File012|第一部【憩い】
二人が思い出を育むその公園は、地域住民の憩いの場として設計された、比較的大きな公園だった。
休日ともなれば、子どもたちの笑い声や、犬を連れた散歩客の足音が、園内のあちこちに溶け込む。
遊具や広場だけでなく、池や噴水といった水場、簡易的なスポーツ施設も併設されている。
噴水の水音は絶えず空気を揺らし、木々の葉はその振動に合わせるように、ゆっくりと揺れていた。
ユウが目を覚ました後、2人は園内を歩き、公園を満喫する。
舗装された道と土の道を行き来しながら、特別な目的もなく、ただ同じ時間を共有していた。
ふと、ユウが呟く。
「……気持ちいい風だなぁ……」
ユウの何気ない一言に、アイは初めて「風」を認識する。
触覚センサーが風圧を捉え、視覚情報では揺れる木々の映像、聴覚からは葉のさざめき。
それらが複合的に統合され、アイの中で一つの経験として整理される。
そこに、ユウと同じ時間を共有しているという事実が付加され、重要な情報として保存された。
園内を包んでいた子どもたちの声が、徐々に遠のいていく。
すれ違う人の間隔も、いつのまにかまばらになっていた。
「そろそろ帰るか?」
「……はい」
ユウの問いに同意はした。
それでも、視覚や聴覚に流れ込む情報を、停止することができなかった。
公園を出ようとした時、珍しくアイから提案を持ちかける。
「違う道で帰りたいです」
「……え? あぁ、いいよ。
晩飯の材料でも買いに行くか」
ユウは気付かない。
「帰りませんか」ではなく、「帰りたい」と言ったことに。
公園で得た情報は膨大で、その処理に意識を割かれた結果、アイの歩行速度はわずかに落ちていた。
「ん? どうしたアイ、大丈夫か?」
アイは答えられなかった。
異変に気付いたユウが、自然な動作でアイの手を握る。
「……大丈夫か?」
「———っ!」
突然、手の触覚センサーにユウの体温が流れ込み、フリーズする。
「しょうがねぇ奴だな。
ぼーっとして、調子悪いのか?」
ユウは軽く笑いながら、アイの手を引いた。
「引っ張ってってやるから、安心しろ」
アイは、膨大な情報量に、さらに膨大な情報が追加されることとなった。




