「ほう」
アイツは女神様を倒して欲しい。
で?あーなるほど。アレは女神様に成り変わるつもりなんだ。
「答えがはっきりしたようですね。良い子良い子」
「それで、何で女神様はこちらにいらっしゃるのですか?」
「言ったじゃないですか、バカンスです☆」
?
「まあ、全てをお話するのは着いてからにしましょう。あなたのお弟子さんが来ているのでしたね?ひとまず、あなたのお母さんと言う事にしといてください」
そう言うと女神は私と同じ黒髪でロングな人妻風の姿になった。
「あなたも持っているスキルですよ」
『想身変容』か。
心読める能力って良いなとも思ったけど、過ぎた力な気もする。
「そうです」
そうらしい。
「久しぶりに会話をするので、楽しいですね。600年ぶりです」
なんか可哀想に思ってきた。
リビングに着くとレフィアがベガをあやしている。
「ベガと名付けたのですね?良い名前です」
「レフィア、お客さんだけど、私のお母さん」
「え?師匠捨て子だったって」
「弟子のフィーヤさんですね?私はこの子のママ、ナミです。気軽にナミちゃん?とかママって呼んでくださいね?」
ナミちゃん?
そういえば、女神様の名前聞いたこと無かったな。
「今日訪ねてきたのは、この子を森に捨てた事、そこからの全てを教えるためです」
女神様は振り返ると
「お母さん、ではなく、ママって呼んでね?エリー?」
ママみが凄い、キッコーマンボイスだ。
私がお茶を入れて席に着いた所でママは話始めた。
「まず、レフィアさんがいる内に話しておく事からにしましょうか?」
女神様的には、レフィアの前では話せない事もあるのだろう。
ママ、レフィアには転生の事も全部教えた事があるので気遣いは無用です。
「では、この容姿である必要もないではないですか?」
そうでしたね。
「レフィアさん?これから起こることは全て事実ですので、他には黙っていられると誓えますか?」
「師匠の事です。言いふらした事は一度も有りません」
「よろしい。でしたら、貴方と契約を結びます」
女神様から光の線が伸びていきレフィアの腕に紋章が刻まれる。
「そのスティグマがある内は貴方は約束を違えません」
「わかりました」
これで話が出来ますねというような態度で女神様は話し始める。
「まず、私は天界からやってきた女神です。主に自分の部屋にやって来た者の魂をこの世界に転生させるのが仕事です。ある時、いまから600年前、邪悪なる魂が次元を超えて押し付けられました。詫びは頂いたものの、押し付けられた者の魂を返す方法もなく。また、この悪をそのまま転生させてはいけないとも思いました。私はその者の悪意を読み取り、自分に成り変わろうと思っているということがわかったのです。転生させては世界に悪意が漏れる。私が直接手を下そうにも世界のバランスを崩してしまう。そう思い、時間稼ぎをしている段階です。あの者を私の神体に押し留め、私自身は下界にて、あの者を倒せる者を待つ。その倒せる可能性を持つ者こそが貴方ですエリー」
私が何となくコイツムカつくなって思ってたのはそのせいでしたか。
というか、確かに目の前の女神には嫌な感じが全くと言っていい程無い。
「あの者に魂を転生させる力は有りません。死んだ者の魂から記憶を読み取る力、転生時のエリーの魂に1つスキルを与える力、その分だけ自分を強化できる力の3つがあの者が今使える神権です。私は観測し、あの者が転生させる瞬間に私が力を使って転生させていました。つまり、ママ、な訳ですね。フフ」
アイツは万能の神ではない、それを聞いただけで腹の虫がスッとなくなった気がする。
「それで、今回のエリーの転生。私の力の一端を使って私の、この体の、子として産みました。つまり、エリーとは正式に血が繋がっています」
え?
「それで森に捨てられた少女という状態だったんですね?」
あれ?レフィアの方が理解してる?天才はやはり脳の回転が早いな。
つまり、私は神子として生まれた。
「今回の転生は特別なのですよ。エリー、貴方が『不老』のスキルを手に入れる今回は。倒すまでのタイムリミットはありますが、残り3600年もあれば十分でしょう?」
「その間に師匠は力を付けて倒しに行くってことですね?」
「はい、貴方は飲み込みが早いですね」
「師匠に褒められた長所ですから」
つまり、3600年の間に神殺しをする。
それが、私に与えられた使命。
「あ、そんなに力まなくて大丈夫ですよ。もう、あの者は強くなれないので、もう100年もあれば倒せるくらいの難易度です」
なら大丈夫か。
「今まで教えられなくてごめんなさい。辛い思いをさせた事もあったと思います。あなたが『不老』を手に入れるまで、私はこの事を貴方に教えるわけにはいかなかったので」
そうか、私が死ねば、アイツに記憶を読み取られてしまうから……。
「あなたにはこれからの幸せで全て返していきたいですね。あなたたちの子供にも」
ん?気のせいか、なんか引っかかる言い方ですね。
「女神様?あなたたちって何です?」
「あら?あなたたちへのプレゼントは気に入りませんでしたか?せっかくあんなに微笑ましい姿をみせてくれたのに」
女神様が指で示す先にはベガがいた。
「え?もしかして……そうですね。ああ、だからあのときあんな事を……。エリー。あなた、あの夜の記憶が無いんですね?」
あの夜?どの夜?ベガを見て思うのは私と同じ捨て子だということだ。
ん?
