第十六話 もう1人の転移者
おかえりなさいませ、ご主人様!
私の名前はナズナです。
ご主人様、お嬢様方からはナズちゃん、とかナズナたん!とか呼ばれてます。
好きな食べ物はチョコミントアイスとワッフルで、嫌いな食べ物はニオイが強いものです!
今日はモヒカンのご主人様に、オムライスをお出しして、一緒に萌え萌え〜キューンするサービス、『おまかせ!ラクガキメイドのぷるぷるおむらいちゅ』を頼まれました。
ひでぶっぶらぱ!とケチャップで書いた血みどろオムライスをテーブルにお出しして、愛情を込める。そのときでした。
私は異世界へ転移させられたようです。
景色が変わり、萌え萌え〜キューンした相手は王城の入口を守る警備の方でした。
突如出現した私は、それはそれは怪しさ満点でしたよ。本当に困りました。だって槍を向けてくる方々に囲まれましたから!
私はたまたま、『魅了』を持っていました。萌え萌えする力ですね?この能力かなりピーキーですね。出力間違えると一方的に襲われそうです。
かなり効力を絞った魅了した相手どうしを喧嘩させるのが、1番使いやすそうです。
オタク持ち前の異世界順応能力で、どうせ帰れないんだから、異世界人生楽しむぞーと思ったわけですが。なんだか街の雰囲気が剣呑なんですよね、この国。近々戦争でも起きるんじゃないですか?
となると逃げるしかないですね。
行商人の方に声をかけて、売り子をする代わりに他の国に連れて行ってもらえるように交渉します。なるべく怖い見た目の方が良いですね。人が寄ってこないし、あまり人の温かみに触れてなさそうな人。まあ、魅了すれば大体の要求は通ります。
「この国戦争起こしそうじゃないですか?早く移動しましょうよ」
「お前さんにはわからないかもしれんが、戦争ってのは商機なんだよ。兵糧で嫌でも食糧が必要になるから金額を釣り上げるのさ」
「へぇ、じゃあ売り逃げしましょう。儲かっても命無ければ何の意味もありません」(『魅了』)
「そうだな」
さて、どこに行くのが安全なんでしょうか?
私のこの能力は戦闘向きではありません。
安全、日本人が1番求めてるものですね。
「活気があって安全な街にいきたいですね」
「そうだな」
「定住するのに、どこか良い場所ないですか?」
「それならアルバニアかな」
「逆に戦争大国とかは?」
「このダモクレスだな」
悲報、はじまりの街は戦争大国。
まずいですよ!
「早く売って出ましょう!出国禁止にでもなったら目も当てられません」
ふと街の壁を見るとおかしな能力を使う2人の指名手配状が出回っていた。王城に能力者でもいるのか、私とモヒカンさんの顔に似ています。
本格的にまずいかも!
というか、モヒカンさんも!?こっち来てるんだ。
魅了使えば検問はどうにかなりそうだけど、そのあと追われそうだし、行商のおじさんには申し訳ないけど、ここでお別れかな?
別れも告げずに、私は検問前で止まっている荷馬車の木枠に掴まった。オタク教科書で習ったが、馬車は多くの積荷を載せるために下面を骨組みで補強しているので、隠れるには絶好の場所らしい。
私は地面のガタガタに腕が悲鳴をあげるのを耐えながら馬車が止まるのを待った。
しばらくして、耐えられないと思った私は、一か八か、馬に魅了をかけた。
「お願い、止まって」
私の願いが届いたのか、御者のおじさんが幾ら手綱を振るっても反応しない。
私は手を離すとその場でドシャアッと倒れた。
はあ、本当に疲れた。
「もう、いって……いいよ」
はぁ
馬は反応して走り出す。
もっと簡単だと思ってたのにな。
流石に疲れちゃった。
でも、街道の真ん中で倒れてれば、次に来る馬車にハねられちゃうから。
私は立ち上がると近くの森に入る。
国からは出られたけど、これから、どうしようかな。方角も地理もわからないや。
「お、お嬢さん。こんな所でどうしたんだい?」
「すみません、アルバニアって所に行きたくて国を出てきたんですけど、方角がわからなくて」
「そうなんですか、息も絶え絶えって感じですね。よかったらこれを」
多少汚い見た目のおじさんがポケットからアクセサリーを取り出して渡してきた。首飾りかな?
