空っぽ1
「ごめんなさい……。わたしもあなたを信じてます」
画面ではなく、目の前の友くんのビジュアルを見ながら謝った。不本意ではあったが、このオカルトな状況――友くんの気分と連動する天気も、友くんが神がかった力の持ち主なのは認めざるを得ない。
《わかれば良いんだぜええ。友くんの神講座第二弾☆ 続けるぜえ。今度は『空っぽ』編だぜえ。『空っぽ』は言ってみれば『ビッグ・ブラザー』の世界を作ろうとしている組織だぜ。生身の人間の思考を全て、独裁者、たった一人の色に染め上げる気だぜ。そうなったらお前らは、生ける屍――ゾンビに成り下がるんだぜ。かかかかかかかかかかかっ》
ん? 最後のは高笑いのつもりだろうか。神様だと言うことを信じるにしても、人間とのコミュニケーションはネットで学んだだけでまだ慣れていないのかも。普段はテレパシー的な、言語を使用しない方法で意志疎通をしているのだとしたら、仕方ない。
もしかしたら、最初に触れた人間の文章が『だぜえ』みたいな語尾で、それを一般常識として誤認した可能性だってある。
《……お前ら、反応が薄くて嫌になるぜ……》
「あ、友くん待って!」
呼び止めたのも虚しく、『ノベルの友くん』が全く反応しなくなってしまった。もうどこをクリックしようとも、くるくる矢印が円を描くばかりだ。
それと同時に、三浦さんの横にふてぶてしく座っていた、白髪眼鏡男子の姿も消えた。
「友くんには少し大げさなくらいリアクションしてあげた方が良いみたいだね……。機嫌を直してくれるまで待とう」
三浦さんが溜息をつく。溜息まで、優しい。
「友くんは面倒臭い人――神様ですね」
「しっ! 墨田さん、友くんがどこで聞いているかわからない。それに仮に聞いていなくても、一生懸命な人を、僕は嫌いになれない」
これがわたしの大好きな三浦さん。わたしを咎めるわけでもなく、友くんに媚びるわけでもなく、優しさを貫く金髪紳士。
「はい……。ごめんなさい、友くん。機嫌が直ったらまた出てきてください」
そう、画面に向かって祈った。三浦さんも柔らかく微笑む。
「そうだ、墨田さん、友くんがまた現れるまで、少し話を整理しよう。なんだか不穏なことを言っていたから、僕らなりに小さくても対策を考えておいた方が良い」
雲の隙間から光が差し、三浦さんの金髪がキラキラ輝いている。王子様のようだ。気になっていたこと、でも失礼かと聞かないでいたことを聞いてみようと思った。
「三浦さんは大学生ですよね? 何でこんなに時間があるんですか? あの……嫌味に聞こえたらすみません。そんな気はないんです。普通に就活するのに、そういう髪色とかタトゥーは大丈夫なのかなあ……とか」
お爺さんの理事長は真面目を絵に描いたような人なのに。
「それは――僕、実はイラストを描いているんだ。一件請け負って数千円の仕事もしてる。いつかはそれで食べていきたいと思ってるんだ。そのための時間が必要で、一般的な会社員はするつもりはないんだ。バイトとか派遣とか比較的時間の自由が利く仕事をしながら、イラストレーターを目指そうと思ってる。……って、こんなの能力のない人間や怠けものの言い訳だよね」
三浦さんは自虐的に言ったが、その目の輝きは本当に夢に生きている人のものだ。
「三浦さんがイラストレーターだったなんて――。すごいです! わたし絵心が皆無なんで、自分の小説のカバー画像も生成AIで作っていて――イラストレーターさんは生成AIなんて嫌いですよね。でも、本当に三浦さんの絵が見てみたい!」
こんなにブリブリしたのは中学生の初恋以来。気持ち悪いと思っていても止められない。煌めきが身体の奥底から溢れ出してくるのを自分も誰も止められない。いや、止められるとしたら、三浦さん、世界中で彼だけだ。




