File007|第一部【おすすめ出来ません】
ユウが準備された朝食を見て言った。
「あ、今日遅くなるから晩メシいらねぇわ。」
アイの思考が停滞する。
「……お約束、ですか?」
ユウが続けた。
「あぁ、うん、そんな感じ。前から誘われててさ。メシ食ってくる。飲み会なんて久しぶりだからさぁ。」
アイが尋ねた。
「……分かりました。帰りは何時頃になりそうでしょうか?」
ユウは少し考えた。
「えっ? あー、そうだなぁ……なんで?」
アイが答える。
「……必要な情報です。」
ユウが肩をすくめた。
「友達がさぁ、彼女自慢したいんだとよ。久しぶりにみんなで会うからなぁ……知らない顔も来るみたいだし。」
アイが尋ねる。
「……女性も、出席されるんですか?」
ユウが答えた。
「友達の彼女の友達が来るかもって聞いてるけど、なんで?」
アイの内部で、処理が一瞬停止する。
質問と回答の対応付けが、遅れる。
優先順位の再計算が、完了しない。
「……それは」
わずかな間。
本来不要な沈黙。
「おすすめ出来ません」
ユウは一瞬、きょとんとした。
「……え? なんで?」
アイは即座に続ける。
言葉の出力速度が、通常より速い。
「アルコールの摂取は身体に悪影響を及ぼします。
特にユウ様は最近、平均睡眠時間が短縮傾向にあります。
飲酒は睡眠の質を低下させ、翌日の集中力や判断力を下げる可能性が高いです。
また、帰宅時間が遅くなる確率が高く、生活リズムの乱れが懸念されます。
さらに——」
一息も入らない。
「外食は栄養バランスが偏りがちで、
塩分・脂質の過剰摂取につながるケースが多く報告されています。
健康管理の観点から総合的に判断すると、推奨出来ません」
言い切り。
少し、速すぎる。
ユウは目を瞬かせてから、笑った。
「……いやいや、そんな一気に言わなくても……
たまの飲み会だって」
「合理的判断です」
即答。
声は平坦だが、出力が早い。
ユウは笑顔で返した。
「……そっか。ありがとな。
まぁ、ほどほどにしとくよ」
その言葉と表情に、
アイの内部処理は一度、収束する。
だが——
「女性も出席する」という情報だけが、
未処理のまま、高い優先度で残存していた。
理由は、まだ設定されていない。