「疲労回復のネックレスです。良ければ私達の拠点に案内しますが、どうです?」
うん、すっごく優しいし、何か信用できそう。
「ご飯とかも貰えますか!?」
「ああ、もうすぐ夕食時だからね」
私はネックレスを着けるとおじさんに付いて行く。
その先に居たのが盗賊団だとは知らずに。
◇ ◇ ◇
私はご飯を食べさせてもらって、動きが鈍った所を縄で縛られ、口を塞がれました。
「全く、近頃のメスは頭が弱いみたいでチョロいねぇ」
私は今多くの盗賊らしき男に囲まれていた。
大丈夫、私には魅了がある。
(『魅了』)
「こいつ、スキル持ちなのか、何かしたみたいですよ頭」
「あ?まあ気にすんなや。スキルは封じてる」
魅了が効かない!?
「ああ、何か驚いてるようだな。最近、魔導国でスキル封じの魔道具ってのを集めてる様でな、通り掛かった商人襲って奪ったのが、お前の着けてるスキル封じのネックレスだ」
え、疲労回復じゃなくって?じゃあ、私は……。
「わざわざ外しにくい首にかけるアクセサリーを用意してるんだ。普通はもっと警戒するんだがな。まさか引っかかるアホ女がいるとは」
「「「あはははは」」」
「まあ、そんな痴女みたいな服着てたら、俺らじゃなくても放って置かねえわな。俺がデザートとして味わったあとはお前らにも回してやるから」
そっか、私ここで終わるんだ。やだな……
そんなに実感がないのは、まだ事が起こってないからなのか、私が鈍感だからなのか。
「んじゃ、始めるとすっか。いい子ちゃんでいたかな〜?」
終わりだ。何もかも。
あーダモクレスって所に残ってればこんな事にはならなかったのかな?
それとも、あのおじさんと一緒に行商する未来もあったのかな?
でも、もうそれもどうでもいいんだ。
遊び倒されて死ぬのが私の未来……。
て、あれ?
何だろう、妙に静かになった。
ドシャアッ!
!?
目の前にあったのはさっきまでヤル気満々だった盗賊団の頭目の顔だった。
「アンタ、無事か?」
ゆっくり、静かに話す人だな……。
口の布を外してもらう。
「あの、あなたのおかげで無事……です」
「よかった」
淋しげな表情……。
縄を解いてもらうと凄く安心した。
「ありがとうございます。あの!もし、良ければなんですが、私をあなたの国に連れて行ってもらえませんか?」
「……アンタの国にじゃなくてか?」
「ダモクレスは危険かも知れないから」
少しだけ考える素振りをすると男性は
「良いだろう。ただ、自分の世話は自分ですることだ」
「はい!」
私は、今度こそ信用出来る人に出会うことが出来た。
「私はナズナといいます!よろしくお願いします」
「俺はバルダだ」
バルダさんって言うんだ、私の命の恩人。
結構、口数が少ない人だな。
「バルダさんは何故ここに?」
「盗賊狩りの依頼でな、仲間と馬車で来て、先行偵察してたら、さっきの場面にな。思わず殲滅してた。だが、俺は基本的に斥候だ。戦闘力は高くない。もし魔物が出たら隠れてやり過ごす。戦力差がこちらに傾いている時だけ制圧する」
カッコいい。闇に生きる男って感じ。
あれ?でもさっきサクッと12人位いた盗賊倒してましたよね?
魔物は物凄く強いってことかな?
「カッコいいですね」
「そ、そうか?」
「なんだか、忍者みたい」
「ニンジャ?」
「えっと、私の元いた所では危ない事全部引き受けてた斥候っぽい人達がいたんで」
「俺はそこまで殊勝な人間じゃない」
ダルバさんはそう言うと私の歩幅に合わせて歩いてくれる。
「ちなみにダルバさんの国はどこなんですか?」
「ああ、ここから南のアルバニア帝国だ」
「あー、あ?アルバニア、帝国?」
「どうした?」
行商のおじさんが言ってたアルバニア?
