File015|第一部【ハロウィン、魔女登場♡】
「トリックオアトリート」
背後から無邪気な声が掛かった。
「魔女だー、かわいい」
アイは微かに頭を傾け、声の位置と人数を瞬時に分析した。
「ありがとうございます」と小さく返しながら、子どもたちの手にお菓子を渡す最適解を算出した。
———
「おーっす!来たぞー」
「おっユウが来た、ウィーッス!」
「江島君おつかれー」
「……で」
「ロボットのアイちゃんは?」
ウィッチの衣装を身につけたアイがユウの少し後ろから現れた。
「……おっ」
「おぉーっ」
「えっかわいい!魔女かわいい!アイちゃんかわいいー。」
アイの周りに全員が群がった。
いわゆる転校生イベントである。
お決まりの質問攻めが始まった。
⸻
「これマジでお前が直したのかよ?スッゲーな!」
「この衣装かわいいー、どこで買ったの?」
「ちょー似合ってるー!」
仕切り役が声を上げた。
「ではその辺にして、全員揃ったので乾杯にしましょう!」
グラスを手に———
「トリックオアトリートーッ!」
「トリックオアトリートーッ!」
女子の一人が口に手を当て手招きした。
「ねーねー、ちょっとアイちゃん、こっちこっち」
⸻
女子の一人が小声になった。
「ねぇねぇ、江島君と一緒に住んでるんでしょ?」
「同棲とか憧れるよねーっ、2人は付き合ってるの?どうなの?」
「一緒に住んでます。」
「付き合ってるかどうかは……分かりません。」
「告白も……まだされていません。」
一つ一つ丁寧に返答しながら、学園恋愛ドラマの影響が少し出てしまっていた……
女子二人が跳ねた。
「えっえっ?、そういう雰囲気なの?、手とか繋いだ事ある?」
「あります。」
事実を言っただけだが、受け取り方が違った。
「……」
女子二人は口に手を当て顔を見合わせた。
「キャーッ!マジ?それマジ?どっちから繋いだの?」
「ユウ君です。」
事実だが、火に油を注いだ。
「ユウ君だって!そう呼んでるの?、えっ、江島ぁーッ、やるなアイツ!」
女子トークは止まることを知らなかった。
女子の一人が小声になった。
「えっ、じゃあさ……キスは?、もうしちゃった感じ?」
「まだです。」
「まだだって、キャーッ!」
「……普通はするものなのですか?」
「えっ?、だってお互い好きなんでしょ?するでしょ普通……」
「してみたいです。」
アイは体験として言ったつもりだったが、胸の奥で、未知の熱上昇を検知した。
女子二人は限界まで近づいた。
「えっ?ちょっ、したいの?、アイちゃんはキスしたいの?」
「……」
「なんかあっち盛り上がってね?……すんげぇ楽しそう。」
ユウは遠目からその様子を見て、笑いが引きつった。
(余計な事、言ってねぇよな……)
「なーユウ、ロボットってさ家事とかやってくれるんだろ?ちょー便利じゃね?」
「あー、家事全般は……やってくれるな。」
「マジかーっ、俺も欲しいなぁ……」
「一緒にゲームとかもやってくれるのかな?」
「俺ん家には無いけど、やってくれるんじゃね?」
「多分だけど、アイツ……強えぞ。」
「マジ?、勝負してみてぇ……今度アイちゃん連れて遊びに来いよ、一緒にゲームやろうぜ。」
「負けても泣くなよ?www」
「泣くかwww」
「あっ、男子来た……この話しはまた後でね♪」
「ねーねーアイちゃん。ピザって10回言ってみて。」
「———ピザ、ピザ、ピザ。」
「ここは?」
男友達は肘を指さして言った。
「肘関節です。」
男子の目が平らになった。
「……ですよねー。」
全員吹き出した。
「ブハッwww、アホかお前wwwロボットが間違う訳ねぇだろ。」
「イヤイヤ、こういうの試してみてぇじゃんw」
楽しい時間が過ぎていった。
アイはふと気付いた……
ユウが先程の女友達と何か親しげに話していた……
アイの思考回路が一瞬フリーズした。
アイはユウの斜め後ろまで歩を進め、ユウの袖を少し摘んだ。
「ん?どした?」
「……何でもありません。」
アイの思考回路は混迷し、その行動に理由をつけることができなかった……