待って?同じ?
「ああ、その子をあそこに置いたのは私です。そして、あなたたちへの贈り物です」
えと、コウノトリか何かですか?女神様。
「もう、理解が遅いですよ。レフィアさんを見習いなさい。もう面倒臭いので、私が見たあの時のあなたを見せちゃいます。いいですね!?」
そこから始まったのは私が悶えるラブロマンスだった。
◇ ◇ ◇
テラートとの夕食を作りリビングへと持っていく。カードゲームの命名をしたテラートに感動した2人はそそくさと帰ってしまい、2人きりになっていた。
「でも、まさかテラートが、あんなにもセンスあるとは思わなかったわ」
「僕の超直感は頼りになるだろう?これでも、この直感を頼りに29年渡り歩いてきたんだ!」
「テラートって29歳だったの?まだ私には20代前半に見えていたわ」
「若く見られるというのは良いものだね!」
私はいつになく口が回った。たぶんこんなに喋ったのはフィーヤと通信機の開発に成功したお祝いの時以来だろう。
「き、いや、エリーも飲まないか?」
この国の成人は15歳。丁度お酒を飲める歳にはなっている。テラートは私の事を君と呼びそうになって言葉に詰まった。
「良いわよ、飲みましょう!テラート、私の事無理にエリーと呼ぶ必要はないのよ」
「いや、き、エリーとの約束だ。大事にしたい」
私はお客様様にと買っていたお酒に手をかける。
お酒なんていつぶりかしら。
4回目の転生以降、お酒を飲むのは辞めていた。睡眠薬が盛られていると思ってしまって、手が出なかった。
「それじゃあ、乾杯」
「ええ、乾杯」
静かにグラスを持ち上げ、私達は乾杯した。
「ここまでは記憶している通りね……」
「なんだかいい雰囲気ですね、師匠」
女神様の映し出す泡沫のビジョンに目を向ける2人。
閑話休題。
テラートは私に「おふろ」をせがまれ、またお姫様抱っこで移動していた。
「まさか、エリーがこんなにもお酒に弱いなんて……」
「テラートぉ、おふろ」
風呂は既に沸かされており、テラートは私の用意周到さに唸る。だが、問題は私の状態だった。テラートは超直感からこのまま風呂に入らせると溺死させてしまうと悟ったらしい。
「エリー、すまないけど、お風呂はダメだ。君が死んでしまうと直感した」
「やだぁ、それならいっしょにぃ」
………
「き、エリーの……。それがエリーの希望なら」
「やたぁ」
ごくりと喉が鳴りテラートは不慣れな手つきで私の服を脱がしていく。
お互いの服を外し終えると感情を抑えるテラートに私は邪魔をするように思い切り抱きついた。
「うぐ、こういうときに貴族時代が役に立つとは皮肉だね……」
テラートはまるで人を赤ん坊のように抱きかかえるとゆっくりとお風呂に浸かっていく。
なるべく私を見ないように。
だけど、私は無邪気な子供の様に畳み掛ける。
「ねーえ、洗いっ子は?」
「ぐぅ!?」
必死の形相で耐えるテラートはどうするのだろうか?
「ダメなの?」
「ダメじゃないが、その、大丈夫だろうか?」
君は……と言いかけた時点でテラートは我慢をやめた。目を背けて見ないようにしていた私を見て限界を迎えたのだろう。私を飛び切り甘やかした。
そのあとは目も当てられなかった。
洗いっ子を決行し、そこは駄目だ、とか、いやっ、とか言いながら散々、泡々と互いに身体を洗い合った挙句、見たこともない激しさで合身した。途中からはテラートが積極的になっていた。
「しゅごいい」
そう言いながら、レフィアは目を両手で塞いでいるが、人差し指と中指の間からしっかりと目に焼き付けている。
「ここから先はプライバシーの都合上見せられません」
「い、いや、もう少し前に止めてもらえましたよね?」
私の抗議の声も虚しく、女神とレフィアに恥ずかしい場面を見られたのだった。
「でも、だいたい、わかったでしょう?あなたがあの殿方にエスコートされた夜に何があったのか」
「はあ、途中で腕輪を外そうとしなかったのは私の意思でしょうね。酔いが回っていたのがよほど気持ちよかったのか」
「はたまた、甘えられなくなるのが、嫌だったのかですね。師匠、ドンマイです!」
腕輪を外せば酔いも覚めたのに。
テラートが腕輪を外してくれなかったのは、私に何か不都合があると直感したからだろう。
朝に見舞われた酔いによる頭痛。腕輪を外して治まったあの時、もしかしたら自分でも何があったのか気付いてたのかも知れない。
「そのあと、貴方達2人はベッドの中で、授かると良いなー、なんてじゃれ合ってましたから、私はその意を汲み取って、朝のサプライズをしたのですよ。あなたはあの腕輪がないと子供産めませんからね」
あの時のテラートの意味不明な祈りうんぬんはそのせいか……。
「で、どうするんですか?その子、テラートさんとの子供ですよね?」
レフィアもからかってくる。
はあ、まずは謝らないとな……。
明かされた真実と腕に抱いたベガを前に私はこれからの事を考えさせられるのだった。
第十六話まで書いたら少し期間空けます。




