File016|第一部【紫のドレス】
賑わいが飽和した空間を後にして、アイはユウに手を引かれながら歩いていた。
一方、ユウは公園での一件以来、アイが処理落ちを起こしそうになる時の反応を、直すべきものとは考えなくなっていた。
「そういうもの」として受け入れ、自然に手を引いて歩くことが、いつの間にか当たり前になっていた。
アイの中に生じた波紋は、ユウが無自覚に投じた一片から広がり、やがて制御できない波となって、内側へと押し寄せていた。
しかし、アイ本人にはまだその波紋の中心が分からなかった。
何故、その答えが導き出されたのか――
アイには理由の分からない答えだけが突きつけられ、戸惑い、混迷し、そしてユウに導かれていた。
———
アイはひとりになると、クローゼットから紫色のドレスを出してきて眺めるようになっていた。
アイはそのドレスを前にして、いつの間にか指先が口元に触れていることに気付いた。
そして、アイの思考を混迷させる記録があった。
袖を摘んだ時に起こった、理由の説明できない行動。
それを排除しようとする自分が、確かに存在しているという矛盾。
アイはその狭間で葛藤していた———
「ただいまー」
その声はいつも、説明できない混迷からアイを導いてくれた。
「おかえりなさい。」
「またその服出してるしw、よっぽど気に入ったんだな。」
「帽子無くせばオシャレ着で使えそうだし、それ着て出掛けたりしようぜ。」
「……はい。」
アイ内部の「混迷」は薄れ、代わりに「安堵」が大きくなっていった。




