第十話 カードゲームと確率操作
本業じゃないのに我ながら凄いペースで書いてます。
過去イチのモチベーション。
アルバニア帝国は製紙業が盛んな国である。
大陸南西部に位置しており、主な貿易相手は北の魔導国ダモクレスと西の海沿いにあるドールイスラ商港だ。質の良い紙を輸出し、食品や金属を輸入している。
紙は必需品。エリナレースも沢山の本を集めている最中だ。
そんな、彼女の元に怪しげな雰囲気の男女といつもの騎士が訪ねてきた。
◇ ◇ ◇
「エリナレース、15歳。5歳の時にシルバーランクで冒険者登録。たった1日でランクを1つ上げる。さらに翌年のランクアップ試験を1発合格。プラチナランク冒険者でドラゴンスレイヤー。申し分ないな。依頼しに行こう」
「いや、ロイ会長?あの方って魔物の出る森の中に住んでるんでしょ?私達だけで会いにいけるんでしょうか?」
「あー、非戦闘員の設定の私達では無理だろう。だが、前に依頼したあの方に話を持っていけば、あるいは……」
「なるほど、確かに行けそうですね」
冒険者ギルドの向かいにある玩具屋で話し合う声は、外まで響いていた。
「何を話しているんだい?君たちは」
聞こえていたぞ、と言わんばかりにお節介なイケメン騎士様が店に入って行く。
「ああ、丁度良い所に」
「今からギルドに依頼を出しに行こうと思っていたんですが、私達の話にご興味ありますか?」
「何なんだい?僕はただ知り合いの噂話をされているような気がしただけだ」
訂正。彼には話の内容は聞こえていなかった。
ただし、超直感によって導かれてしまった。
「担当直入に言いますと、エリナレースさんに用事がありまして、彼女のお宅を訪ねたいのですが、護衛を依頼しようと思ってまして」
「なに!?では、僕が護衛を務めよう!」
話が早い、判断が早い、ちょろい、の三拍子揃ったストーカーの返答に、怪しい男と怪しい女の二人組は大はしゃぎするのだった。
◇ ◇ ◇
私の家の周辺の森はラビリンスフォレストと呼ばれていた。見えない壁の様に張り巡らせた結界は人を惑わせた。誰かが結界に触れれば、使い魔達が飛んで行き、状況を報告してくれる。魔物なら対処し魔石を回収する。人間なら結界外縁部に設置されたウェルカムボードに用件を書いてもらい、それを回収させる。つまりはインターホンの代わりだ。
結界内は『確率操作』の実験中である事が多い。主にどういった確率が魔力消費が多いか、あるいは生産系スキルの成功率を上げると段階をスキップ出来るか?という感じに。
今日は成功率を上げていた。するとインターホンに反応があった。
「昼時か……」
もう少しで正午。
来客の場合、ご飯まだ食べてないかもな……。そう思うと研究室からキッチンへ移動し、手作り冷蔵庫(魔法で氷を詰めただけの箱)から食材を出すと調理を始める。
鍛冶スキルで造った中華鍋にお玉で油と切った具材を放り込む。火加減は魔法で、量が多めなので、しっかりと水分を飛ばし、調味料を投入。
味が回るまで鍋を振るって素早く火を止める。
ゲルニバドンの青椒肉絲だ。
この世界に中華料理があまり普及していないのは、偶々なのだろうか?
ちなみにゲルニバドンとは帝国の南に生息する草食動物で、見た目はシマウマの様な縞のあるブタだ。
ギルドの食堂で食べたシューマイもどきは、まるで餃子の餡のようにポロポロと肉部分が解けてしまっていた。度し難い。
さて、中華料理には中華料理を合わせようか、チンゲン菜もどきのスープにハンマーバードの卵チャーハン。
料理が終わった段階で丁度使い魔が来た。
私の使い魔は人型の魔道具の体に私の魔力を込めた宝石を入れた、言わばゴーレムだ。腕の良い錬金術師に造ってもらった。魔力とテイムスキルがあれば、誰でも使い魔が手に入る。
「何々、『あなたのカードを作らせてほしい』?」
ウェルカムボードの文章を読み上げると意味がイマイチ分からなかった。名前の欄には3人の名前が書いてあった。ロイ、ノノ、テラート。
なるほど、正義感が強いテラートさんが護衛で付いてきている。私にはそれだけで警戒を解くには十分だった。
ウェルカムボードの文字を無属性魔法で消すと置いてあった場所へ向かう。
「こんにちは、エリナレースです。ロイさんとノノさんで間違いないでしょうか?」
「ああ、お会い出来て光栄です」
「よろしくお願いします」
「では、付いてきてください。お食事の用意があります。テラートさんもどうぞ」
「僕も良いのかい?ありがとう!」
一応の護衛のためなのかテラートさんは殿だ。
やはり、正義感の男である。
テラートさんとの付き合いは長いが、最初は厄介な人間だと思って警戒していた。闇と光の裏表ある人間だと。でも、それはあの騎士風の見た目のせいだった。それは私が潜在的に騎士というものを警戒してしまう事が起因していたのだ。
彼が語り掛けてくるとき、自分事も確かに含まれているのだろう。それは偽善であったとしても、必ず正義感から手を差し伸べている。
私の好みの性格だ。異性としてではないけれど、この人は信用できる。
「入ってください。靴は入り口で脱いで下さい。土足厳禁です」
ドアは魔力を流すと自動で開く。流さなければ手動の両開きスライドドア。
先に入った私に倣って3人とも靴を脱ぐ。
(『クリーン』)
3人が靴を脱いだ瞬間を狙って魔法をかけることで、魔法が靴を脱いだ解放感に合わさって気付かれないようにする。
ダイニングテーブルに3人を案内し、料理を運んで来る。帝国内の人は普通のスプーンやフォークでは食べ難いだろう、と造っておいたトングと大き目スポークを用意する。
「美味しそうですね!」
「これは挟んで使うのでしょうか?」
「こんな料理食べたことないです」
でしょうね。
「では、いただきます」
両手を前で合わせるのは私とテラートさんだ。
それを見て、それが礼儀なのだろうと2人も続いていただきますをした。
……
……
無言で食べてるな。
美味しくて無言になってるなら良いんだけど?
