File010|第一部【非公開資料】
湘南エレクトロニクス株式会社・SEL (Shonan Electronics Lab)合同会議 議事録(抜粋)
SEL職員は書類を読み上げた。
「まず、結論から申し上げます。
顧問弁護士の見解ですが、法的手段によるアイの回収は、現状難しいとの判断です。」
「理由として、第一にアイの所有権抹消が書類上すでに完結している点が挙げられます。」
「廃棄物処理場の手続き上、スクラップ処理前に所有権抹消を行うことは避けられず、
抹消手続きから実際のスクラップまでの間には、制度上どうしても空白期間が生じます。」
「本件は、その空白期間中に、アイが第三者によって回収・修理されたケースと判断しております。」
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湘南エレクトロニクス幹部はペンで書類を突いた。
「事故の隠蔽工作で廃棄がずさんだったと聞いているが、その点についてはどうかね?」
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SEL職員はわずかに息をついた。
「当該件につきましては、
事故当時、SELはまだ御社研究部門の一部という位置付けであり、
我々単独の独断事項ではなかったと認識しております。」
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湘南エレクトロニクス幹部の手が止まった。
「……我々の責任、と言いたいのかね?」
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SEL職員の額から汗が垂れた。
「…………」
「よって、今後の方針についてお話しします。」
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SEL職員は再び書類を読み上げた。
「現時点では、法的および社会的リスクを考慮し、
アイの回収は行いません。」
「現在アイと同居中の人物については、
精神的安定性が高く、
重大な事故が発生する可能性は極めて低いとの評価を得ています。」
「その結果、被験者としての適性も高いと判断しました。」
「また、過去の被験者に関しては、精神的安定性に課題があったため、
アイへの過度な依存が生じないよう留意しつつフォローを行っています。」
「以上を踏まえ、
本件については、
アイの監視のみを継続する方針が最適解であると判断します。」
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湘南エレクトロニクス幹部はペンで書類を軽く叩いた。
「それによって、我々にはどんな利益が出るのかね?」
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SEL職員は顔を上げた。
「高い被験者適性を有する環境下での
長期稼働データは、
今後の次世代モデル開発において
極めて有益な知見となります。」
「また、本件の仮被験者については、
現時点でこれ以上の適性を有する人物が
出現する保証が無いことから、
適任であると結論付けました。」
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SEL職員は書類に視線を落とした。
「次に、監視の方法についてですが、
想定される各種リスクを考慮し、
回収対象は稼働データのみに限定する方針とします。」
「音声データおよび視覚データについては、
プライバシーおよび社会的影響を鑑み、
回収は行わない方向で検討しております。」
SEL職員は再び顔を上げた。
「そして、今から申し上げる点が最重要課題であり、
死守しなければなりません。
本件で問題が発生した場合、
最初に破綻するのは対象者本人である可能性が高い。
当社として、これを最優先で回避する必要がある」
「――異議のある方はいらっしゃいますか?」
「……」
会議室は静まり返った。




