File009|第一部【思惑】
SEL課長・三浦
(こういう面倒な案件は、向こうから拒絶してもらうのが一番だな)
(その方が、こちらも綺麗に手を引ける)
(……一度、顔だけ出しておくか)
───
三浦はユウの自宅のインターホンを鳴らした。
(しかし、俺の家とこんなに近所だとはな……)
ユウがドアを開けた。
「はーい」
ドアを開けると、スーツ姿の男が一人、穏やかな表情で立っていた。
SEL課長・三浦が軽く頭を下げる。
「先日はありがとうございました」
「SEL三浦と申します」
「本日は、少しご相談がありまして……」
簡単な挨拶の後、短い世間話を挟み、三浦は本題に入った。
「……実はですね、私達にもノルマがありまして」
「完全にお断りいただけると、こちらも助かる立場でして」
「ですので、今日ここで結論をいただければ、と」
ユウは顎に手を添えた。
(正直、こっちもアイをいじくり回されたくねぇしな……)
(……拾って直したのがバレたら、面倒なことになる)
(所長に怒られるやつだろ、これ……)
ユウの笑顔が少し引きつった。
「あ、分かりました」
「そういう事なら、お断りします」
三浦は軽く頭を下げた。
「……承知しました」
「本日はお時間をいただき、ありがとうございました」
玄関先で再度頭を下げ、三浦はその場を後にした。
三浦は俯きながら歩いた。
(……思っていたより、すんなり事が運んだな)
(これで面倒事が一つ減った)
(……しかし)
(ウチの会社は、なぜあの個体にそこまで執着している?)
(まあ、俺の範疇ではないか)
───
部屋に戻ると、ユウは気楽な口調で言った。
「この前のメンテナンスの話だけどさ、断ったから」
「……」
アイは、わずかに肩を揺らした。
ユウが頭を掻きながら言った。
「なんかさぁ、アイを預けるの正直やだったんだよね」
「ハハッ」
アイが一瞬間を置く。
「——っ、はいっ」
ユウはその反応を深く気に留めることなく、伸びをした。
「……あ、ちょっと買い物行かね?」
「材料、買い足しときたくてさ」
靴を履きながら振り返る。
「お前、荷物持つの得意じゃん?」
「頼むよ」
アイが答えた。
「行きます!」
その声は、少しだけ弾んでいた。
ユウは気づかない。
アイがその場に一瞬立ち尽くし、
ユウの背中を見つめていたことを。
そして、
その視線が、
ただの命令待ちのそれではなかったことも。
───
道端で立ち止まり、三浦は缶コーヒーを開け、一息つく。
ふと顔を上げると、
先程のマンションから二人が出てくるのが見えた。
ユウはアイの少し先を歩き、
アイはその背中を追いかけるように歩いている。
仲睦まじい――
そんな言葉が、一瞬だけ頭をよぎる。
三浦は思う。
(仲睦まじい?……そんなわけ無いか……)
三浦はそれ以上考えず、視線を外した。