これでも舌は肥えてるはずだから、自信はあるんだけど。
まあ、いいや。
「で?カードって何のカードです?」
「ああ、すみません。あまりの美味しさで黙って食べてしまいました。カードゲームってわかりますか?私達、子供が遊ぶ玩具を作っているのですが……」
「なるほど、なら良いですよ。ただし、試作した物を私にください。ちょっと興味有るので」
私が即答したので、お二人とも凄く嬉しそう。
「あ、ついでにテラートさんもカード化してください。護衛を頼んだということは信用はあるんですよね?」
「僕も?良いのかい?」
「カードゲームって言うからには、いくつも戦術があると思うんですよ。それならカードの種類が多い方が良いはずです」
「エリナレースさんって、もしかしてカードゲームしたことあるんですか?」
「いえ、知り合いが夢中だった時期が有りまして」
ええ、モチロン日本人ですよ。
「その人曰く、カードプールが少ないと単調なゲームになってつまらない、だそうです」
「ほう」
「ちなみにカードゲームの名前って決まってるんですか?」
「カードゲームはカードゲームです」
「ああ、無いんですね。もし他の方がカードを使ったゲームを作ったときに、違うルールの別々のゲームが存在してしまいますよ。名前は必要です」
「ああ、確かに……」
うーん、と考え込む2人。
そこへ、何故かテラートさんが入ってきた。
「ちょっと良いだろうか?」
「はい、何でしょう」
「僕の家系は一応、超直感という優れた直感を発揮するスキルを持っている事が有るんだが。もし、良ければ、僕が名前を付けても良いかな?広く遊んで貰えるような名前が思い付く予感がするんだ」
超直感、かなり強そうなスキルだ。それをテラートさんが持っているという。
私はまたしても即答していた。
「良いんじゃないですか?彼に任せても」
「そうですね。それじゃお願いします」
するとテラートさんが目を閉じて集中していく。
「見えた、『英雄戯メシアトーチ』」
おお、なんかカッコいい響きの名前きた。だけど、メシアって救世主だよね?英雄はヒーローでは?でも、語彙感がヒーロートーチだとキモいな。え、良いのでは?メシアトーチ。センスの塊すぎる。
気のせいか今日が今までで1番テラートさんの印象良い気がする。
そこまで考えて、気付いた。あれ?
これ、成功率……かかってる。
そうだった、今日の朝6時に『確率操作』発動して、弄ったのは成功率100%だ。
条件を一切限定してない、全ての判定の成功率が100%の状態が、あと5時間くらい続く。
テラートさんの直感も百発百中。
ロイさんとノノさんも希望があれば、全部通る。
まずい、早く帰ってもらわないと。今は全員の要求が全て通る状態だ。
そうだ、帰ってくれるようにお願いすれば良い。
「ごめんなさい、ちょっと具合悪いかもしれないので、今日はもう」
そこまで言うとテラートさんが私の言葉を遮って
「なんだって!それはいけない!僕は彼女をベッドで看病するから2人は先に帰ってくれ!」
あ、これアカンやつや。
テラートさんは正義感から言っている。そんなのは分かってる。
けど、今のひと言で2つも要求を通してきた。特にまずいのは「僕が彼女をベッドで看病する」の部分だが、「2人は先に帰ってくれ」もヤバい。
2人きり、ベッド。
私は魅了効果を発動しないよう、急いでスキル封じの腕輪を着ける。
たぶん、これでセーフ?
だがベッドで看病するという部分は成功率100%で通ってしまった。私は断ろうとするが、声が出なくなる。断るという行為が、失敗に起因するからだ。
2人はホントに帰った。護衛はどうした!?