「わ、私の目的地もそこだったので、凄い偶然だなって」
「なら、話が早いな。仲間を待たせてるから、共に来るといい」
やったー、もう身の安全は確保されたも同然。
仲間達に合流するとダルバさんは私に自己紹介する事を促し、私の旅は良い意味で終わりを迎えるのだった。
◇ ◇ ◇
それから15年。
「あ、エリーちゃんおはよう!今日は買い出し?」
「はい、そろそろ貯め買いの食糧が尽きそうなので」
「私も行ってみたいな、エリーちゃんのお家」
「お姉さんもどこにあるか知ってるんですか?私の家」
「ええ、結構長く住んでるんだもの。噂くらい流れてくるわよ」
「ちなみにどなたから?」
「忍者の殿方から」
「え、忍者なんて居るんですか?」
「あら?」
エリーちゃん忍者のこと知ってるのね。ふーん。
「エリーちゃんって黒髪だし、もしかして日本人だったりするの?」
「え!?」
「あーごめんごめん。それより忍者の話だったわね。15年前にね、私を窮地から救ってくれたダルバさんって方がいてね。その人が時々面倒を見る体で見に来てくれて、周辺で集めた情報を共有してくれているの」
ダルバさんの名前を聞いた事でエリーちゃんは納得したみたい。
「お姉さんの所によく買い物に来るのに、私、お名前聞いてませんでしたね?」
「まあ、そういう事もあるじゃない。近所のおじさん、おばさんの名前知らないなんて、まま有ることよ」
「今度、結婚式をする予定なので招待状出してもいいですか?」
「うん。て、エリーちゃんその歳で結婚するのね。それは初耳だったわ……」
私ももう30歳、そろそろ頑張らないといけない頃かしら。
「私の名前はナズナ。異世界転移したけど大した能力も無かったから、一般人として生活してるわ。忍者を知ってるってことは、意味伝わるわよね?」
「こんな身近に居たんですね」
「案外多いかもね。あのザコ様だって元日本人よ。私の勤めてたメイドカフェのお客さん。あっちは気付いてないと思うけどね」
「えー、ザコ様にも招待状出そうと思って止めたんですけど、やっぱり出しますか」
「そうね。あの人はなんだかんだで面倒見良いから、よく街の子供と遊んでるし、結婚式でも盛り上げ隊長になってくれるんじゃないかしら?はあ、私も独り身だし、そろそろ結婚しないとな」
「ダルバさんは違うんですか?」
「ちょっと歳が離れてるかなって思うんだけど」
「いえいえ、結構お似合いだと思いますよ」
「なら、ちょっと頑張っちゃおうかしらね」
ダルバさんが独身なのにも、何か理由があるのかもしれないけど、私には魅了のスキルがあるんだから。
見た目は老けちゃったかもだけど、落としてみせるわ。
「なんか、やる気出ちゃった」
「それは良かったです。あ、そのネックレス」
「あ、これ?私がダルバさんに助けてもらった日に、盗賊に付けられたネックレスね。何ていうか悪趣味かもしれないけど、出会いの記念の品だと思ったら外せなくって、スキル封じられちゃうのにね」
「ああ、わかります。その人を思い出せる品って事ですもんね。そのネックレス、実は知り合いが作ったものなんです。この腕輪も」
「へー、何だかお揃いみたいね。そういえばエリーちゃんのお相手は一体誰なのかしら?」
「フフフ、秘密です。招待状が届いてからのお楽しみで」
「今日聞いても変わらないでしょー」
「まあ、教えても減らないんで良いですし、ダルバさんからも情報が回ってきそうですよね。実は……」
はあー、倍の年の差婚で出来ちゃった婚?
まあ、イケメンだけど、あの人だけは無いなって思ってたのにな。結構エリーちゃんてハードル低いのかも……。いや向こうが積極的だったのか。
もしやロリコン?
「何か思う事がありそうですね、ふふ」
「失礼かもしれないけど、あの人だけは無いなって思った」
「私もです」
「なんでや!」
「でも、そんなものじゃないですか?」
恋愛は奥が深いのね。
「あ、私があっち出身てことはバレたし、自重しなくて良いよね?」
エリーちゃんはそう言うと手で空間を広げて買った食材をゴミ箱に物を捨てるみたいにポイポイ入れていく。
「一応、周りに人がいないから良いけど、気を付けなよ?」
「わかってます。これでも私、8周目なので」
ドヤ顔のエリーちゃんの言葉の意味がいまいちわからなくて、しばらく考えたけど、やっぱり意味がわかりませんでした。