「僕の超直感が言っている。あの2人は無事に帰れると、そして、キミは具合悪いと嘘をついたね?」
嘘がバレていたのは仕方ないとして、
今がどういう状況かと言うと、お姫様抱っこで顔を隠しながら首を縦に振る私だ。
いつの間にか状態が悪くなっている。
「今日はキミが僕の全部を肯定してくれる気がするんだ。僕のお願いを聞いてくれるかい?」
私は首を縦にしか振れない。
本格的にマズった。
全肯定エリーの誕生である。
◇ ◇ ◇
その後何があったのか、先に言っておくと、期待される様な展開は何もなかった。
ベッドまでは確定だったから、ベッドに運ばれはした。
そして、彼の次なるお願いとは?
私とテラートさんは何故か家の中の鏡張りの訓練部屋にいた。
彼の要望に沿った結果だった。
そもそも、この真面目人間が肉体関係の話を要求してくるというのが、そもそもの間違いである。
「キミの力が見たいんだ」
「いいけど、訓練部屋に移動して、部屋壊したくないし、手加減はするから」
「うん、それでお願いする」
というベッドでのやり取りである。
体を見たいとか要求されなくて良かった。
訓練部屋に着いた後、
私は使える魔法を片っ端から極小サイズで撃っていく。そして近接。木製のカカシに木剣で打ち込みをする。
「やはり、凄いな。10年前、僕が君に付きまとったのは、単純に実力を見たかったからなんだ。実は君と目が合った後、動けなくなってしまってね。君がギルドマスターと模擬戦をしていた時だね」
「動けなくなったって?何で?」
「僕の超直感だよ。……君に逆らってはいけないと感じたら、そのまま動けなくなった」
ヘビに睨まれたカエルの様な感じかな?
「だから10年越しに確認出来て良かった」
「遠回り過ぎません?」
実力を見せてくれって直接言ってくれれば良かったのに。
「あの動けなくなったときと、翌日君に馬車を断られたとき、超直感が働かなくなったんだ。頭が真っ白になって、胸が少し痛く感じた。遠回りしたのは僕にもわからないよ。確かに直接聞けば良かったね。でも、君を見ているとどうしようもなくて、思ったようにいかなくなるんだ。僕のプライドが邪魔したんだろうか……」
頭が真っ白になって、とか。胸が痛む、とか。
聞けば聞くほど中学生の初恋の相談をしている気分になっていく。
あれ?この人、もしかして私の事……。
そう思い自分がスキル封じの腕輪をしていることを流し見で確認する。
「テラートさん、夕飯も食べて行きますか?」
「良いのかい?君の料理は実に美味しかったから、また食べられると思うと心が躍るね!」
「エリーです」
「ん?」
「君、ではなく、エリーって呼んでください」
成功率100%だから要求は全て通るはず。
「……うん、わかったよ。ただし、エリーも僕をテラートと呼び捨てにすること」
「わかったわ、テラート」
これは断じてそういうやり取りではない。
私達は友情を深め合っただけだ。
私は心が温かくなるのと同時に、無自覚にテラートを夕飯に誘っていたのだった。
そして、時刻は18時10分。
既に『確率操作』の効果は切れていた。
しかし、お互いの要求は通り続けるのだった。
◇ ◇ ◇
結局テラートは私の家に泊まっていた。
本当に私はどうしてしまったのだろう?
朝起きるとすぐ隣で鎧を脱いだ彼が寝ていた。同衾である。いや、添寝である。
だが、驚く事に彼は何もして来なかった。
私はどうして、こんなにも残念に思ってしまっているのだろう。
頭がズキズキと痛い。
そうか、と思い腕輪を外す。
ベッドから出ると服を着て朝食を作る。
牛乳と卵黄、砂糖を混ぜ、軽く焼いたトーストに染み込ませる。フライパンにバターを落とし、魔法で点火。
甘い匂いが他の部屋にも充満したのか、テラートが起きてくる。
「おはよう」
「おはようエリー」
軽く挨拶すると並べた朝食に手を出す。
夕飯を作る前にスキル封じの腕輪は外していた。
つまり、魅了効果が発動した状態で添寝したのか?いや、朝は着けて寝てたな。彼は魅了しなくても、私を好いてくれている。私はまた彼への信頼を厚くした。
インターホンが鳴り、緩んでいた頬を強張らせる。時刻はまだ朝の7時前、こんなにも早く訪問者が来るというのは中々ない。
「テラート、結界の外に何かいるわ」
「結界、あの見えない壁の外か。僕らみたいな訪問者ということは?」
「こんな朝早くに来るかしら?」
「確かにそうだね。僕が見に行って来ようか?」
「いえ、判断するのは私だし、一緒に行きましょう」
付いてくるなと言えば、テラートは無理にでも付いてくるだろう。私達はそれぞれ身支度を整えると結界外縁部まで出かけるのだった。
エリーの消えた記憶の真実。
この真実は第十四話まで引き摺ります。




